◆偵察部隊!情報収集を開始せよ!
今回からいよいよ真駒内駐屯地祭は訓練展示模擬戦へ展開します。当方も撮影位置を変更しました。
状況開始!、陸上自衛隊が誇るOH-1観測ヘリコプターが真駒内駐屯地上空へ進出します。帯広駐屯地の第一対戦車ヘリコプター隊に所属する機体で、この機体は極限まで切り詰めた刀身のような機体は統合光学監視装置により最高度の偵察能力を有し、偵察観測任務中に敵航空機と遭遇した場合は搭載する空対空ミサイルによりこれを排除し強行偵察も可能という凄いもの。
OH-1は川崎重工が開発した純国産の観測ヘリコプターで、搭載する三菱重工製TS-1エンジン二基は自重2.5tの機体に1768hpという高い出力を与え、俊敏な機体形状から分かるとおり、非常に高度な運動性能を有しています。このほか、機体各部は複合素材が多用され、強度を維持しつつ着発信管などの脅威からの生存性を考慮したものです。
OH-1は、新しく戦闘ヘリコプターとして配備されたAH-64Dとの協同が期待されたのですが、生産数の縮小によりデータリンク能力等の改修が遅れています。ただ、AH-64Dはロングボウレーダーにより索敵能力と情報共有能力が大きいので、それよりは何とか数が配備され、師団を高射特科部隊に先んじて敵ヘリコプター部隊の駆逐に当たる任務も、理想としてあったのですが。それにしてもこの運動性は凄い。
仮設敵です。陣地進入するべく重機関銃を振り回しつつ、続々と展開する敵装甲車、仮設敵はOH-1観測ヘリコプターの情報収集により、装甲車両を有する有力な部隊であるという事が判明しました、相手が装甲車両を複数保有するとは厄介です。仮設敵は第11特科隊の運用する73式装甲車がその任に当たっているもよう。
我が部隊指揮官は、より詳細な情報を得るべく情報収集と攪乱へ空中機動部隊の投入を決断しました、各部隊はレンジャー資格を有する隊員を養成しており、こうした状況で活躍するのがレンジャー隊員です。ローター音の方向を望見し見えたのは稜線を縫うように低空を接近するのは丘珠駐屯地より展開した第11飛行隊のUH-1J多用途ヘリコプター二機、近づいてくる。
UH-1J多用途ヘリコプターはベル社が1950年代に開発した原型HU-1を富士重工がライセンス生産しているもので、やや小ぶりなHU-1Bよりライセンス生産を開始、機体を大型化しエンジンを強化したUH-1Hへの転換を経て、日本独自型としてAH-1S対戦車ヘリコプターと同型のエンジンを搭載し、限定的な全天候飛行能力を付与した機体が、このUH-1Jです。
大きく旋回し、いざ降着地点へ。11名の人員を輸送可能なUH-1Jは、空中機動に加え偵察オートバイの空輸や負傷者の搬送、弾薬などの物資輸送から重機関銃を搭載しての火力支援任務等にも対応します。写真は89式小銃を携行した隊員がいましも降着しようとしているところ。
上空を警戒するOH-1、万一この瞬間に敵攻撃ヘリコプターが襲撃してきた場合でも空対空ミサイルで排除できます。観測から上空掩護まで大活躍のOH-1は、当初計画では250機が全方面航空隊と全師団飛行隊に配備される計画でした。これが実現すれば、陸上自衛隊航空は大きく躍進することが約束されていたのですが、冷戦終結とともに配備数は大きく下方修正、1997年から量産開始となりましたが、現在までの生産数は34機と僅か。
UH-1JはOH-1の支援下にそのまま観閲台正面へ、ヘリボーンといえばヴェトナム戦争時代は大編隊を組んでの大隊規模空輸が行われましたが、ヴェトナム戦争は40年前の戦争、前線へ今日大編隊を組んで飛行すれば優秀な防空火器、携帯地対空ミサイルなどで大損害を被りかねません。
現代の空中機動は、大部隊を展開させる場合敵後方地域か敵前方の要所へ実施しなければなりませんが、情報収集や攪乱、着弾観測要員を少数前方展開させる、という意味でこのような空中機動は小規模であっても有用です。UH-1Jより着陸する刹那ももどかしく、勇躍展開する降下要員、背景には“祝 第11旅団創隊3周年”の文字が。
降着要員を展開させ、迅速に離脱するUH-1J,このUH-1Jは航空科隊員に絶大の信頼を以て運用されています、その理由は陸上自衛隊がHU-1Bを導入したのが1962年、即ち半世紀前まで遡るのですが、パイロットが胸を張って語るのはUH-1について機体由来の事故が皆無、ということ。即ち確実に操縦すれば絶対に落ちないという半世紀にわたる信頼の積み重ね。
降着した隊員は89式小銃を四方に構え警戒に当たります。89式小銃は、我が国の豊和工業が64式小銃により得た技術基盤を元にアーマライト社製AR-18をライセンス生産、西側のカラシニコフと呼ばれる頑強で信頼性の高いAR-18に技術的着眼点を加え開発した頑丈な小銃です。降着した彼らの重要な任務は、続いて展開するヘリボーン空中機動部隊の降着区域の周辺を警戒し、後続部隊の降着を掩護することにあります。
二機目のUH-1Jからラぺリング降下により更なる部隊の降着展開が開始されました。HU-1Bが90機、UH-1Hが133機、UH-1Jが130機生産され、日々進化しています。同じくUH-1シリーズを運用する米海兵隊では、より進んだUH-1Yを開発しましたが、我が国では川崎重工が後継機を開発する方針で進められています。ただ、入札問題などで前途多難ではあるようですが。
