2011年3月11日発災から4年3カ月後の2015年6月に東北経済産業局が被災企業の再建支援目的の「グループ補助金」受領企業を対象に行ったアンケート結果を2015年12月11日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。
この調査は毎年行っているものだそうだが、但しこの記事には回答事業者数のみが記載されていて、いくつの事業者にアンケートを行ったのかは出ていない。この記事を水先案内として東北経済産業局のサイトにアクセスしてみた。
『第5回グループ補助金(中小企業等グループ施設等復旧整備補助金)交付先アンケート調査』(東北経済産業局/平成27年6月実施)
アンケート依頼は平成23~26年度グループ補助金交付先8569事業者。回答事業者は6097社(71.2%の回答率)。
かなりの回答率だから、「グループ補助金」を受けて再建を図った企業の復興に関わる最新の進捗状況が把握できることになる。
東北経済産業局の記事から業種別の内訳を見てみる。
卸小売・サービス業の事業者―36.4%
製造業―19.0%
建設業―13.6%
この3業種で70.3%
資本金区分別事業者割合
5千万円~1千万円未満―34.3%
個人事業主――22.6%
500万円~300万円未満―16.2%
この3区分で73.1%
資本金3億円以下からが中小企業の分類だから、資本金が5千万円以下から300万未満以上+個人事業主と言うことなら、対象事業者は従業員も含めて一般的な生活者により近い存在か一般的生活者そのものと言うことができるだろうから、アンケート結果は社会の中間以下の生活実態もを反映していることになるはずだ。
調査結果は「NHK NEWS WEB」記事の画像を少し加工して載せておいたが、一応文字で書き入れておく。
「震災直前の水準以上に売り上げが回復した」と答えた企業は44.8%(昨年比+4.6ポイント)
「売り上げが震災直前の半分以下」と答えた企業は30.8%(昨年比+6.5ポイント)
回復した企業
建設業75.8%
運送業52.9%
製造業43.9%
建設業が75.8%も占めているのは復興特需に関係しているからであり、運送業も使用していた機械類の新しい工場への運搬や、古い機械が使えなくなって新しい機械の搬入等、復興特需に関わっている側面を考えることができる。
となると、製造業の43.9%も、復興特需の恩恵の影響も無視できないはずだ。
半分以下の企業
卸小売・サービス業37.8%
水産・食品加工業34%
復興特需に左程関与できる業種には見えない。
となると、復興特需の恩恵を受けることができたかどうかが明暗を分けたと見ることができる。
東北経済産業局「復興需要の減少などで競争が激しくなるなか、業績の二極化傾向が鮮明になっている。販路の開拓など長期的な課題への支援を続けたい」
「復興需要の減少」と言っているが、減少にも関わらず「震災直前の水準以上に売り上げが回復した」と答えた企業が44.8%、約半数も存在する。例え復興需要が減少していたとしても、特需の恩恵を受けて再建のレールに乗れたかどうかが再建ができたか、できなかったかを分けているように見える。
石原慎士石巻専修大学教授「業績が伸び悩んでいる企業は生産設備などの復旧に時間がかかっている間に販路を奪われたケースが多く、復旧までのスピードが影響しているみられる。二極化が進むと売り上げが減少した企業の雇用にも影響し、結果として地域から人口が流出してさらに復興が遅れてしまうおそれもある」――
業績の伸び悩みは「生産設備などの復旧に時間がかかっ」たことが原因だとしているが、だとすると、事業者が復旧整備補助金を有効に活用する能力がなかったのか、あるいは補助金が少な過ぎたり、支払いが遅かったりして有効に活用できる状況になかったのか、そういったことが理由となって、「復興需要の減少」云々はやはりさして関係ないことになる。
石原教授は人口流出等を原因とした雇用の影響に触れているが、上記東北経済産業局のページに雇用についての分析が載っている。
〈雇用の動き
震災直前と現在の雇用を比較すると、東北地域においては、55.2%の事業者が震災直前の水準以上まで雇用が回復しており、44.8%の事業者は雇用が減少していると回答している。
