ラグビーW杯イングランド大会日本代表の五郎丸歩(29)が2015年11月29日の自民党の「立党60年記念式典」に出席、スピーチしたとマスコミが報じていた。
この出席を「asahi.com」記事は、「事前の予告なしに『サプライズ出席』した」と伝えている。
要するに招待されていなかった上に前以て出席すると伝えてもいなかったにも関わらず、自分から突然押しかけていったことになる。
ネット上では来年参議院議員選挙が行われることから、安倍晋三のあざとい選挙利用だという批判が流れているが、その批判は当たらないことになる。何しろ五郎丸は自分の方から押しかけていったことになるのだから。五郎丸の方がもし自分が登場してマスコミが騒ぎ、それが選挙の票につながるかもしれないとちょっとでも考えていたなら、五郎丸自身が自身の人気を使った選挙利用を意図していたことになる。
実際にどちらなのか、五郎丸のスピーチから判断しなければならないと思って、ネットで動画を探したところ、「ニコニコ動画」が配信していた。
この動画は五郎丸のスピーチに限った動画だから、式典のどの時点で登場したのか分からないが、式典冒頭に登場したことを伝えている記事を見つけた。
予告もなしに押しかけて行って、式典の冒頭に登場させるのだから、五郎丸が持つ人気に相当な価値があることを瞬時に判断していきなりの冒頭の登場ということにしたのだろうが、式典の主催者である自民党側からしたら、サプライズもサプライズ、正真正銘のサプライズだったに違いない。カモがネギを背負って飛び込んできたとでも思ったかもしれない。
但しあくまでも五郎丸の方から予告なしに飛び込んでいった場合である。
どう発言したのか、文字に起こしてみた。
先ずオドロオドロしい男の声のナレーションが響く。
ナレーション「一方、60年式典のこの会場に(舞台背面の大型スクリーンにラグビーの幾つかの試合のシーンが流される)今年日本中を熱狂させたあの男がきた!!」
なかなかの演出である。舞台背後に取り付けた大型スクリーンに五郎丸がゴールに駆け走ってタッチダウンを成功させる映像やその他の映像が流れる。
ナレーション「この感慨を全国7500市(自民党の支部の数なのか)が伝えてきた自民党の使命と責任を、政治のルーティンを共に考えよう」
このナレーションの間に五郎丸が登場。両足背後に幾つか並べたライトで足許のみを照らし、五郎丸自身は手を背中に回して偉丈夫ふう(体が立派で、すぐれた男ふう)に黒い影となって直立不動の姿勢を取る。(画像はニコニコ動画から)
ルーティンとは「決まりきった手続きや手順。また、日常の仕事。日課」と意味するそうだが、ネットで調べてみると、この場合は「決まりとした儀式」という意味らしい。
五郎丸のこの登場の仕方からしてかなり念のいった、あるいはかなり凝った演出が施されていて、とてもとても予告なしに押しかけた登場には見えない。背後の大型スクリーンにしても、流す映像にしても、前以て準備していなければできない舞台装置である。
いわば自民党側から五郎丸を招待していて、承諾を得た上で準備しなければ整えることのできない、五郎丸の登場のやり方をも含めた凝った舞台演出となっている。映像にしてもどの映像をどういう順番で流すか、最適の効果を狙うべく前以て検討し、決定し、リハーサルもしたかもしれない、そして本番で実行するという段取りを踏んだはずだ。
では、「事前の予告なしに『サプライズ出席』した」と伝えている「asahi.com」記事は間違いなのだろうか。
だが、どの記事も「サプライズ登場」と書き、自民党議員山本太一も11月29日の自身のツイッターで、「自民党立党60年記念式典 。先ほどの 五郎丸 選手のサプライズ登場に感動!スピーチの後、安倍総理と共に降壇」と書き込みをしている。
「サプライズ」とは「Wikipedia」に、〈驚き、不意打ちの意味である。 日本では他者を驚かせた後に喜ばせる計画やそれを実行することの意味でも使われる事が多いが、時として悪意を持って他者を辱めたりする時にも使われる事もある。〉と解説されている。
いわば不意打ちで驚かせる行為ということになる。前以って予告したなら、不意打ちとはならない。お化けがこれから出ますよと言って、人前に出るようなものである。
当然、山本太一は予告なしの登場と見做して記事を書いたことになる。
要するに五郎丸の自民党「立党60記念式典」への出席は扱いは「事前の予告なし」、「サプライズ」としているが、実際は招待をして承諾を得た出席であって、サプライズでも何でもないということである。
