防衛省事務次官名通達は言論統制に当たるのか

2010-11-18 10:21:32 | Weblog

 埼玉県狭山市の航空自衛隊入間基地支援の民間団体「入間航友会」会長が同基地航空祭に招かれ、式典で尖閣事件に関わる菅内閣の対中国対応を取り上げた挨拶。《「政治的発言する人、行事に招くな」防衛省、幹部に通達》asahi.com/2010年11月17日11時36分)

 菅首相に余っ程腹が立っていたらしい。あるいは腹に据えかねていたということになるのか、それが一人や二人で終わらない状況が内閣支持率に現れているということになるだが、菅首相の方は昨日の国会で、会長が批判したように尖閣事件の対中国対応で批判を受けると、「5年後には自分の内閣が冷静に対応したときちんと評価されると確信している」と以前にも言っていた答弁を行い、どこ吹く風、意に介する様子なし。

 5年後にいくら評価されたとしても、屈辱外交、対中国過剰譲歩の上にその後の変遷がつくり上げることになる評価ということなのだから、あってはならない屈辱外交、対中国過剰譲歩の事実は残る。

 戦後日本がアメリカの援助や朝鮮特需、ベトナム特需等々の様々な変遷を受け、世界第2位の経済大国という評価を受けることになったが、侵略戦争とそのことを受けた国家の壊滅という事実は残るのと同じである。

 その事実は原爆被害訴訟や強制連行裁判、慰安婦裁判等の後遺症となって今以て尾を引いている。

 あるいはある女性が売春で荒稼ぎし、そのことを隠したまま稼いだカネを資金に事業を起こして優秀な起業家だと社会から評価を受けたとしても、私自身は大いに結構なことだと思うが、本人の中では売春という事実は残るのと同じであろう。

 【腹に据えかねる】「許せる範囲をこえている。我慢しきれない。」(『大辞林』三省堂)

 「入間航友会」会長「一刻も早く菅内閣をぶっつぶして――。・・・民主党政権では国が持たない」

 首相、閣僚が国会答弁で、「議員と同じ思いを共有しています」と、同じ思いとすることで追及をかわす手として時折利用するが、「入間航友会」会長と同じ思いを共有する国民は朝日新聞世論調査で譬えるなら「菅内閣を支持しない」の52%のうち、その大半と言えるのではないだろうか。

 同じ思いを共有しない国民は「支持する」27%の大半と見てもいいのではないか。

 会長の挨拶を聞いて、自衛官のうち何人が会長と同じ思いをしたかである。世論調査を単純に当てはめると、約半数前後が共有した。

 自衛官にも日本国民としての選挙権も被選挙権も認められている。どの党を支持し、どの党の立候補者に投票しようと自由である。「自衛隊員の政治的中立性」をいくら言おうと、政治信条の自由は自衛官とて認められている。自民党であろうが公明党であろうが、どっこいしょ、たちあがれ日本であろうと、社民党であろうと、みんなの党であろうと、どの政党を支持しようが構わないはずだ。

 「自衛隊員の政治的中立性」とは職務上の制約を言うはずだ。自身が支持しない政党が政権を取り、政権の代表たる首相が最高指揮官となったとしても、その指示に忠実に従う、その中立性を言うはずである。

 だが、自衛隊員としての公務を離れた私生活の場では、政治に関心ある者は新聞記事、テレビ番組、あるいはインターネット等から数ある情報のうち自身の選択によって政治に関わる情報をそれぞれに手に入れて自身の情報とし、政治的判断の糧とする。

 いわば職務上の政治的中立性を厳格に守りさえすれば、如何なる情報の入手も自由であり、どのような政治信条に立とうと自由である。何人たりとも個々の政治信条を奪うことはできないし、ましてや政治に対する関心を奪うことはできない

 だが、このようなあるべき姿に棹差す動き(反動?)が当の政権党から出た。上記「asahi.com」記事も触れているが、《防衛事務次官通達の要旨》47NEWS/2010/11/17 02:02 【共同通信】)から見てみる。
 
 「隊員の政治的中立性の確保について」

 先般、自衛隊施設内での行事で協力団体の長があいさつし、施設を管理する自衛隊側が自衛隊法や同法施行令の政治的行為の制限(政治的目的のために国の庁舎、施設を利用させること等を禁止)に違反したとの誤解を招くような極めて不適切な発言を行った。

