6月4日の菅直人の首相指名後、民主党、国民新党共、ほぼ会期延長を共同歩調で打ち出していたが、各メディアの世論調査が内閣支持率・民主党支持率共に急回復を打ち出してくると、参院民主党側からの圧力もあって、民主党は参院選挙が先だの姿勢に転じ、対して国民新党は郵政改革法案の成立が先だと譲らず、今国会の成立が見送られた場合、連立離脱もあり得ると強硬姿勢へと転換。
国民新党が連立離脱を人質に取るなら、離脱した場合は、元々閣僚の中には郵便貯金預入限度額現行1000万円から2000万円、簡保生命保険の契約限度額現行1300万円から2500万円に反対していたのだから、法案は大幅修正を人質に取ればいいと思っていたら、政府・民主党が会期延長せず、参院選を予定通り6月24日公示の7月11日投開票で行う方針を決めると、11日未明に亀井静香郵政改革・金融相が今国会での郵政改革法案の成立が見送られたことに抗議、閣僚の辞任を表明した。
但し連立は離脱せず。連立離脱もありの威しを不発に終わらせざるを得なかったから、体裁を整える必要上、閣僚辞任を身代わりの生贄に差し出さざるを得なかったのだろう。
連立を離脱しないまま終わらせたなら、あの威しは何だったのかと格好がつかなくなる。言い出し損で終わったわけである。
最初、亀井静香は連立離脱の姿勢を隠していた。6月9日、郵政改革法案の今国会成立が見送られた場合の国民新党の連立離脱の可能性を問われてどう答えたか、《亀井氏、郵政法案先送り論牽制 「公党間の約束から逃げるなら立候補の資格なし」》(MSN産経/2010.6.9 10:18)が伝えている。
亀井静香「私の頭の中には0.1%もない。そういう(成立しない)事態は起きない。菅(直人首相)さんとじっくり話をしてある」
「0.1%も」連立離脱は考えていないとした。
但し、〈参院選の早期実施のために国会会期を延長せず、郵政改革法案の成立も先送りすべきだとの声が民主党内で強まっていることについて〉は次のように一刀両断している。
「公党間で約束している法案をやった上で信を問うのは当たり前だ。そこから逃げ出して、『支持率が高いうちに選挙をやっちゃえ』なんて考える人は立候補する資格はない」
亀井静香には似合わない、なかなか立派な一刀両断となっている。だが、政治は数であることを無視した、郵政改革法案早期成立の自身の都合だけを考えたご都合主義の発言に過ぎない。例えそれが連立という形であっても、数を確保しないことには自分たちの政治を実現させることはできない。
衆参併せて9人かそこらの弱小政党である国民新党が自分色に染めた郵政改革法案を国会に通すことができるもできないも民主党の衆参併せて400を越える数があるからこそで、数の関係に目をつぶった一刀両断でしかない。
全体的な数の確保は支持率が保証する変数に過ぎない。当然、「支持率が高いうちに選挙をやっちゃえ」となる。議員個人にしても、数の一人となるためには当選を絶対前提としなければならない。政治家として日々活動するためのそもそもの関門となっている。
いわば当選を出発点として数を成り立たせることができ、政治は成り立たせた数の勢力に応じる。
小沢一郎はそのことを百も承知していた。選挙の鬼と化したのはそのためであろう。
亀井静香が「菅(直人首相)さんとじっくり話をしてある」とは、両代表間で話し合って合意文書に纏め上げたことなのは新聞・テレビが伝えているが、《どうなる郵政法案 国会会期・参院選日程に翻弄》(MSN産経/2010.6.10 01:00)も、そのことを伝えている。
〈国民新党が「1丁目1番地」とこだわる郵政改革法案。昨秋の連立合意に盛り込まれ、菅直人首相も4日、国民新党の亀井静香代表と「今国会で速やかな成立を期す」とする連立合意を改めて交わした。〉――
6月9日に連立離脱は「私の頭の中には0.1%もない」と言っていた亀井静香だが、この記事では〈亀井氏も9日朝からこう吠(ほ)えた。〉として、連立離脱意志も露(あらわ)な発言を伝えている。
亀井「土日も夜中も審議すればいい。会期延長という手だってある。『支持率が高くなったから選挙をやっちゃえ』なんて政治家は立候補しなさんな。日本をまともにする一点が抜けたら一緒にやってる意味がない!」――