それを各マスコもが「サプライズ出席」だとか「サプライズゲスト」とかサプライズ扱いとするのは自民党側がその趣旨でマスコミ側に情報を流したのを受けてマスコミが記事を書いているからだろう。
五郎丸の人気にあやかって何かをするとしたら、安倍晋三の内閣支持率上げや選挙の票にしようといった利用しか考えられない。この式典で安倍晋三が「五郎丸氏の“精神統一ポーズ”をまねながら『私たちも来年の来るべき戦いに向かい、精神を統一していこう』とも強調。五郎丸人気にあやかりながら、来年夏の参院選に向け、党員を鼓舞した」とその挨拶の一部分を取り上げて「産経ニュース」が解説しているが、この解説を待つまでもなく、“精神統一ポーズ”=ルーティンを真似していることからして選挙利用が目的の五郎丸の登場以外の何ものでもないことが分かる。
石原慎太郎がかつて選挙の度毎に弟の映画俳優、若くして亡くなってからもその人気を誇っていた石原裕次郎を利用したように安倍晋三も選挙に勝つためには都合の悪い政策は争点から隠したり、マスコミに圧力をかけたり、あるいは自民党総裁選で党内に敵なしの無投票再選を演出するために対立候補となろうとした野田聖子の推薦人探しに対して推薦人になろうとしている議員に直接圧力をかけて推薦人になることを断念させて野田聖子が立候補できないようにするなど手段を選ばないあざといまでの執念を、顔には出さないものの内に抱えている。
それが今回、五郎丸人気の選挙利用となって現れたのだろう。
安倍晋三の選挙に勝つためには手段を選ばないあざといまでの執念には辟易するが、民主党の岡田克也にはどのような執念も見えない。
ここで選挙利用なのかそうでないのか、答を出してしまったのだから、既にこのブログを書く目的を果たしてしまったが、一応、五郎丸のスピーチを記載しておく。
五郎丸歩「えー、みなさん、こんにちわ。えー、ラグビー代表五郎丸です。えー、このような大勢の方々の前でスピーチするとは思っていませんでしたので、非常に緊張しております。
えー、ラグビーに於いて私はルーティンを持っておりますけども、スピーチに関しては全くルーティンを持っておりませんので、えー、本日メモというルーティンを作って参りました。(胸の内ポケットからメモを取り出す)えー、(失笑気味に笑いながら、)スピーチに代えさせて頂きます。
えー、この度自民党60周年記年式典にお招き頂き、またこのような時間を設けさせて頂いたことをまことにありがとうございます。えー、先ず最初にラグビーワールドカップ議員連盟の先生方の多大なるご支援のお陰を持ちまして先のワールドカップで歴史的勝利を収められたことを心より御礼申し上げます。
(暫く沈黙)えー、歴史的大勝利を納めたのですが、我々が目指していた準々決勝という大きな舞台には勝てなかったということが非常に悔しく思います。えー、しかしながら、えー、日本のラグビーの歴史だけではなく、日本のスポーツ界に新たな一ページを加えられたことを非常に嬉しく思いますし、えー、またみなさまに感謝申し上げます。
えー、ここでワールドカップのことを少し話をさせて頂きたいと思います。えー、先ずは何と言っても南アフリカ戦を、えー、誰もが勝つわけはないと思っていたと思います。えー、私もその一人でございました。えー、唯一人、エディヘッドコーチだけは一つもブレることなくですね、チームの先頭を切って南アフリカに勝つんだといった思いを我々に示してくれたところ、少しずつでありますけれども、我々も南アフリカに勝てるんではないかといった気持になり、えー、南アフリカの一週間前でありますけども、私も勝てるんではないかと、勝つんだと、そういった気持になってまいりました。
えー、そして3点差で迎えたラスト6分、えー、皆さんも御存知の通り、えー、逆転を致しまして、ワールドカップ歴史上、一番の番狂わせを、えー、起こさせて頂きました。えー、このスタジアムには3万人のお客様がいらっしゃいました。その内日本のファンというのは3割か4割の方たちだったと本当に感じております。
えー、しかしながら、試合が終わった後、南アフリカのファン、日本のファン、えー、関係なくですね、我々を支えてくれたことを非常に嬉しく思いましたし、また負けた南アフリカが我々に対して敬意を示してくれたことを非常に嬉しく思いました。
また南アフリカに我々がすぐさま敬意を示せなかったことに関しては本当に未熟さを感じましたし、えー、これから我々が修正していかなければいけない点だというふうに感じています。