 防衛省・自衛隊としては、かかる事案が二度と起きないよう各種行事への部外団体の参加等については、下記の通り対応することとする。

 一、各種行事への部外団体の参加にかかわる対応

 防衛省・自衛隊が主催またはその施設内で行われる行事に部外の団体が参加する場合は、施設を管理する防衛省・自衛隊の部隊や機関の長は以下の通り対応する。

 ▽当該団体に対し隊員の政治的行為の制限を周知するとともに、隊員が政治的行為をしているとの誤解を招くことがないよう要請する。

 ▽当該団体の行為で、隊員が政治的行為をしているとの誤解を招く恐れがあるときは当該団体の参加を控えてもらう。

 一、部外行事への隊員の参加にかかわる対応

 隊員が防衛省・自衛隊の施設外で部外団体が主催する行事への参加を依頼され、その参加が来賓としてのあいさつや紹介を伴う場合は、当該隊員は以下の通り対応する。

 ▽当該団体に対し、政治的行為の制限について周知する。

 ▽参加を依頼された行事に政治的行為の制限に抵触する恐れのある内容が含まれていないことを確認し、確認できないときは行事に参加しない。

 この通達だけを見ると、妥当な内容、あるいは妥当な要請だと一見上見えるが、基地航空祭に招かれた「入間航友会」会長の式典での「一刻も早く菅内閣をぶっつぶして――。・・・民主党政権では国が持たない」の発言は会長自身の政治的発言であって、隊員自身の「政治的行為」でも何でもなく、例えその発言に共鳴する隊員がいたとしても、それは職務とは関係しない普段の個人的な政治信条に反応した共鳴であって、何ら不当なことはなく、職務上の「政治的中立性」に本人の自覚によって阻害を来たさなければ問題はないはずである。

 「入間航友会」会長の挨拶が隊員の「政治的行為」でも何でもないにも関わらず、このような局面に基づいて、「隊員が政治的行為をしているとの誤解を招く」と、隊員も参加した「政治的行為」であるかのように捏造して「誤解を招く恐れ」とし、そのことに制限を加えるのは飛躍し過ぎであるばかりか、「隊員が政治的行為をしているとの誤解を招くことがないよう要請する」ことを名目として、いわば隊員の参加を阻むことによって逆に団体の発言を制限する措置となっている。

 当然、その措置は団体に対する政治信条の自由に対する、あるいは思想・信条の自由に対する制限に当たる。

 自民党がこの通達を民間に対する言論統制だとしてを国会で北沢防衛大臣の辞任を要求した。対して仙谷官房長官も菅首相も問題なしとしている。

 《政治的発言する部外者「呼ぶな」は妥当…仙谷氏》YOMIURI ONLINE/(2010年11月17日12時30分)

 仙谷官房長官(会長挨拶について)「非常に荒々しい政治的発言であることは間違いない。どこまで許されるのかということだ」

 仙谷官房長官「自衛隊員の政治的な中立性が確保されなければならない。防衛相の責任の下に必要な対応がとられたと認識している」

 菅首相。《柳田法相発言「私からも強く注意」17日の菅首相》4asahi.com/2010年11月17日20時18分)

 菅首相「自衛隊が、誤解を受けることにないように、注意するということは重要だと思います」

 菅首相「北沢大臣は、ご本人も言われていましたけれども、自衛隊の活動が、誤解を招かないようにと、自衛隊の活動が誤解を招かないようにという意味で、言われてましたので。おおらかさということとは、特に矛盾しないんじゃないでしょうか」

 仙谷官房長官は「自衛隊員の政治的な中立性の確保」を言い、菅首相は「自衛隊の活動が誤解を招かないように」としている。

 既に触れたように自衛隊員が自ら「一刻も早く菅内閣をぶっつぶして――。・・・民主党政権では国が持たない」と発言したわけではない。だが、仙谷も菅首相も通達と歩調を同じくして自衛隊員の「政治的中立性」を人質として、あるいは「誤解を招かないように」を人質として、「政治的中立性」に合致する発言を求める言論の自由の制限を団体に対して意志している。

 第三者の発言をどう受け止めようと、例え強い思いで共鳴しようと、職務上の「政治的中立性」を阻害しない限り問題はないはずである。問題とするかどうかは本人の自覚・使命感・判断能力に待つしかないし、本人の意思に任せるべきであろう。使命を忘れて簡単に洗脳されるようなら、そもそもからして自衛隊員の資格はない。

 問題が発生した経緯を見ると、民主党政権の批判は許さないということから発した通達とに見える。いわば政権批判は許さないという方向からの「隊員が政治的行為をしているとの誤解を招くことがないよう」にを口実とした、その範囲の発言に制限する民間団体に対する言論統制と言える。


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