1月26日の衆議院代表質問で民主党代表岡田克也が女性の活躍について問い質した。
岡田克也「日本を変えるのは、若者と女性です。2年前、安倍総理は、2020年にはあらゆる分野で指導的地位の3割以上が女性となる社会を目指すと華々しく打ち上げました。しかし、昨年末閣議決定された男女共同参画基本計画では、これを大きく下回る数値目標が並んでいます。朝令暮改とは、まさにこのことです。女性活躍社会、本気でやる気があるのですか。答弁を求めます」
女性の活躍の問題にしても、若者の貧困問題にしても、アベノミクスの評価に関しても、安倍晋三の答弁は基本的には同じ内容である。代表質問者によって変わるということはない。ときには同じ内容を原稿を早口に読み飛ばして片付けるときもある。安倍政権の成果として強調するときは声を大きくしてゆっくりと読むといったことをする。
だから、代表質問者が特別に異なる政策を取り上げない限り、安倍晋三の答弁は似たり寄ったりとなる。
このことを裏返すと、1人の代表質問者の追及とその追求に対する安倍晋三の答弁をじっくりと吟味すれば、安倍政権の成果・政策がほぼ理解できる。
岡田克也は安倍政権が「女性の活躍」をアベノミクス成長戦略の中核と位置づけて重点的に掲げながら、女性の指導的地位にしめる割合が目標通りに達成できていない、そのため昨年末に目標値を下げた、言ってみれば公約違反ではないのかと追及した。
岡田克也が言っていることは次のことである。
政府は12年前の2003年(平成15)に「社会のあらゆる分野に於いて2020年(平成32年)までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度となるよう期待する」との目標を掲げ、取組を進めてきた。
安倍政権もこの目標を引き継いで最重要課題とし、特に省庁に対して数値目標を与えて実行を迫った。
その結果、女性の登用が増えたものの、数値目標通りにはいかず、数値目標そのものを下げざるを得なかった。
どう下げたか、《第4次男女共同参画基本計画閣議決定》(内閣府/2015年12月25日)から見てみる。
国家公務員の女性登用
本省課室長相当職に占める女性の割合 2015年(平成27年)7月3.5%→2020年(平成32年)度末7%
係長相当職(本省)に占める女性の割合 2015年(平成27年)7月22.2%→2020年(平成32年)末30%
民間企業の女性登用
課長相当職に占める女性の割合 2014年(平成26年)9.2%→2020年(平成32年)15%
係長相当職に占める女性の割合 2014年(平成26年)16.2%→2020年(平成32年)25%
“2020年(平成32年)までに社会のあらゆる分野で少なくとも30%程度”が軒並み数値目標を下げている。特に安倍政権は省庁に対して尻を叩いていながら、課長相当職というより上級職での女性の登用は30%-7%と23%も目標を少なく見積もっている。
要するに安倍晋三が陣頭指揮を取って尻を叩いていたことが殆ど役に立っていなかった。
岡田克也の追及に対する安倍晋三の答弁を見てみる。
安倍晋三「『女性の活躍』推進についてお尋ねがありました。安倍内閣にとって最大の課題であります。社会のあらゆる分野に於いて2020年までに指導的地位に女性が占める割愛が少なくとも0%程度なるように期待するという目標は2003年に立てられました。
これを政府の最大課題として強力に推進したのは第2次安倍政権が初めてです。この約3年間で新たに100万人の女性が労働市場に参加し、企業に於ける女性の役員がさらなる増加をするなど、女性の活躍は大きく前進しています。
昨年12月に閣議決定した『第4とき次男女共同参画基本政策』に示す通り、2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%となるよう期待し、政権としてあらゆる努力を行っていくことは当然です。
