日本の外相岸田文雄とユン韓国外相が2015年12月28日、韓国ソウルで両国間に横たわっていた従軍慰安婦問題で会談して合意に至ったことに関して2015年12月29日の当ブログ記事で、 《日韓慰安婦問題合意は安倍晋三が岸田を背後から操り韓国にペテンを仕掛け、韓国がそれにまんまとはまった - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》と題して、安倍晋三は「河野談話」を否定していながら、「河野談話」を安倍内閣として引き継ぐといったレベルの日本軍の関与と日本政府の責任を認めるといったペテンで韓国を騙し、韓国はそのペテンにまんまとはまったといった内容のことを書いた。
だが、2016年1月18日の参議院予算委員会で「日本のこころ」代表の右翼中山恭子がこの合意を取り上げた質問に対する岸田文雄と安倍晋三の答弁、及びこの両答弁に対する韓国側の反応を見ると、この日韓合意は密約で成り立たせているのではないかとの疑いを持った。
先ず中山恭子と岸田・安倍の答弁を文字に起こしたから、見てみる。
中山恭子「日本のこころを大切にする党中山恭子です。昨年12月21日、党名を『日本のこころを大切にする党』、略称『日本のこころ』と改めました。政治の場では日本の伝統的な考え方は古臭いものとして切り捨てられています。米国から輸入された自由主義、民主主義、共産主義、保守主義など、何とかイズムで表される考え方が殆ど全てを支配しています。
しかし日本人が長い歴史の中で取捨選択して作り上げてきた風俗や習慣、自然を大切にする穏やかで、しかも進取の気性にに富む文化は素晴らしいものであります。日本の人々は四季折々の美しい風景の中で争いを嫌い、和を以って尊しとなし、相手を思い遣り、美しい物を尊び、細やかな心根と共に暮らしてきました。
今日本の社会で悲しいべき問題が多く起きています。これは私たちが本来持っている日本のこころを見失っているからではないでしょうか。政治の場でも世界で高く評価される日本の心を主義(?)の考え方に加えて今一歩振返って、しっかり認識し、政策に活かして温かな社会を作っていくことが求められていることと思います。
『日本のこころを大切にする党』はとても小さな声ですが、どうぞ宜しくお願いします。
さて、党名変更後1周間後、12月28日に日韓外相会談の共同記者発表がありました。発表文を読んでびっくりし、日本のこころを大切にする党代表として談話を出しました。皆様の机上に配布してございます。
戦時中であっても、女性たちが貧困などのゆえに体を売るなど人として酷い状況に置かれることは決してあってはならないことです。日本が率先して国連の場でこの問題を取り上げてもよいと考えております。
しかし今回の共同記者発表は極めて偏ったものであり、大きな問題を起こしたと考えております。共同記者発表では『慰安婦問題が当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本の責任を痛感している』。
すべての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復の代替として日本のために戦った日本の軍人たちの名誉と尊厳が救いのない程に傷つけられています。さらに日本人全体がケダモノのように把えられ、日本の名誉が繰返しがつかない程、傷つけられています。
外務大臣にお伺い致します。今回の共同発表が著しく国益を損なうものであることに思いを致さなかったのでしょうか」
ここで取り敢えず中山恭子の歴史認識を取り上げてみる。
「日本の人々は四季折々の美しい風景の中で争いを嫌い、和を以って尊しとなし、相手を思い遣り、美しい物を尊び、細やかな心根と共に暮らしてきました」と言っているが、ところがドッコイ、聖徳太子の時代も争いを好んでいたからこそ、時の実質権力者蘇我稲目が皇族や他の豪族を従えて統治する必要上、聖徳太子に十七条憲法第一条で「和を以て貴しと為す、忤(さか=逆)ふること無きを宗とせよ」、いわば争うなと言わしめたに過ぎない。
大和朝廷で重きをなしていた最初の豪族は軍事・警察・刑罰を司る物部氏であり、天皇に代わって実質的な権力を握っていたが、勢力を台頭してきた蘇我稲目は欽明天皇に二人の娘を后として入れ、後に天皇となる用明・推古・崇峻の子を設けた上、子である崇仏派の蘇我馬子をして対立していた廃仏派の穴穂部皇子と物部守屋を攻め滅ぼし、自分の甥に当たる崇峻天皇を東漢駒(やまとのあやのこま)に殺させて、孫に当たる推古天皇を擁立、母が蘇我稲目の娘である欽明天皇の第三皇女である点では推古天皇とは同じ孫の関係にあり、従姉弟となる聖徳太子を皇太子に据えた。
