安倍晋三は「引き分け」を引き合いにするよりも、プーチンに北方四島の開発を止めるように求めるべき

2015-12-28 12:01:43 | Weblog

 
 2015年11月、トルコ・アンタルヤで20カ国・地域(G20)首脳会議が開催され、11月26日夜(日本時間16日未明)、会議の合間に安倍晋三はロシアのプーチンと約30分間首脳会談を行った。

 通算12回目の首脳会談だそうだ。会いにも会ったものだが、2012年12月26日の就任から3年。1年間に4回の割合となる。会う目的はプーチンとの信頼関係を深めて北方四島返還交渉の促進に役立てる。

 プーチンの訪日要請も、信頼関係構築の一環で、ロシアの力による現状変更を用いたクリミア併合、シリア空爆等の障害にもめげずに訪日要請に血道を上げているが、その努力の甲斐もなく年内訪日実現はならず、来年延ばしとなった。
 
 これ程にも安倍晋三は信頼関係構築に格差是正対策はそっちのけで取り組んでいながら、首脳会談の回数を重ねるだけで、交渉は一向に前に進まない。

 安倍晋三はトルコでの首脳会談でプーチンに対してプーチンが用いた「引き分け」という言葉を引き合いにして、四島返還を含めた平和条約締結交渉の進展には双方の柔軟な対応が必要だと説くと共に前向きな姿勢を促したと、日ロ外交筋の話として「47NEWS」が伝えていた。 

 プーチンが大統領、首相と歴任して、再度大統領選に立候補、2012年3月4日の選挙執行で当選を果たしたその前日の2012年3月3日、外国メディアを集めて記者会見を開いた。

 プーチン「「北方領土問題を最終的に解決したいと強く願っている。 私が大統領になったら、一方に日本の外務省、もう一方にロシアの外務省を置き、彼らにこう言います。始め!」(NHK「クローズアップ現代」) 

 柔道家のプーチンが柔道の試合開始の合図の言葉、「始め」を使って、領土問題の解決に意欲を見せたということなのだろう。

 この記者会見で「You Tub」に載っているANNニュース(2012/03/03)によると、次のような発言も行っている。 

 プーチン「私たちが目指すべきは何らかの勝利ではない。私たちは妥当な譲歩を目指すべきだ。いわゆる『引き分け』みたいなものですね」

 この発言は北方四島の択捉島・国後島・歯舞・色丹のうち、平和条約締結後に歯舞・色丹の引き渡しを明記した1956年12月12日発効の「日ソ共同宣言」に言及した上でのものだと解説している。

 再び柔道用語を持ち出して、「引き分け」――いわば痛み分けを提案した。

 だが、歯舞・色丹は四島全体に対して僅かな面積しか占めていない。とても痛み分けのレベルとは言えない。

 当時の野田首相がこの「引き分け」の言葉を歯舞・色丹の二島返還とは受け止めていない。2012年3月8日の衆議院予算委員会。

 野田首相「引き分けの意味、これは恐らく双方が納得できる結果、一定の結果という意味だとは思うんですが、今、東委員おっしゃった56年のあの路線でいくならば二島返還です。二島返還というのは、四島のうちの二島だから、半分だからいいという話ではなくて、歯舞、色丹というのは面積でいうと7%です。残り93%来ないということは、引き分けにはなりません。あのときは、主権のあり方等々、詰めた話になっていません。したがって、それは引き分けではないんですね。

 それ以上のことを考えているのかどうかは、真意として分かりません、まだ分かりません。したがって、この間、3月5日、大統領当選確実というときに祝意の電話をさせていただきました。あくまで祝意の電話ですから詰めた話はしていませんけれども、そういうことを踏まえて、領土問題については英知ある解決をしよう、知恵を出し合っていこう、そういう意味の話をして、実務者においては柔道用語で申し上げました、『始め』ということを、もうスタート、声をかけようじゃないかと言ったら、笑ってはいらっしゃいました。

 というところから、まさにこれからスタートだというふうに思います」(衆議院予算委員会会議録)  

 「引き分け」とは、「双方が納得できる一定の結果」を意味する言葉だと言っている。

 だとすると、安倍晋三がトルコでのプーチンとの首脳会談で「引き分け」という言葉を引き合い出して交渉の進展を促したことに関しても日ソ共同宣言が触れている歯舞・色丹二島返還を頭に入れた「引き分け」ではないはずだ。

