2011年3月12日の東電の原子炉冷却のための真水から替えた海水注入の一時停止指示は官邸の意向(菅の指示)かどうか問題になったことについての菅の5月28日午後の国会事故調参考人証言を見てみる。勿論、菅は否定している。自己正当性を雄弁に語っているが、いくら雄弁語ろうとも、ウソを散りばめた雄弁でしかない。このウソの自己正当化は無責任と指導者としての無能によって成り立っていることは断るまでもない。 桜井委員「ベントの話が先ほどちょっとございましたので、その関係で海水注入についてお伺いしたいと思います。
最初に桜井委員の海水注入に関する質問と菅の証言を取り上げる。
海水注入の問題というのは菅さん、ところでお話があったのはどういう経緯だったでしょうか」
菅仮免「この海水注入については大変私にとってもですね、色々とご批判を頂いた件でもありますので、少し整理をして説明をした方がいいのではないかと思います。
先ず海水注入について、真水がなくなった場合には冷却のためには海水注入が必要であるという点では私と海江田大臣を初め、そうした専門家の皆さん、関係者の皆さんは一致をいたしておりました。
そういう認識のもと、3月12日18時頃から20分程度、私、海江田大臣、原子力安全委員長、保安院責任者、東電の派遣された方が話をされまして、その時点では東電から来られた技術担当の武黒フェローが準備に1時間から、失礼、1時間半から2時間かかると、こういう説明がありました。
そこでその時間を使って、海水注入だけに限らず、いくつかの点で議論をしておこうと。というのはこの日の15時ですが、1号機が水素爆発を起こしておりますけども、この水素爆発についても、前からそういうことが起きることはないか、私も聞いておりました。その時点では格納容器内に窒素が充填されているので起きないというご返事でしたけれども、現実には起きたわけでありまして、そういったことを含めてですね、いくつかの事象につてい聞いておった方がいいと、時間があるなら聞いておいたほうがいいと、こういう認識のもとで幾つかのことが議題となりました。
一つは勿論塩水ですから、塩分による影響であります。それから問題となりました再臨界については淡水を海水に代えたら再臨界が起きるということではありません。これは私もよく分かっておりました。
つまり、私も技術的なことは専門家でありませんので、詳しくは申し上げませんが、再臨界が起きる可能性というのは制御棒が抜け落ちたとか、あるいはメルトダウンした後の、その燃料より大きな塊になったとか(手を大きく動かしてゼスチャーたっぷりに話す)、そういう場合に起きる危険性があるわけでありまして、班目委員長の方からは『可能性がゼロではない』というお返事がありました。
まだ時間があるという前提で、それならそういうことも含めて、検討して欲しい。つまりはホウ酸を入れれば再臨界の危険性を抑えることができるということは、その関係者はみんな知っておりますので、そのことも含めて検討して欲しいと、このように申し上げたところであります。
その後のことを申し上げますか」
手で遮られる。
桜井委員「国会でもこのことについて何回も聞かれておりまして、総理は質問と答をどう取られるか、非常に難しい問題もあろうかと思われますが、海水注入の関係で聞かれてくるときに、『いわゆる再臨界という課題も私にはありましたし、そのことの検討』――、ちょっと要約させて頂きますと、『これを皆さんにお願いする』と。
こういうような答弁をされておりますが、今のご説明との関連ではどういうことでしょうか」
菅仮免「今申し上げたとおりですけども、何か矛盾はあるでしょうか。私が申し上げたのは、例えば海水注入が再臨界に関係ないというような表現で、何か報道されたものもありますが、これは全く間違っています。淡水を海水に代えたからといって、再臨界の可能性が増えるわけではないと、こういうことを言ったんですが(ふっと笑い)、その前の部分が省略されていいると全く意味が違います。
そういった意味で再臨界のことを申し上げたのは、こののち海水の中にもホウ酸を入れるわけですけども、原子炉にはホウ酸が置いてあるわけですから、それを念のために入れるということを含めて、検討をして欲しいという趣旨で申し上げたので、国会の答弁と矛盾はありません」
