『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティ氏の説、テロの土壌は社会の不平等なのか、そうとは限らないのか

2015-12-06 06:13:33 | 政治


 2015年12月4日付「CNN」記事、《ピケティ氏、ISIS拡大の原因は「不平等」》という記事を昨日12月5日に読んだ。  

 トマ・ピケティ氏とはご存知のように一大ブームとなった『21世紀の資本』の著者であり、「Wikipedia」によると、フランスの経済学者であり、パリ経済学校設立の中心人物であり、現在はその教授だそうだ。

 2015年1月29日来日して、マスコミが追っかけ、東大で講演をした際、大盛況だったらしい。

 イスラムの過激派を生む土壌が不平等や格差等の社会的矛盾が原因だということはよく言われている。別に目新しいことではないように思えるが、この主張は仏紙ルモンドに寄稿したものだそうだ。

 記事が書いているピケティ氏の主張を下線で記した会話体に直した解説文を含めて記載してみる。

 ピケティ氏「明らかなことが1つある。テロは農民反乱の極端な形であり、中東の経済的不平等の上に栄えている。中東が火薬庫化するのに、我々は手を貸してきた。

 中東では人口の10%に過ぎない富裕層が富の約70%を握っている。そうした不平等な開発モデルは災厄しか生まない。それをいかなる形でも支えることは犯罪的だ」

 そして記事はこの主張に対する異論を紹介している。

 ダグ・ホルツイーキン米シンクタンク「アメリカン・アクション・フォーラム」総裁「彼の主張を裏付ける証拠は何もない。テロリストは貧しい階層の出身者とは限らない。国際テロ組織アルカイダの指導者、オサマ・ビンラディン容疑者は裕福なサウジアラビア人だった。また、米国や欧州の中流・上流階層出身者が過激派組織『イラク・シリア・イスラム国(ISIS)』などのテロ組織に加わろうとする例も多い

 アラン・クルーガー(プリンストン大学教授教授)(『テロの経済学』等の著作者)「世界各地のテロ組織や憎悪に基づき行動する過激派集団に加わった人々について調べた結果、経済力や教育水準は関係ないとの結論に達した

 デービッド・コトク(カンバーランド・マーケット・アドバイザーズ最高投資責任者)インドネシアやマレーシア、インドでも経済格差は大きく、イスラム教徒人口も多い。だがどこも、過激派の急拡大には至っていない。

 収入格差は宗教的過激派を突き動かす根本的な要因でもなければ小さな要因でさえない。ピケティ氏の議論は単純すぎる」

 記事はそれぞれの主張を並べただけで、記者の解説は入っていない。

 最後のデービッド・コトク最高投資責任者は「収入格差は宗教的過激派を突き動かす根本的な要因でもなければ小さな要因でさえない」と言って、イスラムの過激派を生む土壌として多くが見ている貧困や格差等の不平等を生み出している社会的矛盾説を素っ気なく一蹴している。

 一つ言えることがある。社会的な矛盾を憎むのは何も貧困の境遇や格差の底辺に置かれた者、不平等の悔しさに曝された者とは限らないだろうということである。

 オサマ・ビンラディンがこの例に入るかどうか知らないが、裕福な家庭に育ち、裕福な生活を送っていながら、貧困や格差、不平等といった社会の矛盾に無関心ではいられず、それが間違っていることを頭で理解し、その間違っている思いが募って矛盾をつくり出して社会に蔓延させて平気でいる国の政治とそのような政治を生み出している国家権力を握っている一部の政治家を憎悪するようになって、その憎悪を晴らすために社会の矛盾の犠牲者たちに如何に間違っているか知恵をつけ、武器を与えて、貧困や格差や不平等からの解放という名の下、戦うことの正当性を植えつけて、彼らをしてテロに走らせ、それを以て自らの行動とするということもあるはずだ。

 世界中で格差や貧困、不平等が蔓延している。その蔓延に取り込まれた多くがそれを宿命であるかのように受け入れている。村に水道が引いてなく、井戸もなく、何百メートルも離れた水汲み場に水を汲みに行かなければ生活ができない状況を何の疑問のなく受入れ、住まいと水汲み場を1日に何回か往復することを当然の日課とし、僅かな食料で細々と暮らしている貧しい住民たちにそれが当たり前の生活として与えられたものではなく、政治がつくり出した矛盾であり、その矛盾はそのような政治をつくり出している国家権力者たちを倒す戦いを始めなければ正すことはできないのだと教えて武器を与えたなら、武器を受け取って立ち上がる者は少なくないだろうし、それが次第に大きな集団へと広がっていくということもあるはずだ。

 欧米社会でも格差や貧困、不平等等の社会の矛盾に曝された者が政治や社会を憎むことを教えられるか、何かのキッカケで自分で学ぶかして、武器を取り、テロに走るよ例が存在するように見える。

 国家の政治や社会への憎悪が行動へと転換される一つの形がテロであり、そのようなテロを基本形として、テロを阻害する国内の政治勢力に外国政府が加わった場合、その外国に自らの仲間を送り込むか、その国で協力者を仕立てるかして起こすテロが国際テロということであるはずだ。

 テロ発生の土壌が何であれ、世界がこれ程にも大掛かりなテロリズムを憎悪のカタルシス(精神的な浄化作用)の方法として知り、使うようになった以上、世界に存在する貧困や格差等の不平等・社会的矛盾がテロ発生の要因の一つとしていることは否定できないことなのだから、それら全てを是正していく方向に努力しなければ、今後共テロはモグラ叩きのように思いがけない場所で思いがけない瞬間に引き続いて起こるに違いない。

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