最初の独断と偏見。当たり前のことであるが、人間は利害の生き物ではあるが、年収や年代、あるいは性別、あるいは地域等々の国民各階層毎、各集団毎、各地域毎の差異によって利害を異にしている。
人間がすべての人間の利害を一致させ、満足させることはできない。そこに人類の限界があり、万能ではない。このことによって利害の対立や利害の相違が起こり、社会の様々な矛盾となって現れる。
政治は対立し、社会の相違する様々な利害を調整して、社会の統一を図ることを役目の一つとしているが、人間がすべての人間の利害を一致させ、満足させることはできない能力の限界を反映させて、性別の違い、年齢の違い、年収の違い、地域の違い等々を超えて、全ての階層、全ての集団、全ての国民に亘って、それぞれの利害を平等に代弁する政策を構築するだけの能力は持たず、国民各階層毎、各集団毎、各地域毎の利害を代弁する形でしか構築し得ない。
一見すると、国民全般に亘って一致した利害を与える政策のように見えても、それぞれが受ける恩恵に違いや差が出ない政策は存在しない。
この限界が異なる利害をそれぞれに代弁して政策に反映する政治集団が生じることになる。
極言すると、政策とは何らかの存在のためにする利害そのものであると言うこともできる。
当然、政治集団毎に政権を獲得して、自らの政策を実現しようとする政策集団毎の利害の戦いが生じる。
いわば政策の実現は利害の実現をも意味する。
断るまでもなく、政権の実現は獲得する議席の数によって決定する。数の力が絶対要件となる利害の実現ともなる。
数は選挙によって決まる。いわばそれぞれの利害に結びついていくそれぞれの政策の実現は数の力に頼らなければならないために安倍晋三が2014年の総選挙で使ったように国民の大多数が反対する新安保法制は争点から隠して、国民の多くから受入れられた消費税10%への増税を先送りして、8%のままの消費動向下でのアベノミクスの成否を問うことを争点の真正面に据えて勝利を獲得したように多数の、あるいは大多数の国民の利害と一致しない不人気な政策は争点隠しという方法で国民の目・国民の関心から遠ざけるか、あるいは多くの国民の利害と一致する支持率の高い政策と抱き合わせて、一致する利害を争点の正面に掲げて戦うといったことが起きる。
みかんをビニール袋に入れて売るとき、一定の大きさで形の揃ったみかんは表面に並べて、形がそれよりも小さなみかんは内側に隠して見えなくするようにである。
利害という言葉をキーワードにすると、政治は理解しやすくなる。
政策という利害の実現が数の力が有力となり得るゆえに利害をほぼ同じくする政治集団が一度大きな組織となると、数を恃む(たのむ・「それを力として、たよる」)力が組織の内側からだけではなく、外からも働いて、政策の利害を同じくしていなくても、同じを装い、あるいは類似を以って同じだとして、その集団に取り入ってくる現象も起きる。
選挙に有利だからと党員となり、公認を得て選挙を戦って勝ち、国会議員になる人間も出現することになる。
2016年1月17日放送のNHK総合放送「日曜討論「“18歳選挙権”政治はどう変わるか」を観た。放送概要は、〈夏の参院選で導入される“18歳選挙権”。有権者に加わるのは約240万人。若者の政治参加は進むか?若者と政治の距離をどう縮めるか?若者の本音に専門家はどう答える?〉と紹介されている。
出演者をネットと番組から見てみる。顔写真は「日曜討論」サイトからのもので、左上から順にお笑いタレント、上智大学文学部新聞学科生の春香クリスティーン(23歳)。若者の声を政治に届ける団体を立ち上げた「日本若者協議会代表大学1年生富樫泰良(とがし・たいら)。高校3年生、マーケティング会社社長の椎木里佳(しいき・りか)、下段は左が元東大総長、政治学者の佐々木毅(73歳)、右側が専門は公共政策、情報社会論、東京工業大学大学マネジメントセンター准教授の西田亮介(32歳)の面々。
司会は島田敏男と中川緑。
春香クリスティーンをお笑いタレントと侮るなかれ。お笑いタレントのピース又吉直樹が芥川賞受賞作家に大バケしたように春香クリスティーンもなかなかの政治評論家に大バケしている。
全部の発言を取り上げない。私自身が独断と偏見で的確な判断の発言となっているのか否かを基準に取り上げてみた。
司会者島田「今年6月からスタートする18歳選挙権、この意義について」
佐々木毅「煎じ詰めれば、日本の政治が若者へと軸足を動かすという、そういうメッセージと受け止めるべきだろうと。あとはそれがどのように成長するか、どのような効果を生むかということを考えますと、これは大変大きな出来事ではないかと、こんなふうに思っています」
政治が利害の営みである以上、「日本の政治が若者へと軸足を動かす」と言うことはない。軸足を外された世代・集団が反発することになるだろう。少なくとも表面上は軸足はそれぞれに置かなければならないし、利害の大小に応じて軸足の置き方が違ってくる。
