菅首相が9月17日(2010年)、改造内閣発足に当たって首相官邸で記者会見を開催。冒頭次のように発言している。
菅首相「改造内閣のスタートに当たって、国民の皆さんにこれからの菅内閣の目指す方向を含めて私の考え方をお伝えしたいと思いまして、この記者会見を開かせていただきました。
ちょうど1年前に政権交代による最初の鳩山政権が誕生いたしました。そして、1年経った今日、改めて私の改造内閣はスタートいたしました。私なりにこの1年間とこれからを考えて、この1年間はいろいろな意味で試行錯誤を繰り返した1年であった、試行錯誤の内閣であったと考えます。そしてこれからは、その試行錯誤を踏まえて1つの具体的な事柄を実行していく、有言実行内閣と皆さんが呼んでいただけるような、そういう内閣を目指す。有言実行内閣をまさに実現をしたいとこのように考えております」(首相官邸HP)
民主党政権発足後の1年は「試行錯誤の内閣」だといとも簡単に言っているが、例えば内閣に置く組織の人員及びその配置や指示・命令系統などの変更等の構成自体の試行錯誤は許されるが、国政そのものに関する試行錯誤は許されないはずである。国政は国民相手の振舞いであり、国民の社会的生存を基本のところで規定する営みだからだ。
いわば試行錯誤は自分たちの関係に収まるものでなければならない。国民に及ぼしてはならない。
もし国政そのものの試行錯誤が許されるなら、「政治は結果責任」の約束事をも裏切ることになる。ある政策が国民に多大な不利益をもたらしたとしても、「この政策は試行錯誤中で、この失敗を糧に今度は成功する政策を打ち立てたいと思います」とすることが罷り通ることになったなら、責任を取らなくても済むことになる。
マニフェストに掲げた数々の政策の変更を以って「試行錯誤の内閣」だと譬えているのだろうか。
普天間飛行場移設を「国外、最低でも県外」と言い続けて、最終的に自民党政権が決定した辺野古移設へ戻ったのも試行錯誤の一つに入れているのだろうか。
あるいは消費税増税発言が災いして参院選に大敗、増税発言を封じたのも試行錯誤だとしているのだろうか。
如何なる政策も万全を期して国民に問い、その結果責任を負う。菅首相は合理的判断能力が軽くできているから、この1年間は「試行錯誤の内閣」だったと簡単に自分たちを許してしまっている。自分に甘いところがあるからではないのか。
今後は「有言実行内閣」を実現したいと言っている。国政に携わる内閣が如何なる政策も万全を期して国民に問い、その結果責任を負うを国民との間のルールとするなら、「有言実行」は極々当たり前のことで、このことを基本姿勢とする責任と義務を負っているのは菅内閣のみならず、如何なる内閣も負っているはずだから、殊更に言うべき「有言実行内閣」のキャッチフレーズではなかったはずだ。
だが、殊更に「有言実行内閣」と言わなければならなかった。
「有言実行内閣」は内閣のトップたる者の指導力、リーダーシップなくしてその実現可能性を失う。自らの指導力、リーダーシップに自信があったなら、「有言実行」は自ずからついてくるものだから、わざわざ宣伝しなくてもいい「有言実行内閣」だったはずである。
自らの指導力、リーダーシップに自信がないことの裏返し意識が言わせた事情からの「有言実行内閣」ではなかったろうか。ウソつきが、「俺は正直な人間だ」と言うように。
だとしても、内閣の最高責任者としての指導力、リーダーシップには元々「有言実行」という見えない手錠をかけられているにも関わらず、改めてのように「有言実行内閣」と言った以上、自身の指導力、リーダーシップに「有言実行」という手錠を二重、三重にはめたことになる。厳しい言い方をするなら、「有言実行」に目に見える形で雁字搦めにされたことを意味する。
ほんの一つの政策でも「有言実行」が「有言実行」でなかったときの反動は大きいだろう。
菅政府は拉致情報を得るためと称して金賢姫元北朝鮮工作員を来日させ、その厚遇ぶりにマスコミや国民の間から批判が出ると、彼女の帰国後、政府が負担した経費に関して「必要なら担当者が説明することがあってもいい」(日本経済新聞電子版)と発言している。
それ以降、経費説明の報道に触れていない。インターネットを検索しても、政府からの経費説明を伝えた記事に出会わない。経費説明を手始めの「有言実行」として貰いたいと思う。
これは鳩山内閣のときのことだが、1月12日(2010年)のハイチ地震の緊急支援に対する初動対応に遅れがあったのではないかという批判に、当時の岡田外相が「私は今回の派遣について合格点だと思っておりますが、合格点が70点なら、80点、90点という対応ができなかったか、より迅速に派遣できなかったか、特に被災地が遠方の場合に情報が不十分でも被災地近くまで派遣できないか、例えば今回であればマイアミまでは(人員を)送っておくことができなかったとか、このあいだ申し上げたとおりであります。治安が劣悪な場合の派遣をどう考えるのか、つまり『緊急支援隊の安全』ということと『迅速さ』ということをどの辺でバランスを取るべきなのか、この前もお話したかと思いますが、法改正を行った時の付帯決議や閣議決定などあるわけです。それから、通信体制を強化できないかといった諸問題について省内で検討し、迅速に結論を出すべき事項と関係省庁やJICAなどとも協議して結論を出すべき事柄、それから中長期的な課題の3つに分けて検証を行い、そして、改善策を立てていくこととしております。具体的には、西村政務官をヘッドにして、それぞれの項目ごとに担当の部局を指定して、検討することとしたいと思います。そう時間をかけずに、1ヶ月ぐらいで何かの結論を出したいと考えているところであります」(外務省HP)と検証を方針を立てたが、どう結論づけたのかの発表が「有言実行」どおりに行われたのだろうか。
「有言実行」は何も菅内閣の専売特許ではなく、如何なる内閣もそれを当たり前の約束事としなければならないはずであるし、内閣に所属するすべての閣僚が当然のこととして従わなければならない約束事だからだ。