安倍政権は今こそ国連安保理南スーダン武器禁輸等制裁決議案棄権の責任を取るべし

2017-02-14 09:55:37 | Weblog

 2016年12月23日、米国主導の南スーダン武器禁輸等制裁決議案が国連安保理で採決された。この制裁は南スーダンへの武器輸出の禁止や内戦当事者の資産凍結等を柱としていると言う。

 採決では米英仏スペインなど7カ国が賛成したが、日本、ロシア、中国、エジプトなど8カ国が棄権し、否決された。

 アメリカは日本に対して賛成するよう、強く働きかけたと言う。だが、日本は棄権した。

 なぜ日本は棄権したのだろうか。安倍政権は2016年11月15日に自衛隊に対して駆け付け警護と宿営地共同防衛の新任務を付与、新任務を担った自衛隊施設部隊先発隊が南スーダンに向けて2016年11月20日に現地へと出発している。

 この1カ月後の採決である。

 2016年12月31日の当ブログに次のように書いた。  

 〈アメリカが国連安全保障理事会に南スーダンへの武器禁輸を含む制裁決議案を提出したのは南スーダンの両派が民族浄化を色濃くした戦闘行為に走るのを前以て予防する目的を持たせていたはずだ。

 だが、2016年12月23日の採決で米英仏スペインなど7カ国が賛成したが、日本、ロシア、中国、エジプトなど8カ国が棄権し、否決された。

 日本は自衛隊PKO部隊を南スーダンに派遣している。武器禁輸が実施されて、何が不都合なのだろうか。

 日本が棄権した理由は武器禁輸が却って混乱を招き、陸上自衛隊PKO部隊のリスクが高まりかねないと判断したためだとマスコミは伝えている。

 だが、南スーダンで武力衝突が起き、その衝突が現地自衛隊PKO部隊の対応可能範囲を超えた場合はPKO参加5原則に照らして撤収することを前以て決めているのだから、リスクが高まれば、撤収すれば混乱は回避できる。

 武器禁輸による混乱と、相手の軍備よりも自らの軍備をより強力に装備すべく相互に競争し合って武器を掻き集めて生じる混乱とどちらが危険なのだろう。

 後者の混乱の方が一般市民に対する危険は高いはずだ。戦いを有利に進めるための兵力の増強を図るとき、兵器だけの増強では済まない。増強した兵器に応じた兵員を必要とする。

 そのために少年まで狩り集める。

 だが、武器禁輸がある程度の抑制効果として働くはずだ。

 武器禁輸が却って混乱を招くという日本の棄権理由に合理性を認めることができるだろうか。

 考え得る理由は安倍晋三は南スーダンを駆け付け警護の実験場として選んだ。もし日本がアメリカ提案の武器禁輸を含む制裁決議案に賛成票を投じたなら、そのことだけで南スーダンが武器を禁輸しなければならない程の危険な治安状況に差し迫っていることを自ら認めることになって、南スーダンでは戦闘行為は行われていない、首都ジュバは比較的に治安は守られているとしていた安倍政権が説明してきた自衛隊PKO部隊派遣の理由を直ちに失うことになる。

 実験を成功させて、更に実験を各地に拡大し、積み重ねていって、自衛隊の存在を世界に知らしめたい安倍晋三の思惑に反して実験そのものを中断させなければならなくなって国民の批判を受けた場合、自衛隊海外派遣の正当性さえ失いかねない。〉――

 2016年12月25日付「しんぶん赤旗」は採決後の日米国連大使の発言を伝えている。

 パワー米国連大使「棄権した国々の決定にたいして歴史は厳しい判断を下すだろう」

 別所浩郎日本国連大使「より大規模な暴力を防ぐために、こうしたこと(国民対話)を具体的行動に移していくことが必要」

 別所浩郎が言っている「国民対話」とはネットで調べたところ、2016年12月13日にキール大統領が「南スーダンの政府は赦しと一致、そして国の発展という問題について議論するために国民的対話を開始する」と国民暫定議会に語ったことに由来しているらしい。

 南スーダンの現状をマスコミ報道から見てみる。

 「南スーダンで「戦争犯罪の可能性」=市民攻撃に警告-国連安保理時事ドットコム/2017/02/12-00:51)

 【ニューヨーク時事】国連安保理は2017年2月10日、南スーダンで続く戦闘を「強く非難」し、即時停戦を呼び掛ける報道機関向け声明を発表した。また、市民が標的になっている事態は「戦争犯罪」に当たる可能性があると指摘し、関与した者は制裁対象になり得ると警告した。

 また、南スーダン政府が現地の平和維持活動(PKO)部隊による市民保護などの任務を妨害していると指摘した。

 市民への攻撃については「最も強い言葉で非難する」と強調。現地で市民の殺害や性暴力、民族間の暴力などが報告されていることに「深刻な懸念」を表明した。

 戦争犯罪にも等しい市民が標的になっている状況は2017年2月11日の当ブログにも書いたが、共に大型兵器を使って武力抗争を続けているキール大統領派の出身部族が南スーダン最大部族のディンカ族、反大統領派の元副大統領マシャールの出身部族が2番目部族のヌエル族で、部族同士の抗争へと変質、共に相手部族への憎悪が根ざすことになって、それが一般市民までを攻撃対象とする状況に至っている。