誰が実質的に権力を握っていたか。
蘇我稲目の子であり、蘇我氏の全盛時代を築いた蘇我馬子の子蘇我蝦夷とその子蘇我入鹿は、〈甘檮岡(あまかしのおか)に家を並べて建て、蝦夷の家を上の宮門(みかど)、入鹿の家を谷の宮門と称し、子を王子(みこ)と呼ばせた」と『日本史広辞典』に書かれているが、自らを天皇に擬すほどに権勢を誇れたのは、その権勢が天皇以上であったからこそであり、実質的に権力がどこにあったか証明して余りある。
このような豪族と天皇家の関係の中で、「和を以て貴しと為す、忤ふること無きを宗とせよ」と争いごとのない平和と秩序を求めた。そのことによって最も利益を得る対象者は天皇家以上に蘇我一族である。
604年十七条憲法成立、聖徳太子没後約20年後の643年に蘇我入鹿は皇位継承争いから自らの軍を率いて斑鳩宮(いかるがのみや)を襲い、父が聖徳太子とされ、母が蘇我馬子の娘である、一族の血を受け継いでいる山背大兄王を妻子と共に自害に追い込んでいる。
どこに「四季折々の美しい風景の中で争いを嫌う」日本人の性向を見ることができるのだろう。戦前、中国、韓国に侵略し、対米戦争を起こして各国占領地で残虐行為を繰返した歴史の事実にまともに目を向けることができず、「四季折々の美しい風景の中で争いを嫌う」性向を日本人全体の永遠不変の恒久的な感性とすることができる。
優れた歴史認識の持ち主でなければできない中山恭子の感性である。
豪族が自分の娘を天皇家の后や側室にして、産んだ子どもを通して自らの支配力を握っていく、あるいは拡大していく権力掌握術の文化は以後も受け継がれていく。
蘇我入鹿は大化の改新で後に天智天皇となる中大兄(なかのおおえ)皇子に誅刹されているが、後の藤原氏台頭の基礎を作った中臣鎌足(なかとみのかまたり)の助勢が可能とした権力奪回であるから、皇子への忠誠心から出た行為ではなく、いつかは蘇我氏と天皇家に代って権力を握る深慮遠謀のもと、いわば蘇我氏に続く実質権力者を目指して加担したに過ぎない。
そのときの歴史の主人公は中大兄皇子に見えるが、実際の主人公は黒衣であった中臣鎌足であった。
この根拠は鎌足の次男である藤原不比等(ふじわらのふひと)が自分の娘の一人を天武天皇の夫人とし、後の聖武天皇を設けさせ、もう一人の娘を明らかに近親結婚となるにも関わらず、孫に当たる聖武天皇の皇后とし、後の孝謙天皇を設けさせるという、歴代豪族の権力掌握文化の踏襲を指摘するだけで十分であろう。
藤原氏全盛期の道長(平安中期・966~1027)は娘の一人を一条天皇の中宮(平安中期以降、皇后より後から入内〈じゅだい〉した、天皇の后。身分は皇后と同じ)とし、後一条天皇と後朱雀天皇となる二人の子を産んでいる。別の二人を三条天皇と孫である後一条天皇の中宮として、「一家三皇后」という偉業(?)を成し遂げ、天皇の世ではなく、「この世をば我が世とぞ思ふ」と謳わせる程にも、その権勢を確かなものにしている。
天皇家が万世一系であったとしても、武家政治時代以前は歴代豪族の血がより多く混じった万世一系ということでなければならない。
少々講釈が長くなったが、中山恭子の質問に対する岸田文雄の答弁を見てみる。
岸田文雄「先ずは今回の合意ですが、この慰安婦問題が最終的、不可逆的に解決されることを確認し、これを日韓両政府が共同で、そして国際社会に対し明言した、このことが今までなかったことであり、この点においては画期的なことであると認識しております。その上で、今様々なご指摘をいただきました。まず、この合意に於けるこの認識ですが、これは従来からこの表明してきた歴代の内閣の立場を踏まえたものであります。
そしてこれも度々申し上げておりますが、日本政府は従来より日韓間の請求権の問題は1965年の請求権協定によって法的に解決済であるという立場をとってきており、この立場は全く変わっておりません。
このようにこの従来の立場、我が国としてしっかり守るべきこと、確認すべきこと、これはしっかり確認し、変わっていないものであると認識をしております。こうした点を確認した上で、是非この合意に基づいてこの日韓関係を前に進めていきたいと考えております」
岸田が「この合意に於けるこの認識ですが、これは従来からこの表明してきた歴代の内閣の立場を踏まえたものであります」と言っていることは歴代内閣が「従来から」引き継ぎ、安倍内閣も内閣としてその立場を踏まえると表明してきた「河野談話」の従軍慰安婦に関わる歴史認識に基づいた「日本軍の関与」であり、日韓合意によって何も変わっていないという趣旨となる。
