菅首相のAPEC議長国議長記者会見に見る指導性のなさ(1)

2010-11-15 11:02:17 | Weblog

 14日(2010年11月)午後、菅首相がAPEC横浜開催の議長国として記者会見を行っている。ここでは《首相官邸HP》から記事を採録しているが、「MSN産経」《【菅首相会見詳報】APEC首脳宣言「大きな歴史の1ページ」》(2010.11.14 17:08)の題名で報道している。

 ここで会見のすべてを取り上げない。菅首相が政策や所信表明等の発言の傾向として、「農業の再生と開国の両立」といった政策にも見ることができるようにメッセージ自体は高邁に仕上げているが、具体論を併行させていなかったり、自画自賛、あるいは甘い認識から成り立っている箇所を発言の順を追って取り上げて、私なりの批判を加えたいと思う。

 具体論の欠如、自画自賛、甘い認識等は深く指導力、指導性と相互反映し合う。

 先ずは「冒頭発言」から。

 菅首相「そして我が国においては,このAPECの開催を前にして、包括的経済連携に関する基本方針というものを閣議決定を既に致しております。つまりは,日本の今弱くなっている農業を活性化する、そのことと同時に他の国々に対して、やや立ち後れてきたこの経済連携自由化の一層の促進をまさに新しい平成の開国という形で推し進める、農業の再生と開国の両立をこの基本方針で明確にしたところであります」――

 「農業の再生と開国の両立」を「包括的経済連携に関する基本方針」として明確にしたとしても、方針とする以上、こういう方向で行きますと言っているのだから、最低限、大まかな具体像――グランドデザインを国民に示すべきだが、これまでも「農業の再生と開国の両立」のメッセージを発するだけでグランドデザインを一度も発言してこなかったように「冒頭発言」でも一切触れていない。

 後半の「質疑応答」で少し触れているが、このことについてはその箇所で述べる。

 関係が取り沙汰されている米国、中国、ロシアについては次のように発言している。

 菅首相「 米国とは、日米同盟関係を更に深化していこうという点で合意し、中国とは戦略的互恵関係の発展について合意し、ロシアとは領土問題の解決と経済協力について、2つのフィールドで話し合おうということで合意をし、それぞれ前進することができたと、このように思っております」――

 日米同盟の深化は必要とする具体的行動を伴って、初めてその成果とし得る。伴わなければ、深化とは反対の力が働く。このことは政権交代後の鳩山前政権が既に経験している。

 日米同盟に於ける現在の最も重要な懸案事項は5月28日の日米合意に基づく普天間基地の辺野古への移設の具体化であろう。私自身は県外・国外移設派だが、日米同盟深化が必要とする具体的行動を条件とする以上、菅政権は移設実現に向けた具体的行動が日米同盟深化の最初の試金石として試されていることになる。このことは政権を受け継いだ今年の年6月8日時点で認識していなければならないことで、日米同盟の深化を言う以上、菅政権発足後、移設に向けた菅首相自身のリーダーとしての行動がもう少しあっても然るべきだが、全然見えてこない。

 いわばカギとなる点での具体的行動を見せないままの日米同盟深化の宣言となっている。このことは自身の内閣のスローガンとなっている「有言実行」とは反対の「有言不実行」を示す。口先だけの「深化」となっていないかと言うことである。

 このこともリーダーシップに関係する要点だが、「質疑応答」で質問を受けているから、そこでも触れてみる。

 ロシアとは「領土問題の解決と経済協力」の「2つのフィールド」で話し合うとしている。中国とは「戦略的互恵関係の発展」のみの単一の「フィールド」で取り組むとしている。では尖閣諸島の領土問題については触れないで置こうということなのだろうか。