その上で女性参画遅れている分野に於いて先ずは採用される女性の割合を高め、指導的立場に相応しい経験を積ませ、将来、指導的地位成長していく女性の候補者を増やしていけば、現実に即した着実な取組みにより、30%目標を達成できる道筋をこの5年間でつけてまいります」(以上)
相変わらず自身に都合の悪い統計は隠して出さない。そして詭弁とも言うべきゴマカシで成果に見せかける言葉の操りを駆使している。
「この約3年間で新たに100万人の女性が労働市場に参加」したと誇っているが、2012年から2015年にかけて採用した100万人の女性が後4年しかない2020年までに指導的地位に到達するだけのスキルを積む能力も、安倍晋三が言う「指導的立場に相応しい経験」を十分に積むことのできる年数もあるはずはないにも関わらず、3年間に於ける100万人の女性の労働市場参加が女性の指導的地位登用に関係があるかのように言うゴマカシは流石である。
このゴマカシは安倍晋三の本質的な才能なのだろう。
しかも100万人の雇用増と言っても、女性の場合は正規雇用よリも非正規雇用の方が多い。《正規・非正規就業者数の詳細をグラフ化してみる(2015年)》(ガベージニュース/2015/06/12 11:18)から、女性の正規と非正規の雇用者数の割合を示すグラスを載せておく。年次推移を見れば、100万人の採用のうち非正規女性の方が多いことが分かる。
当然、非正規雇用の場合、例外は何人かはあるとしても、非正規雇用から課長相当職等の指導的地位に就く女性は限りなく少ないだろうことを考えると、安倍晋三はなおさらに指導的地位登用に無関係な女性まで挙げて、さも関係あるかのように言うゴマカシを働いたことになる。
女性の指導的地位への登用が日本という国で進まない原因はどこにあるのだろう。原因を把握して、その原因を根絶しないかぎり、あるいは少なくとも改善しない限り、与えられた数値目標を達成するという自己目的化した達成が仕方なしのように進むことになる。
その原因の多くが女性の家事や育児・子育ての時間を奪う日本独特の長時間労働や、会社の仕事のみならず家事や育児・子育てを含めて、これは女性の仕事、これは男性の仕事と類別する男女性別に応じて固定した役割分担意識が一種の制度化をもたらしている労働構造によって女性を高度な仕事に導き、育てる労働環境となっていないことなどを挙げているが、だとしたら、こうした原因を除くことに注力すべきだが、前者の長時間労働の是正は政府や役所等の上からの強制によってある程度可能ではあるものの、後者となると特に男性側に根付いた日本人の意識となっていることから、その是正は困難を極めることになる。
その結果、政府は相変わらず数値目標の強制やそれを達成した場合の優遇策に重点を置くことになる。
その一つの例を次の記事、《女性活用の企業、公共工事の入札で優遇へ…政府》(YOMIURI ONLINE/2016年01月25日 14時33分)から見てみる。
国交省が2016年度中に開始する公共工事入札優遇策である。公共工事の請負業者を決める際、業者の技術力、工事実績、価格などを点数化する「総合評価落札方式」を採用していて、そこに女性やワーク・ライフ・バランスに関する加点基準を追加し、積極的に取り組んでいれば加点して、落札順位を上げるそうだ。
記事は男性優位が根強いとされる建設業界などに意識改革を促して女性の活躍の場を広げる狙いだと解説している。
具体的には4月施行の女性活躍推進法や次世代育成支援対策推進法に基づいて次の項目を満たした場合には加点するという。
〈1〉時間外労働と休日労働の合計の平均が月45時間未満
〈2〉採用における男女の競争倍率が同じ程度
〈3〉女性の育児休業の取得率が75%以上
だが、こういった上からの機械的な目標設定が果たして女性の指導的地位への登用へと繋がるかどうかである。
