仙谷官房長官の文民統制下にある自衛隊を「暴力装置」だとする認識

2010-11-19 10:24:13 | Weblog

 認識自体が二律背反の矛盾を犯している。

 昨18日(2010年11月)午前の参院予算委員会。丁度NHKの国会中継をパソコンを叩きながら見ていたときだったが、自民党世耕議員の質問に対する答弁で仙谷官房長官が自衛隊を「暴力装置」と発言した。世耕議員がすぐさま発言の撤回と謝罪を求めると、仙谷官房長官はあっさりと「実力組織」と訂正、謝罪した。あまりにもあっさりと。

 世耕議員が発言の撤回と謝罪を求めたのは優れた戦法とは言えない。なぜ「暴力装置」なのか、その理由を質すべきだったろう。答弁で理由を言わずに不適切発言だとして、仙谷官房長官の方から謝罪と発言の撤回を行った場合、「謝罪と撤回の前に自衛隊をなぜ暴力装置と言ったのかご説明を願いたい」と食い下がるべきだったろう。

 これは言葉遣いを間違えたと言った問題ではなく、認識の問題だからだ。仙谷官房長官は自衛隊組織を「暴力装置」と認識していた。そう看做していたと言うことである。そのように自身の認識としていたから、あるいはそう看做していたから、「暴力装置」という言葉となって口を突いて出た。

 菅首相も見苦しいばかりに合理的認識能力を全く欠いているから、認識としているということを把握できず、単なる言葉としてのみ扱っていた。

 多分、世耕議員は謝罪と撤回で済ませてしまったことに不味かったと気づいたのだろう、午後の同じ自民党の元テレビアナウンサー、丸川珠代議員が取り上げて追及している。HP「参議院インターネット審議中継」から動画をダウンロードして、文字化してみた。菅首相の判断能力が一国の政治的指導者にふさわしくない、如何に貧困この上ないか分かる、例の如くの「あー、えー、うー」の合いの手を入れた、スムーズに答えることができない四苦八苦の答弁となっている。

 これは四苦八苦状況にある認識の反映としてある言葉の四苦八苦状況であろう。
 
 丸川珠代「自由民主党の丸川珠代でございます。先ずここまでの、本日の予算委員会の議論の中で、仙谷官房長官から、我が国の自衛隊に対して、『暴力装置』という飛んでもない表現がありました(最後はよく聞き取れなかったが。「飛び出しました」とも聞こえた。)。国の根幹である国防に命をかけて取組み、また日本の国際貢献に汗をかいている、この自衛隊の方々にとって、大変、失礼極まりない、飛んでもない発言であると思います。菅総理大臣は、内閣の代表で自衛隊の最高指揮権を有する、最高責任者として、この発言を、どう、思われますか」

 菅首相「マ、先程、おー・・・、おー・・・、仙谷、官房長官が、エ、その表現に対して、エー、撤回をし、謝罪をされ、実力組織という、ウー、言い方、あー、に、エー、変更されたわけでありました。シー、エー、そういう意味では、あー、あー、最初の表現は、やや、あのー、おー、問題があった、あ、あったと、オ、このように思っておりまして、ご本人から、あ、そうした訂正が、あったことは、あー、そ、そのこととして、よかったのではないかと思っております」

 丸川珠代「やや、ではないと思いますが、総理大臣のご認識を改めて伺いますけども、暴力装置と、いう言葉、これは謝って済む問題だと思っておられますか」

 菅首相「ま、言葉というものはあの、色々な、あの、感じ方が、あると思います。エー、その上で、(ヤジ、声を張り上げる)そ、その上で、エー、私も、実力、ウー・・・、ウー、部隊と言いましょうか、あー、そういう実力組織といった、ことの方が、あ、そうしたですね、何か、暴力という言葉には非常に、あのー、マ、率直に申し上げて、悪いイメージがあります。

 あのー、おー、自衛隊が勿論武力というモノを持って、いることは当然、のことであります。ですからそういうことを含めて言えばですね、エー、その暴力装置という表現は、あのー、おー、好ましくないと、おー、そういう意味で、実力、ア、装置ということに、ご本人が、謝罪し、訂正して、エ、あー、エー、変えられたわけですから、それは、あー、それでよかったのではないかと思います」

 丸川珠代「申し訳ないが、この暴力装置という言葉は、我々の平和憲法を否定するものですよ。シビリアンコントロール否定するものですよ(激しい語調)。謝って済むと思ってるんですか(菅首相の方に咎めるようにゆび指す)」

 菅首相「マ、ご本人が、謝られたわけですけども、私は、あー、あー、その言葉を使われた本人が、謝れたのが、そのことが一番、あー、本質的に、な、謝罪になっているんじゃないでしょうか」

