柳田辞任会見と那覇地検中国人船長釈放記者会見から見る“ハチの一刺し”

2010-11-23 09:15:37 | Weblog

マスコミは柳田法務大臣の辞任は事実上の更迭、詰め腹を切らされたと解釈しているが、菅首相はあくまでも柳田法務大臣の自発的な辞任だとしている。

 22日(2010年11月)午後、大相撲ファンなら、早く終えろとヤキモキしていた時間、自民党の丸川珠代議員が菅首相に対して柳田辞任に関して質問していた。(途中から)
 
丸川議員「ようやく柳田大臣が辞任しました。しかしこの辞任の経緯は極めて不思議です。昨日の夜まで、やらなきゃいけないことがあると言って、続投宣言をしていた。カメラの前で堂々としていたのが、今朝になったら、コロッとやめるとおっしゃった。

 コロコロと簡単に変わるのは民主党のDNAなんでしょうか。鳩山前総理は辞めると言って、辞めるのをやめた。菅総理大臣は消費税10%と言って抱きついたかと思ったら、突然過ぎた(?)。古くは前原さんが代表だったときの、永田メール事件。民主党政権は平気でウソをるくDNAがあるのじゃないかと思いますが、正直申し上げて、菅総理、あなたはこの法務大臣を、辞めてよかったと思いますか。それとも続けて欲しかったと思いますか」

 菅首相「先程、オ、経緯を申し上げましたが、最終的にはご本人の判断で、エー、辞表を提出されました。私は、アー、この席でも申し上げましたように、エー、柳田、ア、さんには、十分、アー、法務大臣を務める、ウ、能力があるというふうに思って、エー、任命をいたしました、アー、が、今回はご本人が、ア、予算、補正予算に対してですね、エー…、迷惑をかけることは、ア、思うところではないということで、エー、自らの判断として、辞表を出されましたので、ア、私もそれを受け止め、受け取りました」

 丸川議員「もう一度伺いますが、柳田さんに法務大臣を続けて欲しかったと思っているのか、それとも辞めて貰いたかったと思っているのか、どちらですか」

 菅首相「この間、アー、私は、柳田、アー、法務大臣、前法務大臣に、エ-、これからも頑張りたいと、言われておりましたし、エー、その中で、ま、色々と野党のみなさんからの、激しい、ま、色んな、アー、議論や、色んな主張もありまして、予算案についてですね、色々影響が、アー、出てきそうだという状況の中で、エー、ご本人が最終的に、判断をされて、エー、辞表を出されましたので、エー、それを受け止めたと言うことであります」

 丸川議員「じゃあ、何で柳田法務大臣、官邸にお呼びになったんですか」

 菅首相「(委員長に向かって)ちょっと静かにしてもらいたい。ちょっと静かにしてもらいたい。先日来、あるいはもっと前からですね、色々と、この場でも、野党のみなさんからも色々と厳しい意見もいただいておりました。シ、しかし、それに対しては私は先程来申し上げておりますように、ご本人が反省してですね、エー、これからも頑張るという姿勢で、エ、望まれ、私も、オー、そうして貰いたいということを申し上げてきました。

 ま、しかし、イー…、色々状況は、アー、なかなか、アー、厳しさが増している中で、エー、今日、オー、朝、私の方から、アー、柳田大臣に、一度、オー、官邸にお出ましをいただきたいということで、お出でをいただいて、話をする中で、エー、最終的にはご本人が、アー、そうした、形で、エー、辞表を提出されたということであります」

 こういった調子で辞任は柳田法相による自発的辞任だと押し通し続けるが、この間の答弁を見ただけで、ただ回りくどいだけのことで、如何に合理的判断能力に欠けた会話術であるかが分かろうというものである。

 「あくまでも自発的辞任です」のみで片付ける、あるいは、「本人の判断による辞表提出です」、このあと、丸川議員がなぜ慰留しなかったのか追及したが、「慰留はしなかったのは本人の意志が固く、却って慰留したのでは本人の意志を無駄にすると思って慰留しなかった」程度で簡潔に片付ければいいものを、アー、ウー、エーを入れて、回りくどく長々と答弁する。

 このことの典型箇所が、「柳田、アー、法務大臣、前法務大臣に」と、正確を期しても始まらないことにわざわざ「前法務大臣」と言い直しているところに特に現れている。野党の追及を簡潔にふてぶてしくかわすだけの力量を持ち合わせていないから、必要でもないことをバカ丁寧で替えることになる。

 大体が言葉を整える目的からではなく、次の言葉を探す目的でアー、ウー、エーが無闇入る途切れ途切れの苦し紛れな答弁はスムーズに次の言葉が出てこないということなのだから、事実どおりのことを話していない疑いが濃い。

 菅首相が法相辞任は自発的辞任だとしているのに対して柳田法相の辞任記者会見はそうとはなっていない。(動画から冒頭部分を参考引用。)

 《柳田法相が辞任を表明 ノーカット動画》日テレNEWS24/2010年11月22日 20:26)

 柳田法相「(記者に)よろしいですか。いい?

