菅首相の「日米韓一致協力の北への対抗」は万が一の全面戦争を共に戦う可能性への言及となっているのか

2010-11-30 09:09:37 | Weblog

 韓国の李明博大統領が29日(2010年11月)午前、北朝鮮からの砲撃に対する大統領としての対応姿勢を示す国民向けの特別談話をテレビを通じで発表した。談話の全文を知りたいのだが、調べた限り全文を載せている記事は見当たらなかった。

 《北朝鮮砲撃:李大統領「北の挑発には相応の代償を」》朝鮮日報/ 2010/11/29 11:55:05)

 〈李大統領は29日午前10時、大統領府の春秋館(記者会見室)で「延坪島砲撃に関する国民への談話」を発表、今回の砲撃で殉職したソ・ジョンウ下士(二等軍曹に相当)とムン・グァンウク一等兵、民間人犠牲者二人に哀悼の意を表し、こうした犠牲が無駄にならないよう最善を尽くすとの強い意思を表明した。〉――

 李明博大統領「大統領として、国民の生命と財産を守れなかった責任を痛感する。(北朝鮮が)民間人に対し軍事攻撃を行うことは、戦時でも厳格に禁止されている反人倫的な犯罪行為。砲弾が落ちたわずか十数メートル離れた場所では、生徒たちが授業を受けていた。若い命さえ眼中にない北朝鮮政権の残酷さに憤りを禁じ得ない」

  李明博大統領「今や、北朝鮮が自ら軍事的冒険主義と核を放棄することは期待できないことが分かった。どのような脅威と挑発にも退かずに対抗する勇気だけが『真の平和』をもたらすだろう。これまで北朝鮮政権を擁護してきた人々も今、北の真の姿を悟った。わたしは、韓国国民と共に断じて退かない。今後政府がすべきことは確実に行う」

 李明博大統領「北の挑発行為には必ず相応の代償を支払わせるようにする」

 李明博大統領「(韓国軍を)軍隊らしい軍隊にする」

 李明博大統領「今は百の言葉より行動で示す時。政府と軍を信じ、力を合わせてほしい」――

 「軍事的冒険主義と核を放棄することは期待できない」、平和的な交渉の通じない「北の真の姿を悟った」。そのような北に対抗するために「(韓国軍を)軍隊らしい軍隊」とし、軍事力を以ってして韓国の平和を守る強い決意を示した。

 「どのような脅威と挑発にも退かずに対抗する」、「わたしは、韓国国民と共に断じて退かない」、「北の挑発行為には必ず相応の代償を支払わせるようにする」、「今は百の言葉より行動で示す時」などの目には目を、歯には歯をの軍事力を以ってして対抗する軍事力の行使意志は特に北朝鮮のような先軍政治を掲げた軍事独裁国家をして相手以上の目には目を、歯には歯をの軍事力を以ってして反撃する軍事力の行使意志を相互作用的に誘発し、その相互誘発が全面戦争という万が一の不測の事態に発展しない保証は全面否定し難い想定事態となるはずである。

 李明博大統領にしてもこのような談話を発表するからには万が一の全面戦争の可能性を計算入にれていたはずだ。単に北朝鮮の軍事的挑発行為を阻止できると考えて談話を発表したわけではなく、軍事的挑発に対しては軍事的な対抗措置を実際行動に移す意志を固めた上での発表であろうから、当然、万が一の全面戦争への発展の恐れが頭にあったはずであり、なければならない。
 
 だから、「軍隊らしい軍隊にする」と言った。「軍隊らしい軍隊」とは防御力と攻撃力をバランスよく両立させた軍隊のことを言うはずで、片方が欠けた軍隊のことは言わないはずだ。単発的な軍事的挑発行為を阻止するだけなら、防御力の整備のみとなって、「軍隊らしい軍隊にする」と言わなくてもいいはずであろう。

 もし李明博大統領の頭に全面戦争への発展の可能性への思いが一かけらもなかったとしたら、談話のすべてが単なる見せ掛けの言葉と化す。大統領が全面戦争への恐れを頭に入れながら、北朝鮮の軍事的挑発に対して軍事力を以って対抗する意志を国民に示したはずだから、韓国軍は大統領の意志を体現して行動することになる。