但し若者の歓心を買うために若者の利害を取り入れた政策を打ち出す可能性は否定できない。若者の票を取り込むことが政権維持、あるいは党勢の拡大の利害と一致するからだ。
尤もそれが真剣に若者の利害を取り入れた政策であったとしても、政治の側は他の利害との兼ね合いがあるから、それぞれに優劣をつけることはあっても、他の利害と並立させることになり、どの利害を優先的に選択するか、あるいは若者の利害のみを優先させるか、若者の側の利害の選択に移ることになって、利害をどう判断するかということから逃れることができるわけではない。
後で大学に進学する若者には有利な利害となる給付型の奨学金の話が出てくるが、憲法9条改正の政策を同時に掲げられたら、大学に進学する若者に有利な利害だけを考えて1票を投じる若者と、有利な利害を敢えて無視して、認めることができない利害を拒絶する形でその政党に1票を投じない若者とに別れるはずだ。
全てに一致する利害なるものは存在しないことは既に書いた。利害の一致こそが自身にとっての理想の政策となる。利害と無縁の理想の政治など存在しない。
安倍晋三という国家主義の政治家に危険な臭いを感じていたとしても消費税増税先送りという一点で自身の利害と一致させ、自民党に投票した国民は多いはずだ。
司会者島田「富樫さん、この新しい仕組みの導入、これによって日本の政治は変わって行くと思いますか」
富樫泰良「そうですね、私は変わっていくというふうに思っています。それよりですね、既に変わり始めているのではないかと思っています。私が所属する『日本若者協議会』では、各政党と政策協議というのを行ってきました。
その中で各政党がですね、今まで以上に若者に声を傾けているなという印象を強く持っています。それと同時にですね、世間で政治家だけではなく、世間の中でも多くの大人が若者はどう感じているのだろうということを気にするようになってきなのかなというふうに感じます。
ですから、私たちはやはり若者の政治参加へ政治は変わるというふうに思っています」
政治家が自らの選挙区の企業や業界団体を訪ねて支持や協力をお願いするとき、企業毎、業界団体毎によく耳を傾ける。これ以上ないという愛想のよい低姿勢で要望を受け止める約束をする。企業や業界の利害が1票の積み重ねという自身の利害に直結していくからだ。
また、企業、業界の利害を代弁する努力をしたとしても、優劣が生じる。そして企業や業界の利害を優先的に代弁することで多くの個人の利害が阻害される事態が生じることになる。すべての利害を平等に代弁することはできる能力を人間は持っていないからなのは勿論のことである。
当然、若者の集まりに出たとき、「今まで以上に若者に声を傾け」ることになる。票がかかっていることは何でもする。政策の実現とは別問題である。
「世間の中でも多くの大人が若者はどう感じているのだろうということを気にするようになってき」たとしても、大人たちが自身の利害を手放して若者の利害に代える保証はない。
代えさせるためには戦わなければならない。戦いは数が力を発揮することになる。利害をほぼ同じくする若者を集めて、数を以って力と成し、若者の(と言っても、若者全てではない)利害に結びつく政策を提示し、その実現を求めるしかない。
若者でも大学に進学する者、進学している者、中卒だけの若者、裕福な家に育った若者、貧乏人の息子という立場の若者、それぞれに利害は異なる。当然、望む政策も違ってくる。
司会者島田「でも、高校生とお話してみると、必ずしもみんな政治に積極的ということはないように私は感じるのですけど」
椎木里佳「私達が選挙に行ったところで政治家の人たちが変わるのかなっていうのかな、そこが凄く疑問で、みんなと話してても、『選挙行く?』みたいな。
そもそも選挙行く方法もみんな分かっていないですし、投票所に行って、どうするのみたいな。お爺ちゃん、お婆ちゃんしかいないでしょ、私達アウエイでしょみたいな。
そういった固定観念があるので、すぐに変わるのは難しいんじゃないかないかなとすごく思います」
政治家は国会議員の経歴が長くなる程、複数の一定の個人・複数の一定の組織との利害関係が強化され、そこから離れることの自由が利かない状態に閉じ込められている。すぐに他の利害よりも若者の利害を優先的に代弁して、尚且つ広い層の国民が従来の利害を無視して、そのことだけに1票を投じたくなる若者ためだけの政策を構築することは難しいだろう。
だとすると、やはり利害をほぼ同じくする若者の政治集団をつくって、自らの利害の実現に結びつく政策を世に問う道が有力な方法となる。
司会者島田「春香さんはこの18歳選挙権導入によって、どんなことが生じると思いますか」
