野田首相が言うように消費税増税が財政再建と社会保障制度の持続可能性を約束するとは限らない

2012-06-26 11:35:55 | Weblog

 野田首相が昨日6月25日(2012年)午後、国会内開催の民主党代議士会で社会保障・税一体改革関連法案の民主党一致団結の賛成を、「心から、心から、心から、お願い申し上げます」と、三度「心から」を繰返してお願いした上、“心から”に違いない、深々と頭を下げたシーンを昨夕のNHKニュースが映し出していた。

 この“心から”の三度の「心から、心から、心から」を聞いたとき、菅仮免が昨年6月15日夜、国会内開催の再生可能エネルギー促進法の早期制定を求める集会に飛び入り参加して、「国会内にはどうも菅だけの顔は見たくないという人がいる」と言い出したと思うと、挑発するかのように、「ホントに見たくないのか、ホントに見たくないのか、ホントに見たくないのか」と三度言って、「それなら早いことこの法案を通した方がいいよと、この作戦でいきたいと思います」と、同年3月11日閣議決定、国会に提出したものの審議入りしないまま放置されていた「再生可能エネルギー促進法案」の早期成立を訴えたのを思い出した。

 結局菅仮免は再生可能エネルギー促進法成立を退陣の交換条件の一つにして、約2ヶ月半後の9月2日に首相の座を去っていった。

 退陣前の世論は、退陣すると言って引き伸ばしに引き伸ばした結果、7月の世論調査で余裕を与える暇もない「8月末に退陣すべき」の情け容赦のない忌避感が70%前後、内閣支持率は20%前半台で、現実にも「菅だけの顔は見たくないという人」が世論の大勢を占め、民主党支持層内にまで拡大していた。

 要するに再生可能エネルギー促進法案が審議入りしないまま放置されていたのは菅仮免自身の指導力不足が原因であって、にも関わらず退陣の条件の一つとしたことがキッカケとなって与野党揃って「菅だけの顔は見たくない」が動機づけとなった法案成立の一面を持っていた。

 野田首相も社会保障・税一体改革関連法案成立を花道に退陣という事態を招かない保証はない。

 退陣するだけならいい。例え民主党が法案反対派と分裂しなくても、現在の内閣支持率、政党支持率のジリ貧状態から言って、次期総選挙で野党転落は目に見えている趨勢であって、政権返り咲きが濃厚の自公が最大の利益独占者となる可能性が高い。

 尤も野田首相は代議士会で「先送りをしたならば、この国は持ちません」と声を振り絞っていた。消費税増税によって財政再建とツケを子や孫世代に先送りしない社会保障制度の持続可能性の道筋をつけることが自らの信念・自らの使命としていたことで、損得の勘定でしていたことではない、どの党が政権を取ろうが、より大きなことは先送りしたなら持たないこの国・この社会を持たせることだと言うだろうが、消費税増税が一時的には政府予算に余裕を与えたとしても、財政再建を必ずしも約束しないことは以前の消費税増税後も赤字国債が増え続け、国債、借入金、政府短期証券合計の「国の借金」が2012年度末時点で1千兆円突破の予想が証明している。

 要するに年々の予算額を増加の一途を常態とするのではなく、景気が決定権を持つ税収に合わせて全体的なバランスを持たせた効率的な予算編成に基づく厳格な財政運営を確保できなければ、リーマン・ショックだ、ヨーロッパ金融危機だ、大災害だといったたびに発生する財政危機に対応できないばかりか、一般歳出に占める割合が5割を超え、年々約1.5兆円ずつ増加していく社会保障関係費国庫負担分(2011年度は約28兆円)を賄うために消費税増税を繰返さなければ追いつかないことになる。

 消費税増税を財源とした社会保障制度改革が国民に今日の安心よりも明日の安心を保証するをスローガンとしているが、消費税増税頼りの財政運営が一般化した場合、明日の安心どころか、今日の安心も覚束ない貧困層が多数を占める現実を考えると、消費税増税が却って覚束ない今日の安心の息の根を止めることになりかねず、先送りしなくても、国が持たない、社会が持たないという事態が生じない保証はない。 

