菅首相が何をどう情報収集しようと、答はロシアの領土化、領土化に向けた既成事実化の阻止にある

2010-11-04 08:25:44 | Weblog

 11月1日に行われたロシアのメドベージェフ大統領国後島訪問の「ロシア国内でのバックグラウンド、政治的な背景など」等の事情を聞くために前原外相が河野駐ロ日本大使の一時帰国を命じた。

 記者の「大使の一時帰国は事実上の対抗措置か」の問いに前原外相は「あくまでも事情を聞くための一時帰国だ」と答えていたが、ロシアへの事実上の対抗措置だと伝えるマスコミもある。

 《ロシア大統領北方領土訪問 河野駐ロ大使の一時帰国に対しロシア議会から猛反発の声も》FNN/2010/11/04 00:10)は、ロシア側から〈大使の一時帰国に関しては、事実上、国交断絶一歩手前の「大使召還」だと見る声も伝えられている。〉と報じ、ロシア上下院の外交委員長の声を伝えている。

 マルゲロフ・ロシア上院外交委員長「大統領の(APEC)訪日直前に大使を帰国させるのは、挑戦だ」

 コサチョフ・ロシア下院外交委員長「日本の対ロシア外交政策に関する、悲劇的な誤りだ」

 上院外交委員長は「対抗措置」という言葉こそ使っていないが、ロシアに対する「挑戦だ」としてる。だとしたら、「メドベージェフ大統領の国後島訪問こそ日本に対する挑戦だ」とそっくり言葉を返すべきだろう。

 ロシア下院外交委員長の「日本の対ロシア外交政策に関する、悲劇的な誤りだ」の発言にしても、「ロシアの対日本外交政策に関する悲劇的な誤りだ」とそっくり返すことができる。

 より刺激的に、「ロシアの対日本外交政策に関する悲劇的な愚行だ」とすることもできる。

 河野大使は外務省で前原外相と会い、首相官邸で仙谷官房長官、そして最後に外務省の佐々江事務次官らと共に首相公邸で菅総理大臣に報告という手順を踏んだようだが、なぜ外相、官房長官、首相と一堂に会して報告を受け、それぞれが意見・感想の類を述べるという形にしなかったのだろうか。「三人寄れば文殊の知恵」と言う。一つの意見・感想に想像力(創造力)が刺激を受けて、新しい考えが浮かんだり、議論し合って一つの考えを発展させるといったことは往々にして存在するからだ。

 河野大使としては順繰りに回ってほぼ同じことを喋ってまわったことになる。ご苦労なことではないか。一度で済むことを三度で行う手間の効率性は政治家と官僚ならではのことなのだろうか。

 ここにも情報の扱いに対する粗略さを窺うことができる。

 河野大使の報告を「NHK」記事――《ロシア大統領への対応 慎重に検討》(10年11月4日 4時2分)は次のように伝えている。

 〈政府は、今回の訪問が、北方領土問題で日本側をけん制するねらいよりも、大統領が支持を固めるための国内向けのアピールの要素が強いのではないかなどとする、河野ロシア大使の報告も踏まえ、菅総理大臣からメドベージェフ大統領に対し、抗議も含めてどのようなメッセージを伝えるのか、慎重に検討を進めることにしています。〉――

 国後島訪問目的は「北方領土問題で日本側をけん制する狙い」からではなく、「大統領が支持を固めるための国内向けのアピールの要素」からだと日本の外務省及び駐ロ日本大使は情報分析していたことになる。

 「YOMIURI ONLINE」記事――《駐露大使が報告「大統領の国後訪問は国内向け」》(2010年11月4日03時04分)も、〈河野大使は、大統領訪問について、2012年の大統領選をにらんだ国内向けアピールの意味合いが強いとの分析を報告した。〉と、NHK記事と同じ内容を伝えている。

 「MSN産経」記事――《露大統領が国後訪問 中国と連携、強い指導者誇示》(2010年11月2日 08:00)は河野大使が前原外相等に会う前の記事で、その報告内容を伝えるものではなく、記事自身の解説として、一歩踏み込んで、「大統領の対日強硬姿勢には、2012年の大統領選に向けて『強い指導者』像を誇示する狙いもある」と、「強い指導者」像を演じる必要上からの訪問だとしている。