 丸川珠代「自衛隊の最高指揮官として、今のような暴力装置という発言に、あれだけの、ただ形だけ謝っただけで、ホントーに隊員の士気が維持できると思いますか。命をかけて国を守っている人たちに、これで納得がしてもらえると思ってるんですか、あなた。最高指揮官として」

 (丸川議員に「あなた」と言われて、快感でゾクゾクっとしたのではないだろうか。四苦八苦の答弁ではそんな余裕はないか。)

 菅首相「まあ、私も、あの、先日のォ、おー、自衛隊のー、観閲式に、出かけて、エー、また大変、多くの隊員があー、訓練を、ヲー、励んでおられる姿を、ヲー、拝見をいたしました。シー、また、あー、ま、少し古い話になりますが、カ、カンボジアー、アー、ニイー、於ける、PKO活動に、エー、出ておられた、自衛隊の部隊に、エー、訪問をしたことも、かなり以前ですけれども、あり、エ、大変、エー、現地のみなさんにも、おー、大変、エー、感謝をされていた。

 そういう姿も見てきております。ま、そういう意味で私は、あのー、さらに言えば、国内でも、おー・・・、宮崎の、おー、口蹄疫などでも大変ご苦労をいただいたと、このように思っております。

 そういう意味で、エー、自衛隊の、オー、みなさんが、あー、非常に、エ、まさに、イー…、骨身を惜しまず、訓練に励み、日本の安全保障のため、あるいは国民の、あ、安全のために頑張っておられる、私も最高責任者として、そのことを、ヲー、誇りに思うと同時に、そうしたみなさんの、ヲ、ご苦労に、感謝を申し上げております。

 マ、そういう意味で、先程の、おー、仙谷官房長官の、エ、言葉については、あー、私が、あー、勿論、おー、(ヤジがあり、ヤジの方に手を上げて委員長に何か言うが、そのま続ける)ご本人が(声を強める)話をここでされた中で(右手を突き出して上下に動かしながら、)質問者の方から、その訂正を求められ、謝罪を求められて、訂正をし、謝罪をされたわけでありますが、改めて注意をするということであれば、改めて、後に、でも、おー、ご本人を、招いて、注意をいたします」

 丸川珠代「ということは、後で仙谷さんに総理が注意をなさるということでありますね。エ、総理の注意とは別に、内閣総理大臣として、自衛隊の最高指揮官として、そう発言がご自身の内閣から出たことに謝罪をすべきではありませんか。国民に対して、そして自衛隊のみなさんに対して」

 菅首相「まあ、内閣の、一員である、ウー・・・、官房長官から、あ、そうした発言が出たことは、まあ、ある意味で私の、オー、広い意味での内閣全体の責任者として、エー、エー、エ、そうした、あー発言が、あー(喉を鳴らす)、自衛、・・・隊のみなさんに対して、エー、そうしたみなさんの、あ、ある意味でのプライドを傷つける、こと、こと、となった、あー、ことについてはァ、あ、私からも、お詫びを申し上げたいと思います」

 丸川珠代「エ、防衛大臣は、こうした発言が内閣かだ出たことについてどうお考えですか」

 北沢防衛相「まことに残念なことであります」

 丸川珠代「私は、こういう、シビリアンコントロールであるとか、平和憲法を否定する発言が閣内から出た。その発言者は問責に値することは当然でもありますけれども、総理大臣、ご自身で、罷免をすべきだと思いますか。総理大臣、如何ですか」

 菅首相「ちょっと私はですね、その今の丸川さんの、論理で、シビリアンコントロールということ、と、おー、ま、言葉遣いが、不味かったということとは私、そう思いますが、シビリアンコントロールとの関係で、問題だというのは、ちょっとどういう意味なのか、私は必ずしも理解できません」

 丸川珠代「先程から、与党の、民主党の理事の方が、色々と声を上げておられるんですが、暴力装置、ということについて私が触れましたときに、本質を言っているんじゃないかという、川上理事からご発言がありましたけれども、こういう暴力装置は本質的な指摘だという、民主党の理事のご発言は、民主党全体のお考えなんでしょうか」

 菅首相「まあ、あの、色んな言葉をいろんな方が使われることがあるわけで、シー、自衛隊というのは、あのー、おー、武力を、オ、持って、エー、我が国を防衛するということを、ヲー、オ、大きな、主要な任務にしております。ですから、その、おー、武力を持った、組織であるということは、客観的な事実だと思います。

 まあ、それを、おー、実力、ウー、ウ、部隊とか、エー、そういう表現で、エー、言うことも、あります。ですから先程、おー、暴力という言葉がエー、何かこう、悪いですね、エー、ことをする、ウー、そういう、ウー、言葉として、エー、一般的には使われるということで、先程申し上げたように、エー、シビリアンコントロールが、侵されたとか、云々という、その論理は私には理解できません」

