9月1日の民主党中央代表選挙管理委員会主催の民主党代表選、菅・小沢共同記者会見でも9月2日の日本記者クラブ主催公開討論会でも選挙大敗して参議院与野党逆転状態と化した、いわゆる“ねじれ国会”対策を記者から問われて、菅候補は口では大敗の責任を言っているが、参院選大敗は天の配剤だと見事な詭弁を弄して責任逃れを図っている。
9月1日の共同記者会見は「プレスクラブ - ビデオニュース・ドットコム インターネット放送局」動画の文字化から、9月2日の公開討論会は、「MSN産経」記事――《【公開討論会・詳報】(3)菅氏「真摯な姿勢で臨めば野党も応えてくれる」》(2010.9.2 15:14)と《【公開討論会・詳報】(4)小沢氏「参院過半数、6年ではとても無理」》(2010.9.2 15:43)から、菅候補と小沢候補の発言を見てみる。
9月1日共同記者会見――
――読売新聞の東(吾妻?)です。参院選での大敗をどう総括され、その結果生じたねじれ国会をどう克服されていかれるおつもりなのか、具体的には政権の枠組みを変えるおつもりであるのかを含めてお願いします。
小沢候補「選挙というのは、主権者たる国民が意思表示する唯一最大の場でございます。ですから、その意味に於いて、民主主義社会に於いては、選挙の結果というのは、大変、国民の意思として、意思表示として、重大に受け止めなければならないと思います。
3年前の参議院選挙で、野党合わせてでありますけれども、過半数を国民みなさんからいただきました。これが今回、大きく議席を失ったということは大変な大きな問題として、トップリーダーから、われわれ一兵卒に至るまで考えなくてはならないことだと把えております。
国会については、私は今度の代表選の審判を受けた後に考えればいいことだと思っておりますけれども、いわゆるみなさんがおっしゃる政界の再編といいますか、そういう類のことで国会運営を乗り切っていこうというふうな考えを持っているわけではありません。我々が国民のための政策を実行するということであれば、野党も賛成せざるを得ないだろうと思っておりますし、そういう意味で私たちがきちんと筋道の通った主張と政策を参議院に於いても示していくということが大事だと思っております」
菅候補「参議院の結果については私自身の責任論も含め、反省をしてまいりました。その上で、ねじれという状況になったことについて、私は一般的には厳しい状況でありまけれども、ある意味では天の配剤ではないかとも同時に思っております。
つまり今の日本の大変深刻な、例えば成長が20年間止まっている、あるいは1千兆にも近い財政赤字が蓄積している。あるいは少子化、高齢化が急速に進んでいる。こういう問題を二大政党であったとしても、1つの党だけでなかなか超えていけない状況がこの10年、あるいは20年続いてきたわけでございます。そういう意味ではねじれという状況は、逆に言えば、そうした与党、野党が同意しなければ物事が進まない。逆に言えば合意をしたものだけが法律として成立をするわけすから、そういうより難しい問題も合意すれば超えていけると、そういう可能性が出てきたと言えるわけであります。
私の経験では確か1988年でしたか、金融国会というものがありまして、長銀、日債銀の破綻寸前になったときに当時の野党でありました民主党、そして自由党、公明党で、金融再生法というものを出しました。色んな経緯がありましたけれども、最終的には当時の自民党がそれを丸呑みをされた。私は政局しないと申し上げて、小沢さんから少し批判をされましたけども、しかしあそこで政局にしていた場合は、私は日本発の金融恐慌が世界に広がった危険性が高かったと思っておりますので、そういう意味では、そういう真摯な気持を持って臨めば、野党のみなさんも合意できるところはあって、これまで超えられなかった問題も超えていくチャンスだと把えて努力してまいりたいと思っております」
9月2日公開討論会――
「MSN産経」記事から
【政権運営、ねじれ国会への対応】
--小沢氏からお願いします
小沢氏「国会運営ですか?」
--「えー」
小沢氏「はい。あのー、この間の選挙で44議席という、参院大敗を喫してしまいました。従って、何を、政策を法律化して通そうと思っても、数だけでは到底できません。そして今、野党各党とも、菅政権にいろいろな政策で協力するということはできないという趣旨の話を各党ともしております。それがまあ、現実だと思います。そうしますと、衆院で圧倒的な多数で、言うまでもないですが、参院の国会運営、自分たちの主張を通すためにはやはり野党の賛同を得なければならないと思っておりますけども、野党のみなさんがそういう趣旨の政治スタンスをとっていることについて、菅総理としてどのようにこれを打開していかれるのか、お聞きしたいと思います」
