菅内閣は早晩普天間移設問題で行き詰まる
菅内閣が10日(9月)、円高、デフレ対応の経済対策を閣議決定した。《経済対策:決定 「効果、限定的」の見方も 円高・株安で即応性重視》(毎日jp/2010年9月11日)
〈「雇用」や「環境」を柱に、10年度予算の予備費から9150億円を投入し、波及効果などを含めた事業規模は約9・8兆円。ただ、今回は足元の急激な円高や株安への緊急対応策として、スピードを重視しただけに「効果は限定的」との見方が根強い。菅直人首相が補正予算に前向きな姿勢を示すなど、早くも「次の一手」に注目が集まっている。〉・・・・・
10年度予算予備費からの支出は国会議決を経ず、事後承諾で済む即応性を考えての選択であろう。注意点は、〈国会の承諾が得られない場合でも取引の安全を保つため支出は有効である。ただし内閣の政治責任が問われる。過去には1989年12月1日と2008年5月28日に参議院が予備費を承諾しなかったことがある。〉(Wikipedia)ということだから、政府のこの緊急経済対策を〈規模が小さいと批判し、4兆~5兆円を投入するよう求めている〉(《追加経済対策―新成長戦略の第一歩に》『朝日』社説/10.9.12)自民党や公明党が参議院での「承諾」にどう出るかである。
経済対策の内訳は、雇用対策、エコポイントの延長の2項目となっている。
雇用対策――
〈雇用対策では、大学新卒者の就職率が6割に低迷するなど、深刻な状況の若年層の就職支援策に重点を置き、20万人の雇用確保を目指す。高校や大学を卒業時に企業に採用されないと、その後の就職活動で不利になる現状を改善するため、卒業後3年以内の既卒者を「新卒」扱いで採用した企業に奨励金(100万円)を支給する制度を創設〉・・・・・
エコポイント――
予備費から9150億円からほぼ半分の約4500億円を消費対策として投入。
●家電エコポイント制度の12月末終了期限の3カ月延長。
●環境性能に優れた住宅対象の住宅エコポイントと住宅ローン金利優遇の優良住宅取得支援制度(フラッ
ト35S)の12月末終了期限の1年延長。
家電エコポイント制度の場合は現行通りの無条件の延長ではなく、〈来年1月からは、対象商品が省エネ性能基準で現行の「四つ星以上」から最高位の「五つ星」に限定され、薄型テレビの場合、現在の6割程度に絞られる見通しだ。〉と言う
記事は歓迎・非歓迎の相反する声を伝えている。
家電量販店コジマ「12月に期限が切れれば、駆け込み需要が年末商戦と重なり、品切れなどの恐れがあった」
大手電機メーカー「需要の先食い期間を延ばすだけで、新たな需要を掘り起こすわけではない」
一方の住宅優遇制度に関しては、〈今年1月に開始した住宅エコポイントは、年末まで1000億円の予算を確保しているものの、8月末時点の支出額は176億円に過ぎない。〉と解説している。
また、〈エコカー補助金の打ち切りで、10~12月期はマイナス成長に陥るとの予測もある。〉ことから、政府は景気動向に対応して補正予算の年内編成を視野に入れると同時に11年度予算で「新成長戦略」の施策に資金を重点配分する方針で臨む態勢でいると記事は書いている。
この、
(1)予備費活用
(2)補正予算の検討
(3)「新成長戦略」資金重点配分の11年度予算
を以ってして、「3段構え」の景気回復策だそうだ。
菅首相は9月10日(10年)首相官邸で経済関係閣僚委員会を開催、冒頭次のように挨拶している。
菅首相「基本的な視点の第1は、スピード感です。まず、ステップ第1として、予備費の活用を念頭に入れた円高、デフレ状況に対する緊急的な対応。第2のステップとして、補正予算を念頭に入れた今後の動向を踏まえた機動的な対応。そして、ステップ第3は、平成23年度予算編成、さらには、税制改正においての新成長戦略の実施。このスピード感を持ってステップ1、ステップ2、ステップ3といくという考え方に立っています。