 半数以上を占める消費税増税反対の世論がこのことの一端を証明しているはずだ。

 しかも1年を掛けて民主党内で議論し、民主的に決定したと言っている社会保障制度改革を3党合意によって置き去りした、消費税増税だけが先行の展開となっている。

 尤も野田首相自体はこのことを否定している。

 野田首相「今日、(衆院社会保障と税の一体改革特別委員会の)7時間20分の答弁の中で明確に申し上げております。最低保障年金も高齢者医療制度の廃止も旗は降ろしていない、と明確に申し上げました。国会の答弁で政府を代表する私が議事録に残る形でお話をしたこと。これは是非、重く受けとめていただきたいというふうに思います」(MSN産経

 いくら議事録に発言が残ろうと、その発言を最終的に保証するのは頭数である。現状に於ける頭数や将来的に予想される頭数を考えない、「議事録に残る」の短絡的な安請け合いに見えて仕方がない。

 現状の参議院野党優勢の頭数のみで散々に与党政策の妥協や撤回を強いられている上に、昨日の国会で選挙に不利となる約束の取り付けまで強いられている。

 伊吹自民党元幹事長「民主党が掲げる最低保障年金の創設は、消費税率10%ではできるわけがない。『棚上げしていない』と言うのなら、次の衆議院選挙のマニフェストに、財源として、あと何%消費税率を引き上げるのかを掲げ、正々堂々と国民の審判を受けたらどうか」

 野田首相「最低保障年金の創設などは、長い間、私たちが議論してまとめた基本的な政策であり、制度設計を詰めながら、『国民会議』の中で実現すべく努力したい。実現できていない段階で衆議院を解散した場合には、きちんと整理して、国民に向けて発信するマニフェストにしないといけない」(以上NHK NEWS WEB

 現在でさえ10%の消費税増税は受け入れることはできないとしている国民が半数以上を占めているのに最低保障年金最大で17.5%の消費税増税必要論にどのくらいの国民が賛成できるのだろうか。

 賛成する・しないではなく、生活維持の観点から見た賛成できる・できないの判断の問題である。

 少なくとも日々の安心も覚束ずに社会から取り残されている多くの現役世代の貧困層にとって、いくら逆進性対策を施して17.5%の増税とのバランスを取ろうとも、それをゼロにしたとしても貧困の状況が変わるわけではないのだから、社会から取り残された存在であることにも変化はないはずだ。

 既に触れたが、現在の内閣支持率、政党支持率のジリ貧状態から言って、ただでさえ野党転落は目に見えている趨勢を受けて衆参共に自公が優勢な頭数を握る可能性は高く、当然、野田首相が降ろしていないとしている「旗」など、頭数喪失と同時にどこかに吹き飛んでしまう可能性は否定できない。

 民主党に有利となる唯一の可能性は自公が衆院選で過半数を獲得できなかった場合、野党に転落した民主党と他の少数野党と合わせて衆参共に過半数を獲得できるねじれ状況の実現であるが、いわば今度は野党として与党に対してねじれをカードとすることができるが、参院選挙も来年に迫っている。民主党の国民支持の現況からして、参院選でも議席を大きく落とした場合、自公の他野党との連立の組み方次第で民主党のねじれカードの効力は長続きしない可能性も生じる。

 当然、野田首相が昨日の国会で自公に呼びかけたという、個別政策でのパーシャル連合(部分連合)も衆参それぞれに獲得できる頭数が條件となる。

 野田首相「大連立や政界再編は今は言及する段階ではない。個別の政策でスクラムを組むことを国家、国民のためにやっていくことが大事だ」(MSN産経

 いくら国家・国民を持ち出そうと、所詮議席が決定する役割遂行でしかない。

 消費税増税が財政再建と社会保障制度の持続可能性を絶対的に約束するとは限らない上にマニフェストで約束した政策の実現も将来的な議席獲得予測からして期待薄となると、民主党の一体改革の一体性が明らかに崩れることになるが、何よりも効率的な予算編成に基づく厳格な財政運営能力を政官共に獲得できなければ、言葉だけで受け合う約束となる。

 言葉で以って約束をつくり出そうとする判断能力は菅仮免も資質としていた合理性欠如としか言いようがない。


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