桜井委員「既に総理もご承知だっと思いますが、現実には東電の方の本店からは始めていたなら、それを停めるという指示が出されてた。吉田所長の方はその指示に反して、海水注入を続けたという事実は既にご承知かと思いますが、少なくとも東電の方では総理の、当時の総理のお言葉を重く受け止めて、そのような行動に出たと思いますが、その点については総理の方はご感想を、どのような見方をされているのでしょうか」
菅仮免「東電の会長の、この委員会での発言も私は聞いておりました。しかし東電会長はこの問題について本当に技術的なことをですね、関係者から聞かれて言っておられたとは思えないわけであります。
先ず事実関係を正確に申し上げますと、先程申し上げましたように具体的名を上げて恐縮ですが、直前まで副社長をやっておられた現職の武黒フェローがですね、6時から6時20分の会合では、後1時間30分から2時間はあると準備に、という話を前提で話を始めたわけであります。で、それを20分程度で切り上げて、じゃあ、後、その結果を含めて報告をして下さいと。
で、私のところに来たのは確か、19時の40分で、準備ができたということで、じゃあやって下さい。
で、その後始まったと。
その時点ではそういうふうに理解をしておりました。そしたら、その後色々なことが分かってきますと、武黒フェローはその20分の間の会合の後に直接でしょうか、吉田所長に電話をされて、そこで既に海水が入っているということを聞かれたわけです。
そのことは私には連絡はありません。
私は二重の意味で大きな問題と思います。先ず第一は、既に入っているなら、私は当然入れ続ければいいと思っています。もし再臨界の危険性があるなら、ホウ酸を後で追加すればいいわけですから。現実にそうしています、そののちに。
それを武黒フェローが判断をして吉田所長に停めろと言った。
よくですね、官邸の意向ということが他の場面によく出ますが、官邸の意向には私自身の意向、あるいは私自身を含む政府の意向と、当時官邸に詰めていた東電関係者の発言とか混在しております。
少なくともですね、東電関係者の発言は官邸の意向というふうに表現されるということは私は間違っていると思います。これはメディアの関係者の皆さんにもはっきりと申し上げておきたいと思います。
そこで今申し上げたことが一つです。もう一つは武黒さんというのは確か原子力部長を務められたプロ中のプロです。ですから、水を入れること、海水を入れること、如何に重要であるか。そしてそのことは再臨界とは、淡水を海水に代えたことは再臨界とは関係ないということは、プロであればよく分かっていることであります。
その人がなぜですね、そういう技術的なことがよく分かっている人が吉田所長に停めろと言ったのか、私には率直に言って全く理解できません。
そして吉田所長はそれに対して、私はあとで聞いた話ですけれども、私の意向だというふうに理解したと。そこで東電本店に聞いたら、総理の、時の総理の意向なら、仕方がないじゃないかと言って説得されたけれども、それではと言って、まあ、一芝居と言いましょうか、今から停めろと言うけども、停めるなと現場の人に言って、停めろということを言われたと。
それでテレビ会議の装置を使って、東電本店にも伝わっていたので、東電の大部分の人にも、その時点で一旦停まったと、このように認識されたようです。
こう言うようなことが私に分かったのはずっと後になってからです。これについても予算委員会でも、あるいは政治家の中でもですね、私が停めたと、それでメルトダウンが起きたと、激しく批判をされました。
しかし重ねてもう一度申し上げますが、東電の中で派遣されていた人が自分の判断で言ったことについて官邸の意向、まして私の当時の総理の意向とは全く違うんで、その所はきちんと区別して検証していただきたいと思います」
桜井委員「今、東電の方が海水注入を伝えていないという、開始を伝えていないという認識でおられたですけど、東電の方から海水注入をした(開始した?)と保安院の方に連絡が入っている。それが当時の総理の所に届いていないというこをよく分かりました。
その辺は当時の最高指揮官としてどのようにお考えでしょうか」
