野田首相の政治が希望を与えていない中での後生楽な「五輪の活躍は被災地に勇気」の壮行会挨拶

2012-07-22 12:21:22 | Weblog

 7月21日(2012年)、ロンドンオリンピック日本選手団結団式と壮行会が東京都内で開催され、野田首相が挨拶に立った。

 《野田首相“五輪の活躍は被災地に勇気”》NHK NEWS WEB/2012年7月21日 19時15分)

 野田首相「日本代表となった誇りを胸に、フェアプレーで堂々と戦ってほしい。真剣勝負の筋書きのないドラマは、多くの人たち、特に被災地で歯を食いしばって頑張っている皆さんに大きな勇気を与えるものだ。

 皆さんがロンドンで立派な成績を残し、メダルを獲得することは、東京オリンピックの実現にも直結するものだ。そのことを胸に刻んで頑張ってほしい。政府も招致のために全力を尽くしていく」

 何とまあ、後生楽な挨拶であることか。

 《ロンドン五輪:活躍願いがれきメダル…被災地の子が手渡す》 
毎日jp/2012年07月22日 00時14分)

 記事題名の「がれきメダル」とは、壮行会に招待された被災地宮城県石巻市・牡鹿中生徒約30人がお守りとして選手に手渡したがれきの中の木材などをもとに作ったメダルのことを指す。

 野田首相「折れない心は人々に勇気を与える。東日本大震災の被災地で懸命に歯を食いしばり、復興へ向かう皆さんに勇気を伝えてくれると確信している」 

 果たして政治は被災地の住民のみならず、日本全国の多くの国民に勇気と希望を与えているのだろうか。

 各マスコミの世論調査を見る限り、野田政権が発信している今の政治が国民に勇気と希望を与えていないことの反映値として現れているはずだ。

 政治が国民に勇気と希望を与えていないにも関わらず、与えることができないその主が、オリンピック出場選手に与えることの代理を依頼する。例え金メダルをたくさん取って、勇気と希望を与えたとしても、いっときの感動で終わり、待ち構えていて再び還ることを余儀なくされる勇気と希望のない現実が控えていることに気づきもしない。

 特に高齢者の場合、日常としていた生活習慣が奪われ、住まいの様式が奪われ、自分が食するだけの野菜作りといった農作業やその他の仕事が奪われ、地域の仲間と絆が奪われて、ここに来て認知症の発症、進行が増加し、被災地では深刻化しているという。

 だが、国や自治体の支援が十分ではなく、本人や家族や周囲の人間の希望を奪い、勇気を萎えさせている。

 被災3県1880万トンの瓦礫の埋め立てや焼却処理完済は政府の2014年3月末処理完了目標に対して震災から1年4ヶ月経過時点で382万トン、全体の20%の進捗率だという。

 「NHK NEWS WEB」記事によると、国の除染モデル事業の結果を今6月に公表したが、農地年間328ミリシーベルトから65ミリシーベルト、 宅地年間290ミリシーベルトから76ミリシーベルトと除染できたものの、いずれも政府が目安とした年間50ミリシーベルトを上回っていたという。

 目に見える効果が上がらない中、政府は7月13日に「福島復興再生基本方針」を閣議決定、国の責任で安全の一つの目安としている年間被曝量1ミリシーベルト以下の除染を盛り込んでいる。

 国の除染モデル事業で目安とした年間50ミリシーベルトを上回った状況で、年間被曝線量を1ミリシーベルト以下に抑える。気の遠くなるような時間軸の中で希望や勇気はプラスの方向に働く力がマイナスの方向に働く力よりも強いと言えるのだろうか。

 除染の目に見えた進行と瓦礫処理が完済しないことには風評被害は尾を引き、延々とついて回ることになる。当然、被災地の農漁業の活性化は遠い道のりを取ることになる。

 1日も早い復興が待ち望まれるのに反して、2011年度復旧・復興関連予算14兆9243億円のうち、年度内に使い切れなかったのは約4割に当たる5兆8728億円にものぼったという。《【東日本大震災】復興予算どうして余るのか》SankeiBiz/2012.7.21 20:16)

 余剰金5兆8728億円のうち、1兆1034億円が不用になったと書いてある。

 事業の遅れが余剰金や不用金の原因となっていて、事業の遅れは主として各問題対処の専門性を持った職員不足が原因だとしているが、問題は原因が分かっていながら、原因解決の早急な手を打つことができない迅速性を欠いていることではないだろうか。