だが、韓国側は日本軍の従軍慰安婦強制連行を認めた「河野談話」を安倍内閣が内閣としてその立場を踏まえるとしていることを単なるタテマエに過ぎないことを知っている。安倍晋三自身が中山恭子のこの後の質問に対して答弁していることと同じ趣旨となるが、韓国側の従軍慰安婦の強制連行に日本軍が関与していたとする歴史認識に対して、「河野洋平官房長官談話によって強制的に軍が家に入り込み女性を人攫いのように連れていって慰安婦にしたという不名誉を日本は背負っている。安倍政権のときに強制性はなかったという閣議決定をしたが、多くの人たちは知らない。河野談話を修正したことをもう一度確定する必要がある。孫の代までこの不名誉を背負わせるわけにはいかない」とか、 「河野談話は基本的に継承している。狭義の意味で強制性を裏付ける証言はなかった。いわば官憲が家に押し入って連れて行くという強制性はなかったということだ。そもそもこの問題の発端は朝日新聞だったと思うが、吉田清治という人が慰安婦狩りをしたという証言をしたが、まったくのでっち上げだったことが後(のち)に分かった。慰安婦狩りのようなことがあったことを証明する証言はない。裏付けのある証言はないということだ」とか、国会その他で発言しているからである。
ここで2点、疑問が生じる。日本側が従来からの歴史認識を変えていないとしているのが事実なら、なぜ韓国側は合意したのか。なぜ日本側は従来からの歴史認識と変わらない「河野談話」否定の立場に立っていながら、合意事項に「軍の関与の下に」とする文言を入れたのか、この2点である。
続いて質疑の模様を見てみる。
中山恭子「今回の日韓外相会談共同記者発表の直後から、海外メディアがどのように報道しているか今朝の質疑でも取り上げられていましたが、紹介します。
お手元に配布してある『なでしこアクション』代表の山岡鉄秀さんが取り纏めた日韓合意直後の主な海外メディアの報道の一覧表です。オーストラリアのザ・ガーディアンの『日本政府は女性の性奴隷化に軍が関与していたことを認めた』。
また、ニューヨーク・タイムズは、『戦争犯罪の罪ならず、幼女誘拐の犯罪でもある』などと書かれています。BBC、その他米国、カナダでも、極めて歪曲した報道が行われています。この中から、ザ・サンンポ報道のコピーをお手元に配布しました。外務大臣の写真が載っているものです。
この物(情報)はいつでも誰でもパソコンから引き出せます。日本が軍の関与があったことを認めたことで、その記者発表が行われた直後から海外メディアでは日本が恐ろしい国であるとの報道が流れています。日本人はニコニコしているが、その本心はケダモノのように残虐であると曲解された日本人が定着しつつあります。
今回の共同発表後の世界の人々の日本人に対する見方で取り返しの付かない事態になっていることを目を逸らさずに受け止める必要があります。外務大臣は今回の日韓共同発表が日本人の名誉を著しく傷つけてしまったことに就いてどのようにお考えでしょうか」
岸田文雄「先ず、今回の合意につきまして、この海外における評価ですが、この合意直後から米国、豪州、シンガポール、英国、ドイツ、さらにはカナダ、そして国連からもこうした合意について歓迎する声明が出されております。
国際社会からはこの幅広い支持をいただいていると考えます。
そして一方、海外のマスコミの反応ということで申し上げますならば、この海外メディア、欧米主要国等においても、日韓関係の改善については高く評価されていると承知をしています。
ただ、その中にですね、不適切な表現、あるいは事実に基づかない記述が、このマスコミの報道等に散見される。これはしっかりと受け止め、そして対応していかなければならないと思います。
こうした適切な記述については、しっかりと申し入れを行い、我が国の立場、そしてこの事実につきましてはしっかりと国際社会に明らかにしていかなければならないと考えます。
今回の合意の内容や意義については、しっかり説明していかなければならないと思いますが、合わせてこうした不適切な表現、あるいは事実に基づかない記述に対しましてはしっかりと我が国としての立場を明らかにしていきたいと考えます」
中山恭子が共同記者発表で「軍の関与の下に」との文言で従軍慰安婦強制連行に日本軍の関与認めたことが海外のマスコミに歴史の事実とされて報道され、日本の国益を損ねているのではないかと問い質したのに対して岸田は各国が合意に歓迎の声明を出している、海外マスメディアの不適切な記述は訂正を申し入れる等々、「軍の関与の下に」の文言とは直接関係しないことを答えている。