菅仮免「これはですね、例えば保安院の、直接的には責任者は経産大臣です。経産大臣が例えば、同席していた武黒フェローにですね、聞いてみたら、実はもう入っていたというような話があれば、間違いなく私にもですね、大臣なり来ます。
武黒フェロー自身がそのことを認識したら、私と一緒の会で話をされたことなんですから、私に直接言うのがですね、当然でありまして、そういう関係でなければ、別ですよ。
ですから、私にはその間の保安院にどう伝わったかということも、少なくともその当時は知りません。
それから敢えて申し上げますと、その後も暫くは東電は19時、確か3分でしたか、7分でしょうか、解消(海水注入中断を)したということを、当時は認めていなかったはずです。
そして19時40分に私のところに来て、確か20時何分かに解消(19時25分、東電、海水注入中断)したという上申をしたはずです。
ですから、私はそこまで申し上げませんが、東電が伝えたということと、そのあと東電が言っていることと、またその後に言っていることとかなり、私から言うと矛盾しておりますので、少なくとも私にはちゃんと伝えるんであれば、武黒フェローと話をした直後でありますから、私に直接伝えるなり、経産大臣に伝えるのは当然であったと、そのように考えております」
桜井委員「菅さんは今海水注入と再臨界とは直接繋がらないという説明があったが、(手でひっくり返すゼスチャーをして、淡水から海水へ)代えたことです。ハイ、分かりました。
当時はですね、総理のお傍におられた方が総理に対して再臨界と海水とは直接繋がらないということをご説明するために随分色々と資料を集めたり、検討されたり(して)おるようですが、その辺については総理はどのようにお考えになりますか」
菅仮免「私はそのことは知りません。私が再臨界について色々と調べていたのはかつての再臨界事故がJOCのときにありましたから、そういうことを含めてですね、必ずしも原子力安全委員会や保安院からも聞きましたけども、それ以外の原子力の専門家からも、どういう場合にそういう危険性があるのかと、そういう色々な話を。その時点で分かっておりましたのは、先程申し上げたように、例えば制御棒が何らかの理由で抜け落ちて、燃料が臨界に達してしまう、
あるいはメルトダウンしたものがここに大きく山盛りにのように溜まって、その形状によっては臨界ということになる得ると、そういうことを聞いておりました。
少なくとも淡水を海水に代えることが臨界条件に何らかの影響を及ぼすということは、私はそういうふうに全く思っておりません。
それにはホウ酸を入れて、中性子のですか、動きを止めればいいわけですから、それは別のことで、何かそういうこと(資料集め)を準備をされていたということは私は全く知りません」
(以上)
菅は東電派遣の武黒フェローから海水注入の準備に1時間半から2時間かかると言われて、3月12日午後6時から6時20分まで海水注入に関わる問題点を検討する会合を官邸に詰めていた関係者に持たせている。
そもそもの海水注入の必要性に関して菅は、「海水注入について、真水がなくなった場合には冷却のためには海水注入が必要であるという点では私と海江田大臣を初め、そうした専門家の皆さん、関係者の皆さんは一致をいたしておりました」と証言している。
この会合で菅が海水中注入の場合の再臨界の危険性の有無の検討を命じて、そのことに時間を取られて海水注入開始が遅れ、原子炉の状況を悪化させたのではないかと批判が起きたことに関してはきっぱりと否定している。
「再臨界については淡水を海水に代えたら再臨界が起きるということではありません。これは私もよく分かっておりました」
但し、「再臨界が起きる可能性というのは制御棒が抜け落ちたとか、あるいはメルトダウンした後の、その燃料より大きな塊になったとか(手を大きく動かしてゼスチャーたっぷりに話す)、そういう場合に起きる危険性があるわけでありまして、班目委員長の方からは『可能性がゼロではない』というお返事」があったために、その場合の再臨界の可能性も含めて検討させたと。