春香クリスティーン「大きく変わるチャンスだと思っていますね。やはり18歳と20歳(はたち)って大きく違うなと感じたのは私が20歳の時に(大学の)同級生がやっぱり東京に上京してしまって、住民票が地元にあって、それで最初の選挙をやっぱ、行けない、行かない、ということで伸ばして、それで初めての投票のチャンスを逃してしまって、そっから後、ずっと行かなくなってしまう。
そういうことがあるんで、18歳だとまだ高校生で、まだ地元にいたり、家族と一緒に過ごしているていう期間の人がかなり多いと思うので、家族と話す機会が増えたり、地元にいて、家族と(投票に)行くかもしれない。
そういうチャンスがあると思うので、18歳と20歳でそういう違いがあるのかなと、たかが2歳ですけど、大きく違いますし、今回注目される初めての18歳選挙権ということは注目されていることが大きなチャンスであると思います」
確かに注目されることが下手な行動はできないという思いを駆り立てるチャンスとはなる。マスコミは18歳から20歳までの有権者の投票率をこれまでの20代の低投票率と比較して大々的に報じることになるだろう。
18歳で地元にいる若者が選挙のことで家族と話す機会が増えるかどうかは普段の親子のコミュニケーションの質と量がモノを言う。親子のコミュニケーションが少なく、友達とスマホのラインで他愛もないお喋りで1日の多くの持間を過ごしているようでは親子の間で政治の話が飛び交う機会は期待できないことになる。
若者が何に関心を持つか持たないかは親が子どもに対して幼い頃から日常的に提供している話題も影響するが、学校教育も教え方次第で関心の向け方に大きな影響を与える。
上の世代と若者世代の考え方・物の見方の議論となった。
富樫泰良「上の世代と私達の世代は決して敵ではない。お孫さんの方々の未来を考えている方々だと思いますので、お孫さんの未来を考えていない方はいらっしゃらない。
私たちの意見と上の世代の意見とそこで先ず、シルバーデモクラシー(高齢者多数の状況により、若者よりも高齢者の利害がより多く投票に現れる現象)ということもありますけれども、確かに数は私たちは負けるかもしれません。
しかし話し合いをしているし、それこそ家庭内の議論とかあれば、若者の政治参加というのも進むのではないかと思います。お互いが歩み寄るということが大事だと思いますね」
上の世代は当然、存在すれば孫の未来を考える。その孫が若者世代と年齢的に一致すれは、相互の利害は一致するかもしれないが、上の世代の立場や地位に応じてそれぞれに利害を異にしているから、その利害の相違がそのまま孫世代・若者世代に反映することになって、必ずしも若者全般に一致する利害となる保証はない。
自分が言っているシルバーデモクラシー自体が高齢者の利害が優先的に現れることになる民主主義の欠陥の一つと指摘されている不平等現象であって、当然、利害次第で常に若者が上の世代と「敵ではない」関係を築くとは限らないことになる。
春香クリスティーン「街頭演説を見に行ったときに、お孫さんがなかなか興味を示さないから、私が聞いているっていうお婆ちゃんに出会ったことがあるんですけど、それじゃあダメじゃない?という・・・・。
お婆ちゃん有り難うと思いつつ、自分たちが考えて発信していかないといけないのにと思うところで、教育っていうのがスイスと日本の違いって凄く感じる部分があって、日本は割りと黒板を写したり、吸収する。板書する(教師が板書した内容をそのままノートに書き写す)という教育だと思うんですけど、主に違うなと思っているのは、スイスでは資料だけ渡されて、これについて、じゃあ思ったことを後になって発表しなさいという授業が非常に多くて、自ら(考えて)発信する機会が割りと多かったと思うんですが、自ら発信する癖をつければ、政治だけに限らず、色々なことを発信する癖をつければ、政治に関しても発信しやすくなるのかなあというふうに思います。
中川緑「受け身じゃなくて、貴方自身がどう思うんですかという意見が求められ、それを発信することを――」
春香クリスティーン「そうですね、歴史の授業であれ、数学の授業であれ、どんな授業に関しても、そんなふうだった」
日本の教育は暗記教育で生徒それぞれに考えさせ、考えたことを言葉にして発信する、あるいは生徒それぞれが発信した言葉の妥当性を生徒同士で相互に議論・判断させて、自らの判断の参考にして、その力をつけていく授業を習慣づけていないから、政治に関心を持つ若者が少ないということなのだろう。このあと、20歳で選挙権を獲得するといった政治の制度は学校で暗記式に習うことはあっても、政治の文化を自分たちの考えとして習うことの少なさが政治に対する関心の程度となって現れるといった趣旨の議論が行われた。
