
自民党が着々と歴史修正の作業を進めようとしている。これは安倍晋三の歴史修正欲求を受けた作業であるはずだ。
歴史認識に於いて安倍晋三と常に添い寝し合っている自民党政調会長稲田朋美の2015年6月18日の自民党本部での記者会見。
金友記者「共同通信の金友です。GHQの占領政策の検証を始められるという報道がありますが、具体的にはどういった検証を、どういった目的で始めようとお考えなのか、教えてください。
稲田朋美「GHQということに限らず、党内でいまやっております日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会であったり、4月28日を主権回復記念日にする議員連盟であったりの参加議員から、何を日本として反省するかということを含めて、1928年すなわち不戦条約以来の日本の歩みについてきちんと検証することが必要だという意見があったり。
また4月28日の議連はサンフランシスコ平和条約が発効した4月28日までの6年8カ月の占領期間において何が行われ、また憲法の制定過程も含めて、そういったことをきちんと検証をする必要があるという提案をいただいていますので、そういったことをきちんと検証することが必要であろう、というふうに思っております」
金友記者「いつ頃どういった形で、というのは現時点で何かありますでしょうか」
稲田朋美「やはりいま日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会で、これは特に慰安婦の問題を中心に取扱っているんですけれども、この提言がまとまって以降に考えています」――
「6年8カ月の占領期間において何が行われ、また憲法の制定過程も含めて、そういったことをきちんと検証をする必要があるという提案をいただいていますので」と言っているが、安倍晋三も2012年4月28日自民党主催「主権回復の日」に寄せたビデオメッセージで同じ趣旨のことを発言している。
安倍晋三「皆さんこんにちは。安倍晋三です。主権回復の日とは何か。これは50年前の今日、7年に亘る長い占領期間を終えて、日本が主権を回復した日です。
しかし同時の日本はこの日を独立の日として国民と共にお祝いすることはしませんでした。本来であれば、この日を以って日本は独立を回復した日でありますから、占領時代に占領軍によって行われたこと、日本はどのように改造されたのか、日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか、もう一度検証し、そしてきっちりと区切りをつけて、日本は新しいスタートを切るべきでした。
それをやっていなかったことは今日、おーきな禍根を残しています。戦後体制の脱却、戦後レジームからの脱却とは、占領期間に作られた、占領軍によって作られた憲法やあるいは教育基本法、様々な仕組みをもう一度見直しをして、その上に培われてきた精神を見直して、そして真の独立を、真の独立の精神を(右手を拳を握りしめて、胸のところで一振りする)取り戻すことであります」――
安倍晋三の占領政策や占領軍に関わる歴史認識を反映させた稲田朋美の占領期間の日本に対する歴史修正的な検証精神か、あるいは双方の歴史認識を相互に反映させ合った双方の歴史修正的な検証精神と言うことができる。
稲田朋美が「占領軍によって作られた憲法」と言って、否定性を持たせた検証対象に加えていることも安倍晋三の歴史認識と相互関連し合っている。
安倍晋三「憲法を戦後、新しい時代を切り開くために自分たちでつくったというのは幻想だ。昭和21年に連合国軍総司令部(GHQ)の憲法も国際法も全く素人の人たちが、たった8日間でつくり上げた代物だ」(2013b年4月25日産経新聞インタビュー)
日本国憲法を「たった8日間でつくり上げた代物だ」と、日本国憲法を卑しめる言葉を使って占領時代の日本の歴史に対する修正欲求を露わにしていて、歴史認識に於いて安倍晋三と稲田朋美が一心同体だと分かる。
稲田朋美の2015年7月30日の自民党本部での記者会見。
他の記者会見でも同様の質問を受けているのかもしれないが、変わるわけではない稲田朋美の歴史認識に基づいた検証の説明だから、左程発言内容に違いはないはずで、新聞記事を案内とした記者会見以外はチェックの対象から外している。
