菅首相、早速「有言実行」した閣僚合宿のみならず、すべての政策に有限実行性を整合させるべき

2010-09-22 09:26:38 | Weblog

 菅首相は野党時代から「脱官僚依存」の具体策のひとつとして唱えてきた内閣発足時の閣僚合宿を唱えてきたとおりに早速有言実行した。さすがに唱えてきただけの指導力を見せたようだ。《首相、全閣僚集め「勉強会」 政治主導の徹底図る》asahi.com/2010年9月21日1時26分)

 9月20日に改造内閣の閣僚を集めて5時間の政策勉強会を開いた。中華料理屋で二次会まで開いたと記事は紹介している。なかなかの指導力の発揮ではないか。

 まさか前原、野田辺りに引っ張れられて行ったわけではあるまい。

 〈政治主導の徹底のために全閣僚が「合宿」して意思統一を図るのは、菅氏がかねて温めていた構想だ。代表選を乗り切って本格政権を目指す首相が、ようやく「菅カラー」を鮮明にする第一歩を踏み出した。〉と記事は相当な期待感を示しているが、NHKが9月18日からの3日間行った電話世論調査による菅内閣支持率が先月前回調査より+24ポイントの65%に撥ね上がったが、「支持する理由」が「他の内閣より良さそうだから」が49%、「人柄が信頼できるから」が20%、「実行力があるから」がたったの6%となっていて、国民世論が見る実質的な政治的期待値とはかなり距離がある。

 要するに「菅カラー」とは指導色を指すのではなく、好感度色を以って「菅カラー」と言うらしい。
 
 勉強会は自由討議形式。討議内容は経済対策、財政運営、医療・年金、米軍普天間飛行場の移設問題等々だそうだ。記事は、〈幅広いテーマを取り上げた。〉と書いているが、幅広いも、幅狭いも、緊急に解決を求められている重要課題としてどれ一つ外すことのできないテーマであろう。

 討議を必要とする幅広いテーマの存在は政治的に解決に至っていない日本社会が抱える諸問題の多さと、それが社会に与えている矛盾の反映でしかない。とすると、テーマの幅広さが問題ではなく、要は解決という名の結果、成果の類が問題となる。討議に何百時間費やそうとも、またいくら中身の議論が充実した立派なものだったとしても、結果、成果を見ない討議は単なる形式に過ぎなかったことになる。いわば討議のために用意された時間、場所、中身の議論はハコモノとしての体裁しか持たなかったということであろう。

 常に問われることは、「政治は結果責任」である。
 
 秋の臨時国会の提出法案や来年度予算編成、税制協議の日程なども確認したそうだ。

 この勉強会もそうだが、どうも菅首相は税制改革チームを設置した、座長は誰だ、新卒者雇用・特命チームを立ち上げた、官邸に何々の特命チームをつくったと、先ずはハコモノでしかない初期の形式に拘っている。「50、いや100ぐらいの特命チームを作る。皆さんに自分の得意なチームに入ってもらい、政府・与党一体で改革を進める」(MSN産経)と特命チームの大盤振舞いである。

 自らの政治理念を拠り所とした自らが目指す政治の方向性を各政策に反映して、そのような政策の実現を強い意欲を持って指示し、その実現可能性を諮りつつ、可能な限り自らが目指す政治の形を結果として出すことが国の政治を最高責任者として担ったリーダーたる者の責任であり、結果を出す能力をリーダーシップと言うはずである。

 単に各閣僚、あるいはチームの参加者任せの政策実現であったなら、それがいくら政治主導の実現であったとしても、自らの政治理念を掲げてリーダーに名乗りを上げた意味を失う。

 菅首相は政策の確実な実現を求めたのだろう、「時期に応じた共通認識をもって政治課題にあたっていきたい」からと、〈各閣僚に対して、年内、1年間、3年間の3段階に分けた各省の「政策実現スケジュール案」を作成し、秋の臨時国会召集までに提出するよう指示〉したという。