言葉としては論理的に矛盾することになるが、「軍の関与の下に」の合意文言は日本軍の関与を認めたものではないとの声明を出せば、海外のマスメディアだって中山恭子が紹介しているような反応は示さない。
尤も別の反応を誘うことになって、ややこしくなることだけは確かである。
中山恭子「『当時の軍の関与の下に』という言葉が入っていて、その言葉が何を意味するのか全く何も説明もないことが、(説明もなく)使われていることが、この世界ではですね、軍の関与は軍の強制連行、慰安婦狩りを始め、性奴隷化したことであるとの解釈が当然のこととして流布されてしまっていると言うことだと思います。
2007年3月2日、参議院予算委員会第1次安倍内閣の当時ですね、総理は強制連行について、『いわば慰安婦狩りのような強制連行的なものはあったということは存在する証言はない』と述べております。
まさに現在『吉田証言』は虚言であり、事実ではないと、朝日新聞のいわゆる従軍慰安婦なるものは存在しなかったこと、強制連行がなかったことが明らかになっています。
にも関わらず、今回説明のないままに『当時の軍の関与の下』と発表してしまいました。『当時の軍の関与の下』が何を意味するのか遅きに逸してしまったかもしれなせんが、明らかにしておくことが政府の責務であると考えております。
外務大臣にお伺いします。今回の外相共同記者発表で『当時の軍の関与の下に』とは慰安婦所の設置、健康管理、衛生管理について軍が関与したとの意味であり、日本軍が慰安婦を強制連行したり、惨殺した事実は全くないことを全世界に向けて適切に発言して頂きたいと思っております。
各国に向けて適切な証言について申し込みを行っているだけでは、世界の中で日本という国の名誉は傷つけられたままになると考えております。如何でしょうか」
中山恭子は「当時の軍の関与の下に」なる文言の意味は安倍晋三が表明してきているように従軍慰安婦の強制連行に日本軍が関与したということではなく、「慰安婦所の設置、健康管理、衛生管理」等にのみ日本軍が関与したということではないかと、韓国側の歴史認識と矛盾することは無視して自身が望む意味づけに導くべく誘導尋問に出た。
断るまでもなく、安倍晋三自身の歴史認識とは何ら矛盾しない。だが、今回日韓合意という双方の歴史認識の一致を構造としていなければならない。いわば日韓双方が認めることができ、認めた「軍の関与の下に」でなければならない。
岸田文雄「ご指摘の点につきましては、今回の合意において、この『慰安婦問題は当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であ』る、このような認識を示しているわけですが、まずこの認識につきましては、従来から我が国政府として表明してきた認識です。当然、歴代内閣の立場を踏まえたものであると考えます。
その上で、これまで政府が発見した資料の中には、軍や官憲による所謂強制連行は確認できなかったという、政府の立場、平成19年の政府に対する質問書に対する答弁書で、閣議決定した我が国の立場ですが、この立場については何ら変更はないと認識をしています。
このことにつきましては、何度も明らかにしているところであります」
要するに従軍慰安婦の強制連行に日本軍の関与は認めていない日本の立場は何ら変わらないが、従軍慰安婦の強制連行を認めている「河野談話」の歴史認識を歴代政権同様に安倍政権も引き継いでいくとする文脈での合意だとしている。
韓国側の歴史認識と明らかに正反対だから、この国会質疑を韓国側は“妄言”として取り上げ、激しく反発するはずである。
中山恭子「今の外務大臣だけのお答では今ここで世界で流布されている日本に対する非常に厳しい評価というものが払拭できるとは考えられません。明快に今回の軍の関与の意味を申し述べて頂きたいと思っております。
安倍総理は私たちの行為が子孫やその先の世代の子どもたちにいつまでも謝罪させる続ける宿命を負わせてはいけないと発言されています。私も同じ思いです。しかしご覧頂きましたようにこの日韓共同記者発表の直後から、事実とは異なる曲解された日本人観がたくさん拡散しています。
日本政府が自ら日本軍が元慰安婦の名誉と尊厳を傷つけたと認めたことで、日本が女性性奴隷を行った国であるとの見方が世界の中に定着することとなります。この後、私たちの子や孫、次世代の子どもたちは謝罪はしないかもしれませんが、女性にひどいことをした先祖の子孫であるとの日本に対する冷たい世界の評価の中で生きていくことになります。
