橋下市長が大飯原発反対の条件闘争に出なかったことと野田首相の新たな「原子力安全神話」の確立

2012-06-18 10:10:31 | Weblog

 野田首相の大飯原発3・4号機再稼動に国民に理解を求めた6月8日首相官邸記者会見を受けて、同6月8日、橋下大阪市長が再稼動は限定的稼働にすべきだと主張したが、6月16日、再度限定的稼働を主張した。

 だったら、関西広域連合として再稼動は夏場限定の稼働でなければ決して認めないと、なぜ条件闘争に出なかったのだろうか。

 6月8日の橋下市長の発言を見てみる。

 橋下市長「細野大臣も新しい原子力規制庁の下での安全基準、安全判断で大飯原発がだめなら停止もありうると発言している。停電リスクを回避するために大飯原発の稼働が必要ということであれば、その動かし方は限定的にならざるをえないし、そういうことを国民の皆さんに訴え続けていきたい」(NHK NEWS WEB

 6月16日の発言。《運転再開 自治体の受け止めは》 (NHK NEWS WEB/2012年6月16日 17時59分)

 記事は再稼動に賛否の自治体首長の発言を伝えている。

 橋下市長「大阪府の調査では自家発電のない病院が実際にあり、停電まで備えができていないのが現状だ。そのなかで運転を再開したことは、停電へのリスク、人の命へのリスクを回避することになり、正直、関西にとっては助かった点もあり、地元の皆さんには感謝しないといけない。

 暫定的な判断に基づいたものだから、地元の皆さんにもぜひ、関西、日本全体のことを考えて、あくまでも限定的な稼動を原則に考えていただきたい。きちんとした安全の手順を踏んでいかないといけないということを、関西全体でも示していきたい」

 一方で再稼動に賛成し、その一方で限定的稼働にすべきだと主張している。

 最初は絶対反対の主張を展開し、大飯原発再稼動ありきの姿勢を見せる野田政権に対して4月時点では民主党政権打倒発言まで飛び出させたが、自身も一員に加わっている関西広域連合が5月30日、「関西広域連合の『原発再稼働に関する声明』」を発表。「『原子力発電所の再起動にあたって安全性関する判断基準』は、原子力規制庁等の規制機関が発足していない中での暫定的な判断基準あることから、政府の安全判断についても暫定的なのである。従って、大飯原発再稼働についは政府の暫定的な安全判断であることを前提に、限定的なものとして適切な判断をされるよう強く求める」としたが、限定的稼働はあくまでも政府に対する要請であって、限定的でなければ稼働は認めることはできないとする条件闘争宣言とはなっていない。

 4月13日の倒閣発言。
 
 橋下市長「こんな再稼働、絶対許しちゃいけないと思いますね。もしストップかけるんだったら、国民の皆さんが民主党政権を倒すしかないですよ。僕はもう、民主党政権には、反対、反対でいきます」(FNNニュース

 因みに上記記事が伝える他の主張の発言を記載してみる。

 時岡忍福井県おおい町町長「国民の生活を守るため、産業などの安定のために決断されたものと認識しており、重く受けとめている。総理がリーダーシップをとって重大な決断をいただいたので、関西電力は安全運転を続けて国民の信頼回復に努めてほしい。

 (住民の安全確保について)特別な監視体制ができるので、国側と常に連絡を取って、住民に安全安心を伝える役目を果たしていきたい」

 30キロ圏内人口7割6万3000人が暮らす京都府舞鶴市。

 多々見良三舞鶴市長「政府が運転再開を決めた背景には大飯原発が安全だとする明確な根拠があるはずだが、その根拠が全く明らかにされていないなかでの再稼動であり、賛成しがたい。

 国は運転再開にあたって、立地自治体には再三説明をしているが、原発のすぐ近くにある舞鶴市には説明がなく、立地自治体以外は無力だと感じた」

 舞鶴市の避難計画が国の避難計画に準拠する関係にあるが、基本となる国の避難計画の策定が遅れていることについて。

 多々見良三舞鶴市長「国に対して防災対策の強化を急ぐよう求めていくと同時に、市としてもできることを進めて行きたい」

 国の避難計画が未定であることも安全対策を置き去りにした大飯原発再稼動であることを示している。

 大飯原発から市境まで約20キロの距離の滋賀県高島市西川喜代治市長

 西川喜代治高島市長「日本全体のことを考えて重い決断をしたと思うが、中長期的な安全対策がとられていないなかでは、隣接する自治体としては、運転再開について『はい分かりました』とは言えないし、歓迎できる判断ではない。

 最悪の事態が起きた場合、市民を避難させる交通手段や経路などを考え、市民に安心してもらえるような対策をとっていきたい」

 嘉田滋賀県知事「安全基準が暫定的である以上、再稼働は電力のひっ迫期に限定するのが筋だ」

 大飯原発の運転再開に当たり、政府が打ち出している「特別な監視体制」の構成メンバーに周辺自治体の滋賀県が含まれていない点について。

 嘉田滋賀県知事「正式なメンバーとして位置づけてほしいと政府に要望してきたが、今回の国の判断は中途半端だ。ただ、情報の提供は受けられるということなので、オフサイトセンターに職員を派遣して、恒常的に情報収集に当たり、県民の不安の緩和に努めていきたい。