以下の記者の質問は稲田朋美が6月18日の記者会見で占領政策の検証は慰安婦の問題を中心に扱っている「日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会」の提言が纏まってからスタートさせると発言していたことを受けて行われている。
福田記者「読売新聞の福田です。慰安婦が終わった後も、GHQ政策についても議論を行う予定と伺っているのですけれども、議論の進捗状況を教えていただけますか」
稲田朋美「まず、特命委員会の提言をまとめるということは、非常に重要だと思っています。あとGHQに関係なく、私は、いわゆる戦争に関わる東京裁判で認定された事実関係を、きちんと日本人自身が検証して、反省すべきことを反省して、将来に活かしていくことが、必ずしもできていないと思います。また、占領期間のことに関しても、きちんと総括をするための党としての機関というのは、作るべきだというふうに考えております。ただ、その構想ですとか、人選ですとか、時期ですとかについて具体的に考えているわけではありません」――
占領期間を総括する党の機関を立ち上げると言っている。
自民党は2015年11月15日に立党60年を迎えた。そしてその式典を11月29日に開催、その日に歴史検証の機関、自民党総裁安倍晋三直属の「歴史を学び未来を考える本部」を立ち上げた。本部長は幹事長の谷垣禎一。
立党60年を機会に自民党総裁としての安倍晋三直属の歴史検証党機関を発足させたと言うことは非常に象徴的である。何を象徴させているかと言うと、歴史修正の強固な意思と強固な決意、強固な使命感、全党的姿勢をであり、そして安倍晋三がそれを主導する地位に鎮座したということは、一方で稲田朋美等の強力な支援を受けて安倍晋三自身からの意向といった形を取り、他方で周囲自体が力を得ている安倍晋三の意向に添うという形を取るなどして相乗的な同調を見せることになって、安倍晋三自身の歴史修正観の支配を受けるであろうということの象徴としてである。
立党60年式典で安倍晋三は次のように挨拶している。
安倍晋三(60年前の立党の目的について)「憲法改正、教育改革、行政改革といった占領時代につくられた様々な仕組み、その仕組みを改めなければならない。こう決意を致しました」(asahi.com)
立党以来の歴史修正の悲願であり、立党60年を機会に安倍政権で歴史修正の悲願を成就させる。
2015年12月3日の自民党本部での稲田朋美の記者会見。
橋本テレビ東京記者「テレビ東京の橋本です。立党60年式典と同じ日に立ち上げられた『歴史を学び未来を考える本部』についてお伺いします。政調会長は、国家の名誉を守るというのが政治家としての原点と伺っていますが、『歴史を学び未来を考える本部』はそのような政治信条につながるようなものなのでしょうか。今回の組織をなぜ立ち上げたのか、というところについてお考えを教えていただけますか」
稲田朋美「私は、歴史というのは客観的な事実が全てだと思うんです。客観的事実が何であるかということに則って、歴史の認識の問題は、それぞれが発信をすべきだというふうに思っています。私は弁護士時代から、違うこと、事実でないことについて、事実ではないということはしっかりと言うべきであると、それが名誉を守ることであると、そういう趣旨で発言をしてきたところです。
今回、立党60年を機に、『歴史を学び未来を考える本部』というのを、党の中の正式な機関として作ったわけです。戦後70年ということで、総理も有識者会議を開かれて、しっかりと世界の中の日本というものを認識したうえで、今回談話を出されました。
それは政府だけではなくて、やっぱり党の国会議員それぞれが、客観的な事実、そして世界の中で日本がどういう歩みをしてきたかということをしっかり勉強したうえで、未来に活かしていくことが、本当の反省をするという意味においても、私はすごく重要なことだというふうに思っております。
わが党は、ご承知の通り、独立を回復してから3年後に立党した党でもありますし、『党の使命』の中にも、占領政策の中で得たもの、そして失ったものもある、その中で日本を取り戻していこう、ということも書いてあるわけです。私はそういった歴史を、それぞれ党の国会議員が勉強したうえで、そしてそれぞれ何を活かすかということを考える。そういう本部になればと思っています」――