 この問題も「質疑応答」で再び飛び出す。

 「冒頭発言」の最後の部分、締め括り発言。

 菅首相「そういった意味で、我が国とアジアの国々、さらには太平洋を挟む南米やカナダといった国々との連携は,まさに日本がこの平成の時代に改めて開国する、150年前,明治維新が始まった頃に開国に舵を切ってそして開かれた港がこの横浜であることを伺いますと、この横浜におけるAPECは、APECの歴史としても大きな1ページになると同時に、我が国の歴史においても大きな新しい1ページになる、このことを私は確信し、是非国民の皆様には色々な問題点があることはもちろんでありますけれど、そういう問題点を越えていくという、そういう勇気と力を共に振り絞って新しい日本を作っていく、そのことで皆さんのご理解とご支援を改めてお願いして、冒頭の私からの話とさせて頂きます。

 ありがとうございました」――

 日本開国の地である横浜での開催だと意義づけているが、場所や歴史によって今後の成果を意義づけることができるわけではない。APECの理念をどう具体化していくか、どう内実化していくか、どう止揚していくかが問われているはずである。菅首相の実際の行動力を伴わないこれまでの言動を見てくると、果たすべき責任意識が今後の行動とその成果にかかっているとする認識に乏しいように思える

 決意ある責任意識が伴ったリーダーシップに対する認識である。

 《菅首相のAPEC議長国議長記者会見に見る指導性のなさ(2)》に続く

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菅首相のAPEC議長国議長記者会見に見る指導性のなさ(2)

2010-11-15 10:32:35 | Weblog

 【質疑応答】――

 日本テレビ 野口記者「日中,日露関係についてお伺いいたします。まず今回行われた日中首脳会談で、総理は尖閣での漁船衝突事件につきまして、日本の確固たる立場を伝えたということですが、この確固たる立場の意味するところ、尖閣は日本固有の領土という思いはその中に込めたのでしょうか。また、確固たる立場を示したことで、中国は同種の事案の再発防止に努めると考えますでしょうか。

また日露首脳会談におきまして日本とロシアの抱える領土問題の解決に向けて成果は今回得られたのでしょうか。今後、経済協力だけが進んで、領土は止まったまま、という懸念はないでしょうか。

 菅首相「まず、日中の首脳会談は,尖閣列島は我が国固有の領土であって、この地域に領土問題は存在しないという基本的立場を明確に伝えたところであります。その上で再発防止についてのご質問を頂きましたが、今回はまさに首脳会談でありまして、基本的に、まずは認識を述べ、そして戦略的互恵関係を改めて進めていくことを確認する、基本的にはそういうある意味での大きな方向性を、改めて私の就任時の6月に戻すという、そういうことを実現することができたと、このように考えております。

 日露の首脳会談では、メドベージェフ大統領が国後を訪問されたことについて、抗議の意を明確に伝えました。その上で、この間,領土問題は、ご承知のように、これが解決をしないために今でも日露間に平和条約が結ばれておりません。そういった意味で、領土問題についても話し合っていこうと。同時に現在、ロシアは全体として東の方、太平洋の方に色々な可能性を求めていると認識をしております。そういった意味で、我が国にとっては、天然ガス等の資源の問題もあり,経済問題でもしっかり話し合っていこうと、この2つのことは、もちろん性格は異なりますけれども、やはり2つの国が経済的にも協力関係が深まる中で、領土問題においても、いい影響が出てくる、そういうことが十分あり得る訳でありますが、その2つの場を積極的に作り、そして話し合いを進めていきたいと、このように考えております」――

 日テレ記者は中国に対して伝えたとする「確固たる立場の意味するところ」と、ロシアとの関係では「経済協力だけが進んで、領土は止まったまま、という懸念」の有無について質問した。

 対して菅首相は「地域に領土問題は存在しないという基本的立場を明確に伝えた」と答えているが、その明確な伝達に対する胡錦涛主席からの明確な伝達――反論、もしくは主張は何も明らかにしていない。胡錦涛主席が何ら反応を示さなかったとしたら、日本側の伝達を認めることになる。

