2010年7月11日放送「新報道2001」『答のない時代 教育とはナンだ?』を読み解く(3)

2010-09-26 03:40:59 | Weblog

 2010年7月11日放送「新報道2001」『答のない時代 教育とはナンだ?』を読み解く(2)の続き

 須田アナ「先ほど、清家先生が自分の頭で考えるしかない、その問題を探すことが大事じゃないかと。確かに意味あるいい話だと思うんですけども、建築の現場でもそうですよね。どうしたら実践したらいいんでしょうかね?」

 安藤「建築の現場でもそうなんですよね。例えば条件の悪い仕事が来る。そしたら自分で条件を、私は新しい人が来ると、自分で条件を組み立てろと。だけど、条件が出て、それを解決するだけ。それは大体できる。だけど、自分で条件を組み立てて、遠い距離へボートを置いて、遠いところへボートを置いてしまって、自分では到底追いつかないぐらいのところを考えて、それをどうしたら追いつくかということを組み立てていかなければいかんということなんですね」

 須田アナ「それも勇気がいりますねえ」

 安藤「中学のときに相撲の先生が、数学が美しいとか、数学は美学であるとか、あんまり分からないですけど、そういうときに数学と言うのは知識を詰め込むだけじゃなしに自分で組み立てていかないと。そして答を出す。そしてひょっとして答が出たら、自分に自信が出ると。その次に間違いなく勇気が出ると。そういうのが大事なんだと教えてもらった」

 乙武「僕が小学校で担任して最初に凄くビックリしたのは、子どもたちがトイレに行っていいですかって聞きに来るんですよ。つまり今休み時間なのにトイレに行っていいかと判断ができないし、国語のノートを取っていても、先生、新しいページにした方がいいですか、聞いてくるんですよ」

 「違うことをやると、怒られるからですよ。私の子どもが短期留学行ったんですね。違うこと言ったら、先生に怒られるんです。こういうことを言ってくださいと言われたんですよね。多少違うこと言っていいですよと言ったら、先生には色々と言われても困りますと言われた。子どもたちが本来は親の影響なんですよ。教えられているから、怒られているからいけないんですよ」

 須田アナ「そういうときは乙武さんはどう教えたのですか?」

 乙武「いいよって、一言言った方が僕も楽なんですすが、それではいつまで経っても考える力がつかないので、今は何の時間?5分休みです。それはトイレに行っていい時間、ダメな時間?いい時間です。じゃあ行っておいで、と言うと、子どもたちも考える癖がついてくる。小学校で教えていて、これじゃあ子どもたちに考える力がついていないなと思ったのは、兎に角テストというのは教えたことを暗記して、それをテストのときに記憶から取り出してくるっていう作業ばっかりなんですね。ですから自分で考えるということが授業の中で普段の学習の中でなかなか行われていない。

 例えば僕が6年生の歴史を教えていたときに、あの聖徳太子の17の憲法を教えるということで、最初は第1条はみんな仲良くしなさいって言っているんだよ。第2条は仏教を厚く信仰しなさいということ言ってるんだよ。それをしっかり教えた上で、じゃあ、教科書を閉じて、今は聖徳太子になってみて、今の時間は豪族たちが俺の方が強いや、俺たちの方が強いって争っていて、何とか平和の世の中にしたい、そうさせるためにみんな自分も18条目の憲法をつくってごらん、という授業をした。

 子どもたちは凄くユニークで、例えば凄く食べるのが好きな子なんかは、じゃあ、食べ物が余っていたら、分けて上げるとか、凄く勉強のできる子は、力のある豪族からはより多くの税金を取る。僕はどちらも○にした。自分で考える力があれば、考えたことなら、どちらも等しく○なんだと思うんです。

 それでも半分ぐらいの子がノート白紙なんですよ。やっぱりしょうがないのかな。つまり、そういうふうな機会を得ていないので、どうもそういう場を設定していくことが大事だなと思います」

 須田アナ「清家さん、画一的な、一歩脱皮するにはどうしたらいいんですか?」

 清家「一つは学問というものを尊ぶ心を持って欲しいと思う。学問を通じて我々は真実を知ることができる。例えば一番分かりやすいのは昼夜の動きですよ。我々の普段の観察から言えば、太陽とか星が動いていて、地球が止まっている。真実はそうではない。地球が動いていて、動いているわけですよね。つまり天動説じゃなくて、地動説。