菅氏「私はですね、先の参院選で大きく議席を減らし、敗退したことについて、その責任を痛感いたしております。しかし、このことで、何かもうこれで政治が進まなくなったとはこのように思ってはおりません。ある意味では、新しい局面が生まれる可能性がある。つまり、自民党が参院が少数でねじれた時期もありました。今回逆の時期もあります。つまりは、自民党もあるいは他の野党も、自分たちが全部反対すれば法案は通らない。しかし、本当に国民のためにどうすればいいかということをですね、考えたときに、私は謙虚に話し合いをすれば、大きい問題であればあるほど、共に責任を感じて何らかの合意形成を目指すということはありうると思っております」
「私が例に出しますあの金融国会の時、当時自民党が過半数割れを起こして野党、私が代表する民主党、そして小沢さんが代表された自由党、公明党で金融再生法案を出しました。この法案が通らなければ長銀、日債銀が破綻(はたん)して金融恐慌になるのではないか。そういう中でありましたので、私は徹底的な議論をいたしまして、わが党、野党の案に自民党が全面的に賛成されるのならば、それを政局としては扱わないで、政策合意をしてもいいと申し上げましたが、100%野党案を賛成するという形で成立をし、金融恐慌を避けることができました」
「それについて、小沢さんからは政局にしないなんていうこと言うのはおかしいと言われましたけども、私は今でも日本のため、世界のためにはその選択は間違っていなかったと思います。これからの政権運営においても、そういう真摯(しんし)な姿勢で臨めば野党のみなさんも必ず応えてくださると、このように考えております」
小沢氏「あのもちろん、今、総理がおっしゃったように私どもが本当に国民のための政策だ、法律案だということでもって、野党の皆さんと合意することができるものもたくさんあると思います。ただ、今、お話があったように、あのときも野党案を丸飲みしたというのが現実でありました。本当の危機的な状況の中ではそういうことも、当然、お互いにあり得ることではございますけれども、自分の政策、主張を野党とは違う基本的に考え方の違う政策、主張というのは現実的にはできなくなってしまうわけでございますので、その意味についての国会運営というのは大変厳しいものではないかと思っております」
「もちろん、ぼくは選挙の結果のいかんにかかわらず、一兵卒として協力することは党員として当然ではありますが、なかなかわが党が野党で、過半数をもっておったときの自民党政権下でわが党がもっておったときの、国会の状況をみてもおわかりの通りだと思いまして、そういう意味では私はここがリーダーとしての手腕が問われるところであって、本当に真摯(しんし)に一生懸命、野党に対して話をすれば、一定限度の理解はえられるということは、そう思いますけれども、本当に主張、政治的な考え方の違う問題についてはまったく動かないということになりますので、そういう意味で大変、厳しい国会運営になっていくのではないかということを心配しておりまして、このリーダーとしては打開策をきちんと考えておかなくてはならないだろうというふうに思っておりますものですから、そういう質問をさせていただきました。
菅氏「私は先ほど申しあげましたようにですね、今の日本の行き詰まりはこの1年、2年の行き詰まりではありません。約20年間にわたる行き詰まりです。それは景気対策をやっても一義的にはよくなっても成長には戻りませんでした。あるいは社会保障についても少子高齢化がなかなか止まらなくて不安感が高まってます。財政の状況はいろいろな見方はありますけども、いずれにしても膨大な借金が積み上がっていることが事実であります。こういう大きな課題、金融国会の金融破綻(はたん)に匹敵する課題、あるいはそれをこえる課題であるからこそ、私はたとえば二大政党の一方が多少力を持っていても、それをこえてこれなかったために、それが今日のこの行き詰まりがあると私は思っております」
「ですから、この大きな行き詰まりをこえるためにはある意味では、党をこえた合意形成、国民の合意形成が必要になる。熟議の民主主義といってまいりましたけれども、この間、私どもが野党でねじれ国会のときにはやや率直に申しあげて政権交代を目指すという政治的な目的のためにかなり行動したことも事実でありますから、そういう意味ではそれぞれがそういう行動をとった上で今日の状況をむかえて、ある意味の新しい局面にきたわけですから。そういうより大きな課題こそが、私は天の配剤だと申しあげているんですけれども、こういう中で合意形成ができると、私も30年間、国会におりますので、自社さ政権、いろいろな政権、ご一緒した方もあります」