 いわば「確固たる立場の意味するところ」――双方それぞれがどういう立場を取ることになったのかについて何も答えていない。

 国家間の関係であろうと個人間の関係であろうと、自身の主張のみで成り立つ関係と、相手の主張との兼ね合いで成り立つ関係がある。

 このことは中国のレアアースの問題でも既に教えていることである。尖閣問題に関する中国との関係では日本側の「基本的立場」のみで成り立つ関係とはなっていなかったからこそ、中国との間で様々な問題が生じた。

 菅首相は日本側の伝達に対する胡錦涛主席の伝達を隠した点で誤魔化しを働いたことになる。いわば自身に対する評価を操る情報操作と情報隠蔽の誤魔化しである。

 「領土問題は存在しないという基本的立場」を相手から何の反論も反応もなく、明確に伝達させることができたなら、再発防止は自動的に作動することになる。だが、菅首相は日テレ記者の「中国は同種の事案の再発防止に努めると考えますでしょうか」の質問に対しても、首脳会談だから、戦略的互恵関係の確認という大きな方向性を打ち立てることが重要であって、22分間の会談で「改めて私の就任時の6月に戻すという、そういうことを実現することができた」とその成果を主張することで質問に答えない誤魔化しまで働いている。

 だが、その戦略的互恵関係も尖閣沖での中国漁船衝突事件での日本側の対応一つで不安定化した。いわば日本にとっては領土問題は存在しないを基本的立場だとしていても、尖閣問題が戦略的互恵関係構築・維持の重大なカギとなっていることは否定できない。当然再発防止も話し合わなければならない懸案事項であったはずだが、胡錦涛主席の反論、もしくは主張を受けて、再発防止にまで議論が進展しなかったといったところだろう。

 最初の誤魔化しが生んだ次の誤魔化しであろう。

 大体が日中関係の今後の推移を見てみなければ、菅首相の就任時の6月に戻せるかどうかは不透明な状況にあるはずなのに、いとも簡単に戻す予定ができたかのようなことを言っている。この安請け合いの甘い認識は厳しい外交交渉には禁物の政治家にとっては不向きな資質であるはずである。

 このような資質もリーダーシップに影響していく。

 ロイター通信 リンダ・シーグ東京首席特派員「日中問題に関してフォローアップしたいと思いますけれども、もう少し問題を拡大いたしまして、明らかに中国との関係は最近の東シナ海における事件によって緊張してきておりますけれども、今回は中国の胡錦涛国家主席と会談を開かれましたけれども、22分で全ての問題が解決できるとは誰も思っていないと思うのです。日中両国はこのような根深い問題をどのように克服することができるでしょうか。

 そしてまた経済安全保障という意味でこの問題の解決ができない場合に、アジア太平洋地域におけるリスクはどういうものでありましょうか。この関連に関してもう一つ伺いたいのは、中国がレアアースの輸出制限をとって日本は懸念を表明してこられましたけれども、解決できなければWTOに提訴なさいますか。

菅首相「まず尖閣諸島の地域には領土問題は存在しないというのが我が国の立場であることは何度も申し上げました。そういう意味でいろいろな国の例、他国の例をみても、それぞれの国と国が接する地域では色々な問題が今なお多く残っております。しかしそういった問題が残っているからその両国は経済的、あるいは文化的,あるいは人的交流が途絶えているかといえば、決してそうではありません。先日もインドのシン首相ともいろいろお話をしましたが、インドと中国は今大変経済的な関係を深めておりますけれども、色々な問題も残っているけれども、同時並行的に進めるべきことは進めていると、こういう国と国との関係はこれもまた多く存在しております。