基本的視点の第2は、雇用を機軸とした経済成長の実現です。これは、雇用と成長を機軸として、予算、税制、企業社会のシステム全般にわたる雇用の基盤作りを通して、成長につなげ、成長を通して雇用につなげていくという考え方です。
基本的視点の第3は、財政と規制・制度改革の両面の取組です。予算や税制といった財政措置も大きく講じることになっていますが、需要、雇用創出効果の高い規制・制度改革を強力に進めることにしています。
緊急的な対応には、予備費9200億円を活用し、今日の閣議決定で実行に移します。事業規模で言いますと約10兆円になり、20万人程度の雇用創出あるいは雇用の下支え効果を見込んでいます。
そして、今後の景気、雇用状況を踏まえ、必要ならば1兆円の国庫負担債務行為の活用も含めて補正予算の編成など機動的、弾力的に対応していきたいと思っています」・・・・
相変わらずいいこと尽くめを言っているが、野党時代から暖めていた農業・林業等で100万人の雇用を創出すると言っていたいいこと尽くめはどうなったのだろう。
そう言えば日本の偉大な自民党最後の首相、麻生太郎も「100年に一度の金融危機」対策に「3段ロケット」の経済対策を打ち出し、その効果を盛んに喧伝していた。「3段ロケット」の上にさらに1段積み増し、4段ロケットを打ち出したのは3段ロケットが喧伝に反して見るべき効果がなかったからだろう。
3段構えだろうと4段構えだろうと5段構えだろうとお好きにやってくださいだが、予備費活用のエコポイント制度の延長そのものは金持優遇とまでは言わないが、安定収入世帯層優遇の制度であろう。低所得層には手の届かない、無縁の制度であるはずだ。エコカー減税も安定収入世帯層を対象とした優遇制度であり、低所得層には何ら恩恵とならない制度であった。
一方で生活関連費の支出を抑制している世帯の存在、生活困窮者の増加が証明している優遇制度であろう。
《幼児の教育費、5年前の3分の2に 不況の影響か》(asahi.com/2010年9月9日10時48分)
ベネッセコーポレーション(本社・岡山市)が0~6歳の子をもつ首都圏の保護者を対象とし、1995年から5年ごとの今回で4回目となる調査だそうだ。
今回は3月、東京、神奈川、千葉、埼玉の各都県の生後6カ月~6歳(就学前)の子をもつ7801人の保護者に質問用紙を郵送し、45.1%に当たる3522人から回答を得ている。
習い事(塾、通信教育を含む)をしている子どもの比率
2005年――57.5%
2010年――47.4%(-10.1ポイント)
習い事、絵本、おもちゃなどにかける費用の平均
1995年――8556円
2000年――7323円
2005年――8771円
2010年――5829円(最低)
「1カ月で千円未満」支出の比率
1995年――11.3%
2000年――18.6%
2005年――11.7%
2010年――23.3%(過去最高)――
幼児教育費にかける「1カ月で千円未満」の世帯の比率から見ても分かるように、幼児教育費の縮小を担っているのは低所得層ということであろう。
《生活保護 最多の136万世帯》(NHK/10年9月13日 4時12分)
今年5月に生活保護を受けた世帯は全国で136万4219世帯で、前の月より1万983世帯増えて、過去最多となったと出ている。
内訳は――
▽仕事を失った人を含めた「その他の世帯」――4763世帯
▽「高齢者」 ――2832世帯
▽「障害者」 ――1038世帯
▽「母子家庭」――718世帯
月ごとの増加世帯数は一昨年の12月から18か月連続で5000世帯を超える立派な記録だそうだ。世帯数が立派な記録ということではなく、政府の景気回復対策、経済対策が低所得層への恩恵として反映されていない象徴としての18か月連続の5000世帯超えであり、4月より1万983世帯増加の2010年5月の生活保護申請許可世帯全国136万4219世帯だということである。