 それとも歯舞・色丹二島返還のみを頭に置いて言及した「引き分け」だったということなのだろうか。そうであるなら、それが現実的な解決方法法だとしても、敗北主義と批判される。通算12回目の首脳会談も重ねてきた意味も失う。

 だが、現実にはロシアが北方四島を実効支配し、着々とロシアの領土化を進めている。

 いや、ロシアの領土であることを前提に急ピッチで開発を進めている。色丹島が拠点のロシアの国境警備局が同島に最新型の警備船などを来年の春をメドに配備する計画を進めているというし、日本にとって何よりも悪い知らせは、北方領土を含めた極東地域の人口増加に向けて国民に土地を無償で提供する制度を来年5月から始める方針である。

 どのような制度かと言うと、希望する国民に1人当たり1ヘクタールを無償で貸し出し、農地として5年間利用するなどの実績が認められれば所有を認めるものだという。

 しかもロシア政府は2017年から2026年までの10年間に日本円で1300億円規模の資金を投入してインフラ整備等を行う方針だという。

 どのようなインフラ整備かと言うと、択捉島と国後島に最新式の軍事施設地区が建設され、そこには軍人及び家族用の集合住宅、学校、文化施設などを含む392施設が建設されるという。

 これは上記インフラ整備とは別物なのだろうか、一昨年から択捉島中心部の紗那に建設してきた200席の映画館や温水プールなどを備えた複合施設が完成し、12月26日(2015年)に記念式典が開かれたと「NHK NEWS WEB」が伝えている。

 建設費13億ルーブル(日本円で22億円余り)、総床面積1万平方メートル。映画館と温泉プール以外に体育館、図書館が常備されているという。

 このような択捉島の開発、あるいは国後島の開発は否応もなしに活気と変貌していく島の様子を思い浮かべないわけにはいかない。

 そしてこの活気と島の変貌はもしプーチンが歯舞・色丹のみを返還の対象とした「引き分け」であるなら、妥当性ある開発の結果と言えるが、日本政府が考えているように「双方が納得できる一定の結果」を「引き分け」の意味に把えているとしたら、日本政府はその妥当性を決して認めるわけには行かないはずだ。

 であるなら、安倍晋三が先ず為すべきは、「引き分け」を引き合いに出すことよりも国後島と択捉島の開発の中止をプーチンに求めることであるはずだ。

 なぜなら、択捉島、あるいは国後島を返還の対象に入れていながら、せっせと開発に勤しむのは矛盾そのものだからである。マスコミが北方四島開発の記事を発信する度に四島をロシアの領土であることを示す狙いがあるとか、北方領土をあくまでもロシアの領土の一部として開発を進める姿勢を重ねて示したものだとか伝えているのは、そこに矛盾とは逆の整合性――択捉島、あるいは国後島を返還の対象に入れていない開発と見ているからでもあるはずだ。

 中止要請に応じるか応じないかで、プーチンが「引き分け」をどこに置いているかが明らかになる。

 プーチンは2012年3月3日に「始め」を言いながら、3年以上経過しても開始していない。開始されない以上、それがどのような内容のものであっても、「引き分け」の状態に持っていくことは不可能であり、プーチンが自ら説明しない以上、どのような状態の「引き分け」であるのかも明らかになることもない。

 野田首相がプーチンに対して「『始め』ということを、もうスタート、声をかけようじゃないかと言ったら、笑ってはいらっしゃいました」と、笑うだけで応じなかったことを考え併せると、「引き分け」の正体が明らかになることを避けるために「始め」の合図をしないのであって、「始め」とか「引き分け」といった言葉は日本政府に気を持たせて時間稼ぎする言葉に過ぎないのではないかとの疑いが出てくる。

 日本の経済支援や技術支援を得るための時間稼ぎであり、北方四島を開発してロシアの実効支配を確実化するための時間稼ぎである。

 安倍晋三が四島開発の中止を求めないまま、プーチンとの信頼関係構築に過度に依存したり、あるいはプーチンの柔道用語に期待をかけてばかりいると、安倍政権の3年間でもあるが、領土返還交渉が何ら進展がない状況のままに推移したプーチンの3年間がこのままズルズルと引き継がれていくように見えるが、どんなものだろうか。

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