 日本と中国の問題も、これまでも我が国が戦後においてODAや色々な形で協力をしてきたことも、中国の発展の大きな力となったことは中国の皆さんも落ち着いた話の中ではそうした見方で感謝の言葉を述べられる方もある訳であります。そういった意味で両国間の問題は色々な問題があろうともそれを乗り越えて、しっかりした関係を結んでいくというのがまさに戦略的互恵関係のもつ大きな意味だと思っておりますので、そういう立場で日中関係の更なる発展を期していきたいと、このように思っております。レアアースに関しては,これは関係大臣が色々努力をされておりますけれども、中国側の対応,決してそれを何かの手段として使うつもりではないんだという趣旨のことも言われているようでありますので、今後の対応を見極めた上で、この問題にも冷静に対処していきたいと思っております。
」――

 「国家間の関係であろうと個人間の関係であろうと、自身の主張のみで成り立つ関係と、相手の主張との兼ね合いで成り立つ関係がある」と先に書いたが、このことと同じで、国と国との関係に於いて「色々な問題」を確かに抱えているが、国際関係に於ける「我が国の立場」にしても、「我が国の立場」のみで成り立つ関係と他国の立場との兼ね合いで成り立つ関係とがある。

 相手国の「立場」との関係で成り立つ「我が国の立場」の場合、相対的な関係性を強いられることになる。いわば尖閣に関しては「我が国の立場」のみで片付けることはできないはずだが、「我が国の立場」のみで片付けようと意志する一種の誤魔化しがここにある。

 これは正面から向き合おうとしない一種の外交的逃避に当たる。そっとしておいて、問題が起きたときはその場その場で凌いでいくという対症療法、弥縫策で乗り切っていく考えに立っている。それを「色々な問題も残っているけれども、同時並行的に進めるべきことは進めていると、こういう国と国との関係はこれもまた多く存在しております」と言うことで面倒に蓋をしようとしている。

 日中間で正面から解決しなければならない問題は尖閣問題と歴史認識、特に靖国神社への首相を含めた閣僚参拝であろう。この二つの問題の取扱いによって、戦略的互恵関係はいつでも不安定化、あるいは弱体化する。

 東京新聞 竹内記者「日米関係、それから日米同盟の深化についてお尋ねします。昨日のオバマ米大統領との会談で来春の訪米を招請されまして、総理も応じる考えを示したと承知しています。来春の訪米時に仮にその同盟深化の共同声明をとりまとめるということだとすれば、現在懸案となっている普天間飛行場移設問題についてもそれまでに一定の前進が求められるのではないかと思います。同盟深化の共同声明の取り纏めに向けて、今後普天間問題も含めてどのように取り組まれていくお考えかお聞かせください。

菅首相「まず私が総理に就任するほんの少し前、5月28日に鳩山総理の下で日米合意がなされました。私はもちろんその時点でも副総理という立場で責任を分かちあう立場にあったということもありますけれども、まず私が政権を担うことになった時に多少ぎくしゃくしてきていると言われてきた日米関係をしっかりとした日米関係にまず立て直すことが必要だと、こういう立場からいくつかの努力を行いました。その中で、第一には日米同盟を日本外交の基軸に据えるというその基本方針には些かの変わりもない、また、5月28日の日米合意もそれをしっかりと踏まえて、同時に沖縄の皆様の負担軽減ということにも努力するとこういったところから、日米関係が次第に従来のような安定した形に戻って、今日に至っていると思っています。

 同時に沖縄の問題について、私ももっと足を運びたいと思ったわけですけれども、まずは党内でも沖縄の仲間の皆さんとのいろいろな関係があるということで、しばらくはそういったことは党の方で対応するので、総理の行動は少しそういうものを踏まえてからにして欲しいという要請があり、また同時にいくつかの選挙,現在も知事選が行われておりますけれども、そういう選挙がありましたので、私自身が足を運ぶことは就任直後の戦争の慰霊の日に出掛けたところで、その後の動きは東京におけるいろいろな会議などを通して進めてまいりました。