対して桜井委員は「『いわゆる再臨界という課題も私にはありましたし、そのことの検討』」云々の国会答弁を持ち出して追及するが、菅は「今申し上げたとおりですけども、何か矛盾はあるでしょうか。私が申し上げたのは、例えば海水注入が再臨界に関係ないというような表現で、何か報道されたものもありますが、これは全く間違っています。淡水を海水に代えたからといって、再臨界の可能性が増えるわけではないと、こういうことを言ったんですが(ふっと笑い)、その前の部分が省略されていいると全く意味が違います。
そういった意味で再臨界のことを申し上げたのは、こののち海水の中にもホウ酸を入れるわけですけども、原子炉にはホウ酸が置いてあるわけですから、それを念のために入れるということを含めて、検討をして欲しいという趣旨で申し上げたので、国会の答弁と矛盾はありません」と逃げる。
その他の問題点として水素爆発や海水塩分による影響を挙げている。
矛盾がないとする国会答弁とは2011年5月23日衆院震災復興特別委員会に於ける谷垣禎一自民党総裁の質問に対する答弁を指している。
谷垣総裁「3月12日の18時(午後6時からの会合のこと)には何を議論していたのか」
菅仮免「海水注入に当たって、私の方からどのようなことを考えなければならないかといった議論があって、いわゆる再臨界という課題が私にもあり、その場の議論の中でも出ていた。そういうことを含めて海水注入に当たって、どのようにすべきかという検討を今申し上げたようなみなさんが一堂に会されておりましたので、それを皆さんにお願いをした」
ここでは、「いわゆる再臨界という課題が私にもあり、その場の議論の中でも出ていた」と答えている。
次にこの質疑に引き続いた谷垣総裁と班目原子力安全委員会委員長との質疑を見てみる。
谷垣総裁「海水注入に当たって勘案すべき問題点を検討すると、こういうことですね。班目委員長に伺います。報道によると、色んな報道があって何が正しいかであるが、委員長はこの会議で再臨界の可能性を指摘されたという報道があった。
そのような意見具申をされたのか」
班目委員長「その場に於いては海水を注入することによる問題点をすべて洗い出してくれという総理からの指示がございました。私の方からは海水を入れたら、例えば塩が摘出してしまって流路が塞がる可能性、腐食の問題等、色々と申し上げた。
その中で、多分総理からだと思うが、どなたからか、再臨界について気にしなくてもいいのかという発言があったので、それに対して私は再臨界の可能性はゼロではないと申し上げた。これは確かなことであります」
この班目答弁から分かることは、班目自身は「塩が摘出してしまって流路が塞がる可能性、腐食の問題等」を問題点として挙げたが、再臨界については挙げていなかったことになる。
再臨界の問題は、「多分総理からだと思うが、どなたからか、再臨界について気にしなくてもいいのかという発言があったので、それに対して私は再臨界の可能性はゼロではないと申し上げた」としている。
とすると、菅が最初に国会で答弁していた、「いわゆる再臨界という課題が私にもあり、その場の議論の中でも出ていた」としていることは、菅のみが再臨界を問題にしていたのであって、「その場の議論の中でも出ていた」と言っていることは批判や追及を逃れるための韜晦ということになる。
「再臨界はその場の議論の中で出ていた」とのみ言ったなら、つまり自分以外の誰かが言い出したことだとしたら、露見した場合、まるきりのウソつきとなる。自分が言い出したことでもあるが、「その場の議論の中でも出ていた」とすることによって、誰が言い出したかを分散できる。
詭弁を用いた巧妙なゴマカシに過ぎない。
また、班目委員長の「多分総理からだと思うが、どなたからか、再臨界について気にしなくてもいいのかという発言があったので、それに対して私は再臨界の可能性はゼロではないと申し上げた」と発言している答弁から窺うことができる、再臨界は菅が言い出したことであるとした疑いは同じ2011年5月23日の衆院震災復興特別委員会でのみんなの党柿澤未途(みと)議員の質問に対する班目委員長の答弁に於いても確認できる。
柿澤議員「総理は臨界の可能性を心配して専門家の意見を聞いた。この場合の再臨界の可能性のあると言うのはどういう事態を示唆しているのか。これは燃料棒が原形をとどめ、制御棒が入っている状態であれば、そういうことは起こらないと思う。再臨界と言うのはそういう安定した状態では起こらない。
