◆良心的といえる富士重工AH-64訴訟
エアバスはドイツ政府のトランシェ2仕様180機調達計画を143機へ縮小したことを受け、その保証金として9億ユーロを要求したとのこと。
日本では調達計画の縮小と言いますと、F-2支援戦闘機の130機調達計画の98機への縮小やOH-1観測ヘリコプター250機の調達計画を35機での終了、AH-64D戦闘ヘリコプター60機の調達計画を11機へ縮小するとの発表を行い、一方的に打ち切ったことがあります、AH-64Dでは損失に対し補償を求める訴訟へと進みましたが、これは例外的と言えました。
EF-2000といえば航空自衛隊F-4EJ後継機に提案された機体として記憶に新しいですが、24日、ウォールストリートジャーナルが報じたところでは、エアバス社はドイツ空軍が計画していたEF-2000タイフーン戦闘機調達計画が180機から143機へ縮小したことを受け、キャンセルとなった37機分の損失補てんへ9億ユーロを請求した、と報じています。
9億ユーロといえば3月1日のレートでは1264億2300万円、一機当たりで34億円という水準となります。戦闘機の単価と比べれば、えっして高い金額ではありませんが、それにしても合計の9億ユーロとは尋常な金額ではありません。安易に調達計画を縮小することのリスクを一つの視点から示している、というところでしょうか。
実のところ、ドイツ空軍が部分キャンセルしたのはトランシェ2といわれています。ドイツ空軍はトランシェ1の44機調達計画を33機へ縮小し、トランシェ2の調達計画68機とトランシェ3A調達計画68機を提示していました。この合計180機の計画から37機が縮小された、ということ。
トランシェ2をトランシェ3A仕様に改修するだけで45億円程度必要になり、AESAレーダー仕様のトランシェ3B仕様に改修するには更に45億円必要になるというので、無理に買うよりは違約金を支払った方が低く抑えられるのかもしれませんが。一方、ユーロファイターは航空自衛隊のF-2と同世代機、という事を考えますと、やはり今更、とも。
ユーロファイターは開発難航で長期化したため陳腐化し、なお、維持費と開発費が増大するリスクを抱えている、という部分、忘れてはなりません。そもそも2005年頃までに完成しているはずのトランシェ3が技術的に完成できず暫定型の仕様をトランシェ3Aとして提示したので、今更型落ちとなり得る機体を調達するとは、というドイツの心象は理解できるところです。
自衛隊に売り込んでいたのはトランシェ3B,取り敢えずトランシェ3Aを納入して、その後日本が開発費を負担しトランシェ3Bを完成させ、自衛隊が調達すると共にその後にトランシェ3B導入国が現れれば購入費の一部を開発費分担金として日本に納入する仕組みを薦めていましたので、ある意味不採用は妥当だった、と言えるところですが、一方でこのドイツへの請求は厳しい。
その反面、富士重工が防衛省へ要求した500億円の損害賠償は、すでに調達した機体部品と生産ライン整備費の費用を賠償として求めら、非常に妥当なものでした。EF-2000は180機の計画を143機へ縮小したものであり、日本のAH-64Dの60機から11機まで、等というようなものと比較すれば、まだまだ、というところです。
さて、我が国ですが、今後はこれまでの国産機以外に戦闘機の国際分業生産への参加や海外製航空機などの調達へ関与することとなるでしょう。我が国内への企業へは、不条理、民間では非合法といえる措置を強要したともとれる状況、防衛産業の厚意に甘えてきましたが、あまり非合理を続けますと、今後は、今回のドイツのような状況となる可能性は無視してはなりません。
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)