「歴史というのは客観的な事実が全てだ」と言っているが、歴史を紡ぎ出す人間営為の全てが客観的事実に基づいて歴史を紡いでいるわけではない。ときには主観的な解釈を忍び込ませて歴史を紡ぎ出すから、人によっては歴史の解釈が異なるという歴史の始末の悪さが生じることになる。
だからこそ、安倍晋三たちは自分たちの歴史解釈で占領時代を検証して、それを公式的な歴史認識にすべく熱望しているということであろう。
人間はときには客観的事実を主観的に解釈して客観的事実に基づかない行動に走り、ときには主観的事実を客観的事実と勘違いして正しいこととして行動する。
だが、このようなことを理解せずに「歴史というのは客観的な事実が全てだ」と主張して歴史を自分たちの解釈を通して検証した場合、検証した歴史を全て客観的事実だと装わせることになって、それを以て日本の歴史だと強制することも可能となり、非常に危険な状況をつくり出さない保証はない。
このことは日本軍による従軍慰安婦の強制連行と強制売春は歴史的に存在しない事実だとしていることに既に現れている。
問題は安倍晋三直属の「歴史を学び未来を考える本部」がしようとしていることは安倍晋三の総理大臣としての国会答弁等の発言を真っ向から矛盾しているということである。
2013年4月26日衆院内閣委員会。
安倍晋三「私は歴史認識に関する問題が外交問題、政治問題化されることは勿論、望んでいない。歴史認識については政治の場に於いて議論することは結果として外交問題、政治問題に発展をしていくわけで、だからこそ歴史家・専門家に任せるべきだろうと判断しています」
2013年5月15日参議院予算委員会。
安倍晋三「いわば私は行政府の長としてですね、いわば権力を持つ者としてえー、歴史に対して謙虚でなければならない。このように考えているわけでありまして、えー、いわばそうした歴史認識に踏み込むことは、これは抑制するべきであろうと、このように考えているわけでございます。
つまり、えー、歴史認識については歴史家に任せるべき問題であると、このように思っているわけでございます」
2015年3月18日参議院予算委員会。
安倍晋三「まさに今委員が指摘をされました、先の大戦に至る日本の歴史自体を総括すべきではないか、私はそのとおりだろうと考えています。しかし、それはあくまでも基本的には有識者、学者、歴史家にまずは委ねるべきだろうと、このように考えるわけでございます。政府にいる我々がそうしたことについての発言は直ちに政治・外交問題化するわけでございまして、結果として、言わば歴史的な、冷静な、冷徹な分析に至ることは難しいということになってしまうと」
ここで「政府にいる我々が」と断って、歴史を検証すべきではない行為者を政府の人間に限っているが、党と政府が一つの認識に関して一体となる場合は党の人間もすべきではない行為者の内に入れなければならない。
主として占領時代の歴史検証を目的とした「歴史を学び未来を考える本部」はアドバイザーに「安倍晋三戦後70年談話」作成に関わった有識者懇談会の大学教授などをメンバーに加えているようだが、安倍晋三直属であり、本部長が自民党総裁の谷垣禎一としていることと、「安倍晋三戦後70年談話」がそうであったように安倍晋三の歴史修正観が支配的に働くことは目に見えていることを考え併せると、明らかに政治家主導の歴史検証機関であり、純粋に歴史家・専門家に任せた機関と言うことはできない。
いわば歴史、あるいは歴史認識は「歴史家・専門家に任せるべきだ」との原則を常に言い続け、なおかつ政府と党の政治家を歴史検証の行為者から外すべきだとしていながら、政治家主導の歴史検証の組織を立ち上げたことは自身がこれまで発信してきた自らの言葉・自らの原則の裏切りを示す証明としかならない。
一国の指導者である。このように言ってきたことと矛盾する行動は国民に対する裏切でもあり、許されるはずはない。安倍晋三は歴史認識は歴史家に任せるのか、政治家に任せるのかはっきりさせてから、歴史検証を始めるべきだろう。
もし後者であるなら、党が検証し、決めた歴史とするのではなく、自ずとそうなるのだから、自らの歴史修正観を反映させていることを認めなければならない。