再臨界が起こるということはどういう事態が原子炉の格納容器内で想定されるか」
班目委員長「実際に燃料が若干でも溶けて、再配置と言いますか、イキ(閾?)が変わって、より臨界になりやすくなることをおっしゃる方がいる。そういう意味では、今現在ですら再臨界が起こっているんじゃないかと言われる学者の先生もいる。
しかしながら、そういう危険性は認識していないが、そういうふうに聞かれたから、ゼロではないという答になるかと思う」――
この班目の発言は菅の証言である「再臨界が起きる可能性というのは制御棒が抜け落ちたとか、あるいはメルトダウンした後の、その燃料より大きな塊になったとか(手を大きく動かしてゼスチャーたっぷりに話す)、そういう場合に起きる危険性があるわけでありまして、班目委員長の方からは『可能性がゼロではない』というお返事」があったために、その場合の再臨界の可能性も含めて検討させた」に相当する。
班目の以上の答弁から確認できることは、淡水注入から海水注入に替えた場合の再臨界の危険性と菅が説明した「再臨界が起きる可能性というのは制御棒が抜け落ちたとか、あるいはメルトダウンした後の、その燃料より大きな塊になったとか(手を大きく動かしてゼスチャーたっぷりに話す)、そういう場合に起きる危険性」とは別個に扱わなければならないということである。
前者の危険性はゼロであるが、後者の炉の中で制御棒が正常な状態を保持不可能となって異常化している場合は再臨界の危険性はゼロではないということであって、「海水注入について、真水がなくなった場合には冷却のためには海水注入が必要であるという点では私と海江田大臣を初め、そうした専門家の皆さん、関係者の皆さんは一致」していた以上、制御棒の現状以上の異常化を可能な限り防御するためにも一刻の猶予もないと見做して、東電派遣の技術担当武黒フェローがから準備に1時間半から2時間かかると告げられた時点で検討の時間を設けるまでもなく、準備完了次第海水注入開始せよの指示を出していなければならなかったはずだ。
だが、そうしなかったことになる。
班目は無責任だから、菅が再臨界の危険性を言い出したとき、海水注入の場合の再臨界の危険性と制御棒に関わる再臨界の危険性を別個に扱うべきだと明確に説明しないままに、制御棒に関わる再臨界の危険性にまで広げて、「今現在ですら再臨界が起こっているんじゃないかと言われる学者の先生もいる」とする文脈で「可能性がゼロではない」と発言したのではないだろうか。
だとしても、菅が言い出した「再臨界の危険性」であることに変わりはないはずで、ウソをついた参考人証言となる。
そもそもからして海水注入の方針を決めた段階で海水注入の場合の危険性の有無を検討していなければならなかったはずだが、準備にかかる時間の間にその検討を行うという矛盾すら見せている。
しかも海水注入準備の指示と海水注入開始の指示という二段階の指示を出すことにしていたことになる。
経済産業省原子力安全・保安院は3月12日午後3時20分に東電からファクスで「準備が整いしだい海水を注入する予定」という報告を受けている。
いわばこの報告の前に官邸から東電に対して海水注入の指示を出しているはずだ。指示を出していないのに東電から「準備が整いしだい海水を注入する予定」といった報告はできない。
このファクス文からすると、準備だけの指示であったと窺うことができる。だから東電の方から、「準備が整いしだい海水を注入する予定」ですよの催促を必要としたということであろう。
もし東電がファクスを出す以前に官邸が東電に対して海水注入の指示と準備次第注入開始の指示を出していたとしたら、海江田経産相が午後8時5分、東電に対して原子炉等規制法に基づいて海水注入の命令を出しているが、明確に東電が海水注入を中断したことを認識していた上での改めての指示となる。
また午後8時5分になってからの海江田命令は上に挙げた2011年5月23日の衆院震災復興特別委員会で、谷垣総裁の質問に対する班目委員長の答弁とも矛盾することになる。