 それを我々は天文学という学問を通じて真実を理解している。だから、先ず一つはそういう学問を通じて真理を理解できるということをきちっと押さえる。その上で、そういう学問をベースに自分は新たなセオリーを創り出すことができるんだというふうに考えていくことが大切だと思う。だから、自分の頭で考えることができる」
 
 (宋が中国へ行くということで中途退席。)

 教育への投資で国を建て直したスウェーデンの話へと移る。日本でもスウェーデンをお手本とする動きが始まっているとしている。

●経済発展の原動力は独特の教育システムにあった。
●日本は高卒で資格がないとなかなか正規社員の仕事を見つけることができない。書類選考の時点で
 振るい落とされてしまう。
●このような日本と違って、スウェーデンでは何歳になってもなりたい仕事を目指せる、何度でも再
 チャレンジできる国となっている。
●人口約930万人。神奈川県とほぼ同じ人口。
●世界の注目を集め、世界に通用する企業を産み出している。

 スウェーデン人男性「うちの母親は馬関係の販売員から学者になった」

 同若者「私の高校の友達はエレベーターを造る仕事をして、26歳から消防士の学校に入って、今消防士」

●スウェーデンでは何度も仕事を変えることは珍しくない。
●それを支えているのはリカレント教育という独特な教育システム。
リカレント教育――学校を卒業、社会に出た後学び直すことができる学費無料・無試験の生涯教育
 の一つ。
●社会人の学び直しが積極的に行われている。

 スウェーデンの大学で学んだ日本福祉大学の訓覇法子教授(くるべ のりこ)は大学入学直後、同級生に驚いたと解説者。

 「1年制の平均年齢は28歳だった。それで、エッと思いまして。そしたらスチュワーデスしていた人もいましたし、船乗りをやっていた人もいましたし、非常に多様でした。スウェーデンの教育制度というのはいつでも、どこでも遣り直しの教育制度」

●スウェーデンは1990年代、バブル崩壊に苦しむ日本同様に経済破綻状況に落ち込んでいた。失
 業率は高く、財政赤字の悪化。しかし危機的な状況の中で教育に力を注ぎ続けてきた。

 駐日スウェーデン大使「研究、新しい生産方式の開発などに於いて世界の先頭を走るためには、教育と研究開発の両方に投資をしなければいけない。我々は考えた。そうしないと世界と戦えない」

●教育を高めることで時代の変化に対応できる質の高い労働をつくり出そうとした。

 駐日スウェーデン大使「我々は低い賃金を武器に世界市場で競争しているわけではありません。スウェーデンには高い知識レベルを持った幅広い労働者が必要なのです」

●高い教育を受けた労働力が国の経済を支え、スウェーデンでは国際競争ランキングで日本を上回る
 4位にのぼり詰めた。そして今、こうしたスウェーデン流の生涯教育を取り込み始めた大学に企業
 も大きな関心を寄せている。

 日本女子大学「評判が良く、(就職で)続けて取っていただいて」

●日本女子大学――3年前から離職者の女性を対象としたスウェーデン流のリカレント教育課程を導
 入。学んでいるのは20代から50代の様々な年代の女性たち。授業料は年間24万円。1年間の授業
 後、再就職が目的。

●この日の授業はパソコンを使って企業の会議さながらのプレゼンテーション。終わると直ちに担当
 の教授から指導。授業のすべてが実際の仕事を意識した内容。

 40代生徒「会社を辞めてから、ずっと主婦をして、子育てをして、いざ気がつくと、現代社会から取り残されていて、やっぱり自分が今学ぶことが一番必要じゃないかと」

 40代生徒「私は会社を辞めて、13年。ブランクがありまして、いきなりポンと働き始める勇気がなかったもので」

●再教育を受け、高レベルで社会に出ようという彼女たち。企業からの期待も高く、希望者の就職率
 は100%だと。

 ソートン・不破直子所長(日本女子大学生涯学習センター)「新卒者は勿論いつも見ておりますけれども、その人たちと比べ物にならない何か持久力がある。いざというときに頼れるような人たちが終了していきますね」