 今回の日米首脳会談でもそうしたことは細々とは申し上げませんでしたけれども、そういう中で今月、来週には沖縄の知事選も一つの結論を得るわけであります。そういう中で私として改めて沖縄の皆さんに私の思いをしっかりと伝えると、そういう機会を積極的に作っていきたいと、また,オバマ大統領に対しては、大変沖縄の皆さんの5月28日の日米合意に対する見方は厳しいけれども、私とはしては、全力を挙げてこの問題に取り組んでいくと、こういうことを申し上げました。

 そういった意味では、かつて今からいえば14年前になりますけれども、普天間基地の危険性を除去するというところで橋本政権とクリントン米政権の時に始まったこの問題、何とか前進をさせていきたいとこのように考えております」――

 言っていることが意味不明である。「5月28日の日米合意もそれをしっかりと踏まえて、同時に沖縄の皆様の負担軽減ということにも努力するとこういったところから、日米関係が次第に従来のような安定した形に戻って」いくとするなら意味は通る。

 だが、「日米関係が次第に従来のような安定した形に戻って、今日に至っている」と、さも日米合意と沖縄の負担軽減をなした成果として現在の日米関係の安定があるかのように言っている。

 これも誤魔化しに入る。大体が日米合意の5月28日から5ヵ月半、さらに菅内閣発足の年6月8日から5ヶ月、沖縄県に対して基地問題がどう進行したと言うのだろうか。どれ程の負担軽減を図ったと言うのだろうか。

 現実には沖縄という現地に於ける問題は何ら進展していない。「私ももっと足を運びたいと思った」が、「しばらくはそういったことは党の方で対応する」という党の要望と選挙があったことを足を運ばなかった理由としている。

 だが、日米合意を成し遂げる成し遂げないは自身のリーダーシップに偏にかかっているはずである。そうであるなら、「足を運びたいと思った」自身の思いを自ら実現させる積極的主体性を発揮すべきを、党がそう言うから、言うに任せる、あるいはその場の状況に従うといった他力本願、他人任せの消極性は窺うことができても、自らが行動するという指導性は些かも感じ取ることはできない。

 沖縄入りだけではなく、米側と移設工法を決める期限を当初の8月末から県知事選(11月28日投開票)後に先送りしたことも、菅首相自身の指導性を反映させた推移であろう。

 指導性、リーダーシップのないところに「沖縄の皆さんに私の思いをしっかりと伝える」ことも「全力を挙げてこの問題に取り組む」ことも期待できない。

 ビジネス・タイムズ(シンガポール) アンソニー・ローリー記者「総理は日本の開国を公約されました。そして農業部門の再生を対価とされるということですが、この点に関し、もしかすれば非現実的な期待感を貿易相手国に、特に農業に関しては与えることになりかねないのではないでしょうか。日本の農業従事者がTPPに対して強く反対しているということがあるからです。しかし一方,農業部門を開放するということがあった場合に、日本は製造品の輸出増加ということで十分な利益を得られるでしょうか」

菅首相「現在の日本の農業は、ある部分では大変力強いものを持っております。今回のAPECでも日本の料理については大変高い評価を頂いております。そういう意味では、有機栽培の野菜や、あるいは、いろいろな見事に育ったいちごとか果物類、あるいは花なども非常に力強いそうした分野の成長があります。同時に、農業は一次産業というふうに言われておりますが、本来は農業で生まれたものをいろいろな形で加工する二次産業、そしてそれをレストラン等でみんなからある意味での喜びをもって迎えられるようなそういう三次産業、こういった形でそれらの付加価値を生産者も正当に分かち合うことができれば、あるいは、生産者自身が二次産業,三次産業にも関わるという、そういう形がとれれば、私は日本農業の再生の一つの道筋が見えてくると思っております。