班目委員長、「私の方からですね、この6時の会合よりもずうーっと前からですね、格納容器だけは守ってください。そのためには炉心に水を入れることが必要です。真水でないんだったら、海水で結構です。とにかく水を入れることだけは続けてくださいということはずーっと申し上げていた」
「6時の会合よりもずうーっと前」の段階で真水、海水いずれかの注水を進言していた。当然、「海水でも結構です」と発言した以上、海水注入の場合の原子炉に決定的な危険性がないことは説明していたはずだ。
また、海水注入の危険性が例え存在したとしても、注入しない場合の危険性を差し引きして、前者がより危険性が少ないからこその進言でなければならないことは断るまでもない。
当然、再臨界の危険性を無視できる真水、海水いずれかの注水の進言でなければならないということも断るまでもないはずだ。
だが、菅は6時から会合を設けて、海水注入の場合の問題点を検討させている。
矛盾だらけである。
桜井委員は東電の方から保安院に海水注入を開始したという連絡が入りながら、「それが当時の総理の所に届いていないというこをよく分かりました。その辺は当時の最高指揮官としてどのようにお考えでしょうか」と追及したのに対して菅は次のように証言している。
菅仮免「これはですね、例えば保安院の、直接的には責任者は経産大臣です。経産大臣が例えば、同席していた武黒フェローにですね、聞いてみたら、実はもう入っていたというような話があれば、間違いなく私にもですね、大臣なり来ます。
武黒フェロー自身がそのことを認識したら、私と一緒の会(合)で話をされたことなんですから、私に直接言うのがですね、当然でありまして、そういう関係でなければ、別ですよ。
ですから、私にはその間の保安院にどう伝わったかということも、少なくともその当時は知りません」
この点について桜井委員はそれ以上の追及をしていないが、桜井委員が問題としたことは保安院と官邸との情報共有の不行き届き、あるいは情報共有の欠陥であるはずである。
それを菅は、「経産大臣が例えば、同席していた武黒フェローにですね、聞いてみたら、実はもう入っていたというような話があれば、間違いなく私にもですね、大臣なり来ます」とか、「武黒フェロー自身がそのことを認識したら、私と一緒の会(合)で話をされたことなんですから、私に直接言うのがですね、当然でありまして、そういう関係でなければ、別ですよ」と官邸と保安院間の情報共有の問題からずらして答える狡猾さ、あるいはゴマカシを見せている。
また、官邸と保安院の情報共有に欠陥があったなら、その原因を探る検証が行われていなければならない。桜井委員は検証を行ったのかということも追及すべきだったが、何ら追及じまいであった。
保安院は大震災発生の翌日の、官邸6時~6時20分会合5時間前の3月12日午後1時頃、「1号機において耐圧ベントができない場合に想定される事象について(案)」を作成している。
この文書がいつ官邸に報告されたか正確には分からないが、「3月12日原子力安全委員会への送付資料」と印刷されている以上、官邸に別印刷で届けたか、あるいは原子力安全委員会から官邸に報告されていたことにある。内容を読むとこの報告に基づいて官邸が行動していたことが分かるからだ。
またこの文書は秘密にされていて、情報公開法に基づいて開示されたもので、だから、(原子力保安院による報道資料/2011年09月13日(火))の文字が印刷されている。
〈1-6(追加資料・3月12日原子力安全委員会への送付資料)福島第一原子力発電所第1号機において耐圧ベントができない場合に想定される事象について (原子力保安院による報道資料/2011年09月13日(火))
現時点のドライウェル圧力である0.75Mpa(abg)において、耐圧ベントができない状態が継続する場合、格納容器の耐圧が設計圧力の3倍と仮定すると、約10時間後に大量の放射性物質が放出される。
このとき、炉心内蔵量に対して希ガス100%、よう素、セシウム約10%、ストロンチウムその他1%未満の放射性物質が放出されると仮定すると、被ばく線量は敷地境界において数ベルト以上と想定される。
さらに気象条件によっては、発電所から3~5㎞の範囲において著しい公衆被曝のおそれがある。
対応策
(1)電源が復旧する場合