 おはようございます。エー、急にお集まりをいただきまして、ありがとうございます。エー、今朝8時に、官邸に参りまして、エー、総理、そして、エー、官房長官、エー、そして私、エー、お話をさせていただきました。エー、総理の方から、エー、この補正予算、国民生活を考えると、エー、何と言っても、速やかに通さなければならないと、エー、お話がありました。

 エー、私の、広島での、不用意な、発言が、色んなところで、エー、影響をして、参りまして、エー、補正についても、みなさんにもご存知のように障害になりつつ、なってきたと、エー、いうことを考えて、エー、補正を速やかに通すべく、エー、私の方から、エー、身を引かせていただきますと、エー、いうことで、辞意を総理にお伝えさせていただきました。

 エー、総理の方からは、エー、この辞意を受け取っていただきました。エー、書類については、その場で、エー、書かせていただきました。以上です」(以下の記者からの質問と回答は省略)

 柳田法相の「エー」は言葉を選ぼうとする意志からの「エー」であろう。

 柳田法相は発言の最後の方で、「私の方から身を引かせていただきますということで、辞意を総理にお伝えさせていただきました」と、自発的辞任であるかのように言っているが、最初のところで、「総理の方からこの補正予算、国民生活を考えると、何と言っても速やかに通さなければならないとお話がありました」と言っていることからすると、首相側が第一番に補正予算案通過を最優先利害としていたことが分かる。

 その最優先利害の実現条件が、実現のための交換条件と表現してもいいが、法相辞任であったということであろう。それが、「補正を速やかに通すべく私の方から身を引かせていただきますということで、辞意を総理にお伝えさせていただきました」と言っている言葉に表れている。

 このことは辞任が不適切発言から問われることになった法相としての資質・適格性そのこと自体を理由としたものではなく、そのことが影響を及ぼすこととなった補正予算案の国会通過問題となっている経緯からも窺うことができる。
 
 辞任が本人の自発的意思だと全面的に持っていって吹きすさぶ暴風雨から雨粒一つ濡れずに事勿れに凌ぎたい菅首相からしたら、「総理の方からこの補正予算、国民生活を考えると、何と言っても速やかに通さなければならないとお話がありました」は言って欲しくない内幕暴露に相当するはずである。

 だが、柳田法相は婉曲的な言いまわしで敢えて言った。

 翻って、那覇地検の中国人船長釈放記者会見を改めて見てみる。

 鈴木亨次席検事「衝突された巡視船の損傷の程度が航行ができなくなるほどではなく、けが人も出ていない。船長は一船員であり、衝突に計画性が認められない」

 鈴木亨次席検事「わが国の国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上、船長の身柄の拘束を継続して捜査を継続することは相当でないと判断した」(以上asahi.com

 他にも政治介入を疑わせる要因はあったとしても、政治介入疑惑の最大の根拠は「わが国の国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上、船長の身柄の拘束を継続して捜査を継続することは相当でないと判断した」の次席検事の発言であり、この発言に基づいた野党の追及が国会で続き、国民もこの発言から政治介入を疑って、結果として菅内閣の支持率を下げせしめたことからすると、菅首相側からしたら、決して言って欲しくない発言であったはずである。

 だが、次席検事は言った。こちらは検察にふさわしくない政治判断となっている。

 上の立場にある者が言って欲しくないことを下の立場の者が敢えて言うこの構図から誰もが考えることは、上に対して何らかの不満があり、その不満の仕返しを上に対する抗議の意思に替えて報いるということであろう。

 あるいは上の立場にある者が下の立場の者に言って欲しくない事柄を抱えているということはそれが秘密にしておきたい事柄であって、下の者にとってはその秘密の存在を間接的に示唆することで抗議の代わりとするということであるはずである。

 柳田法務大臣の方は自発的な辞任の意思はなかったが、補正予算と国民生活を楯に因果を吹き込まれ、自発的辞任の形にされたことへの不満であり、那覇地検の方は、多分内閣の方から逮捕せよとの指示があり、逮捕した中国人船長を国内法に従って粛々と起訴に持ち込み、裁判所の判断を仰ぐ予定でいたが、今度は釈放せよとの指示があって、検察側に一切の決定とその責任を押し付ける形で処分保留のままでの釈放に持っていかざるを得なかったことの不満があった。

 あくまでも状況証拠に過ぎないが、上の立場にある者が言って欲しくないことを下の立場の者が敢えて言うことの抗議は下の者の上の者に対する可能な限りのささやかな抵抗に相当することを考えると、抵抗の形とした発言から否定し難い事実が浮かんでくるはずである。

 1976年に発覚した田中角栄のロッキード事件でロッキード社からの5億円の金銭授受の橋渡し役を務めた田中角栄の秘書官の榎本敏夫は裁判で全面否認したが、1981年に離婚した妻の榎本三恵子が検察側証人として出廷、二人の発言の中でカネを受け取っていたことを認めていたと証言、有罪の決定的要因となったが、後に記者団に彼女が話した「ハチは1度刺したら死ぬ。私もその覚悟」は女の恨みを晴らす象徴的言葉として「ハチの一刺し」という流行語となった。そのイキサツは多くが知るところであろうが、柳田法相と那覇地検が上の立場にある者が下の立場の者に言って欲しくないことを敢えて言った抗議、あるいは抵抗には共通した心理としてあった、「ハチの一刺し」ではなかったろうか。

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