断るまでもなく、政府の景気回復策が功を奏していたなら、少なくとも微減の状況となっているはずだ。
家電エコポイント制度も住宅エコポイント制度も住宅ローン金利優遇の優良住宅取得支援制度も、またこれらの今回の緊急経済対策下の延長も、9月終了のエコカー減税制度も金持優遇制度ないし安定収入世帯優遇制度であると同時に家電メーカーや自動車製造メーカーへの利益提供の優遇制度であったものの、低所得層に何ら恩恵をもたらさない制度であった。
いずれの国の社会でも社会の利益循環は企業や銀行、投資家、投機家等の社会の上層を占める組織、あるいは個人が利益を上げて好景気を形づくり、それが社会の下層に向かって、より上の段階により多く配分しながら順次下の段階に先細りする形で流れ落ちていく配分を骨組みとするトリクルダウン方式(trickle down=〈水滴が〉したたる, ぽたぽた落ちる)を取るが、政府の経済対策によって生じた利益のパイが下層にまで滴り落ちずに社会の上層、あるいは中層を占める組織、あるいは個人止まりとなっていると言うことである。
《個人消費支出、2カ月連続で増加 猛暑効果で好調》(asahi.com/2010年8月28日0時51分)が6月、7月2カ月連続で増加したという記事を伝えているが、幼児教育費の支出減少傾向と保護世帯増加傾向等を見ると、あるいは猛暑下にありながら、電気代が勿体ないからと扇風機やエアコンをつけずに部屋で過ごして熱中症にかかる高齢者の決して少なくない存在等を見ると、「個人消費支出2カ月連続で増加」の殆んどは安定収入世帯が貢献した状況であろう。
菅首相は9月10日(10年)の民主党代表選公開討論会で、「海外に移転するような企業に対して、国内で仕事がしやすい状況を作る。一部低炭素事業への補助金も出すが、法人税のあり方も含めて海外に税が高すぎて出ていくという傾向もあるので、年内にしっかりと法人税のあり方を検討する」と法人税の減税を意図した発言を行っている。
法人税減税にしても、トリクルダウン方式の利益循環を狙った景気回復策でしかない。問題は法人税減税によって企業が国際競争力を回復し、利益を挙げたとしても、その利益が社会全体に亘って還元されるかである。
だが、小泉元首相の在任期間にほぼ重なる02年2月から07年10月まで続いた戦後最長景気では大企業が軒並み戦後最高益を上げながら、個人消費伸び率、1.5%、所得伸び率、-1.4%の一般国民には反映されない、トリクルダウン方式に反する、一般国民にとっては徒花(あだばな)の好景気であり、「実感なき景気」と言われた。
この大企業が軒並み戦後最高益を上げながら、就業者に利益が反映されずに個人所得がマイナスとなった構造は低賃金の非正規雇用を大量に雇用することで実現可能とした利益配分の偏向が理由とされている。
中国とアメリカの好景気に支えられた戦後最長景気でも一般個人には徒花でしかない「実感なき景気」だったのである。菅内閣の法人税減税が企業の国際競争力の回復に役立ったとしても、外需依存を日本経済維持の主体とし、円高の為替状況で海外の安価な人件費を相手にしている以上、厳しい国際競争を勝ち抜くと言うよりも、凌ぐのが精一杯で、企業はそれなりに潤ったとしても、その利益が一般国民に反映される保証はなく、なお一層「実感なき景気」を色濃くしないとは限らない。咲いても実を結ばない徒花どころか、花も咲かない、実もつかない枯れ花になりかねない。
だとしても、政府は個人消費の低迷を放置しておくわけにはいかないはずだ。12年間自殺者3万人も生活苦からの自殺者が無視できなく存在する。その解決を難しくするだろうし、生活保護世帯の増加は国と地方の財政を圧迫する。個人消費の低迷はそのまま税収の悪化に直結してくる。