 これらの各政策に自らの政治理念を拠り所とした自らが目指す政治の方向性が人体に於ける背骨のように果して一本貫いていたのだろうか。そうでなければ、一国の政治指導者と言うよりも、リーダーシップを必要としない単なる政策の纏め役と化す。

 例えば代表選を通じて、「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と言って、「雇用を生み出せば、経済の成長につながる」と、雇用=経済成長と太鼓判を押し、雇用創出の有力な場として特に介護分野を挙げたのは菅首相自身である。介護分野の雇用は厚生労働省が取り扱う政策であったとしても、雇用政策に関して菅首相の政治理念が貫いていないことにはその実現可能性は別問題として、“有言実行”とはならないということである。

 雇用を増やしてどういう介護の形にしたいかは、菅首相自身の政治理念、政治の方向性にかかっているからだ。

 いわば各閣僚に対して、年内、1年間、3年間の3段階に分けた各省の「政策実現スケジュール案」を作成するよう指示を出しただけでは“有言実行”を目指したとは言えない。

 これは民主党が野党時代からその実現を目指し、民主党が自民党に勝利し、第一党となった2007年7月参議院選挙の民主党のマニフェストに掲げた政策である〈森林・林業政策「森と里の再生プラン」〉には、「森林・林業に対する自立支援を拡充し、 木材自給率を向上させるとともに、100万人雇用を目指します」と謳っている。

 その具体的内容を「農林漁業再生本部顧問」を兼ねていた当時の菅代表代行が団長の資格で2007年6月9日、岡山県真庭市にある地域バイオマス熱利用フィールドテスト事業の銘健工業を視察し、そのあとシンポジウム「林業再生への提言~21世紀は緑のエネルギーで生きる」に参加し、林業再生による地域振興・経済発展実現をめざす民主党の森と里の再生プラン」として発表している。

 いわば2007年7月の参議院選挙前に纏めた「活動報告書」であり、菅氏は「農林漁業再生本部顧問」であっても、視察と報告書の発表には団長として関わっていた。〈森林・林業政策「森と里の再生プラン」〉政策には率先垂範の主たる責任者の位置にいたということである。 
 
 《民主党の森林・林業政策「森と里の再生プラン」》 (衆議院議員 山田正彦 - 農林漁業 - 活動報告/2007年6月9日に岡山県で発表)

民主党の森林・林業政策

「森と里の再生プラン」

10年後に木材自給率50%達成と省エネ木造住宅の普及で、新たな雇用100万人を創出

林業を軸にした山里の振興で地域間格差を是正する
1. 50年に一度の林業再生の好機

(1) 安価な外材を好きなだけ輸入できる時代は終わった
・ 中国をはじめとする新興経済国の需要の爆発的拡大
・ ウッド・マイレージの見地からも国産材の活用が望まれる

(2) 戦後植林から50年経ち、資源の本格利用の時代
・ 1,000万ヘクタールの人工林(蓄積量43億立方メートル)の年間成長量(8,000万立方メートル)が、ほ
 ぼ国内需要量(1億立方メートル)に相当するほどに成熟

2. 日本林業は産業として自立できる。10年後に木材自給率50%を目指す

(1) 国内市場規模は年間1億立方メートル、世界第2位のマーケット
(2) 現在日本では年間1,700万立方メートルしか伐採していないが、路網が整備できれば、資源の成熟もあ
  り、欧米並みの単価で年間5,000万立方メートルは可能
(3) そうなれば、木材産業の規模の集約化が進展。「重くてかさばる割に単価の安い製品を生産する」とい
  う木材産業本来の資源立地の有利性を、本格的に活かすことができる

3. 国産材はなぜ外材に負けてきたのか

(1) 日本の木材伐採の生産性は、欧米の数十分の1
・ 林業は知識集約・技能集約産業。しかし、専門家が不在
・ 森林管理・経営の担い手が機能しておらず、小規模所有を集約化できない
・ 路網未整備。日本の路網密度は、ドイツの10分の1程度
・ このため、機械を使いこなす基盤が存在しない