 そのような意志を持った韓国軍による北朝鮮の軍事的挑発に対抗する軍事的行動が相手の軍事的対抗をより強く誘発して相互発展していく確率はこれまでの抑制的姿勢であったときとはかなり異なる高さを見せる危険性をも抱えるはずである。

 また、軍事挑発に対する軍事的対抗の相互誘発による全面戦争のケースだけではなく、誤認による全面戦争のケースも考えなければならない。

 28日(2010年11月)午後3時頃、韓国軍の一部隊が北朝鮮の砲撃を受けた非常事態に対応する訓練を行っていたところ、砲兵が模擬訓練を実際の戦闘と勘違いして発射した砲弾が南北軍事境界線から約200メートル南側に落下している。

 《韓国軍誤射:訓練を実際の戦闘と勘違い》朝鮮日報/2010/11/29 08:41:02)

 記事は書いている。〈一歩間違えば南北間の軍事的な衝突につながる可能性もあった。〉――

 たった一発の砲弾が境界線を越えて北朝鮮側に落下した場合、指導者の意を体しているがゆえに過剰反応しやすい北朝鮮軍による過剰反応の応戦が同じく指導者の意を体しているがゆえに同様に過剰反応しやすい韓国軍による応戦を呼び、その過剰な相互誘発による全面戦争への発展である。

 過剰反応しやすい状況は軍隊だけではなく、当然と言えば当然だが、住民も同じ症状を持つに至る。 

 〈突然砲声が聞こえたため、近くの住民たちは北朝鮮による砲撃だと思い、軍部隊や官公庁へ電話で問い合わせるなど、一時大騒ぎになったという。〉

 韓国側も北朝鮮が過剰反応する場合もあることを考えてのことだろう、少々手間取ったが、北朝鮮側に砲撃ではないことを知らせる通知を行っている。

 〈国防部は、事故発生から1時間40分後の午後4時40分ごろ、軍の通信回線を通じて北朝鮮側に対し、「訓練中に意図せずして発生した誤射事故だ」という通知文を送った。〉――

 何も起こらなかったからいいものの、常に万が一を考える危機管理行動に則って直ちに北朝鮮側に通知すべきだったろう。

 この場合は無事に済んだが、誤認による突発的戦闘を常に阻止できるとは限らない。今後共、韓国軍も北朝鮮軍もそれぞれの政府共々神経をピリピリさせて対峙することになる。またその神経をピリピリさせた対峙自体が全面戦争を誘発しかねない危険値となりかねない。

 第2次朝鮮戦争が勃発した場合、日本は傍観者の立場に佇んでいられるわけではない。菅首相が「日米韓3カ国が一致協力して北の無謀、非道な行動に断固対抗していく」と宣言している以上、一方の当事者としてその場に立たなければならない。当然、日本政府は李明博大統領と同様に国家安全保障上の危機管理からすると、万が一の全面戦争を計算に入れた行動を予定に入れていなければならないはずだ。

 全面戦争が勃発した場合でも、日本攻撃に向けた北朝鮮のミサイルや通常の攻撃は米軍の力を借りるなら、より対抗しやすいが、約18万人存在するという特殊部隊が日本国内に侵入した場合、ゲリラ同様の神出鬼没の活動をするゆえにより対策が困難であるとテレビで日本の軍事専門家なのか、話していたが、北朝鮮が保有する高速の小型艇で真夜中の暗闇に紛れて人海戦術の形で日本全国ありとあらゆる場所から上陸すべく押し寄せた場合、そのうちの相当数は撃退できたとしても、何隻かが撃退できなかった場合の特殊部隊員の上陸によって想定し得る人質を取った上での立てこもりや東京や大阪といった大都市市街地での国内撹乱を狙った無数の通行人をターゲットとした同時多発的な無差別発砲に対抗する危機管理も予定スケジュールに入れておかなければならないはずだ。

 既に上陸して一般市民に紛れて日本人として偽装生活を送っている可能性も否定できない。

 かつて北朝鮮の高速小型艇が日本の海上保安庁の巡視船に追跡され攻撃を受けると、証拠を残さない意図からだろう、自爆して船を沈めたが、特殊部隊員が狂信的にまで金正日崇拝を刷り込まれていて自身の命を金正日に捧げる気でいたなら、その破壊行為は陰惨を極めるだろうことも危機管理としなければならない。

