2004年10月27日、日本国海上自衛隊横須賀基地所属、ミサイル搭載護衛艦「たちかぜ」の一等海士(当時21歳)が立会川駅で飛び込み自殺した。
遺書は、家族への感謝の言葉と共に、上職の二等海曹・佐藤治を名指しし、「お前だけは絶対に許さねえからな。必ず呪い殺してヤル。悪徳商法みてーなことやって楽しいのか?そんな汚れた金なんてただの紙クズだ。そんなのを手にして笑ってるお前は紙クズ以下だ。」と、いじめを示唆する内容。
2005年1月、二等海曹・佐藤治は別の海上自衛官への暴行罪・恐喝罪で有罪判決。海上自衛隊を懲戒免職処分。
佐藤はたちかぜ艦内にエアガン・ガスガンなどを不法に持ち込み、レーダーやコンピューター機器など重要な精密機械を置く立ち入り制限地区・CIC室でサバイバルゲームに興じていたことが後の裁判で発覚。
20006年4月、遺族の両親は、「自殺したのは先輩隊員のいじめが原因で、上官らも黙認していた」と主張し、国(国家賠償請求)と佐藤を相手に計約1億3,000万円を求める訴訟を起こす。
2011年1月26日、横浜地裁(裁判長・水野邦夫)は判決において、以下の点を認定。
・ 「元二等海曹から受けた暴行などの仕打ちが自殺の重要な原因となったことは優に推認でき
る」
・ 「(当時の分隊長ら上官3人は)規律違反行為を認識しながら、何らの措置も講じず、指導
監督義務を怠った」
・ 「元二等海曹や分隊長らが、自殺することまで予見することができたとは認められない」
以上の理由により、国と佐藤に計440万円の支払いを命じた(死亡に対する賠償は認めず)
地裁判決を受け、遺族の母親と弁護団は「国と個人の両方の責任を認めたのは評価するが、予見可能性のハードルが高すぎて不当」として、即日のうちに控訴を表明。一方、杉本正彦海上幕僚長はコメントしなかった。
いじめの内容
地裁判決が認定した、佐藤による一等海士へのいじめの内容は以下の通り
・ 日常的に殴る蹴るの暴行傷害を加える
・ エアガンで撃ち、暴行傷害を加える
・ 上司の立場を利用し、視聴済みのアダルトビデオを高額で買い取らせる
(以上《たちかぜ自衛官いじめ自殺事件》/Wikipedia)
佐藤が、〈たちかぜ艦内にエアガン・ガスガンなどを不法に持ち込み、レーダーやコンピューター機器など重要な精密機械を置く立ち入り制限地区・CIC室でサバイバルゲームに興じていた〉となると、その他大勢の隊員が佐藤を怖がって傍観し、上官も薄々は気づいていながら、放任していた図が浮かんでくる。
いわば佐藤はたちかぜ内で支配者の地位にいた。職務上は艦長が全員の支配者であったとしても、職務から離れた場合と一部職務に入り込んで多くの隊員を支配していたと考えることができる。
この支配を許していたのは上官や隊員の放任・傍観の態度であったのは断るまでもない。
このことも問題だが、その他にも問題が生じた。《海自自殺控訴審:「いじめ調査結果あった」3佐が陳述書》(毎日jp/2012年06月18日 12時40分)
1士の自殺後、横須賀地方総監部が「たちかぜ」の乗員対象に「艦内生活実態アンケート」を実施した。
遺族側は提訴前、海上自衛隊にアンケート結果等の情報公開を請求する。
国側はアンケートのフォーマット(質問内容)のみを開示、実際に隊員が書き込んだ原本については破棄を理由に「不存在」と回答。
2006年4月から07年1月まで国の利害に関係のある訴訟で法相が行政職員から指定し、国側の立場で訴訟を担当する指定代理人を務めていた現職自衛官の3等海佐が、「国は関係資料を隠している」との陳述書を提出していたことが判明。
〈提訴直後に海上幕僚監部の情報公開室から「アンケート結果は存在しているが、破棄したことになっているのでフォーマットだけ公開した」との説明を受けたとしており、実際にアンケート結果も確認したという。〉・・・・
陳述書「行政がうそをつけば、民主主義の過程がゆがめられる」
失敗行為を、あるいは問題行為を責任追及を恐れて隠蔽し、事実を歪める人間が組織の上層に位置して、組織を支配していた場合、その人間の責任回避意識は組織全体の行動を時として支配することになって組織ぐるみの無責任が罷り通ったり、上の人間の指示による組織ぐるみの失敗行為の隠蔽、問題行為の隠蔽が罷り通ったりして、ついには正しい判断が追いやられることが当たり前となり、独善的集団と化さない保証はない。
さらに言うと、事実を隠蔽までして責任回避に走るのは、それを許す体質を持っていることを意味し、それが組織全体にまで影響した場合、当然のこととして組織的体質へと拡大していく。
これが軍隊であった場合、戦前を振り返るまでもなく、正しい判断の効かない非常に危険な存在となる。
当然、陳述書が言っているように民主主義に基づいた意思決定の過程は排除を受ける。
一昨日の6月21日になって、杉本正彦海上幕僚長が記者会見でアンケート結果の存在を明らかにした。調査委員会を設置して原因究明するという。
存在するものを隠蔽して存在しないとしたのは明らかになった場合は不都合な存在物だからだろう。当然、そこには責任回避行動があった。
また、上記「毎日jp」記事の、〈海上幕僚監部の情報公開室から「アンケート結果は存在しているが、破棄したことになっているのでフォーマットだけ公開した」との説明を受けた〉ということは(「47NEWS」記事によると、〈「海自が自殺の経緯を調べた後に破棄した」と国が訴訟で主張していた〉となっている)、海自ぐるみの事実を歪めるための組織的情報隠蔽だと分かる。
2004年末から7年以上も海上自衛隊という軍隊組織によって事実が隠蔽されていたということは恐ろしい事実である。
正しい事実を排除し、それを許す体質のまま今日まで来た。
自衛隊所管の森本防衛相がこの件で昨日の6月22日に閣議後、記者会見している。記事が伝えている発言は短い。
森本防衛相「今まで説明していた事実と違う点があったことは遺憾に思う」(MSN産経)
果たして単に「説明していた事実」と異なっていたということだけのの問題だろうか。一人の若者の生命に関係したことを海自ぐるみで事実を事実と扱わず、事実の隠蔽を働いていたのである。
あるいは組織として正しい判断を働かすことができなかったのである。
そのような事実隠蔽と責任回避の体質を海自が持っていたということである。隠蔽の事実があった以上、どのようにそれが行われたのか、その経緯とそれを許した体質を徹底的に究明すると言うべきところを、事務的で事勿れな発言となっている。
自衛隊は日本の軍事面に於ける安全保障のために存在する組織であるが、究極的には日本国民のために存在する組織である。当然、日本国民の利益に適う適正な組織として存立していなければならない。
情報隠蔽と責任回避を体質としていたなら、決して日本国民の利益に適う適正な組織とは言えない。
評論家で大学教授をしていたということで安全保障に関わる知識は優秀かもしれないが、国民に向ける視点、国民に向ける責任意識を欠いているようだ。
このような姿勢で沖縄の米軍基地問題を語るとしたら、同じように安全保障だけを考えた、日本国民や沖縄県民に向けるべき視点や責任意識を欠いた態度となるに違いない。