(2) 欧米の流通は合理化が徹底的に進展しているのに対し、日本は多段階流通
・ 木材の特性に反するきわめて割高な流通
・ 木材生産が不活発で、合理化しにくかったことが背景

(3) 国産材は、ねじれやそりの起こらない「乾燥材」需要に応えられない
・ 国産材の乾燥比率は20%。しかもその基準も曖昧

4. 日本林業自立への方策

(1)伐採コストの大幅引き下げ

・ 路網(作業道)整備
10年間で欧米
  並み(ヘクタールあたり100メートル)の水準、総延長60万キロメートル(年間6万キロメートル)に。
  財源は、地方も併せて1兆円近い林業予算のうち、林道予算690億円と、独立行政法人緑資源機構を廃止
  して国から支出されている不要な予算を組み替えれば容易に捻出。
・ 高性能機械(ハーベスタ、プロセッサ、フォワーダ)の導入促進
・ 不在村、小規模所有者の森林管理・整備の推進
不在村・小規模
  所有者に極力新たな負担を求めずに、森林組合と民間業者が森林の管理・整備を行い、利益が出れば所有者に還元する制度の創設
・ 未だにスーパー林道、拡大造林を続けている緑資源機構の廃止

(2)流通コストの大幅引き下げ

・ 木材の大量生産に対応するため、現在の生産者、原木市場、製材所、製品市場、卸売り市場など多段階
  にわたる流通を簡略化して、生産者と製材所、工務店といったルートに整備する
・ 森林組合と地方自治体が中心となって、森林台帳の整備、原木の集荷・保管体制の確立および木材の需
  要動向の把握機能の充実により、的確に需要に応じることのできる情報センター機能を整備

(3)乾燥材生産体制の実現

・ 消費地の多様な需要に安定的に対応しうる産地体制の整備の一環として、乾燥材生産体制の実現(計画
  的な整備の着実な促進のために、必要な助成措置、税制上の優遇措置)
・ 乾燥材規格制度の創設

(4)各府県林業公社改革

・ 1兆3000億円の債務の棚上げ
・ 公社の経営形態のあり方を含め、抜本的に見直しをはかる

(5)フォレスター制度の創設

・ フォレスターは、森林の管理・経営に関する高度な知識・経験を有する専門家。森林所有者に対し管理
  ・経営のアドバイスを行い、又は、森林所有者の委託を受けて自ら管理・経営を行う
・ 日本のすべての森林について、こうしたフォレスターが対応できるよう、フォレスターの育成(フォレ
  スター養成大学)を緊急に行う
・ 将来的には、森林組合にフォレスター採用を義務付け、森林組合の地域森林管理・経営能力の一段の向
  上を図る

(6)環境・景観保全に適合した森林管理・整備手法

・ 大面積の森林をいっせいに伐採(皆伐)し、跡地をそのまま放置している現状(再造林放棄)は、治山
  上きわめて問題であるばかりか、景観をも破壊し、林業の将来に対する希望をも打ち砕くもの
・ 林業経営、森林景観、環境あらゆる面で優れる抜き伐り方式による伐採(非皆伐施業)へと転換する
・ 伐採後跡地の植林を義務づけ、皆伐後の再造林放棄の「違法伐採」を明確化する

(7)国産材による省エネ木造住宅の普及で、地球温暖化防止と健康の増進を!

・ 健康(シックハウス症候群から解放)で、環境に優しい(省エネ)木造住宅の普及促進のため、現行規
  制(建築基準法等)の必要な見直し
・ 住宅に省エネ基準を導入し、公共建築物への地域材使用の義務化等国産材利用促進に加え、違法伐採さ
  れた外材の輸入禁止と併せて、温暖化防止に一段の効果を発揮させる
・ 木質バイオマスエネルギーの堅実な促進
・ 豊富な資源を活用して、バイオエタノールなどの活用
・ 森林認証制度の推進
  地元材の利用に税制、補助金の優遇制度
  違法伐採された外材の輸入を禁止して、地域産材、外材についても産地表示制度の導入
・ 「木の地産地消」「木づかい運動」「近くの山の木を使う運動」を推進
・ 公共建築物の地元材利用の義務付け