 須田アナ「清家さん、日本でも生涯教育の取組み、増えているような現実を聞いておりますが」

 清家「やはりこれから益々必要になってくると思う。一つはスウェーデンと同じだが、先進国どこでもより高付加価値を持ったサービスを生産していかなければいけないので、それを担うことのできる能力を持った人を常にサイクル教育していかなければならない。特に日本の場合は少子高齢化だから、これから人口がどんどん減っていくから。ということは働く人も段々減っていくのですが、その中で経済社会を維持しようと思える人は一人ひとりの人間が生み出す生産物の量を増やしていかなければならない。

 いわゆる生産性を高めなければいけない。そういう面では一人ひとりがもっともっとたくさんの物が作り出せるように能力アップしていかなければならない。そういう面でも、生涯教育は必要ですし・・・・」

 須田アナ「30代でも40代でも50代でも教育を受けるチャンスがあるといいですね」

 清家「おっしゃるとおりです。そして30代でも40代でも50代でもだけでなくて、これから年金の支給開始年齢も65歳になっていきますし、恐らく日本はもっと高齢化しますから、70歳ぐらいまで現役働けるようになりますので、その意味でも常に新しい技術を持った知識を自由に身につけ直す。そういう生涯教育、あるいは生涯に亘る能力開発というものが日本のような国には大切になっていく」

 吉田アナ「乙武さん、いつでも、どこでも誰でも学べるシステムをつくり上げたスウェーデンの取り組みについては?」

 乙武「まさに僕はこれだなと思うんですね。つまり大学を卒業して、一旦はスポーツライターという活動をさせていただいていましたけれども、やはり教育に力を尽くしたいという思いがあって、29のときにもう一度大学に入り直して、教員免許取得させていただいたので、あの期せずしてこのリカレント教育を自分で選んでいたんだなあと、そのお陰で凄く自分の道が開けてきましたし、今またいろいろなことを勉強したいって気持になっています。

 本当にこういうのは大事だし、人の生き方を前向きにさせるんじゃないかと思う」

 須田アナ「あの、スウェーデンの方式もそうだが、日本しかできないもの、日本流も中にあるような気がするのですが?」

 乙武「いろいろな国の文化と背景が違うので、システムというものをそっくりそのまま持ってくるのは難しい。ただ、色々勉強していく中で、あっ、ここは見習うことができるのではないかなと、色々な、少しずつ取り入れていくということはしてもいいのかなあと思う。例えばフィンランドでは義務教育でも留年があったりするそうだけど、それは日本では考えられないと思う。留年しても、授業料がかからないという前提があるのだが、そのお陰で分からないままにしておくことは恥ずかしいということが子どもにも家庭にも浸透しているので、勉強の分からないところがあったことをそのままにして置くことがなくなるそうなんですね。その辺りは色々と制度の問題とかあるのでしょうけれども、マネをしてもいいと思いますし――」

 須田アナ「寺脇さん、フィンランドのこと大変お詳しいということなんですけど。トータルで考えると、両方とも生涯教育の社会ですね」

 寺脇「これ、折角パネルを作っていただいたのに何なんですけど、私は敢えて生涯学習と言いたい。なぜかと言うと、両方とも生涯学習の国なんです。今度消費税上がるという議論が上がっているよね。私は逆に教育予算んてなかなか増えない。

 これは学習予算だという考え方に立って導入してもらいたい。今まで教育予算を増やせって言うと、先生が楽をするためにそういうことを言っているとか、既得権益がどうのって話が出てくる。学習予算と考えれば、全員のためになる」

 須田アナ「教育と学習とは言葉の意味合いが違うということですか?」

 寺脇「そう。学習の受益者とは国民全部じゃないですか。教育の受益者はどうしても狭いサイクルで把えられて、大学の人が喜ぶのかとか、そんな言い方をされるけど。大学は学習するための場所だと考えれば、あらゆる人に、つまり、大学って一握りの人が行くところじゃない。そんなことはないんですよ。

 さっきみたいにあらゆる人がいつでも、どこでも、やり直す大学に行けるとすれば、大学へ予算を投入するということは国民のすべての学習に関係することなんです。だから、教育よりも景気対策の方が優先だなんて言わないで、つまり学習に予算を、消費税をもし上げるんだったら、どんどん放り込んでもらってやっていく。それが多分、実は経済を良くすることにもつながるじゃないか」