 同時に、現在農業に従事しておられる皆さんの平均年齢は65.8歳、約66歳になろうといたしております。なぜこういう状態が続くのか、若い人が農業をみんな嫌っているのか。私はそうではないと思うのです。つまり、農業がやりたい、あるいは、農業ならやってみてもいいと、そういう思いを持っている若い人はたくさんおられると思うわけです。しかし、残念ながら,日本では農業をやっていなければ農地を買うことができないという農地法が、その後いくつか修正されましたけれども、現在も基本的には残っております。床屋になりたい、大工さんになりたいという時にはもちろんそれなりのトレーニングが必要ですが、そうした障壁がないわけですけれども、農業に関していえば戦後の小作制度をなくす時に、また、力のある人がたくさんの土地を買い占めて大地主になって小作制度が復活する、それを防ぐためということで基本的に自作農を守るという立場で作られた農地法が、その後の時代変化の中で若い人が農業に自由に参画する、あるいはいろいろな現在でも農業法人は認められておりますけれども、一般法人が農業に乗り出すといったことにかなり制約になっております。そういった意味で私は若い人がそれこそベンチャー企業のような起業家精神を持った人が日本の優れた農業の技術をしっかりと持って、そして先程申し上げたように時に第二次、第三次産業を含めた形で展望して先導してもらえる形をとれれば、日本の農業の再生は可能だと考えております。

 もちろん改革にはいろいろな痛みを伴う場面もありますけれども、まず農業改革の方から具体的な作業を始めたいということで、既に農業の改革本部も早急に立ち上げられるように鹿野農林大臣,あるいは玄葉担当大臣に指示をしているところであります。なんとしてもこの農業の改革と活性化のため、そして日本の貿易やあるいは『ヒト・モノ・カネ』の動きをもっともっと自由にしていく「開国」を両立させるため、内閣一丸となってその道に向かってがんばりたいと、こう考えております」(以上)――

 一次産業である農業を二次産業、三次産業として利用するとしている発言にはファミリーレストラン等が安価なサービスを提供するために安価な輸入品で対応するといった視点が抜け落ちている。料理は豊富にして多彩な調味料に助けられて簡単においしい味に仕上げることが可能な時代となっていることが原材料のより安価な肉や野菜等の購入の方向に一層向かわせる可能性が生じ、輸入農産品が全体的趨勢を占めない保証はない。

 この趨勢が菅首相が言っている農業規制の緩和の効用を薄めない保証もない。

 また、この発言は2009年11日日曜日の朝日テレビの『サンデープロジェクト』で当時副総理であった菅首相の発言から殆んどと言っていい程一歩も出ていない。

 菅副総理「最大の問題は農業・林業。漁業も若干あるが、そういう転職と農業や林業への就労の支援をプログラムでやっています。レストランをつくる。そのレストランに供給する農業をつくる。そこにまた研修の人を入れて、大変だけど、レストランが7、8軒あって、そこに供給する」

 どちらの発言にしても、少なくとも「農業の再生」のグランドデザインとはなっていないと言うことである。個別・具体的効用を述べているに過ぎない。

 もしTPPに参加するなら、政府の農業に対する戸別保障制度といった財政支援のみでは財源に制限があるだろうから、TPP参加によって利益を得る工業からその利益の一部を農業にまわして、農業の補助に向けるいった方策を取ることが必要ではないだろうか。

 先進国は自国を豊かにするという国益追及の責任を負う。国益追求の成果を通した自国国民のより豊かな生活の追及であり、そのことを最終目的とする。

 だが、その一方で貧しい国をより豊かにするという国際的な責任をも負う。国際的責任を通して貧しい国の国民の生活をより豊かにすることに貢献する責任と義務を負うはずである。

 先進国から発展途上国、あるいは貧困国に向けた国際間のこの恩恵付与の責任力学は国内的にも政策の恩恵を受ける側から同じ政策によって不利益を受ける側への恩恵の一部を振り分ける責任力学として対応させてもいいはずである。

 以上見てきたように菅首相の発言のどの場面を見ても、力強いリーダーシップ、強い決意を窺うことのできない誤魔化しばかりの記者会見に思えた。

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