業種別に見ると、震災直前の水準以上まで雇用が回復していると回答した割合が最も高いのは建設業(67.7%)であり、次いで卸小売・サービス業(58.7%)となっている。
一方、震災直前の水準以上まで雇用が回復していると回答した割合が最も低いのは水産・食品加工業(37.0%)であり、次いで旅館・ホテル業(45.8%)となっている(その他を除く)。〉――
震災直前の水準以上まで雇用が回復していると言っても、半数を少し超えた55.2%に過ぎない。しかも雇用減少の事業者が44.8%と半数に迫っている。
大体がいつかは幕を閉じることになる復興特需頼み・復興需要頼みをいつまでも続けることはできないことは前以て分かっていて、そこからの自立やそれらに頼らない自立があってこそ真の再建と言うことができるはずだが、東北経済産業局は「復興需要の減少などで競争が激しくなるなか、業績の二極化傾向が鮮明になっている」などと、復興需要を起爆剤扱いとした再建としているから、こういった発言になるし、起爆剤に乗れた業種だけが再建を果たし、復興特需に無関係な位置にいて起爆剤とすることのできない業種が再建に遅れを取る二極化が起こることになる。
ここに問題の根があるはずだ。
逆説するなら、安倍政権の被災地の復興政策が全体的に見ると、復興特需頼み・復興需要頼みとなっていたということであるはずだ。
2014年12月1日、衆院選挙公示日を明日に控えて日本記者クラブで午後1時から8党首による党首討論が行われた。一度ブログに取り上げた遣り取りだが、1年後の、復興がどの程度進んでいるか見るために再度取り上げてみる。
星浩朝日新聞社特別編集委員「小沢さんにお伺いします。被災地の出身でありますが、3年半以上、4年近く経とうとしております。この間のですね、対策に対しての住民の方々からも苛立ちと言うか、不満も出ております。ご覧になってですね、欠けている点。その原因は一体小沢さんの見方を聞きたいと思います」
小沢生活の党代表「ハイ、あのー、根本的には私ども統治機構の大改革、行政の大改革ということを主張しておりますけども、これが本質的な原因だと私は思っています。と言いますのは、結局、復興庁なんかもつくりましたけれども、窓口が二つできただけで、あとは所管官庁がみなそれぞれ、建設だの色々なことをやって、今までと何も変わっていないわけですね。
ですから、地元の意見としては、本当に自由に、自主的に使えるお金を交付して貰えるならば、地元の色んな事情。岩手県と宮城県と福島県、それは違うわけですから。あるいは各町村によっても違うわけです。
そういう自主的な財源をきちんと交付して貰えば、もっともっと知恵を活かし、効率的にやることができるという声が強いんです。ですから私どもの主張する統治機構の大改革ちうのは、大変な難問題ですから、すぐにできるとは思っていませんが、せめてこの震災の特別な機関(期間?)だけでもそういう自主財源として、地元に交付して、あなたたちの知恵を出して工夫をしていい街づくりをやってくれというような今のタテ割りの官庁の補助金を中心とした、この遣り方をやめて、復興に当たらせたら、もっともっといい、素早く、そしていい街作りが可能になったと思っております。そこはちょっと私は残念だと思います」
小沢氏の主張は被災地それぞれ事情や条件が違うのだから、カネ・政策共に地方の創意工夫に任せて欲しいということであり、現在安倍晋三が言っている地方創生に相当する。
一問一答形式だから、この遣り取りはこれで終わりだが、安倍晋三が橋本五郎読売新聞特別編集委員の質問に答えてから、小沢氏の主張に間接的に答える形で復興について言及している。
安倍晋三「復興について一言言わせて頂きたいんですが、我々が政権に復帰した際はですね、例えば、高台移転や公営災害住宅、全く計画すらなかったんですが、全ての計画をつくりました。
それはタテ割りを廃して、現場主義を徹底したからであります。今、えー、高台移転、95パーセントで着工してます。計画は全部できました。そして、えー、災害公営住宅も90パーセント、約90パーセント着工しています。