社会の上層が利益を上げて、それが社会の下層に向かって先細りしながら滴り落ちていくトリクルダウン方式の利益循環が機能しないといということなら、下層そのものが利益を生む方法を講じてトリクルダウン方式による利益循環構造の機能不全を補わない限り、個人消費の拡大は望めないばかりか、社会全体の景気浮揚も望めないことになる。当然、国民の活力も生まれてこない。
その方法は消費税を一時停止して、5%分の可処分所得を個人に直接還元する方法である。当然、1%当たり2兆円、5%で10兆円辺りの国の税収が減ることになるが、法人税減税や企業対策が高所得層や収入安定世帯層にのみ偏った利益を与える不平等を正すための緊急措置と看做さない限り、利益配分の不平等の解決は先送りされ、難しいことになる。
イギリスが景気対策として2008年12月から2009年12月末まで日本の消費税に当たる付加価値税を17・5%から15%に下げた。但し、日本の消費税と違って、イギリスの付加価値税の場合、食料品、子ども服、書籍などは0%だから、これらは影響を受けない。
その分の補充として、財源確保のために国債を増発するほか、年収15万ポンド超の富裕層に新たな税収枠を設定し、12億ポンドを徴収。それでも次年度の財政赤字は1180億ポンドに拡大する見通しだというから(毎日jp〉、大変なことは大変なのだが、直接一般国民に利益を提供する形で景気回復に寄与する方法として止むを得ないと見たのだろう。
その効果は有力調査機関エコノミストの分析報告として、この減税で68億ポンド(約1兆円)の個人消費が増え、国内総生産を0・5%分押し上げたと指摘したと(《英 消費税減税 の効果 個人消費 1兆円増加》しんぶん赤旗/2010年1月4日)が伝えている。
しかしイギリスの付加価値税が食料品が0%であることに留意しなければならない。日本の国民にとっては、特に中低所得層にとっては食料品に支払う5%の犠牲は大きいものがあるはずである。
勿論、消費税の一時停止は高所得層にも同じ5%分の恩恵を与えるが、エコカー減税やエコ家電ポイント制だけでは高額所得者、あるいは安定収入世帯層の優遇のみで終わることと比較して、高額所得層や安定収入世帯層には5%は取り立ててたいした犠牲ではないだろうが、中小所得層には同じ5%がかなりの犠牲を強いる逆進性から言って、より中低所得層にとっての恩恵となるはずである。
HP《DI★ction★ARY : 税金 Part-8 ・・・消費税~税収の推移》によると、消費税の一人当たり年間負担額は77,345円であり、夫婦子供2人の4人家族なら77,345円×4=309,380円となるそうだから、かなりの犠牲から解放、かなりの可処分所得の増加となる。
因みに消費税1%上がると国民一人当たり15,469円の負担増だそうだ。
雇用不安や社会保障に対する信頼失ったことからの将来の不安等で、消費税を一時停止しても貯蓄に回るのではないかという指摘を払拭するために、5%分はポイント制で還元し、何らかの消費で使用しなければいけない制度とすれば、貯蓄に回らずに確実に消費に向かう。
ポイント還元はレジスターを操作すれば、可能であろう。どの店でも使えるようにする。
5%丸々停止した場合、税収が追いつかず、予算編成もままならないと言うことなら、スーパーやコンビニ、百貨店、その他の商店の食品に限った5%停止でも、逆進性から言って、中低所得層への相当な利益配分の恩恵となるはずである。
このような消費税一時停止は政府の経済対策の不平等を補い、一般国民に対して可処分所得を直接増やして個人消費の増加につなげ、間接的に社会全体の景気浮揚の一助とする、また税収を幾分取り戻す方法として土台無理な提案だろうか。