えー、試合の2日後でございますけども、えー、ベースキャンプの町のブライトンと言う所に我々は行きましたけども、そこで最後の練習をするためにバスに乗って全員で移動しました。えー、すると、ブライアント・カレッジの1200人の生徒たちが我々がバスを降りる所からグラウンドの隅っこまで列になって自国が優勝したかのように我々を讃えてくれたことを今だに覚えております。
また二つ目のベースキャンプであります。ウォリックに行った時の話でありますが、ウォリックという町にはウォリック城というお城がありまして、我々が行ったときにはそのお城の一番上にですね、日本の国旗が掲げられて、町中を挙げて我々を歓迎して頂いたことを本当に嬉しく思いますし、また2019年、我々はラグビーワールドカップのホスト国として我々は彼らを迎え入れなければなりません。
そうした責任を全うするためにも、先ず国内の人気を取り戻すというところにしっかりと照準を置き、えー、やってまいりたいと思います。えー、2019年に向けて各地方でラグビーが普及する中でですけども、ラグビーのワールドカップというものは、えー、12都市ですかね、12会場で開催されなす。
これは日本各地で開催されますけども、えー、12会場だけではなく、彼らがベースキャンプ地とする県や都などを合わせると倍近くのところがワールドカップに関係してくる所だと思います。
えー、私事でありますけども、来年2016年後に、来年2016年2月後にオーストラリアの方でプレーすることが決定しました。(拍手)えー、自身としては初めての海外での挑戦であります。日本にいる子どもたちだけではなく、日本の国民の皆さんに夢や希望を与えれるようなプレヤーとして努力してまいりたいと思います。
えー、2019年、ワールドカップとして、2020年、オリンピックと、世界3大スポーツの二つがですね、日本にやってくる。こんなに恵まれた国は本当にないと思っています。
えー、これから4年後、これから5年後、皆さんの力で新たなスポーツ文化の継承をしていって頂きたいというふうな思いを持って、簡単ではございますけれども、スピーチに代えさせて頂きます。
本日はありがとうございました」
安倍晋三が舞台に上がり、五郎丸と熱い、熱い握手。安倍晋三は手に選挙利用のための精一杯の思いと力を込めたに違いない。
二人共正面を向いて、安倍晋三の左手と五郎丸の右手を握ったまま両手を出席者に向けて高々と掲げてみせる。たくさん写真を撮れ、全国津々浦々にこの映像が届けとの思いを笑顔の陰に隠しながらも浮かべていたかもしれない。
アナウンス「本日のスペシャルゲスト、ラグビー、日本代表、五郎丸歩選手でした。盛大な拍手でお送りください」(以上)
アナウンスも五郎丸を「スペシャルゲスト」だと言って、特別に招いた客として扱っている。サプライズ(不意打ち)の客とは扱っていない。
多分、選挙の利用価値として見た場合にこれ程の不意打ちはないではないかといった意味の“サプライズ”なのだろう。
いずれにしても安倍晋三のやりそうなあざといまでの選挙利用を感じ取らないわけにはいかない。
五郎丸のスピーチからはスポーツにかける素朴で力強い意思を感じ取ることができたが、「先ず最初にラグビーワールドカップ議員連盟の先生方の多大なるご支援のお陰を持ちまして先のワールドカップで歴史的勝利を収められたことを心より御礼申し上げます」と、日本や世界の一般的なファンの声援を抜きにしたこと、そして来場の国会議員や地方議員、党員に対して「これから4年後、これから5年後、皆さんの力で新たなスポーツ文化の継承をしていって頂きたい」と、さもスポーツ文化の継承はそういった偉い先生方の任だと言わんばかりの発言をしたことに不満が残る。
スポーツ文化継承の主たる担い手は国民、あるいはスポーツファンである。国民やファンの支持なくして豊かな継承は不可能である。いくら国会議員その他の偉い先生方を前にしていても、スポーツ選手である以上、国民やファンへの視点を欠いたのでは褒めることができない。
負けた南アフリカの選手たちが日本の選手たちに敬意を示したことを言いながら、ベースキャンプ地のブライアント・カレッジの大勢の生徒たちが行列を作って勝利を讃えてくれたことを言いながら、あるいはウォリックの町のお城に住民が日本の国旗を掲げてくれたことを言いながら、さらには海外移籍の話をして、「日本にいる子どもたちだけではなく、日本の国民の皆さんに夢や希望を与えれるようなプレヤーとして努力してまいりたいと思います」と言いながら、最後に日本の国民やファンに向ける視線を一時でも忘れたことは頂けない。
日本の選手であったとしても、日本と共にありながら、世界と共にある。その相互性を必要な気がする。