続々と降着する様子、改めて思ったのは、この撮影位置へ陣地転換して正解だった、という事。前回までの位置は観閲行進を撮影するには最高の位置だったのですけれども、訓練展示を撮影する場合は真後ろから拝む形になってしまう、もっとも攻撃側の視点から見れる、という考えもあるやもしれませんが。
即座に戦闘加入します。89式小銃のみの身軽な装備、実際には戦闘防弾チョッキなどを着用して、展開することとなります。戦闘防弾チョッキは砲弾片防御のものから小銃弾防御のものへ、そして暗視装置など装備品はどんどん大きく重くなるのですが、隊員の肉体と体力は飛躍的な進展はなく、この点、どう戦闘能力を維持するかは人間工学的な、技術的な進展を待ちたいもの。
第11偵察隊の偵察オートバイが空中機動部隊の降着要員からの情報を受け、更に詳細情報を求め前進する様子、偵察オートバイはXLR-250,偵察任務へオートバイを運用する国はあまり多くありませんが、連絡任務等では運用される事例も多い模様、自衛隊では特に斥候に重点を置き、オートバイの運用を続けておりこれからも続くこととなるでしょう。
自衛隊では、敵の有無を確認することを斥候、実際に戦闘を交え、その反応を見ることで敵勢力の能力を図ることを偵察、としています。偵察オートバイの隊員は写真にあるように胸元に89式小銃を携行しており、必要ならば車上から射撃することも可能で、脅威と遭遇すれば、その機動力を活かし、一挙に後方へ引く。
87式偵察警戒車、小松製作所が国産した装輪装甲車で、25mm機関砲と照準用の微光増倍式暗視装置を搭載する装甲車です。偵察オートバイや機銃を搭載したジープから始まった偵察隊ですが、これでは戦闘を交えての偵察は難しい、このため開発されたのは、この装甲車で、加えて地上監視レーダ装置などの装備が出来るほか、降車する斥候員も乗車しています。
87式偵察警戒車が支援しつつ、偵察オートバイの前進、偵察隊の象徴的な一枚が撮れました。偵察隊は、指揮通信車、偵察警戒車、小型トラック、偵察オートバイ、地上レーダ装置などをもって情報収集にあたります。軽快な装備を有する印象ですが、職種は機甲科ですので、装備開発や戦術研究などは富士学校が行っています。
偵察に当たる装甲車として、今日的には微光暗視装置だけでは監視機材として能力不足を感じるのですが、陸上自衛隊には携行可能な暗視装置として三脚上で運用するJGVS-V7が配備されていますので、斥候員が車内にJGVS-V7を携行して、降車運用、という方式は、あり得るのかもしれません。
偵察隊の前進と共に、空中機動により降着した部隊はそのまま後方攪乱任務へ向かいます。少数の部隊であっても、前方観測員など特科部隊の着弾修正などを行う要員が展開しますと、携行できる装備は限られますが、情報こそが最大の武器となり、相手に大きな打撃を与えることができる。
偵察オートバイは、偵察警戒車と共に前進し、車体を防盾として警戒に当たります。ただ、オートバイでは携行できる監視機材が双眼鏡程度、進んでも小型の暗視装置程度ですので、将来的に情報収集がどのように展開するのか、現状では人間の五感に頼るものですので、この点どう進むのか、興味は尽きません。
25mm機関砲を以て前方を監視する87式偵察警戒車、自衛隊の偵察部隊能力を大きく進めたこの装備ですが、元来偵察は軽戦車の任務でした。機甲師団である第7師団の第7偵察隊は現状で74式戦車を運用しているのですが、一方近年では機動性の高い装甲車によりいち早く進出し偵察を行う、という運用へ展開している方式も各国で構築されており、どの方式が良いのかは一概には言えないのですが。
偵察部隊は前方に敵装甲車を発見しました。これが敵戦車ですと、かなり危険な状況となります。このため、更に最新の各国陸軍装備体系を見ますと高度な監視機材を装甲車に搭載し、監視という手段での情報収集を行う、ドイツのフェネクやスイスのイーグル、という装甲車などもあります。陸上自衛隊では40mm程度の大口径機関砲と高度なセンサーを搭載した折衷案、近接戦闘車偵察型を開発中のもよう。
87式偵察警戒車が25mm機関砲を仮設敵の73式装甲車に向け、対装甲戦闘を開始します。米軍などでは、M-1A2戦車を始め各車両がFBCB2データリンクシステムで結ばれ、全部隊情報収集&総部隊情報共有が行われています。陸上自衛隊では偵察隊を緊急展開部隊として位置づけ、威力偵察に当たる部隊には情報共有能力と共同交戦能力に優れた10式戦車を充当するために、戦車大隊の地位を再度強化の方向へ転換する、という事も選択肢としてあるべきでしょう。
偵察警戒車の支援下で後方へ一時撤退するオートバイ、仮設敵の規模が判明しました、次は火力戦闘部隊の任務、偵察隊の接敵とともに訓練展示模擬戦は火力戦闘部隊と機甲部隊の展開へと進みます。第11旅団は冷戦時代に北海道にて札幌防衛の重責を以てソ連軍と対峙した重装備の第11師団が旅団へ改編された旅団、師団から旅団へコンパクト化されましたが、その能力は高く、北海道南部の防衛警備に当たると共に有事の際には全国展開を期する部隊、その火力戦闘部隊の訓練展示は次回、お楽しみに。
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