 各被災自治体に於いても一度に多くの死者を出し、専門的職員不足は早い時期から言われていた。対して国や被災地以外の自治体から即戦力の公務員OB等を任期付き職員として採用、応援に派遣しているが、それでも不足しているという状況に対してそれ以上の職員派遣は元の官公庁や元の自治体の業務に支障をきたすと言うことなら、自治体の各専門性に対応した専門性を持った民間企業退職者を公務員OBに代えて臨時に採用するなり、あるいは専門的派遣職員1人に所属してその手足となって必要なだけ複数で動く補助職員として大学生や大学院生をインターンシップの形式で大量採用するという手もあるはずである。

 暗記教育に慣らされて指示されなければ動くことができない大学生や大学院生なら困りものだが、暗記教育に慣らされていない自発的・主体的に動くことができる大学生、大学院生なら、一を知って十を知る自発性を発揮、短期間のうちに飲み込み早く専門知識を習得していき、役に立つ人材となっていくはずだ。

 復旧・復興予算の剰余問題に戻るが、国土交通省の災害公営住宅等整備事業費(1116億円)はほぼ全額の1112億円が「不用額」となったという。

 原因は自治体が街づくりの計画を決めるのに時間がかかったために用地確保が進まず、事業を実施できなかったからと国交省の説明を記述しているが、それ以前の問題として、被災して価値が極端に下がった土地の処理がネックとなっていたはずである。

 移住したくても、土地が元手とならない、ローンを組んでも元手をつくるだけの財産もないし、年齢的にも無理だ、仮設住宅以外に行くところがないといった被災者が多くいるはずで、先ずはその問題を解決してからではないままに、いくら国が予算を組んでも、勇気も希望も湧かないことになる。

 財務省「学校の復旧費など被害額が想定より少なかったケースもあった。過去にない大震災だったので予算を多めに計上した側面もある」

 だから、余った。聞こえのいい弁解だが、被害額をより正確に計算しなかっただけではないのか。要するに予算設計の手を抜いた。この手順を厳格に踏んでいたなら、大きな違いは出ないはずだ。踏んでいなかったからこそ、「予算を多めに計上」することになる。

 ドンブリ勘定だったということである。

 地方自治体に対する国の補助金制度で、多くの自治体がその剰余金を出入りの業者に預け金として一時預かりの隠し金とし、必要に応じて戻す迂回利用が問題になったことがあったが、補助金が正当に支出されているか国の精査を怠ったからこその業者預け金であって、このことも予算設計の手抜きに当たる。

 この手抜きが慣習化していない保証はどこにもないことは予算適正支出の事業仕分けを必要としていることが証拠立てている。

 復旧・復興関連予算が有効に活用されていないということは復旧・復興が有効な形で進捗していないことを示しているはずで、岩手県が4月公表の県民対象2~3月実施の「東日本大震災津波からの復興に関する意識調査」では、県全体の復旧・復興の実感は半数以上の県民が復旧の遅れを指摘、その実感を持てないでいるとしていることにも現れている、勇気と希望を殺いでいる復旧・復興の遅れであろう。

 二重ローンの官民一体策定個人向け救済制度にしても、開始から7ヶ月めの2012年4月の時点で年間目標の約2%の低い利用率も、原因が何であっても、二重ローン問題が満足に解決していない、勇気と希望とは程遠い状況にあることを示している。

 被災者が真に望んでいることは楽しい時間潰しにはなるし、感動も与えられるだろうオリンピックテレビ観戦であるよりも、政治が各問題解決の有効な政策の遂行を受けた着実な復旧・復興の歩みであり、そのことを通して直接的に被災者に勇気と希望を与えることにあるはずである。

 政治が満足にそのことができていないにも関わらず、その責任者たる野田首相が「剣勝負の筋書きのないドラマは、多くの人たち、特に被災地で歯を食いしばって頑張っている皆さんに大きな勇気を与えるものだ」と自らの責任を直視もできずに後生楽にも言うことができる。

 野田首相は7月10日の参院予算委員会で米エネルギー省が3月17日から3月19日にかけて航空機を使用、福島上空の放射線量を測定、作成した地図を3月18日と3月20日に日本外務省に提供したものの日本側が公表せず、被災者は地図が示していた放射線量の高い地域に一時避難していたことが判明、そのことを謝罪した。

 野田首相「関係機関の連携、情報共有が不十分で、住民の命を守るために適切に情報公開する姿勢が希薄だったことは大きな教訓だ。浪江の皆さまにご迷惑をお掛けしたことをおわびしたい」(時事ドットコム

 政治が果たすべき責任の果たさないことの責任は重い。その責任も果たしていない状況下で、被災者やあるいは国民に希望と勇気を与える縁(よすが)を日本人オリンピック選手の活躍に頼っていていいはずはない。

 責任を果たしていてこそ、その人間こそがオリンピック選手の活躍によるさらなる希望と勇気の付与を期待する資格を有するはずだ。

 自身の責任を棚に上げた、後生楽な挨拶としか言い様がない。

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