5. 林業を軸とした地域再生で100万人の雇用創出
・ 地域の森林資源の活用で地場産業を育成する
 森林整備10万人  木材加工業30万人  工務店30万人
 グリーンツーリズムによる観光業40万人

 だが、なぜなのか、政権交代を果たした2009年衆議院選挙の民主党マニフェストには、「畜産・酪農業、漁業に対する所得補償と林業に対する直接支払いの導入を進めます」とだけ記載されているのみで、他に「林業」なる文字は一切出てこない。2007年参議院選挙で一度掲げて国民との約束を目指したのだから、2009年衆議院選挙マニフェストに再度掲げる必要性を見い出さなかったということなのだろうか。

 そうと解釈しなければ、2009年8月30日に行われた衆議院選挙後の2009年10月半ばに菅氏は副総理の資格でテレビ朝日の「サンデーモーニング」に出演、「林業再生プラン」について、その政策に関しては自身の独壇場であるが如くに熱弁を振っていたことが不可解となる。

 菅副総理「もう一つ、公共事業がこれまでのように増えることはないわけで、そういうものに携わっていた人たちの転職をしたときの新しい仕事を考えなければいけない。

 最大の問題は農業・林業。漁業も若干あるが、そういう転職と農業や林業への就労の支援をプログラムでやっています。レストランをつくる。そのレストランに供給する農業をつくる。そこにまた研修の人を入れて、大変だけど、レストランが7、8軒あって、そこに供給する。

 おっしゃるとおり、農地法の問題が色々な参入規制があるので、大変なことは分かっている。しかし可能性としては農業があるのに加えて、林業も実はある。民主党は林業再生プランというものを出して、直接雇用が10万、切った木を使った雇用まで含めると、一応100万というものを2年前に出している」・・・・

 「2年前」というのは上記「報告書」発表の2007年6月を指すはずである。

 当然、「林業再生プラン」を出した2007年時点から政権交代を目指して着々と「政策実現スケジュール案」を主たる責任者の立場で練ったはずである。

 そして政権交代を果たし、例え菅内閣が発足したのが2010年6月からだったとしても、参議院選から3年経過している。民主党政権発足後から計算しても、1年は経過している。少なくとも1年分は「政策実現スケジュール案」は既に「案」ではなく、「林業再生プラン」の政策自体が1年分は進捗していなければならない。

 例え「政策実現スケジュール案」の作成指示自体は農水省に出していたとしても、「林業再生プラン」には主たる責任者として関わっていたのである。首相が「有言実行」という言葉を使う以上、「有言実行」を証明するためにも、「林業再生プラン」がどれ程進捗しているか、国民に知らせるべきであろう。

 特に「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と雇用創出の緊急性を第一番に訴えていた。「10年後に木材自給率50%達成と省エネ木造住宅の普及で、新たな雇用100万人を創出」と、「木材自給率50%達成」は10年後としているが、「新たな雇用100万人」は期限を明示していない。同じ「10年後」だとしたら、「一に雇用、二に雇用、三に雇用」の緊急性に反することになるから、その実現は衆議院任期の4年以内と見るべきである。

 「有言実行内閣」と言ったこととの整合性を示すためにも、「年内、1年間、3年間の3段階」と言わずに、既に何人の雇用創出を果たしたのか、その上で、年内に何人に達する、1年後、2年後、3年後の衆議院任期満了時にはそれぞれ何人に達して、合計「100万人」を実現すると「政策実現スケジュール」そのものを示すべきである。

 示さないとしたら、一事が万事、「有言実行内閣」と言われても信用できなくなる。「一に雇用、二に雇用、三に雇用」も信用できなくなる。

 国土交通省が8月27日に2011年度予算に関して住宅エコポイントの延長・拡充に330億円を概算要求することを公表したそうだが、100万人雇用創出の「林業再生プラン」からしたら、住宅エコポイントの延長・拡充など枝葉末節に過ぎない。

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