 他にも「強い指導者像」を挙げているマスコミがある。言葉は違うが、同じニュアンスの「強い大統領像」の誇示を挙げてもいる。

 実際にメドベージェフ大統領の狙いが「NHK」記事が伝えるように、「北方領土問題で日本側をけん制するねらいよりも、大統領が支持を固めるための国内向けのアピールの要素」からだとしても、島を訪問してロシア領土だとアピールした事実は残る。ロシア国民に記憶されるだけではなく、ロシア国内に於ける情報としても記録され、今後に伝えていくことになる。

 大統領はロシア領土だとアピールした事実に添う行動を「強い指導者像」、あるいは「強い大統領像」を示すためにも求められることになる。体育館を建てると住民に約束した。学校を建てることを検討すると発言した。生活水準を本土並みとし、「人々がこの島にずっと居られるようにしたい。開発が進むよう今後も必ず予算をつける」と約束した事実に向けた努力を求められることになる。

 「国内向けのアピール」だとする、その国内の勢力に向かって自身が「アピール」したことの実現を求められる。「アピール」だけで終わったなら、日本の記事が実際のアピールとしている「強い指導者像」、あるいは「強い大統領像」を自らが裏切ることになる。日本の菅首相のように実行力のない大統領と看做されて、支持率を下げることになるだろう。

 支持率を下げたなら、2012年の大統領選に影響する。それを避けるためにも例えそれが当初は「国内向けのアピール」だったとしても、「強い指導者像」、あるいは「強い大統領像」の誇示だったとしても、最終的には国後島訪問で見せた自身の発言と行動を実現させて初めて「国内向けのアピール」として成立し、「強い指導者像」、あるいは「強い大統領像」が事実となって成立する。当然、そのような事実の成立は北方四島のロシア領土化と領土化に向けた既成事実化と一体化を伴うことになる。

 一体化を伴わなかったなら、大統領が望んでいる事実の成立は果たすことはできない。

 いわばメドベージェフ大統領は訪問が「国内向けのアピール」、あるいは「強い指導者像」、「強い大統領像」の国内向けの誇示だったとしても、国後島訪問とそこでの言動を裏切るところができない場所に自身を置いたのである。さらに歯舞群島、色丹島の訪問も計画している。実際に訪問を果たしたなら、そこでの発言と行動も裏切ることができな場所に自身をさらに追い込むことになる。大統領の側から言うと、北方四島のロシア領土化を否応もなしに進めなければならないことになる。領土化に向けた既成事実化をなお一層積み重ねていくことを実績としなければならないことになる。

 訪問が北方領土問題で日本側を牽制する狙いではないとしても、領土化と一体化させた動きを否応もなしに伴うことになると見て、「国内向けのアピール」に過ぎないと放置はできない。

 そのようなロシアの領土化、領土化に向けた既成事実化を如何に阻止するか、偏に菅内閣の責任と指導力にかかっている。菅首相が内閣を放棄すれば、次の内閣にバトンタッチはできる。
 
 菅首相は河野大使の報告を受けて、次のように発言している。《首相 河野大使に情報収集指示》NHK/10年11月3日 19時3分)

 菅首相「今後はロシアの動向に対する情報収集と情報分析の態勢を強化し、しっかりと情報を集めてほしい」

 今更言うことではないないはずだ。情報に関わる態勢は常に強化された状態になければならない。それが不満足な状態にあったと言うなら、外務省の責任を問うべきである。

 内閣自体もメドベージェフ大統領が北方四島訪問の動きを見せたとき(菅首相は9月27日の時点でこの動きを既に把握していたし、大統領は9月29日に択捉、国後両島の訪問を実行しようとして悪天候のために断念している。)、外務省に対して的確・迅速な逐一の情報提供を求めたはずだ。

 それを「今後はロシアの動向に対する情報収集と情報分析の態勢を強化し、しっかりと情報を集めてほしい」と言わなければならない。内閣の無策を外務省の情報の取り扱いに責任転嫁する発言だとしたら、問題だ。

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