富樫泰良「若者の歓心を高めることができると思っていることは若者政策がマニフェストに入ることです。私たちから提案した政策が政党のマニフェストに載って選挙が始まれば、これは若者の投票率もガクンと上がっていくのではないかなというふうに思っています。
また、2年前にスウェーデンでは若者担当大臣というものができました。それ以降、若者の政策をEUの中でもリードしてきたわけですけども、日本でも、シルバーデモクラシーと言われてしまっている状態を打破するためにも若者の意見や若者の課題を解決できるような省庁や担当大臣の課題も重要になってくると思います」
司会者島田「少なくとも奨学金制度の拡充なんてことがいの一番に出てくるでしょう」
富樫泰良「そうです。返さなくていい奨学金で、どなたでも努力すれば学校に行くことができる、そういった制度も必要ではないかと思っています」
多くの若者にとって重要な利害となる給付型の奨学金は財源を守ることの利害との関係で決まってくる。どちらの利害を重視することによって票をより多く獲得することができるか、あるいは逆に票離れを少なく済ませることができるかが判断の分かれ目となる。
前者の利害を重視するために無理をして財源にかかっている利害を無視することもあるだろうし、逆のこともある。
またどちらであっても、1票を投じるかどうかは奨学金だけの利害に掛けるか、他の利害との兼ね合いで修学金の利害を無視して1票を投じないことにするかは、若者それぞれの利害・判断にかかることになる。当然、給付型奨学金を掲げた政策だけで若者の人数だけの票を集める保証はない。
当然、若者政策がマニフェストに入っていたとしても、決定権は利害に応じることができるかどうかにかかっていることになる。
インターネットの利用に話が移った。
西田亮介「2013年に公職選挙法の改正があって、インターネットを使った選挙運動が可能になって、各政党、若者の団体等始め、様々な情報がネットにも出されるようになりました。
ただ、インターネットというメディアの性質というものもあるけど、インターネットを自分から検索して探していかないと(情報が)見えない。だとすると、先に政治を見たいなと思っていないと、情報が発信してこないという難しさがある。
もう一つ、情報を受けたとき、それを咀嚼して理解するためには知識や道具立て持っていることが前提となって、そうでないと、政治と有権者の側で政治の方で有権者を取り込みたいという動機もあるわけですから、そっちの側の動機に流されていってしまうことも懸念されます」
インターネットに限らず、紙媒体でもテレビ媒体でも、自分からアクセスしていく姿勢を持たないとそれぞれの情報に接することはできないから、「情報が見えない」という状況が続く。例えばテレビの視聴がお笑い番組か、恋愛物、あるいは刑事物といったドラマに限られていて、ニュースや国会中継は見ない習慣なら、政治に関わる情報を咀嚼して理解する知識や道具立は持ちようがない。
政治問題に触れる媒体が問題ではなく、媒体如何に関わらず、如何に政治に関心を持つかの姿勢が問題となっている。若者の多くはラインで繋がってカレシやカノジョや美味しい食べ物、ファッション等の身の回りのことについてお喋りすることにより多くの興味・関心を持ち、より多くの持間を割いている。そういったことがより切実な生活上の関心事となっている。
政治の側が有権者を取り込む政治作用も発信媒体が何であっても、今に始まったことではない。既に触れたように国民の利害に適さない不人気な政策を争点から隠す、あるいは国民の利害に適合していることから人気がある政策を釣り針の餌にして抱き合わせで不人気な政策を釣り上げる。前々からよく見てきた政治の姿・選挙の姿であるはずである。
消費税増税とか、あるいは最悪徴兵制とか戦争開始といった、最大公約数の国民に切実な利害となって降りかかってくる問題が生じない限り、政治に無関心な層は永遠に続く。
国家指導者が内心にいざとなった場合には徴兵制の発動や戦争を開始する衝動を抱えていたとしても、その姿を露わにしない限り、国民の多くは自身の現状としてある生活上の利害を優先させて、それが阻害されない限り、自らの利害に照らし合わせて考えるすことはしないだろう。
以上、2016年1月17日放送のNHK「日曜討論」――「“18歳選挙権”政治はどう変わるか」を「違い」という言葉をキーワードにして書く出演者の発言を独断と偏見で眺めてみた。
18歳選挙権が実現したなら、実現したなりに政治の側のそれぞれの利害と、その利害に対応した18歳から20歳までの若者を含めた国民それぞれの利害が同時に、あるいは別々に作用し合って、その強弱に従って従来どおりに政治及び政策は決定されていくことになるはずだ。
投票率に関しては大人と言われる世代の投票率も常に高いとは決して言えない。自分たちの総体的な利害に応じて増減が生じているはずだ。人間が様々な利害の生き物である以上、その傾向を若者も引き継ぐことになるだろう。