「たとえば、子供手当ては公明党が賛成いただいて、現在の法案もできているということもありますし、やはり財政健全化についても自民党も中期目標などではわが党と一致をした意見を出させていただいておりますので、もちろん、簡単だとは思っておりませんけれども、まさに真摯(しんし)に政局ではなくて、国民のことを考えて話し合おうという、その呼びかけをきちっと。既に多少の努力はしておりますけれども、させていただいたときには他の野党の皆さんもですね、国民の皆さんのことを考えて、そういう話し合いに参加をしていただけるものと思っています」
小沢氏「国会運営についてこれ以上は何もありません。ただ、今、繰り返しますが自分たちが国民に約束した主張を実行していくためにはやはり参議院でも過半数を有するということは本当に大事なことだと思っております。このままですと、仮に民主党政権が続くとしても、もう、最低でも6年、とても6年じゃ無理だとは思いますが、9年、12年の歳月をかけないと過半数というのはなかなか難しいという結果が現実だと思っておりますし、また、われわれが政権をめざしておったからというお話がありましたが、今、自民党は政権の奪還を目指して頑張っていることだと思いますので、状況は立場は変わりましたけれども、同じことだと思います」
菅候補が9月1日の共同記者会見で、「私の経験では確か1988年でしたか、金融国会というものがありまして」と言っているが、1998年の間違いだそうだ。
菅候補は共同記者会見で言っている。「例えば成長が20年間止まっている、あるいは1千兆にも近い財政赤字が蓄積している。あるいは少子化、高齢化が急速に進んでいる。こういう問題を二大政党であったとしても、1つの党だけでなかなか超えていけない状況がこの10年、あるいは20年続いてきたわけでございます」と。
だが、“ねじれ状況”になれば、話し合って政策の中身を決めていかなければならないから、そこに合意形成が生まれ、国会を通すことが可能となり、「1つの党だけでなかなか超えていけない状況」を、「そういうより難しい問題も合意すれば超えていけると、そういう可能性が出てきたと言えるわけであります」という言い回しで乗り越え可能としている。
公開討論会では、社会保障や少子高齢化、膨大な赤字財政等々の「こういう大きな課題、金融国会の金融破綻(はたん)に匹敵する課題、あるいはそれをこえる課題であるからこそ、私はたとえば二大政党の一方が多少力を持っていても、それをこえてこれなかったために、それが今日のこの行き詰まりがあると私は思っております」と言い、余りにも日本が抱える課題が難しい問題であるために与党が多少数の力が優っていても解決できなかった、その点ねじれ国会となって与野党が話し合わなければならなくなったから、合意形成が可能になり、社会保障や少子高齢化、膨大な赤字財政等々の課題を乗り越えていけると主張している。
だから、参院選敗北は天の配剤だと。
見事な論理だが、矛盾だらけ、これ程自己都合な馬鹿げた詭弁はなかなか見当たらないのではないのか。
9月1日の共同記者会見では小沢候補が先に発言を済ませていて、菅候補のこの矛盾だらけ、自己都合の詭弁に対する反論はなかったが、9月2日の公開討論会では討論形式であるゆえに、菅発言に答えている。
かつての金融再生法案の与党自民党丸呑みの事実とこのような事実の今後の可能性を認めながらも、「自分の政策、主張を野党とは違う基本的に考え方の違う政策、主張というのは現実的にはできなくなってしまうわけでございますので、その意味についての国会運営というのは大変厳しいものではないかと思っております」と言っている。
菅論理の最大の矛盾は1998年の金融再生法案与党丸呑みのときと立場を逆転させている点を無視していることである。当時は野党の立場にあった。野党として与党に丸呑みさせた。現在は与党の立場にある。丸呑みということで言うと、与党の立場で野党に与党の法案を丸呑みさせるのではなく、野党の法案を丸呑みさせられる与野党関係を維持していくということである。
これは与党としての主体性の放棄につながる。この主体性の放棄は政策自体に反映されて、政策上の主体性をも失うことになる。
この点を考えずに金融再生法案与党丸呑みの例をねじれ国会対策として取り上げる合理的判断は素晴らしい。
では、このような与野党関係を何年維持しなければならないかというと、小沢候補が「仮に民主党政権が続くとしても、もう、最低でも6年、とても6年じゃ無理だとは思いますが、9年、12年の歳月をかけないと過半数というのはなかなか難しいという結果が現実だと思っております」と予測している6年、9年、12年の根拠は、続けのての発言が示している。
「今、自民党は政権の奪還を目指して頑張っていることだと思いますので、状況は立場は変わりましたけれども、同じことだと思います」
