今日はちょっと趣を変えて、学校給食を取り上げてみる。
既に誰かが言っていることかもしれないが、私なりに考察を巡らしたいと思う。
府内全中学465校のうち、今年3月末までに給食が実施されているのは63校。実施率は13・5%で、都道府県別で最下位の大阪府で、新たに32市町村が府の設けた給食施設整備費補助制度を活用、給食を完全実施する方向となり、既に全校で給食を提供している9市町と、平成25年度中に完全実施を目指す大阪市を合わせると、4年後の28年度までに堺市以外の全市町村で実施されることになり、実施率は90%を超えて、全国トップクラスとなると、《中学校給食実施率、4年後に全国トップクラス 大阪府》(MSN産経/2012.4.5 22:54) が伝えている。
この記事に触れたのは発信当時であったが、暗記教育の思考性・行動性から脱して自律心や主体性、創造性を育むための教育的観点から小学校の場合は5年生と6年生が、中学校の場合は1年生から3年生までが当番制で各学年の生徒と協力し合って、栄養士の指導のもと、自らメニューを決め、自ら調理する給食制度にすべきではないかと考えた。
記事は、大阪府は昨年、当時の橋下徹知事(現大阪市長)が政令市以外の市町村に対する補助制度を創設。27年度までの5年間に限り、施設整備費用の半分や、調理器具などの購入費の補助を決め、市町村に給食実施の意向を確認していたと伝えている。
この記事からでは生徒自身に調理させるのか、業者委託なのか把握できないが、次の記事では橋下市長は生徒自身の調理に関しては何ら触れていないから、大阪市は現在の業者委託を継続するということなのだろう。
《橋下市長、最年少女性市長に「ちゃんと給食を」》(YOMIURI ONLINE/2012年4月19日15時30分)
4月18日、大津市の越直美市長が公約とした「中学校昼食実施」に向けた視察の一環で大阪市役所を訪問。橋下市長と会談、市政全般についても意見を交わしたという。
大阪市の場合、希望者に委託業者の弁当(1食280円)を提供する「昼食事業」を実施、2学期以降は学校給食法に基づく給食を段階的に開始する予定でいるそうだ。
記事が伝える両者の発言。
越市長「(学校給食を求める)保護者の要望は強い」
橋下市長「最終的には財政の問題が大きい。(中学校給食の必要性については)ちゃんとした飯を食べさせてから、『勉強だ』『体育だ』と言える」
市政運営について。
越市長「会議はいつも公開でやっているのか」
橋下市長「ちょっとした連絡事項以外はオープン。最後の意思決定を公開することで、広く関心も得られる」
〈<オープン化>を推奨した〉発言だと記事は解説している。
越市長は会談後、昼食事業が導入されている大阪市の市立中を視察、弁当を試食。
越市長(取材陣に)「現場を見られ、良かった。大津市でもアンケートするなどして、学校昼食事業を進めたい。
(会議の公開については)検討したい」
どう読んでも業者委託であって、生徒自身の調理とはなっていない。生徒が関わっている給食に於ける役目は精々のところ、給食室からズンドウの容器に献立別に料理を入れて教室に運んでいき、各生徒の食器に盛ることぐらいではないだろうか。
立命館小学校のHPに求職に関わる次のような記述がある。
〈立命館小学校
立命館小学校の給食は食育の観点を重視し、栄養面、食材、衛生面などを検討した結果、大津プリンスホテルに委託し、月曜日から金曜日までを給食日として実施いたします。栄養バランスはもちろんのことですが、学校内に設置した調理室で調理された給食を、温かいものを温かく、冷たいものを冷たいものとして、おいしくいただいています。
給食委託先 大津プリンスホテル
給食費 年間125,000円〉・・・・
なかなかに贅沢な業者委託で、毎日がおいしい給食となっているに違いない。
だが、いくらおいしい給食であっても、業者委託で専門の調理人が作った料理をただ食べ、味わうのは上が与えた知識・情報を機械的に受容する暗記式教育と何ら変わらない味わいで終わる。
知識・情報と食べ物の違いはあるが、食べ物にも知識・情報は常に付随して存在する。業者が与える料理の各材料が持つ値段や栄養価や産地等々の知識・情報、あるいは調理方法そのものの知識・情報は業者が作った給食を単に食べ、味わう機械的習慣からは伝わってこない。
伝わってくるのは今日の献立は何だった、材料は何を使ってある、美味しかった、まずかった程度の表面的な知識・情報にほぼ限られる。
少なくとも暗記教育と同様に各材料が持つ値段や栄養価や産地等々の知識・情報を自分の知識・情報とするところまでにはいかないはずだ。
調理には時間が掛かる。当番となった生徒は朝から給食室に入って、調理に専念する。その日のメニューは前の日の調理が終わってから栄養士と相談して決め、生徒自身が材料を業者に電話して注文する。
自分たちでメニューを決め、美味しい料理の作り方を心がけること自体が創造性の育成となる。その繰返しを行なっているうちに新しいメニューに挑戦する意欲が自然と湧くはずだ。他の当番の料理に対抗して、より美味しい料理、より新しいメニュー作りに意欲を燃やすこともあるはずだ。
食べる側の生徒も自身も当番になったときは給食作りに携わる関係から、当番が作った給食のそれぞれの材料が持つ様々な知識・情報に無頓着ではいられなくなり、関心を持つようにもなるはずだ。
当番となったとき、午前中の4時限分は授業に参加できないために、その間の知識・情報の入手は不可能となり、結果、勉強に遅れることになる。
