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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

トランプ大統領のISIL攻撃を大統領令!シリアへアメリカ国防総省が陸上戦闘部隊派遣検討

2017-02-20 22:01:02 | 国際・政治
■大統領令,ISILを殲滅せよ!
 トランプ大統領は去る1月28日、シリアイラクの過激派組織ISILについて、その殲滅に関する具体策を30日以内に提出するよう、国防総省へ大統領令を発令しました。

 米軍地上部隊のシリア派遣、アメリカ国防総省が実施を検討している事がCNNにより報じられました。地上部隊の派遣規模については明確に示されていませんが、特殊部隊のような小規模な部隊の派遣に留まらず、戦線を担当できる程度の地上戦闘部隊の派遣を検討しているとされ、これはトランプ新大統領によるISIL掃討に関する大統領令を受けての国防総省が示した具体的施策といえるでしょう 。

 シリアへは現在、少数の特殊部隊が越境作戦を展開中です。シリア領内での作戦は、シリア政府の受け入れ態勢がなく、ロシア軍がシリア国内において対ISIL作戦を含めたシリア内戦介入を実施中であり、ISILの勢力が維持されているシリア国内は2011年より自由シリア軍などによる民主化運動を端緒とした大規模な内戦が展開中であり、安易な介入はシリアの独裁政権と位置づけるアサド政権を支援するとして慎重にさけられてきました。昨今ISILはフィリピンなどへ浸透徴候があり、日本にとっても無関係ではありません 。

 イラク国内においてはアメリカ軍は地上部隊を派遣し軍事顧問の形をとり、イラク政府軍の対ISIL作戦を支援しています。これは現在のイラク政府軍がアメリカ軍によりイラク戦争後に再建されたもので、イラク撤退はオバマ政権時代に行われている為、アメリカ軍が展開する基地施設やインフラ面が整備されていた為です、しかし、シリアに対しこうした基盤は無く、シリア政府とアメリカ政府の支援協定もありません、この為、現在の枠組ではアメリカとシリア軍の協同作戦は現実的ではない 。

 ISIL掃討作戦は、ISILの策源地がIS,つまりイラクとシリアに存在する訳ですから、双方ともに同時に無力化し、武装闘争を停止させなければ解決の余地はありません。しかし、イラクとシリアでは政治体制が異なり、イラク政府はフセイン政権時代であればシリアのアサド政権との協力委関係の可能性は充分残りましたが、ISIL制圧を口実としてシリア政府の軍事力による民主化へ転化する可能性がシリア政府により警戒されている事から、問題は複雑です。

 アメリカ軍地上部隊のシリア派遣について、アメリカ当局者の話としてCNNが報じたところでは現時点で協議中としたうえで、NATO同盟国であるトルコに隣接するシリア北部地域のクルド人部隊への現在NATOが実施している軍事顧問派遣と武器要求などによる強化、また、ペルシャ湾岸のクウェートを拠点としてイラク北部経由でのシリア南部からのISIL掃討作戦、などが考えられる、とのこと 。

 トランプ政権ではISIL掃討へ地上部隊派遣を含めた積極的な対応を模索していますが、オバマ政権では慎重に地上部隊派遣を避け、航空攻撃を中心とした支援を実施してきました。この理由についてですが、ISILは市街地に立てこもり住民を盾とした戦闘を展開しています、ドアtoドアの戦闘と云いまして、住宅街やビル街等は一軒一軒ではなく一部屋一部屋敵を相当して進まなければならう、米軍の誇る最新装備を十分生かすことはできません 。

 オバマ政権が地上軍派遣を忌避した背景に、同様の戦闘様相となったイラク治安作戦のでの教訓があるのでしょう、イラク戦争はイラク政権を機械化歩兵師団と海兵師団により瓦解させるまでは迅速に進展したのですが、その後の武装勢力との戦闘による戦死者は、イラク政権を瓦解させ首都占領までの戦死者を30倍も上回る戦いとなりました、砂漠にて武装トラックで米軍のM-1戦車に対抗する事は難しいですが、建物に入った米軍のM-4カービン銃へAK-47小銃で対抗する事は可能です 。

 さて。日本の対テロ作戦への協力が求められる可能性についてですが、日本国内でのISIL協力勢力への取り締まり強化の法整備や、東南アジア地域でのISIL勢力浸透などの徴候に対する法執行機関間の連携強化などの協力は求められる事が考えられます。また、PSI拡散防止イニチアチヴに基づく大量破壊兵器拡散阻止枠組から、例えばISILによる日本国内と周辺を用いた武器密輸等があれば法執行機関による取締りを求められるでしょう 。

 しかし、自衛隊のシリアイラク派遣要請となりますと、能力として難しく、また法整備上でも不可能でしょう。例えば補給艦派遣等は考えられますが、戦線はイラク北部山岳地帯とシリア山間部であり、2001年同時多発テロを契機としてアラビア海のアルカイダ勢力通行遮断を目的としたアラビア海対テロ給油任務とは、そもそもISILが洋上での連絡線を有しておらず、状況が異なります。仮にあるとして、シリアに隣接する地中海への有志連合空母部隊への補給程度、これも要請されるかは微妙です 。

 イラクシリアへ、輸送ヘリコプター部隊の派遣要請は、可能性として残ります。自衛隊の空中機動部隊は、国土の地形から重視され器材も充実していますし、山間部での任務にヘリコプターは不可欠です。過去、アフガニスタン介入の際、守屋防衛事務次官時代に非公式に輸送ヘリコプター部隊のアフガニスタン派遣と輸送支援要請があったとされますが、法的に不可能として大きな議論とはなりませんでした 。

 自衛隊の陸上戦闘部隊がこの地域へ派遣されるのでは、との危惧を持たれる方がいるかもしれませんが、実際には遠い将来に復興人道任務としてPKOが派遣される可能性を除けば、戦闘任務では派遣される事は考えられません。何故ならば、自衛隊は国土防衛を想定した編成であり、NATO部隊程英語力が重視されておらず、運用の共通化も例えば自衛隊の1尉が米軍中隊を指揮したり、米軍少尉が自衛隊の小隊長を担える程、進んでおらず、共同作戦は難しいのです 。

 安全保障協力法制に基づく駆け付け警護ですが、シリア内戦以前には自衛隊はゴラン高原へPKO兵力引き離し監視任務として部隊を派遣していましたが、現時点でISILの支配地域付近では自衛隊はPKO任務を実施していません。例えば、日本国内の在日米軍基地がテロ勢力により攻撃を受けた場合、自衛隊が警察の銃器対策部隊を支援する形で駆け付け警護に近い任務が行われる可能性はありますが、これは治安出動の枠組です。

北大路機関:はるな くらま
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