これから生きる子どもたちに残酷な宿命を負わせてしまいました。安倍総理はこれら誤解に反する事実の誹謗中傷などに対して全世界に向けて正しい歴史の事実を発信をし、日本及日本人の名誉を守るために力を尽くして頂きたいと考えます。
総理はこの流れを払拭するにはどうしたら良いとお考えでしょうか。ご意見を聞かせて頂きたいと思います」
岸田が中山恭子の誘導尋問に程よく乗らなかったものだから、ご本尊の安倍晋三に答弁を求めた。
安倍晋三「先ほど外務大臣からも答弁をさせていただきましたように、海外のプレスを含め正しくない事実による誹謗中傷があるのは事実でございます。性奴隷 あるいは 20万人 といった事実ではないこの批判を浴びせているのは事実でありまして、それに対しましては政府としては、それは事実ではないということはしっかりと示していきたいと思いますが、政府としてはこれまでに政府が発見した資料の中には、軍や官憲による所謂強制連行を直接示すような記述は見当たらなかったという立場を辻本清美議員の質問主意書に対する答弁書として平成19年、これは第一次安倍内閣の時でありましたが、閣議決定をしておりまして、その立場には全く変わりがないということでございまして、改めて申し上げておきたいと思います。
また 当時の軍の関与の下にというのは、慰安所は当時の軍当局の要請により設営されたものであること、慰安婦所の設置、管理及び慰安婦の移送について旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与したこと、慰安婦の募集については軍の要請を受けた業者が主にこれに当たったこと、であると従来から述べてきている通りであります。
いずれにいたしましても重要なことは今回の合意が、今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に異なっておりまして、史上初めて日韓両政府が一緒になって慰安婦問題が最終的且つ不可逆的に解決されたことを確認した点にあるわけでありまして、私は私たちの子や孫そしてその先の世代の子供たちに謝罪し続ける宿命を背負わせるわけにはいかないと考えておりまして、今回の合意はその決意を実行に移すために決断したものであります」
安倍政権の従軍慰安婦の強制連行問題に関わる歴史認識が何ら変わっていないのに、「今回の合意が、今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に異なっている」ということは何を意味するのだろうか。
中山恭子「総理の今のご答弁では日韓共同記者発表での『当時の軍の関与の下に』というものが、軍が関与したことについては慰安所の設置、健康管理、衛生管理、移送について軍が関与したものであると、解釈致しますが、それでよろしいでしょうか」
中山恭子は自身が望んでいる発言を誘導尋問したとおりに得ることができたが、それでも安心できなかったのか、確認した。
安倍晋三「今申し上げた通りでございまして、衛生管理も含めてですね、管理、設置管理に関与したということでございます」
中山恭子「総理から明快なお答えを頂いて少しホッとしたところでございます。この後全世界に向けてこの念をしっかりと伝えて、日本に対する曲解を解いていくために私たちは努力していきたいと思っておりますし、政府の方々も是非、お力を入れて国を挙げて日本の名誉を守って頂きたいと思います。
短期的なその場凌ぎの日本外交が真の意味で日本の平和をもたらすとは考えられません。歴史の事実に反して日本人についての曲解された見方が世界中に伝わり日本の信頼が損なわれたことの方が長い目で見て如何に損失になるか申し上げるまでもないことです。
しかし日本が軍事力で平和を維持するのではなく、日本の心や日本の文化で平和を維持しようとするとき、日本に対する海外の見る目、海外の評価はとても大切です。子どもや孫、次の世代の子どもたちがあなたの先祖が酷いことを平気でやった人たちだと、事実ではないのに罵られるような事態を私たちが今作ってしまったことを大変情けなく、無念のことと思っています。
曲解を招くような外交、日本を貶めるような外交は全部慎むべきと考えています。これを挽回するための対応を私たちは直ちに取らなければなりません。政府にも、その旨要求して、質疑を終えます」――
安倍晋三が憲法違反の憲法解釈で集団的自衛権行使容認の法律を成立させたのはつい最近のことで、軍事力強化に務めているというのに、「日本が軍事力で平和を維持するのではなく、日本の心や日本の文化で平和を維持しようとするとき」とは、ツラの皮が厚くなければなかなか言うことはできない。