 丸川珠代「武力と暴力は同じものですか」

 菅首相「マ、言葉ですから、勿論、武力、という・・・・」

 委員長「不規則発言、お静まりください」

 菅首相「言葉ですから、それぞれに意味がありますので、エ、そういう意味では、あー、勿論、違うと思います」

 丸川珠代「暴力は暴れる力と書きます。コントロールが効かない、効かない力を暴力と言いますが、もし自衛隊に暴力装置という言葉を使うのであれば、自衛隊はコントロールが効かない、効かない力であるということになりますが、シビリアンコントロールが効いていないということを示唆して、もし暴力装置ということにつながるのであれば、つまり、シビリアンコントロールをしているあなたたちがコントロールできていないということになるわけですよ。

 それを暴力装置という言葉はたいした問題ではい言葉だと、謝って済む言葉だと、そうお考えになりますが」

 委員長「丸川委員、あの謝罪をされておりますので、・・・・議論を続けてください」

 質問責から一人が委員長席に抗議のためか近づくが、すぐに戻る。

 丸川珠代(立ち上がって、左手を一直線に上に上げ)「菅総理大臣」

 菅首相「あの、何度も申し上げておりますが、暴力という言葉について、エー、本人も、謝罪して、撤回されたわけでありますし、私も、そういう言葉を自衛隊に関して、使うべきではないということで、後程きちんと注意をしたいと、こう思っております。ただ、先程申し上げましたように、暴力という言葉、あー・・・、撤回を、された中で、官房長官が、撤回をされた中で、またですね、またですね、そのシビリアンコントロールが効いているとか、効いていないとか話が、こう、つながっていく、その論理が私には理解できません」

 丸川珠代「理解できないことが理解できないですね。私は申し訳ないけれども、エ、申し訳ないけれども、私はこういう暴力装置という言葉が、言の葉にのぼること自体本当に謝罪では済まない問題だと思いますので、今後仙谷大臣の問責を求めていきたいと思います。

 次の質問に移ります」

 (この「次の質問に移ります」を効くと、ホッとする。面倒臭い文字化がこれで終わるかと思って。)

 菅首相は終始勘違いをしていた。何が問われているのか最後まで気づかなかった。仙谷官房長官の自衛隊組織を名指しして「暴力装置」だと言ったことを単なる言葉と看做して、それが官房長官の認識だとすることができなかった。

 だから、「シビリアンコントロールとの関係で、問題だというのは、ちょっとどういう意味なのか、私は必ずしも理解できません」とか、 丸川議員が民主党の川上理事が仙谷官房長官の「暴力装置」は本質を言っているというヤジを捉えて、「民主党全体のお考えなんでしょうか」と問い質したことに対して「色んな言葉を色んな方が使われることがある」と単なる言葉の使い方に矮小化もできた。

 丸川議員の「武力と暴力は同じものですか」の質問に対しても、「言葉ですから、それぞれに意味がありますので」と答えて、言葉の問題とし、言葉に応じた意味の違いのみとしか認めない合理的判断能力を見せている。

 自衛隊組織は軍隊ではあっても、決して暴力装置でも何でもない。文民統制が効いているからであるし、独裁政権下の軍隊のように政府批判の国民の反政府抗議活動を武力で鎮圧する暴力装置の役目を担っているわけでもないからである。

 戦前の大日本帝国軍隊は文民統制を体制としてはいなかったが、南京虐殺を例に取るだけで理解できるように、本国司令部の統制を離れて、暴力装置としての働きをしたことは多くあったに違いない。

 だが、仙谷官房長官は文民統制下にある自衛隊組織を「暴力装置」として認識していた。このことは暴力装置としての役目・機能が独裁政権下の軍隊のように自衛隊に本来的に備わっている組織性だとしていたことになる。

 このことは恐ろしい認識となる。

 仙谷官房長官の認識からすると、自衛隊がこれまでPKO活動等で行ってきた人道貢献、復興支援は「暴力装置」であることを隠す、いわば羊の皮をかぶったオオカミであることを隠す活動ということになる。

 仙谷官房長官は自衛隊のこの「暴力装置」をいつ如何なるとき、またどの国、どの国民に対して正体を露にし、牙を剥き、発動することを考えているのだろうか。決して言葉の問題ではないし、言葉の意味の違い片付けていい事柄ではない。

 言葉の問題や言葉の意味の違いで片付けることしかできない判断能力の持主が一国の総理大臣を務めている。

 仙谷官房長官は文民統制下にある自衛隊を「暴力装置」だとする認識を、常識的に見ると最初に触れたように二律背反の矛盾を犯しているに過ぎない認識だが、自らの頭に巣食わせていた。この一点を取り上げるだけでも、自衛隊を文民統制下に置いている民主国家である日本の政府の官房長官の資格を失う。

 丸川議員が言うように、「謝って済む問題」ではないということであり、罷免に値する「暴力装置」認識であろう。

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