◆NH-90派生需要はUH-90/100機&SH-90/90機
陸上自衛隊次期多用途ヘリコプターの選択肢として、前回UH-60の増備を提案しました。しかし、米陸軍では既にUH-60後継機の開発が模索されており、決して技術的に2020年代にも安泰な機種とは言い切れません。
こうしたなか、提案するのはNH-90という全く新しい機種です。その背景に、UH-60の増備を提案した際、その根拠として既に配備されている機種であるという部分に加えて、航空自衛隊が新しく40機を救難ヘリコプターとして導入する方針が発表されており、この量産効果に乗ることが望ましい、としてきました。それならば、もう一つの量産効果に関する命題、海上自衛隊がSH-60哨戒ヘリコプターの後継機として、勿論現時点では未知数ですが、相当数が生産されることとなるであろう母機に用いる航空機を、陸上自衛隊もUH-Xとして選定する事は出来ないものでしょうか。
NH-90は、欧州共同開発により1995年に初飛行を果たした中型多用途ヘリコプターです。海上自衛隊が次期哨戒ヘリコプターに関心を寄せている、ともいわれており真偽のほどは定かではありませんが、仮に海上自衛隊がSH-60J/Kの後継機としてNH-90派生型にSH-90を開発はするのであれば、海上自衛隊所要として60機から最大90機程度の需要が生まれます。20名の人員を空輸可能で、主開発国の一つであるドイツ連邦軍などはUH-1H多用途ヘリコプター後継機として、NH-90を充てています。もちろん、陸上自衛隊が検討する際には、海上自衛隊航空行政と同一歩調を取る必要性は言うまでもありません。
もちろん、AW-101が海上自衛隊へ採用される可能性もあります、既に掃海輸送ヘリコプターとして運用されている実績があるため、AW-101が少々大型すぎる点や整備負担が大きい三発機という部分を圧してSH-101として採用されるのでしたら、陸上自衛隊はNH-90を導入する必要は必ずしもありません。しかし、機体規模がUH-60に比較的近く、C-130輸送機へ搭載する必要上から全高に制約があり機内容積を制限しているUH-60に対して、より大型のA-400M輸送機へ搭載する想定のNH-90,これは航空自衛隊のC-2輸送機への搭載という可能性も示唆するものですが、機内容積に余裕があるこの機種、装備する利点は大きい。
NH-90は、20名の人員を収容し、航続距離1000km、巡航速度300km/h、比較的優秀な航空機です。陸上自衛隊がUH-Xとして導入する場合、方面ヘリコプター隊所要で20機の飛行隊を5個、100機となります。大きな胴体を有するものの空虚重量は5.4tでUH-60の4.9tに近く、エンジン出力も同型で同水準です。対して、胴体後部にハッチを有しているため嵩張る装備の空輸に適しており、複合素材を多用しているため海上での運用に際し機体の劣化を防ぎます。エンジンの既存航空機との互換性も大きく、MCH-101で運用されているロールスロイスRTM322-01/9エンジンかSH-60やUH-60に搭載されているGE-T700-T6E1エンジンを双発で搭載するため、互換性も比較的高い点が利点と言えるでしょう。
他方、UH-Xとしてみた場合、比較的大型の機体であることは否定しません。特に、将来的に次期観測ヘリコプターとして多数が装備されているOH-6D観測ヘリコプターの後継機などを考える必要性が生じた場合、これは多分に無人航空機では対応できない連絡輸送等の用途を含めた場合となりますが、OH-6DとUH-1H/JにUH-60をNH-90の一機種で置き換えるという視点は必ずしも理想ではなく、軽ヘリコプターとして、もう一機種のUH-X,これは軽ヘリコプターですのでLH-Xとするべきかもしれませんが、選定し、もしくは開発するという可能性を含みます。
軽ヘリコプターLH-X,当方は候補としてアグスタA-109、ユーロコプターEC-135等を提案するところですが、相互互換性を考え、川崎重工が国産開発する計画を示し、現在停滞中である国産UH-Xを開発する、という選択肢は、勿論含むべき、と考えます。ただ、仮に来年度である2015年度から川崎重工がUH-Xを開発開始したとして、初飛行は早くて2017年度、飛行試験を経て量産が開始されるのが2019年度、量産機が運用開始となるのは2020年代となるでしょう。それでは遅いため、まず、NH-90を方面ヘリコプター隊へ配備するべく暫定的に選定してはどうか、というもの。
悠長、と思われるかもしれませんが、並行調達した際には各機種へ予算が分散してしまい少数長期調達という状況に陥ります。したがって、LH-X乃至国産UH-X開発が行われる、中期防衛力整備計画二期分10年の期間にはNH-90を多用途ヘリコプターとして配備し、一方で耐用年数に余裕のあるUH-1を最大限師団飛行隊と旅団飛行隊へ移管し、飛行隊を維持、方面ヘリコプター隊へのNH-90の配備が完了し次第、LH-Xの調達を本格化させ、OH-6D観測ヘリコプターとUH-1J多用途ヘリコプターの輸送任務を置き換えるヘリコプター調達を行うべきだ、と考えるわけです。
もちろん、他の候補機は色々と考えられますし、仮に海上自衛隊がNH-90を次期哨戒ヘリコプターの母機として選定した際にも、開発は陸上自衛隊UH-Xの開発期間よりも長くなることが、もちろん搭載器材は部分研究開発を行っているため思うほど長くは無いやもしれませんが、一朝一夕には終わらない可能性があります。そして、哨戒ヘリコプターは三菱重工がHSS-2以来の生産している実績がありますので、三菱重工が生産するところとなるのかもしれませんが、肝心の三菱重工は航空自衛隊のUH-60救難ヘリコプターにより生産ラインがいっぱいとなっている可能性も捨てきれません。
いっそのこと、NH-90はSH-90導入以前にUH-90導入による運用基盤構築を主眼とした有償軍事供与、即ち自衛隊が導入するMV-22のように直輸入し、最初の数年間は神戸空港のユーロコプター整備工場に整備を委託する、という調達慣例を大きく改めてみる方法もあり得るでしょうか。もちろん、多用途ヘリコプターを一貫して調達してきたのは富士重工からですので、現在のAH-64D戦闘ヘリコプター調達中断以降悪化した富士重工との関係を防衛省が反省し、AH-64Dの再契約を行うと共にUH-Xに協力を受ける、という選択肢が望ましい、とは思うのですが、現状で停滞しているままよりは、取り急ぎ抑止力を維持するためにもUH-Xの必要性を痛感するため、こうした提案を行ってみました。
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