自民党は政権奪還を目指す野党の立場にあり、単独では無理だと言うことなら、野党共闘という形を取るだろうから、そう簡単には民主党政権の思惑通りの国会運営を許さないだろうということである。
例え国民生活に密着した役立つ政策だと言っても、いや野党の政策の方が役立つと譲らないケースも十分に考えられる。
参議院の議席を失うことで生じたこういった不利な状況を無視して、3年で議席を挽回できると請合ったとしても、その間に国会運営に行き詰まった場合、有利な状況での停滞ということはないから、不利な状況での停滞が災いした衆議院解散となった場合、衆議院の議席まで失わない保証はない。
国会運営に関して野党が与党の主導権を奪って自ら主導権を握った場合、当然、与野党協調よりも野党間の協調を優先させる。野党が主導権を握った意義を最大限に維持し、最大限に活用するためにである。与野党協調はその上に築くことになる。
菅首相は、「合意形成」、「合意形成」と「合意形成」が万能であるかのように振り回しているが、「合意形成」にしても野党主導下の「合意形成」となる可能性が大きくなるということである。与党側から言うと、与党が主導権を失った状況下での「合意形成」となる関係性を強いられるケースが多々生じることを意味する。
この関係性の最大形が野党の法案を与党が丸呑みするケースであろう。与党は主導権を全面的に失い、野党が主導権を全面的に握ることによって可能となる丸のみである。与党が些かでも主導権を保持できる状況にあったなら、例えば何らかの取引によってほんの少しでも主導権を与党側に引き寄せることができたなら、丸呑みという関係は生じることはない。
要するに菅候補は“主導権”というキーワードに視点を置かずに、かねがね言っているように合理的判断能力ゼロだからだろう、詭弁でしかない論理を進めているに過ぎない。しかも1998年の金融再生法案の丸呑みを持ち出してねじれ国会が片付くようなことまで言っている。全く頭の悪い男だと言わざるを得ない。
菅候補は、「二大政党であったとしても、1つの党だけでなかなか超えていけない状況がこの10年、あるいは20年続いてきた」と言っているが、それは与野党間の「合意形成」を基に各法案を成立させてこなかったというよりも、社会の発展に有効可能な政策を創造するだけの政治能力を与党が単に有していなかったということであろう。
野党の政策は与党のこのような政策に於ける無能状況・閉塞状況に対するアンチテーゼとして常に存在させているはずである。自民党政治ではダメだ、日本を再生できない、民主党が掲げる政治こそが国民の利益となり、社会の発展に貢献し、日本再生の契機となると訴え続けてきたはずである。
少子化・高齢化、あるいは社会保障等の解決困難な緊急重大政策程、政策的に満足な解決方法を見い出していないことを意味するから、与党政策に対する野党のアンチテーゼ度は強かったはずである。似たり寄ったりであったなら、解決は進まないことになる。
当然、民主党の子ども手当、高速道路無料化、高校授業無料化、社会保障政策等のマニフェストに主として掲げた政策は与党自民党政策に対するアンチテーゼ度はかなり高かったはずである。普天間の「国外、最低でも県外」移設はその最たるものとして挙げることができる。だが、簡単に頓挫した。
菅首相は「私は金と数ということを、あまりにも重視する政治こそが古い政治だと。そうではなくて、お金がなくても、志と努力と能力のある人はどんどん国会議員にも、政治にも参加できると。そして、数の前に中身の議論をしっかりすると。その中で合意形成ができてくると、そういう政治こそが新しい政治で、今、日本に必要となっている政治は、その新しい政治だと、こう思ってます」と甘っちょろい理想論を展開しているが、こういった役にも立たない甘っちょろい理想論を言えるのも合理的判断能力ゼロに助けられているからだろうが、政治資金が、それが正当な方法で得たものであるなら潤沢であることに越したことはなく、「数」(=頭数)にしても、全部が全部カネの力で獲得できるわけではなく一般的には政策の訴えに国民が応えた結果として現れる「数」、議席数であるはずである。
いわば単に「数」を求めて獲得できる要素ではなく、政策の優位性によって獲得した「数」の優位性なのだから、逆にその「数」の優位性を力として、国民に訴え、賛同を得た優位性あるとした政策の優位性を事実かどうか法律化し、社会に反映して証明する責任を有する。
だが、基本となる「数」の優位性を参議院選大敗によって主導権の喪失を伴いつつ失ったばかりか、政策の優位性も「合意形成」の名の元、手放そうとしている。
にも関わらず、参院選敗北は天の配剤だと言って憚らない。見事な合理的判断能力ではないか。
元々合理的判断能力の欠如に伴って指導力、リーダーシップのない首相となっているから、主導権を失おうと、「数」の優位性を失おうと、政策の優位性を手放そうと鈍感でいられるのだろう。