 一般市民は何らかの情報によって自分たちが攻撃対象となっていることを知った場合、あるいは攻撃を受けたものの運良く難を逃れることができた場合、当然、攻撃から自身を遠ざけることを考え、行動に移すことになる。それが難民という形となって現れているということなのだろう。

 どのくらいの難民が生じているか、2017年2月11日付の「asahi.com」が伝えている。  

 2017年2月10日に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が記者会見を開き、大規模な戦闘が起きた2013年12月以降、南スーダンから周辺国に逃れた難民が150万人を超えたと発表したという。

 この150万人は規模としてはアフリカ最大で、シリアやアフガニスタンに次いで世界第3位の難民危機だと警告しているそうだ。

 南スーダンの約1200万人の人口うち、150万人の国外難民だけではなく、国内難民が210万人、国連保護施設などに身を寄せているという。

 また難民の60%以上は子どもで、その多くが栄養失調の状態だという。

 南スーダンの人口の約30%の360万人が難民化し。その半数以上の60%、216万人が子どもと言うことは極めて重大な事態だと言わなければならない。

 記事は、〈昨年7月に首都ジュバで大規模な戦闘が発生して以降、難民の数が急増しており、昨年9月からの4カ月間だけで約50万人が国外に逃れた。〉と伝えている。

 〈最大の流入先は南隣のウガンダで約70万人。東隣エチオピアが約34万人、北隣スーダンが30万人以上〉――

 難民からの聞き取りによって南スーダン国内で激しい戦闘や誘拐、レイプ、深刻な食料不足が報告されていると伝えている。

 昨年7月の首都ジュバでの大統領派と反大統領派の激しい戦闘の後、自衛隊PKO派遣施設部隊が駐屯する首都の治安状況は比較的良好だが、国連安全保障理事会が2017年2月10日、北部のアッパーナイル州や南部のエクアトリア地方で市民を殺害する攻撃が繰返され、略奪が横行しているとして非難する声明を発表したと、「NHK NEWS WEB」が伝えている。  

 要するにキール大統領の南スーダン政府は機能不全に陥っていることを示している。である以上、国連大使の別所浩郎が言っていたキール大統領提唱の「国民対話」にしても、「国民対話」とは逆のことが起きているのだから、何ら活かすことができていない証明としかなっていないことになる。

 首都ジュバ以外の地での激しい戦闘、止むことのない市民殺害、略奪の横行、誘拐やレイプ――こういった事態を受けた生産機能の低下による、あるいは生産機能の麻痺による食料不足の現出ということなのだろう。

 全てが「国民対話」とは逆の現象である。

 そして戦闘の資源は戦車や戦闘ヘリなどの大型兵器であり、ライフル銃や機関銃のような小型兵器である。勿論、これらの兵器を手に入れる資金が大本の資源となる。

 このことは首都ジュバの治安が比較的良好だと言うことに関係しない。首都ジュバさえ治安が良ければいいというわけではないからだ。

 南スーダン政府が機能不全に陥っていて、戦闘を止める能力を失っていたなら、他国軍が介入して、双方に犠牲が生じ、市民への被害が増大する危険性は生じるが、目には目を、武力には武力の力を以てして抑えつけるか、これも絶対とは言えず、却って泥沼化する危険性も否定できないが、南スーダンに対する武器禁輸や内戦当事者の資産凍結等の国連決議による制裁の方法も、次善策として選択し得るはずだ。

 日本政府は南スーダン武器禁輸と内戦当事者の資産凍結等の国連決議による制裁に棄権した理由を武器禁輸が却って混乱を招き、陸上自衛隊PKO施設部隊のリスクが高まりかねないと判断したことと、キール大統領提唱の「国民対話」の具体的行動化への期待からのようだが、後者は実現させることができていない状況に陥っているし、前者は市民の殺害や略奪の横行、誘拐やレイプ、食料不足よりも首都ジュバに駐屯する陸上自衛隊PKO施設部隊のリスクの回避を優先させた制裁決議の棄権を意味することになる。

 どう考えても、上記紹介の2016年12月31日の当ブログに書いたように南スーダン派遣の陸上自衛隊PKO施設部隊に新任務として付与した駆け付け警護と宿営地共同防衛の実験を成功させるために武器を禁輸しなければならない程の治安状況だと思わせないことを意図した棄権としか見えない。

 と言うことは、そのためには市民が犠牲になっても、難民となっても良しとしていることになる。

 何という無責任な新安保法制優先のご都合主義な考えなのだろうか。

 安倍晋三は常々「国民の生命と幸せな生活を守る」と公言している。どうも安倍晋三は自国民だけの「生命と幸せな生活」だけを考えて、南スーダンの国民の「生命と幸せな生活」は派遣自衛隊の駆け付け警護と宿営地共同防衛の新任務を完遂させるために何ら躊躇(ためら)いもなく無視しているようだ。

 この自国民と他国民の差別もご都合主義に入る。

 このような数々のご都合主義は許されるはずはない。新安保法制を主導した安倍晋三はそれ相応の責任を取るべきだろう。

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