 日本は地震が頻発する国であり、原発の危険性を訴え続ける。滋賀県としては再生可能エネルギーの強化に力を入れていきたい」

 この再生可能エネルギー転換の主張は、〈原子力発電を徐々に減らして自然エネルギーによる発電に移行すべきという、「卒(そつ)原発」の持論〉だそうだ。

 佐藤福島県知事(県のエネルギー課を通じたコメント)、「事故の検証さえ終わらず原子力安全規制体制も確立しないなかで、国が原発の再稼働を決定したことは非常に残念だ。被災県として、一刻も早い事故の収束と県内の原発のすべての廃炉を引き続き求めていく」

 橋下市長の限定的稼動論が条件闘争発言とはなり得ない理由は再稼動賛成に重点を置いているからだろう。「大阪府の調査では自家発電のない病院が実際にあり、停電まで備えができていないのが現状だ」だと言っているが、停電があったとしても1日24時間まるまるの停電が何日も続くわけではなく、時間を区切っての計画停電であろう。

 レンタルの移動可能な大型発電機を停電時間帯の必要電力需要量を十分に賄うことのできる台数分備えることで凌ぐことができるはずだ。費用は電力安定供給の責任も負っている政府や自治体が補助すべきであろう。

 第2東名高速道工事では電気も水道も通っていない山中に工事事務所を設ける場合がいくらでも存在する。事務所はパソコンを動かす電気、冷暖房を動かす電気、照明のための電気、さらに作業員詰所の照明・冷暖房・テレビ等はすべて何台かのレンタルの大型発電機で事務所の場合は朝の7時頃から残業の夜8時9時まで連続で賄い、作業院詰所の場合は昼休みや10時・3時の休憩時間を賄っている。

 病院とは比較にならない少ない電力量で間に合うが、1台で間に合わない電力量は台数を増やすことで補うことができる。最近の発電機は静音型で、プレハブの作業員詰所のすぐ脇に置いても気にならない程だから、病院等、当たり前の建造物なら、尚更気にならない音に抑えることができるはずだ。
 
 原子力安全委員会が福島原発事故の全電源喪失を教訓として全電源喪失時に非常用電源に代わる「代替電源」の配備を安全設計審査指針に盛り込み、義務づける方針としたが、その代替電源とは電源車やガスタービン発電機、その他を予定しているということだが、この義務づけと同じ構造の、関西電力停電時の備えと言える。

 舞鶴市の避難計画が国の避難計画に準拠する関係にあることから基本となる国の避難計画の策定遅れに対応して舞鶴市の避難計画策定遅れに現れている、原発の防災対策重点地域の10キロ圏から30キロ圏拡大方針に応じた国の避難計画が未定であるために新たに重点地域指定の各自治体の避難計画が軒並み遅れているにも関わらず、政府が大飯原発再稼動にゴーサインを出したのは安全対策を置き去りにした再稼動と言えるが、このことに反して野田首相は6月8日の記者会見で、「国民生活を守るため」と、「福島を襲ったような地震・津波が起こっても、事故を防止できる対策と体制は整ってい」ることの保証を以って再稼動を容認した。

 だが、以前当ブログに一度取り上げたが、関西電力報告の「大飯原発3、4号機の安全性向上のための工程表」最終達成は平成27年度であって、安全性の全確保達成は道半ばである。

 再度取り上げてみる。

【外部電源対策】
 ・3、4号機への送電線の増強(平成25年12月)

 ・鉄塔基礎の安定性向上のための対策(24年度)

【所内電気設備対策】

 ・恒設非常用発電機の設置(平成27年度)

 ・防波堤のかさ上げ(平成25年度)

 ・建屋の扉を水密扉に取り替え(平成24年6月)

【冷却・注水設備対策】

 ・中圧ポンプの配備(平成24年5月)

【格納容器破損・水素爆発対策】

 ・フィルター付きベント設備の設置(平成27年度)

【管理・計装設備対策】

 ・免震事務棟の設置(平成27年度)

 ・政府系関係機関とのテレビ会議システムの導入(25年度)

 (以上「SankeiBiz」記事から)

 このように安全性の全確保達成が道半ばであり、将来に残している以上、「福島を襲ったような地震・津波が起こっても、事故を防止できる対策と体制は整っています」の太鼓判は、天正年間に日本の中部を震源とした天正大地震が発生、大飯原発が立地している若狭湾にもかなりの規模の津波が襲ったという文献が残っているそうだが、似たような地震・津波が若狭湾一体を襲わないことを条件として可能となる太鼓判である。

 その絶対保証がない限り、その太鼓判は東電が地震学者等が唱えた貞観年間の巨大な地震と巨大な津波の再来予測を無視して「原子力安全神話」に信を置いていたのと同じく、野田首相自らが新たな「原子力安全神話」を確立していることになる。

 巨大地震・巨大津波が発生しないことを条件とした「福島を襲ったような地震・津波が起こっても、事故を防止できる対策と体制」だということである。

 狡猾な矛盾としか言いようがない。

 橋下大阪市長が大飯原発夏場限定の再稼動容認の条件闘争を持ち出さなかったことは野田首相の「原子力安全神話」の確立とその延命に手を貸す態度と言える。

 勿論、再稼動絶対非容認の姿勢こそが野田首相が新たに打ち立てた「原子力安全神話」を打ち砕くことができる。

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