平気で言うことができるのが「日本のこころ」ということなのだろうか。
以上の遣り取りで日韓合意の「当時の軍の関与の下に」の「軍の関与」なる文言に日本側が何を意味させているかが分かった。従軍慰安婦の強制連行を認めている「河野談話」を引き継ぐものの、軍の関与は慰安婦所の設置、衛生管理、慰安婦の移送のみだと。
だが、このこと自体が矛盾する論理となるのだが、「今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に異なっている」方法で凌いだ。
どのような方法なのか、この質疑に対する韓国の反応を伝えているマスコミ記事がヒントとなる。
チョ・ジュンヒョク韓国外務省報道官「慰安婦動員の強制性は、どのような場合でも否定するすることができない歴史的な事実だ。女性たちが本人の意思に反して強制的に動員されたことは、被害者の証言や東京裁判の資料などから確認されている。
重要なことは合意事項を誠実に履行することだ」(NHK NEWS WEB)/2016年1月19日 20時26分)
もう一つ別の記事。最大野党「共に民主党」の反応を伝えている。
ト・ジョンファン「共に民主党」報道担当「(朴)政府の主張通り、慰安婦問題と関連した韓日外相合意が『最善の結果』ならば、今からでも日本政府に合意違反と安倍首相のダブルスタンダード的言動に強く抗議すべきだ。それなのに、これに対する韓国政府の対応は実にひどい。
日本政府による慰安婦強制連行は国際的に既にしっかりと証明された真実であることは誰もが知っている。日本側が慰安婦問題を論争の火種にするなら、『最終的かつ不可逆的』という合意の意味は一体何だったのか、韓国政府に問わざるを得ない。結局、日本の謝罪を引き出したという韓国政府の自画自賛は虚言に過ぎなかった。日本政府に従軍慰安婦問題に対する免罪符を与えただけだ。
朴槿恵(パク・クンヘ)政権は手遅れになる前に、日本政府の厚顔無恥な行動を糾弾し、拙速的で屈辱的な韓日外相合意が無効になったことを宣言しなければならない」(朝鮮日報/2016/01/20 10:00)
本来なら、この韓国野党の激しい反発を朴政権自身がが示さなければならないはずだが、従来からの韓国側の歴史認識に真向から反する安倍政権の従来から何ら変わらない歴史認識の提示を問題とすることよりも、「合意事項を誠実に履行すること」を優先させている。
このことは韓国の「中央日報」紙が、《安倍首相の「慰安婦妄言」に抗議しない韓国政府》(2016年01月20日07時56分)と題しても取り上げている。参考までにアクセスして頂きたい。
韓国側の歴史認識に反した合意事項でありながら、それを「誠実に履行する」と言うことも矛盾そのものだが、朴政権は矛盾としていない。
この疑問を解くとしたら、日韓双方の歴史認識は歴史認識として横に置いて、従軍慰安婦強制連行に関して日本軍の関与はなかったとしている安倍政権の歴史認識に基づいて日本軍の関与を認めて、その代わり韓国の経済発展に力を貸すといった密約があったのではないだろうか。
我々は実際には認めていませんよ、だが、双方の関係と発展ために認めていないことを認めると言うことにしましょうと。認めたことが日本や韓国以外の海外で問題になったときは軍の関与を認めたものではないと主張することになるが、韓国はこのことを無視して貰いたいと。
これが安倍晋三が言っている「今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に異なっている」方法ということではないのか。
こうとでも解釈しないことには、日本側が従来からの歴史認識を変えていないとしているのに対してなぜ韓国側は合意したのか、なぜ日本側は従来からの歴史認識と変わらない「河野談話」否定の立場に立っていながら、合意事項に「軍の関与の下に」とする文言を入れたのか、安倍晋三と岸田が国会答弁で改めて従軍慰安婦強制連行の軍の関与を否定していながら、韓国側の歴史認識と異なるにも関わらず、そのことに激しく反発せずに、反発よりも異なっている歴史認識の合意事項の誠実な履行をなぜ求めたのか、それぞれの疑問に整合性を与えることができる。
韓国の元従軍慰安婦だけではなく、台湾やフィリッピン、インドネシア、そして日本占領のインドネシに在住していたオランダ人女性等々の元従軍慰安婦を誑(たぶら)かす安倍外交の勝利と言うことができる。
その外交に韓国は屈した。何と言う「積極的平和主義外交」なのだろうか。