2016年1月22日、安倍晋三が衆参本会議で第190回国会の施政方針演説を行った。大盤振舞いのバラ色で彩った日本の将来を約束してみせた。これまでの成果が将来に向けた約束に実現可能性を与える。
安倍晋三はきっとバラ色の仕上がりだと頭に思い込んでいるアベノミクスの成果に基づいて自身が舵取りを続ければ、日本の将来はバラ色だと約束したのだろう。
安倍晋三は3年間のアベノミクスの大成果を次のように誇っている。
「アベノミクスによって、来年度の地方税収は、政権交代前から5兆円以上増加し、過去最高となりました。この果実を全国津々浦々にお届けする」
「外国人観光客は、3年連続で過去最高を更新し、政権交代前の2倍以上、1千900万人を超えました。20年前、3兆円の赤字であった旅行収支は、55年ぶりに黒字となり、今年度は1兆円を超える黒字が見込まれます」
「3年間のアベノミクスは、大きな果実を生み出しました。
名目GDPは28兆円増えました。国民総所得は40兆円近く増加し、政権交代選挙で国民の皆様にお約束した、「失われた国民総所得50兆円」の奪還は、本年、実現する見込みであります。
企業収益は過去最高となりました。中小企業の倒産は、政権交代前と比べて2割減り、一昨年、24年ぶりに1万件を下回りました。昨年は更に1割近く減少しています。
雇用は110万人以上増え、正社員も増加に転じました。正社員の有効求人倍率は、政権交代前より5割上昇し、統計開始以来最高の水準です。昨年は17年ぶりの高い賃上げも実現しました」
「昨年の7月8月9月、企業の設備投資は一年前と比べ11%以上伸びました」
何度でも繰返しているいつもの如くのパラ色に輝く成果の誇示だが、当然、その成果は景気回復という結果と結びついていなければならない。アベノミクス自体が経済の好循環を着地点とした景気回復策そのものなのだから、当たり前のことである。
景気回復に至らないアベノミクスなら、逆説そのもので、有名無実化する。
ところが昨年2015年の政府の月例経済報告の景気主判断は1年間を通して、「緩やかな回復基調が続いている」であって、安倍晋三のアベノミクスのバラ色の成果・各指標と結びつけることができる景気回復の影すらも見えない。
消費税を5%から8%に増税した2014年4月以前は駆け込み需要で消費が僅かながら上向き、2013年12月の月例経済報告は「上方修正」を3カ月連続で据え置き、約4年ぶりに「デフレ状況」の表現が削除されてはいるが、以後2014年12月まで一貫して「景気は、個人消費などに弱さがみられるが、 緩やかな回復基調が続いている」の景気判断となっていて、2014年1年間も「景気回復」はその実感すらなく、景気停滞の膠着状態のみがはっきりするだけで、見えては消える逃げ水のような状態であった。
消費税増税は理由にならない。政府は駆け込み需要の反動減に備えて国土交通省関係だけでも2014年と2015年で10兆円の公共事業投資を行っている。文科省関係も2014年と2015年で学校の耐震化工事等で4千億円程度のかなりの公共事業投資を行っている(平成25年度補正1506億円、平成26年度学校耐震化645億円、平成26年度補正985億円、平成27年度学校耐震化1229億円)。
だが、いずれの公共工事もゼネンコン等を潤すだけで、個人消費には結びつかなかった。
安倍晋三がアベノミクスのバラ色の成果を誇示するなら、景気回復に結びついていることが絶対条件となる誇示でなければならないが、まさに結びついていないアベノミクスのバラ色の成果となっている。
当然、安倍晋三の日本の将来に向けた約束にしてもこれまでのアベノミクスが景気回復に成果を挙げてきたことの証明書となって始めて、約束の実現可能性が信用性を帯びることになるはずだが、そうはなっていないとなると、どのような約束も虚ろに響くことになる。
一度も約束したことを実行できない男が交際している女性に相手を喜ばせるような新たな約束をするようなもので、相手の女性は余程のお人好しでなければ信用しないだろう。お人好しだけが信用する。
安倍晋三がどんな約束をしたか見てみる。
「『2020年までに農林水産物の輸出を1兆円に増やす』。この目標を3年前に掲げた時、『無理だ』という声が上がりました。『できない』とも言われました。
しかし、輸出額は昨年7千億円規模に達し、その結果、「過去最高」を3年連続で更新いたしました」
「『攻めの農政』の下、40代以下の新規就農者が年間2万人を超え、この8年間で最も多くなりました」
「3月に北海道新幹線が開業します。札幌へと工事を続けます。九州新幹線も着実に長崎へとつなげてまいります。東京から富山、金沢を貫く北陸新幹線も、敦賀へと延伸することで、大阪へとつながる回廊が生まれます。
大阪や東京が大きなハブとなって、北から南まで、地方と地方をつないでいく。『地方創生回廊』を創り上げ、全国を一つの経済圏に統合することで、地方に成長のチャンスを生み出してまいります」
「経済の好循環によって、内需を押し上げてまいります。日本が、正に世界の中心で輝く一年となります」
「継続こそ力。3年間の内政、外交の実績の上に、今後も、ぶれることなく、この道をまっすぐに進んで行きます。困難な課題にも真正面から「挑戦」し、結果を出してまいります」
「皆さん、共に『挑戦』しようではありませんか。そして、『結果』を出していこうではありませんか。それが、私たち国会議員に課せられた使命であります。
ただ『反対」と唱える。政策の違いを棚上げする。それでは、国民への責任は果たせません」(以上)
アベノミクスという景気回復策を大々的にブチ上げて景気回復に多額の国家予算を注ぎ込み、規制緩和だと様々に手を打ちながら、確実に景気回復だということのできる経済状況を招き寄せることができなかったにもかかわらず、日本の将来に向けたバラ色の約束をする。
にも関わらず、冒頭、立派なことを言っている。
「開国か、攘夷か。
150年前の日本は、その方針すら決められませんでした。終わらない議論、曖昧な結論、そして責任の回避。滅び行く徳川幕府を見て、小栗上野介は、こう嘆きました。
『一言以て 国を亡ぼすべきもの ありや、
どうかなろう と云う一言、これなり
幕府が滅亡したるは この一言なり』
国民から負託を受けた私たち国会議員は、『どうにかなる』ではいけません。自分たちの手で『どうにかする』。現実を直視し、解決策を示し、そして実行する。その大きな責任があります」
あるいは、「批判だけに明け暮れ、対案を示さず、後は『どうにかなる』。そういう態度は、国民に対して誠に無責任であります。是非とも、具体的な政策をぶつけあい、建設的な議論を行おうではありませんか」
どれもこれも「狼と少年」の「狼が来た」の言葉と重なる。
果たして誰が信用できると言うだろうか。信用出来ないことを証明してくれる記事がある。《「景気は緩やかに回復」していない》(三菱UFJリサーチ&コンサルティング/2015/11)
「景気は回復してない」と言い、景気回復のためには「アベノミクスに期待するのではなく」と言っている。
つまりアベノミクスは期待できないよとやんわりと警告を発している。
安倍晋三は先ず最初に約束した経済の好循環・景気回復を実現させてから、次の約束をすべきだろう。