例えそうなったとしても、高々暗記教育のコマ切れの暗記知識でしかない。体系立った統一的な知識・情報を形成するような教育を受けているわけではない。
4時限分を月に1回か2回そこら抜かしたとしても、大したことはないはずである。
その証拠に小学校・中学校の成績が悪くても、高校・大学と伸びていくケースもある。小学校・中学校の成績が如何に当てにならないかを物語っている。
勿論、逆に小学校から始まって以降成績がぐんぐん伸びていき、社会に出て大成するケースも多々あるだろうが、その多くが創造性の育成を遮断した暗記教育による暗記知識を基本とした機械的思考性・機械的行動性に優れているというだけのことであろう。
だから、建築家安藤忠雄から、自分の建築事務所に採用した、多分東大生や京大生を指してだろう、「言われたことはやる。だけどそれ以上のことはやらない」などと言われることになる。
上の指示では動くが、それも上の指示の範囲内の動きであって、その範囲を超えて自分で発想して、自ら進んで行動する創造性の欠如を言ったのである。
自分で授業に参加できなかった4時限分の不足をどうしても埋めたいと言うなら、それぞれの自習で補うのもよし、あるいは教師の計らいで授業内容をボイスレコーダーに録音し、それを何本かのテープに複製して、その日の給食当番担当の生徒に渡せば、家で授業を疑似体験できる。
何よりも給食という名の料理づくりに携わったり、新しいメニュウへの挑戦で学ぶことのできる創造性の取得と、給食材料を自ら手に持ち、それを食べ物へと替えていく過程で、それらが持つ様々な知識・情報を生きた知識・情報としていく知識・情報の自分化は、自らの体験によって得た何ものにも代え難い貴重な知的財産となるはずだ。
創造性は自ら学ぶ姿勢から生まれる。自ら学ぶ姿勢は挑戦の精神によって裏打ちされる。故に優れた創造性は優れた挑戦の精神と相互関連する。(私自身には両方共ないが。)
一つの分野で、それが給食作りであっても、挑戦することを学び、創造性を育むことに成功したなら、その経緯は自らに喜びを与える肯定的な体験として進んで記憶することになるだろうから、他の分野でも、関心さえ持ちさえすれば、同じ経緯の再体験を欲し、自ずと創造性を発揮することになる。
そこから創造性発揮の連鎖が生まれるが、基本は先ずは一つの分野で創造性を発揮する機会を得ることであろう。
スポーツや芸能等の一つの分野で優秀な才能を発揮している人材が他の分野、例えば料理や絵画、あるいは陶芸の分野等で優れた才能を発揮しているケースがあるが、これも一つの分野に於ける創造性の発揮が別の分野への創造性発揮の連鎖が招くことになっている例となる。
子供たちが小学生の頃から給食料理に関わることによって、将来的な夫婦関係もかなり変化するはずだ。現在、料理が殆どできない若い女性がかなり多い。しかも料理・生花が女性にとっての嫁入り道具ではなくなって久しい。子供の頃から母親の家事を手伝わない習慣から、料理経験のないまま大人の女性に成長した影響が子どもの朝食抜きであったり、コンビニ弁当の宛てがいであったりするはずだ。
女性がそうだから、ましてや男性となると、家事経験なし、料理経験なしは相当数にのぼるだろう。この影響が結婚しても家事・育児を手伝わない男性の姿となって現れ、家事・育児の一方的な女性の負担という不公平な偏りを見せることになっている。
また、このようなことが《男性の育児休業 増加するも低水準》(NHK NEWS WEB/2012年4月27日 8時24分)が伝えていた男性育児休業の低水準となって現れているはずだ。
2011年10月時点での、
男性育児休業取得率――前年+1.3ポイントの2.6%
女性育児休業取得率――前年+4.1ポイント87.8%
男性の場合、平成8年調査開始以来の最高率だそうだが、決して自慢できない数字であると同時に如何に女性に一方的に負担が偏っているかが理解できる。
従業員500人以上事業所
男性育児休業取得率――2.9%
女性育児休業取得率――91.4%
従業員30人未満事業所
男性育児休業取得率――1.8%
女性育児休業取得率――83.3%
この事業所規模の大小に連動した育児休業取得率の多い少ないは育児負担の男女格差のみならず、企業規模格差の不公平をも生じせしめていることが分かる。
厚生労働省「男性はほとんどの人が取得していないのが現状だが、育児休業を取得させている企業に助成金を支給する制度を周知するなどして、育児を積極的に行う男性”イクメン”を支援していきたい」
カネで尻を叩く方法は会社から指示された育児としての機械的動作を促進するかもしれないが、自ら進んで行う自律性も主体性もキッカケとしないことから、創造性な取り組みはあまり期待できまい。
助成金がありながら、男性の育児休業取得促進の状況となっていないということは助成金そのものが効果を産んでいないことの理由の一つとなっているはずだ。
会社組織に於ける上からの権威主義的な力が業務に関わる行動を縛る暗黙の圧力となって働いていて、それが助成金を無力としていることが原因であろう。
子供たちが給食料理に携わる教育制度を設けたとしても、それが暗記教育と同じ機械的な料理作業に終わった場合はたいして意味もなく、その多くが家では家事を手伝わない、高校に入ったら、料理する機会も持たなくなるといった結末を迎えることになるだろうが(勉強するという習慣自体が学校を卒業して社会に出ると、職業で必要とする以外はその習慣を忘れてしまうことが多い。)、生徒自身が自律的・主体的に自ら進んで取り掛かり、創造性の育成にまで進めることができた場合、男女に限らずに、男女平等に向けた社会変革の力となり得るはずである。