◆大学毎に異なる休暇期と僅か半年間の現役
教育ローンというべき貸与制奨学金の頸木と自衛隊の予備役不足、自衛隊と学生の大きな問題といえるでしょう。
貸与制奨学金に依存しすぎれば卒業後十年単位で大きな負担を追うことになりますし、予備役が少なければ継戦能力に大きな限界を背負う事となってしまう、学生と自衛隊の課題です。これを同時に解決する提案として示したのが秋季入学時代を念頭に入学前に半年間任官し、在学中に予備役を担う制度を提示しました。
学生ならではの長期休暇を活かした年間50日間の訓練、従来の予備自衛官制度の十倍の訓練期間を想定した特務予備自衛官制度を仮に実現させれば、予備役は訓練不足、という従来の概念を大きく覆す事となるでしょう。若さしかなく、技能は経験が少なくとも、普通科を念頭に置いたこの制度、体力が補う部分は多いことでしょう。
しかし、課題は多いです。まず、即応予備自衛官は現役期間一年間を務めなければ任官できません。ですから、高校を卒業し秋季入学までの半年間では高校卒業と同時に直ぐ任官し、仮に教育訓練を受けたとしても即応予備自衛官任官資格を得られないのです。
そもそも即応予備自衛官の階級は即応予備一等陸士からですので、2士では任官できなくなりまして、これも任官期間を示すものと言えるところ。秋季入学制度とはいえ、ガイダンスも事前研修を行う可能性もありますし、入学式の翌日からは基礎科目の怒涛、さて、この問題をどうしたものか。
それならば、一年間入学を遅らせ、春季入学制度に対応させる制度を構築すべきと思われるかもしれませんが、現役自衛官を一年間勤めつつ大学入試の準備を行うことは現実的ではありませんし、日中は訓練がありますので高校の夏季休暇中などの平日に行われる大学入試説明会や訓練によっては入試そのものへへ赴く事も出来ないでしょう。
それならば、入学と当時に休学申請を出し、その後に自衛隊に志願し一年間自衛官として勤務する制度も考えられなくはありませんが、余りに多くの休学者が出てしまいますと講義定員を大学側が把握できなくなり、本末転倒となってしまうでしょう。休学者の発生をどの程度見込んで大学は入試を行うか、その仕組みそのものが崩れかねません。
例えば秋季入学に合わせ秋季卒業が基本となれば、春季の入社時期に合わせ半年間を再度現役自衛官として任官する、現役期間の分割制度を構築し対応するか、最大限年間50日程度の訓練召集を行い教育期間と訓練期間を確保するか、もしくは入学直後ではなく在学中四年間の半年分を休学期間とし訓練期間とするか。
課題には、即応予備自衛官を兼任する大学生の居住地域と部隊が離れている場合の想定です。大学が首都圏や京阪神であっても部隊が北海道や九州ではなかなか訓練出頭を行うことが難しく、最寄地本から部隊までC-1輸送機等で輸送する、という選択肢もあるかもしれませんが、難しい。
即ち、大学休暇期に訓練が集中することを考えますと、輸送には限界が生じるかもしれません。特に夏季は師団等協同転地演習が行われているため、輸送力が切迫している時期ですし、この時期に訓練を設定してしまうと、原隊が遠ければ遠いほど非常な負担となってしまうこと間違いなし。
訓練日程をどう確保するのかについて、どの号か失念しましたが、過去の某軍事専門誌において、識者には毎日課外時間を訓練召集に充当できるのではないかという離れ業を提言される方もいました、一限目は0900時から、五限目を履修していれば終了は1900時近く。
昼休みの数十分を利用し駅前の地本ビル屋上で戦闘訓練、ということならば、まあ、不可能ではないでしょうが、サバイバルゲームサークルではあるまいし、現実味がありません。兎に角、訓練部隊と大学が相当近く無ければ対応できない制度でして、解決策を考えたいところ。
もっとも、座学で実施できる訓練を特務即応予備自衛官に貸すのであれば、大学や地方協力本部の一室を借りて行うことは、不可能ではありません。ただ、特務即応予備自衛官は半年間の訓練を経て、つまり前期教育と後期教育を受けていますので、座学の比重を大きくする、というのも難しいでしょうし、原隊と大学をどう結ぶのか、課題です。
課題に加えるものは、大学によって夏季休暇はともかく、冬季休暇と春期休暇の時期が異なる事です。四月五月六月七月、十月十一月は旧国公立大学と私立大学で基本的に休暇が設定されておらず、この期間の訓練召集は基本的に行えません。これは入試の時期が異なるためなのですが、召集に地味ながら大きな影響を与えるもの。
更に特務即応予備自衛官基幹の部隊は、大学が休暇にならなければ訓練を設定することが出来なくなります。大学が忙しいときは部隊に閑古鳥、となるわけでして、この期間、現在の即応予備自衛官を訓練すればよいだけの話ではあるのですけれども。そうした設定を行えるのか、という問題、これも大きい。
更に大学生は休暇期を活用し短期留学する選択肢を即応予備自衛官登録することで実質的に失います。制度上の限界というべきもので、即応予備自衛官の海外留学を行う場合、まさか領事館を通じ訓練出頭し、自衛隊機で本土の駐屯地へ空輸するわけにも行きません。
すると、即応予備自衛官登録を行う際、留学を大学生活の選択肢から省くか、留学前に休学期間を設け、その期間中に年間教育訓練を集中し行う必要が出てくるでしょう。予備自衛官にその年間だけ転換することも考えられますが、その費用ねん出が困ってきます。
予備自衛官手当は年間48000円、訓練召集手当は年間40500円です。予備自衛官雇用企業給付金年間50万円、即応予備自衛官手当年額19万2000円、年間50日程度の訓練として訓練招集手当52万円、合計121万2000円で予備自衛官と50日訓練の即応予備自衛官、学費を考えた場合、この違いは大きい。
課題はこのほかにも幾つかあるのですが、現役期間をどう確保するのか、休暇を訓練に充てるとして大学毎に異なる休暇の時期をどう調整するのか、優先順位は大学生が即応予備自衛官を行っているのかその逆なのか、任官してしまえば最早短期留学は不可能であるのか、とりあえず、これだけの問題はある訳です。
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