ESS(非常用炉心冷却系)の活用いよる炉心の積極的な冷却に努めると共に、残留熱除去系を用いた炉心燃料の崩壊熱を除去することが可能となる。
(2)電源が復旧しない場合
利用できる全ての注水設備の活用により、各王容器の圧力を下げ、その損傷の延命を図り、この間に電源の復旧を進めることが考えられる。
具体的には、消防車による注水を利用する。この際、十分な水の確保が必要となる。〉・・・・・
報告はベントと注水の必要性を勧めている。消防車による注水、あるいは自衛隊ヘリコプターによる注水は電源が回復するまでで、回復以後は循環水に替えている。
政府はこの報告に基づいて行動していた。
だが、この報告や同じ原子力安全・保安院策定の「福島第一(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」は官邸に届けて情報共有を図っていながら、特に菅の行動が問題とされていることに関する報告は両者間に情報共有の欠陥を見せることになる。
しかもその点を追及されても、正面から答えない狡猾さを見せる。
そもそもからしてこの文書が情報公開で開示請求されるまで秘密にしていたことが限りなく疑問を抱かせる。
発言順不同となるが、最後に菅首相が海水注入の一時停止を東電に指示したと批判されている点についてを取り上げる。
桜井委員「少なくとも東電の方では総理の、当時の総理のお言葉を重く受け止めて、そのような行動に出たと思いますが、その点については総理の方はご感想を、どのような見方をされているのでしょうか」
菅は勝俣恒久東電会長が5月14日に国会事故調参考人として出席、菅の原発視察を批判していることを取り上げている。
勝俣会長「(当時の)吉田昌郎所長らが対応したが、所長は事故の復旧に全力を尽くすのが一番大事だった。
(所長に)電話での照会が、首相や首相補佐官からダイレクトにあった。芳しいものではない」(YOMIURI ONLINE)
菅仮免「東電の会長の、この委員会での発言も私は聞いておりました。しかし東電会長はこの問題について本当に技術的なことをですね、関係者から聞かれて言っておられたとは思えないわけであります」
そして、東電派遣の武黒フェローが官邸の意向ではなく、自身の意向を伝えたに過ぎないと菅に対する批判を否定している。
菅仮免「よくですね、官邸の意向ということが他の場面によく出ますが、官邸の意向には私自身の意向、あるいは私自身を含む政府の意向と、当時官邸に詰めていた東電関係者の発言とか混在しております。
少なくともですね、東電関係者の発言は官邸の意向というふうに表現されるということは私は間違っていると思います。これはメディアの関係者の皆さんにもはっきりと申し上げておきたいと思います」
言葉巧みに誤魔化しているが、矛盾だらけを見ることができる。
「官邸の意向」伝達者は首相や官房長官、その他の政府関係者ばかりではない。民間人もそこに出入りして、「官邸の意向」の伝達者足り得るはずである。
勿論意思決定に関わる元の情報、意向のソースは菅が言うように首相自身か首相が関わった政府関係者であるが、政府関係者以外の者がいくらでも「官邸の意向」の代弁者足り得る。
例えば経済界の重要人物が官邸で首相と会見して、部屋から出てきて記者団に官邸の意向として伝える場合がある。格納容器冷却のために海水注入を絶対必要としていながら、国会答弁と国会事故調の参考人証言との間の矛盾や海水注入の準備と注入開始の指示を二段階としていた矛盾、その他の矛盾からして、武黒フェローが純粋に自身の判断を「官邸の意向」だと伝えたとは考えにくい。
首相との間に何らかの会話の機会があり、その会話を媒体として官邸の意向が生じることになるから、官邸の意向は首相との何らかの会話の機会を前提とすることになり、その会話の機会が存在しない場合は、一般的には官邸の意向も存在しないことになる。
その立場にないにも関わらず、「官邸の意向」伝達者に早変わりするとは考えにくい。
いずれにしても国会事故調参考人証言自体に詭弁や矛盾、誤魔化し、無責任をいくらでも見い出すことができる。簡単に言うと、菅はウソつきである。
オオカミ少年と同じで、例えたまに事実を言ったとしても、自己都合からの事実でしかなく、全体的なウソ・ゴマカシ・詭弁に変化を与えはしないはずだ。