そして、仕事、生業(なりわい)についても、間違いなく、ま、進んでるわけでありまして、私も毎月被災地を訪問しておりますが、2年前と比べてですね、何もなかったところにやっと槌音が聞こえて、仕事ができ、段々笑顔と希望が戻ってきたのは間違いありませんが、ただですね、ただ、同時にですね、まだまだこの復興は道半ばであることは事実でありますし、20万人以上の方々がですね、困難な生活を余儀なくされていますから、しっかりとですね、そういうものも私は進めていきたい、こう思っております。ま、私も復興についてもですね、もっとここで議論すべきではないかなあと、このように思います」――
かつてのブログに次のように書いた。〈東日本大震災が発災したのは民主党政権が2009年9月16日発足から1年半後の2011年3月11日のことで、それから2012年12月26日に自民党政権に変わるまでの約1年9カ月は岩手県で平年の11年分、宮城県は19年分のゴミに相当する瓦礫処理、そして仮設住宅建設、さらに道路復旧等のインフラ整備に自治体共々に手一杯であったのであり、高台移転や公営災害住宅に取りかかる時間と人員を欠いていた。それが実情であ〉り、〈安倍政権は民主党政権によって建物やインフラ、生活等々の破壊状況に一応の整理がついた有利な場所から引き継いだのである。〉と。
それを民主党政権は復興に手付かずであったかのように言う。盗っ人猛々しいとはこのことだろう。
いずれにしても安倍晋三は、「復興は道半ばであることは事実であります」と言いながらも、「タテ割りを廃して、現場主義を徹底した」ことが復興の万能を保証するかのように言い、「仕事、生業(なりわい)についても、間違いなく、ま、進んでるわけでありまして、私も毎月被災地を訪問しておりますが、2年前と比べてですね、何もなかったところにやっと槌音が聞こえて、仕事ができ、段々笑顔と希望が戻ってきたのは間違いありません」と復興の確かな進捗を描いて見せている。
だが、この党首討論から1年、東北経済産業局のアンケート調査によると、復興特需・復興需要に乗って再建ができた事業者とそれらを無縁として再建が遅れている事業者の二極化の状況に見舞われている。
震災4年目の2015年3月11日を明日に控えて3月10日官邸で記者会見して、安倍晋三は「住まいの再建は、この春までに1万戸の公営住宅が完成し、随時、避難していた皆さんの入居が始まっています。これからの1年で更に1万戸の完成を目指します。高台移転も加速し、来年3月までに全部で1万戸分の宅地を整備してまいります。
津波で大きな被害を受けた1万8千隻に及ぶ漁船の復旧が完了し、水産加工施設はその8割で業務を再開しています。
今年は震災前の7割を超える農地で作付けが行われる予定です」と、復興・再建を確実な実態として見せている。
しかし、アベノミクスの恩恵の多くが高額所得層に偏り、中低所得層には僅かしか殆ど届かない二極化を辿って格差拡大を加速させているように被災地の復興・再建にしても二極化の状況を発生させていて、当然、それは格差拡大に繋がることになる。
こういった状況は安倍晋三がこれまで被災地の復興に関して口にしてきた景気のいい話のメッキが剥がれつつあることの証明としかならないはずだ。今後益々メッキが剥がれていくだろう。
東北経済産業局のアンケート調査は風評被害についても触れている。
〈現在の売上げ状況が震災直前の水準まで回復していないと回答した事業者のうち、東北地域においては33.7%が「既存顧客の喪失」を要因として挙げている。
業種別に見ると、卸小売・サービス業(40.5%)など多くの業種で「既存顧客の喪失」と回答した割合が最も高いが、旅館・ホテル業では「風評被害」が最も高い(31.2%)。(その他を除く)〉・・・・・・・・
安倍晋三は合計で20回以上となる被災地訪問を毎月のようにを行い、その多くで風評被害の払拭を目的として被災地産の海産物や農産物の試食をパフォーマンスとして繰返しているが、4年9カ月経過しても風評被害が収まらないのはパフォーマンスにしてもメッキが剥がれかかっていることを物語っているはずだ。
安倍晋三という政治家自体がメッキそのものであることを証明する日もそう遠くないに違いない。