 安藤「外国でよくするけど、話をすると、日本人の評価が一番高いのは長寿なんですよ。女性が90歳ぐらいで、男性が80歳ぐらいで、85ぐらいで、そういうことは若くて元気で、女性の場合は綺麗であると。その人たちが、生涯教育が非常に大事だということは、次に新しい知識を入れながら生き続けると。教育がないと、なかなか理想というのができない。やっぱり理想というものを持って、新しい世界を自分で切り開いていくときに勉強というものは非常に大事なんですよ」

 清家「長寿というのは、今安藤先生が言われたように昔は寿命が短かったから、若いとき集中的に勉強したり、仕事能力を身につけたり、後毎日忙しく短距離競走を走り抜くように定年まで働けばよかった。でも、これから60代70代まで働けるようになると、むしろ短距離競走じゃなくて、マラソン型の、途中で栄養ドリンクなど補給しながら長丁場を走りぬく。まさにそれが生涯教育、生涯学習――」

 須田アナ「私は60過ぎたけれども、私の世代で仲間が集まると、学生時代の仲間が集まると、いや、勉強した。例えば、文学の世界で、こういうものをもっと学生時代よりもっと深くできるような気がする――」

 清家「そこのもう一つ大切なのは、勉強して、次の仕事に結びつけるというのは投資の意味の教育でもあるが、教育というのはもう一つ、今まさに言われたように学問すること自体が楽しい、消費する意味がある」

 須田アナ「生きる何か力になる」

 清家「成長すること自体が喜びだという。だから単なる仕事のために生涯教育ではなく、自分自身のために人生を豊かにする意味を生涯学習ですね」

 乙武「私の妻も昔から言っているのは、私が子育てを終わったら、自然環境のことを学びにもう一回大学に行くんだと。行きたい大学まで決めている」

 須田アナ「素晴らしい」

 乙武「僕も刺激を受けましたね」

 寺脇「スウェーデンやフィンランドの教育予算、学習予算を物凄く取っているのは子どもたちだけのことではない、子どもから年寄りまで全員のためのことなんだと。医療と同じなんだという考えなんです」

 清家「私たちがもう一つ考えなければいけないのは日本でこれまで生涯教育を担っていたのは企業。企業の中で仕事能力を身につけ産業構造が変わったら、企業も違う方面に進出して、その中で再訓練していく。

 その面では日本では企業に於ける生涯教育というのは研修なども含めてとても発達していたのだが、一つここで問題が上がってきたのは、最近正社員の比率が減ってきて、企業が企業内の教育訓練するのは多いのは正社員で、それ以外の人たちの企業の中に於ける生涯教育の場が段々少なくなってしまう。そこでやっぱり社会全体で大学まで含めて充実していかないなというふうに思います」

 須田アナ「今、企業という言葉があったが、やはり企業。安藤さん、仕事そのものが生涯教育になっている場合が多いですね」

 安藤「そのとおりですね。学生のときに自分の好奇心が生きるエネルギーになる。体力と同時に日本人はもう好奇心が旺盛じゃないですか、昔から。映画へ行く、歌舞伎へ行く、音楽界へ行く。それが大体この日本人の素晴らしい人生、全部女性にいってしまっている」

 吉田アナ「女性は時間がありますから」

 安藤「男性もそれを取り戻して、やはり90歳、それを越えて、好奇心を持っていくと、好奇心というエネルギーが人間を充実した人生を送るためにはやっぱり生涯教育は凄く大事だと思う」

 須田アナ「乙武さん、最後にお聞きしたいのです。夢なんですが、奥さんの夢、先程お聞きしましたが、乙武さん本人もおありなんじゃないかと思います」

 乙武「僕は父親として二人の息子をしっかり育てていくということ。そうなんですけれども、平和ということを僕はテーマとしていて、凄くそこに自分の力を尽くしていきたいなという思いがあるが、その根本にあるのは一人ひとりが違って当たり前なんだということを分かっていくことだと思うんですね。

 それは個人個人もそうですし、国家と国家、宗教と宗教、全部が違っていて当たり前なんだということが大事だと思うのだが、それを伝えるのに僕はとても分かりやすい身体をしていると思うので、そのことを生かしながら、そのメッセージを伝えていくというのが僕の夢ですね」


    ――以下、続く――

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