記事は上記3項目に加えて、「管理職に占める女性の割合が15%以上なら、3点加える」と書いているが、《女性登用に対する企業の意識調査》(帝国データバンク/2015年8月13日)を見ると、建設業界に於ける女性管理職平均割合は2014年4.1%、2015年4.8%であって、にも関わらず15%以上を目標とさせるのは政府が当初掲げていた「社会のあらゆる分野に於いて2020年(平成32年)までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度」と同様、現実に即しているとは言えない、手の届かない欲張った目標設定と言う他ない。
欲張った目標設定であることを証明するもう一つの記事がある。《女性総合職1期の80%退社 雇用均等法30年、定着遠く》(47NEWS/2016年1月23日 18時36分)
記事は冒頭、〈採用や昇進などの女性差別解消を目指す男女雇用機会均等法が施行された1986年に大手企業に入社した現在50代前半の女性総合職のうち、昨年10月時点で約80%が退職していたことが23日、共同通信の調査で分かった。〉と解説している。
各業界の主要会社計約100社にアンケートを実施、回答28社約千人分のデータの分析結果だとしている。
〈均等法施行からことし4月で30年。法施行で企業は重要業務を担い幹部候補生である総合職で大卒女性の採用を始めた。しかし長時間労働などの慣習は変わらず、育児と仕事の両立支援も遅れたため、1期生の多くが職場に定着できなかった。〉としている。
記事挿入の画像から入社年毎の退社の割合と年間退社率を纏めてみた。
2015年10月時点の退職者
1986年入社・29年間で79%退社→1年間に平均約2.7%の退社
1999年入社・16年間で74%退社→1年間に平均約4.7%の退社
2007年入社・ 8年間で42%退社→1年間に平均約5.3%の退社
男女雇用機会均等法に則った女性管理職登用(=指導的地位への登用)でありながら、それを果たした女性管理職者の退社率が年々増加しているという逆行した傾向を見せている。
記事はこの原因を長時間労働や育児と仕事の両立支援の遅れに置いているが、女性管理職が雇用されている各企業が法律の根拠を待つのではなく、現在の日本の企業の殆どが男性の意識を支配要件として成り立っているのだから、それぞれに採用した女性に対する男性側の意識の在り様に関係していたはずだ。
いわば女性が男性よりもより多い時間、ときには殆どの時間を担うことになる家事や育児・子育ての持間を男性従業員に対して女性が気兼ねなく相殺できるよう、男女共に長時間労働を是正していく男性側の意識の変革、既に触れたように会社の仕事のみならず家事や育児・子育てのみならず、これは女性の仕事、これは男性の仕事と類別する、特に男性側に支配的な男女性別に応じて固定した役割分担意識の是正に努めて、男性のみが働きやすい労働環境から男女共に働きやすい労働環境に改善を図る男性側の意識の変革を必要条件としなければならなかったが、それができなかった。
これらができていないから、様々な法律を待ってしても、女性の指導的地位への登用が国際的に少なく、また管理職になったとして退職率が高いということであるはずだ。
役所にしてもそうだが、日本の企業の殆どが男性の意識を支配要件としているのは日本人の思考様式・行動様式となっている権威主義の一つである男尊女卑の名残りがそうさせているからで、それが男性を上に置いて女性を下に置く男女性別に応じた役割分担の固定化意識となって現れているはずだ。
岡田克也が代表質問で女性が指導的地位に占める割合の政府目標に届かないことと、その目標そのものの変更を余儀なくされたことを追及し、安倍晋三はその追及には直接答えず、「この約3年間で新たに100万人の女性が労働市場に参加した」アベノミクスの成果を以ってさも女性の指導的地位への登用が進むかのような詭弁でゴマカシたが、岡田克也にしても安倍晋三にしても女性の指導的地位への登用、その基礎となる女性が指導的地位へと進むことのできる正規雇用を出発点とした様々なr労働環境の整備を男性側の意識の改革を主たる問題点として議論すべきだったはずだが、両者共に何よりも肝心なその問題点には触れなかった。
何よりも重要であるこの問題点を解決することによって女性が指導的地位に占める割合はついてくる。