 菅首相はどのような対抗策を想定しているのだろうか。

 李明博大統領が談話を発表したのと同じ29日午前(2010年11月)、時間的にどちらが後先か分からないが、菅首相は衆院議員会館で開催の超党派の日韓議員連盟(渡部恒三会長)と韓国の韓日議員連盟(李相得会長)の第34回合同総会で来賓として挨拶している。

 《北砲撃に「断固対抗」=日韓・韓日議連が合同総会-菅首相》時事ドットコム/2010/11/29-11:53)

 菅首相(北朝鮮砲撃を)「許し難い蛮行だ。日米韓3カ国が一致協力して北の無謀、非道な行動に断固対抗していく」

 23日午後2時半頃の北朝鮮砲撃を受けて24日に設置した全閣僚出席の対策本部初会合でも菅首相は「一般市民が生活している地域への攻撃で、許し難い蛮行だ」(Doshin Web)と、同じ「許し難い蛮行だ」を使っている。当分同じ非難言葉を使いまわすのかもしれない。

 そして昨29日(2010年11月)午後の与野党党首会談。周辺事態法の適用についての話が出たという。党首会談後の菅首相の29日の記者会見。《「適切な時期に沖縄にうかがう」29日の菅首相》asahi.com/2010年11月29日22時7分)

 〈【与野党党首会談】

 ――先ほど2回目の与野党党首会談が行われました。総理はこの場でどのような話をされたのでしょうか。また、党首会談の出席者から「総理から周辺事態法の適用を検討しているとの発言があった」と話をしていますが、実際に総理は検討しているのか。

 「周辺事態法について、ある方から話題に出ました。しかし私がその法律の適用を検討していることは全くありません」 〉――

 ご存知のように「周辺事態法」とは『周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律』のことで、第1条は次のように記している。

 「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して」云々と。

 日本に対する武力攻撃が想定された場合の日本側の備え、危機管理を定めた法律ということだが、この危機管理は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする」と第1条の後半で述べているように米軍に対する協力体制に限定した日本の平和維持活動となっている。

 その方法は後方地域支援、後方地域捜索救助活動、船舶検査活動等の対応措置で、第2条2項で、「対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」と武力行使を禁じている。これは憲法9条の武力の不行使に則った規定であろう。

 そしてこの法律の適用は国会の承認を必要としている。

 菅首相は李明博大統領のようには万が一の偶発的全面戦争を計算には入れていないようだ。危機管理とは最悪の事態を想定して、そのことに備える体制を整えることを言うはずだが、ここで言う最悪の事態とは全面戦争を措いて他にはないはずだから、「私がその法律の適用を検討していることは全くありません」ではなく、「いつ如何なるときでも適用できるように準備はしておかなければなりません」と言うべきで、国会承認が必要である以上、野党とその検討に早急に入らなければならないはずだ。
 
 もし与野党の同意を得たなら、いつ起こるかわからない最悪の事態が発生しない前に直ちに自衛隊に対して後方地域支援、後方地域捜索救助活動、船舶検査活動等がいつでも開始できるように準備を整えるよう、その方面の臨戦態勢を指示すべきだろう。

 今から備えると言うことである。それが危機管理というものであろう。

 菅首相の「許し難い蛮行だ」も、「日米韓3カ国が一致協力して北の無謀、非道な行動に断固対抗していく」も、立場上、そう言わざるを得ないための単なる言葉に過ぎないようだ。

 菅首相の北朝鮮非難の言葉と日本の対応策を示した発言が心底からの言葉なら、「許し難い蛮行」がそのまま全面戦争となる場合も可能性としては否定できないことであり、そうなった場合、「日米韓3カ国が一致協力して北の無謀、非道な行動に断固対抗していく」は全面戦争に対する「一致協力」の「断固対抗」へと変化することになる。

 北朝鮮特殊部隊の上陸や日本国土に向けたミサイル発射等を想定した場合、周辺事態法のみで追いつかないケースも今から考えておかなければならない。

 だが、そういった危機管理を一切感じさせない、「日米韓3カ国が一致協力して北の無謀、非道な行動に断固対抗していく」の発言以後の菅首相の行動となっている。



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