最初の「MSN産経」と発言内容が重なるが、最初の記事は「6月9日」の日付で、ここは「9日朝」となっている。後先の発言なのか、同じ場面で発した発言だが、言葉を少し違えながら新たに付け加えて伝えたのか分からないが、「日本をまともにする一点が抜けたら一緒にやってる意味がない!」と連立離脱意志を示唆する発言が加わっている。
いずれにしても政治は数であり、数の確保は支持率が保証する変数であるという原則に目をつぶると同時に連立を離脱すれば、その原則を自分から捨て、政権担当という活動の場を自ら閉ざすことになることを考えない発言であることに変わりはない。
記事は同じ9日午後に国会内の参院民主党役員室で国民新党の自見庄三郎幹事長と民主党の高嶋良充参院幹事長が会談したことも伝えている。
高嶋参院幹事長「首相は法案の強行採決をしたくないんだ。2週間延長しても予算委員会に日程をとられるから郵政法案はどのみち強行採決しかない」
自見国民新党幹事長「公党と公党の約束じゃないか。守れないならば、こっちも腹をくくるしかない!」
〈「腹をくくる」とは「連立離脱」を意味する。〉と解説している。連立離脱は国民新党全体の存立に関わることだから、幹事長の一存で「腹をくくる」云々は言えない。明らかに「一緒にやってる意味がない!」に表れている亀井静香の意向を踏んだ連立離脱意志であろう。
国民新党の下地幹郎国会対策委員長の場合は10日朝、民主党の樽床伸二国会対策委員長国会内で会談、今国会で郵政改革法案を成立させない場合の連立離脱を亀井代表の意向として伝えている。
《亀井氏「連立離脱の覚悟」…郵政と会期延長で》(YOMIURI ONLINE/2010年6月10日11時49分)
樽床「会期延長しても同法案を成立させるのは困難だ」
下地「亀井代表は連立離脱の覚悟だ」――
亀井静香は成立をなぜ急ぐのだろうか。菅直人も仙谷由人も郵便貯金預入限度額現行1000万円から2000万円、簡保生命保険の契約限度額現行1300万円から2500万円に激しく反対を示してきた。にも関わらず、このことが閣議決定できたのは鳩山前首相と小沢前幹事長のバックアップがあったからだろう。その二人が抜けて、反対姿勢だった菅直人が首相となり、仙谷由人が内閣の要たる官房長官に居座ることとなった。成立が延びて、法案の修正の可能性が生じることを恐れたからだろうか。
菅直人内閣となって支持率が急回復した。参院選挙での民主党の一人勝ちも不可能ではない状況となった。参議院民主党単独過半数となった場合、国民新党自体の数はその力を相対的にどころか絶対的に低下させ、例え連立を維持できても、連立離脱のカードをもはや持たない、連立を組んでいるに過ぎない単なる形式的存在と化す。
このような可能性も連立離脱意志を見せながら、不発に終わらせざるを得なかった理由になるに違いない。
会期は延長せず、郵政民営化法案を先送りする決定で押し切った民主党は交換条件としてだろう、国民新党に対して、参院選後、速やかに臨時国会を召集し、〈両党は、今国会に提出した郵政改革法案と同一の法案を臨時国会に提出し、成立させることを確認した〉(《亀井大臣、辞任へ…郵政法案先送りで》YOMIURI ONLINE/2010年6月11日01時51分)ということだが、「同一の法案」が臨時国会で成立するなら、何ら障害はないはずだが、一般的に内閣発足後の内閣支持率も党支持率も時間の経過と共に下降していく傾向にあることを踏まえて、会期延長を図ることで参院選を先延ばしして、少しでも内閣支持率と民主党の支持率が下がるのを期待し、少しでも民主党の一人勝ちを抑えて国民新党自体の数の力を相対的に高めようという意図から、今国会での成立に拘ったのかもしれない。
だとしたら亀井静香自身、政治は数を弁えていたことになる。弁えていたということなら、「『支持率が高いうちに選挙をやっちゃえ』なんて考える人は立候補する資格はない」は郵政改革法案早期成立の自身の都合だけを考えたご都合主義の発言ではなく、民主党の一人勝ちを少しでも抑えたいご都合主義からの発言であり、そのためのご都合主義な今国会での早期成立への拘りだったということになるが、どうだろうか。