北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【京都幕間旅情】等持院,足利尊氏眠る萬年山に響く軋み音は此処が静寂に包まれていると知る

2018-12-12 20:11:38 | 写真
■名勝等持院の庭,その静けさ
 観光客過多と外国人多寡をオーバーツーリズムと格好良く問題視する今日この頃ですが、静かな場所はまだまだ多い。

 等持院、臨済宗天龍寺派の寺院であり、北大路通りが西大路通りへと至り、左大文字山の風景とともに金閣寺から竜安寺へと至る“きぬかけの路”から少しだけ南へ位置する、静かな場所です。山号は萬年山といい、北区等持院北町、とその名は地名ともなっています。

 足利尊氏墓所として知られる等持院は元々、足利尊氏により建立された寺院なのですが、その等持院とは京都市の中心部、中京区柳馬場御池の界隈に暦応年間の1341年に建立されました。本来ここが等持院であったのですが、惜しくもやはり、応仁の乱に焼かれました。

 福島正則が元和年間1616年、方丈を妙心寺海福院から移築したという天井の高い、しかし音を吸い込む伽藍と磨き上げられ小気味良く軋む木床に歩みを任せてゆきますと、そこには庭園が広がる。そして其処で初めて軋む音の響きとは此処が静寂に包まれていると知る。

 康永年間の1343年、現在の地に別院北等持寺として建立されたのがその始まりです。別院の尊氏墓所、もちろん日本近現代史の転換点である明治維新や文明開化と共にその伽藍は一部が失われ、一部が損壊しましたが、応仁の乱以降は別院が本山となりまして今に至る。

 夢窓疎石の手によると寺伝には伝わる庭園は、華美と壮大に頼る五山の庭園とは異なり、回遊式庭園の定石とともに高低差を巧みに静寂へと織り成す独特の情景を醸し出しています。そう静寂、この庭園の静寂こそが日本庭園に真髄であり一つの哲学なのかもしれない。

 先日、とある有名寺院に行きましたらば修学旅行生が一個大隊規模で。名勝に引率の教員が収監者の顔写真が如く機械的に数名づつハイ一枚、ソレ次、と機械的に撮影していました、あれは何なのかな、意味はあるのかな、と。もっとゆっくり、じっくりできないのか。

 清漣亭は庭園のやや高い位置から俯瞰風景を嗜む茶室で、思想と思考を織り成すには静寂と時間の価値を見出す一助ともなります。特に観光客増大が恰も繁華街を洛北に打ち立てた観の否めない金閣寺から竜安寺へと至る“きぬかけの路”の雑踏に一滴の清涼剤が如く。

 地蔵菩薩像が御本尊として収められる霊光殿へと庭園から歩みを進めますと、成程、静寂さは単に物理的ではない事を教えられます、そこは威厳と畏れとを考えさせられる木像が実に数多く、鎮座しているのですね。この本尊と共に座した像を足利歴代将軍木像という。

 霊光殿、初代将軍等持院足利尊氏、その墓所に隣り合う霊光殿には木像が座しており、第2代将軍寶篋院足利義詮、第3代将軍鹿苑院足利義満、第4代将軍勝定院足利義持、第6代将軍普広院足利義教、第7代将軍慶雲院足利義勝、第8代将軍慈照院足利義政、と鎮座を。

 信仰の場、ということは御本尊と共に室町幕府歴代の将軍像が示してくれる訳なのですが、侵攻の場が静寂に包まれている、とは文字通り哲学と云いますか世界と世界観を紡いでゆくといいますか、自らと向き合う為の一つの要素、そう考える事ができるのでしょうね。

 足利歴代将軍木像は、東照大権現徳川家康、第9代将軍常徳院足利義尚、第10代将軍恵林院足利義稙、第11代将軍法住院足利義澄、第12代将軍萬松院足利義晴、第13代将軍光源院足利義輝、第15代将軍霊陽院足利義昭、と居並ぶ木像は為政者の平安への願いを伝える。

 松平容保公が会津藩主兼ねて京都守護職を務めた文久年間の1863年、実はここ等持院の足利歴代将軍木像が幾つか持ち去られ、三条河原に辱められ放置される事件が発生、容保公はこれを公権力への許難い冒涜として徹底捜査し犯人を捕らえたとの歴史も残っています。

 東照大権現徳川家康の像は、自身の厄年に併せ石清水八幡宮に造らせた木像がそのまま安置されています。徳川幕府初代将軍の安置は、吉良氏や今川氏ら足利氏一族を高家として取り立て、徳川幕府と室町幕府の関係性を示しているとのことで、為政者の迫力に驚く。

 畏れと云いますか、ある人は恐い、と室町幕府歴代の将軍像を表現する。威厳と云いますか、ある人は何か空気というか雰囲気が変わったようだと室町幕府歴代の将軍像を表現する。室町幕府歴代の将軍像が並ぶから静かなのか、静かさを醸成した場所に安置したのか。

 名勝に等持院の庭が指定されたのは実はごく最近2016年、拝観と思考の際にはほんとうに拝観者は少なく、庭園の機微と優美を愉しむ事が出来ました。実際、此処は幾度も、そう幾度も拝観しているのですが常に在るのは静寂、寺院拝観の本来を思い出させてくれます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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