■第七のタンカー攻撃懸念
安全保障法制の議論に際し、具体的な活動地域にホルムズ海峡機雷封鎖が国会討議されましたが、アメリカイラン対立激化によりこの地域の緊張は現実問題となってきました。
ホルムズ海峡付近でのアメリカ無人偵察機RQ-4撃墜事件は驚かされました、RQ-4は自衛隊も導入予定ですが巡航高度が非常に高く、広域防空地対空ミサイルでなければ撃墜できません。この事件の後、アメリカのトランプ大統領はアメリカ軍だけに海洋防衛の負担が掛かっていると批判しましたが、日本にはRF-4くらいしか対応出来る機体はありません。
ホルムズ海峡での相次ぐタンカー攻撃とRQ-4無人偵察機撃墜、結果の緊張、そもそもタンカー攻撃は1980年に勃発したイランイラク戦争において国際的に孤立したイラン軍が組織的に実施した歴史があり、40年近く世界の耳目を集める問題です。幸い、コクカカレイジャス号襲撃事件以降、再発していませんが海峡安全が課題である事に代わりはありません。
緊張が続いた場合、日本も何らかの措置を求められる可能性が。自衛隊はホルムズ海峡でのタンカー護衛に可能な選択肢を有しているのか。今回はこの視点からホルムズ海峡を考えてみましょう。岩屋防衛大臣は現時点では自衛隊派遣を考えていない旨を示しましたが、タンカー攻撃が続くのであれば再考の必要性も。この視点から情報整理してゆきましょう。
警戒監視任務、自衛隊が可能であると考えられる任務は、リンペット機雷等による攻撃を試みる小型舟艇に関する警戒監視任務です。本来であれば、この種の任務に最適である装備はP-1哨戒機です。前述の通り、地対空ミサイル脅威があるため、迂闊にホルムズ海峡上空へ接近する事は出来ません。ただ、航空機による警戒監視は強力な抑止力となります。
航空機による監視が大きな抑止力となる根拠は、現実問題としてコクカカレイジャス号襲撃事件以来、アメリカ軍を始め有志連合による警戒監視が強化された事で、第七のタンカー襲撃事件は発生していない点に尽きます。イラン革命防衛隊の関与を疑わせる画像が米海軍により撮影されましたが、確実な証拠を撮られる事を襲撃犯が恐れている為でしょう。
RQ-4無人偵察機撃墜、イラン革命防衛隊は新型地対空ミサイル、ペトリオットとよく似た発射装置とロシア製9K37M1-2、NATO名ではSA-17グリズリー、これとよく似たミサイルが内蔵されるものを報道発表しています。要するにミサイル発射を察知し、機動力で回避行動を執れねば撃墜される可能性がある、ということ。P-1やP-3C哨戒機では難しい。
RF-4戦術偵察機であれば、SA-17の機動力に対して運動性能で凌駕できるかは未知数ですが、P-3CやP-1よりは生存性が高いでしょう。ただ、データリンク能力は無く偵察画像を撮影した後に現像する必要があり、アメリカ海軍が東日本大震災救援などに際し用いたF/A-18Eの偵察ポッドによる情報伝送性能と比べれば、どうしても能力面で見劣りする。
ここで重要となるのはオマーン、海峡の対岸です。つまり、離隔距離を取れば良い。即ちホルムズ海峡隣国のオマーン政府と協力し、オマーン領空から監視を行えばよい。P-1哨戒機にはHPS-106レーダーが機体側面に装備されており、超長距離の監視能力を持つXバンドレーダーです。HPS-106は探知距離が長いとも言われ、充分な離隔距離を取り得る。
HPS-106、試験艦あすか艦上にて3900t型護衛艦用へ転用するべく評価試験が行われており、この長距離監視能力は、一説には海上自衛隊演習等でP-3C哨戒機がイージス艦の広域防空能力へ対抗できなくなった事から開発されたといい、広範囲索敵に加え点目標へズーム機能を有するとも言われる。これならば広域防空ミサイル脅威下も活動し得るでしょう。
E-767早期警戒管制機、航空自衛隊の虎の子である本機もシーレーン防衛を念頭に導入され海洋監視能力は有しています。また、コクカカレイジャス号が襲撃前に乗員が視認したという飛翔体は、一説には襲撃犯が攻撃前に小型無人機、市販程度の小型無人機を用いて情報収集を行っているとの見方が在り、早期警戒管制機であれば捕捉も可能やもしれません。
ただ、E-767の難点は4機しか装備されていない点です。出し惜しみ、という短絡的な視点ではなく、南西諸島警戒監視任務において必要な装備であり、那覇基地へ展開するE-2C早期警戒機の想定外の規模での航空部隊が展開した場合、これは実際に過去に複数の断続的な国籍不明機飛来に対し実例があるのですが、E-767は、待機させておかねばならない。
P-1哨戒機も南西諸島警戒監視任務や北朝鮮国連制裁違反瀬どり監視任務等、実任務は多いのですが、P-3C哨戒機と併せ、哨戒機に全く余裕が無いかと問われれば、E-767よりはまだ余裕はあります。また、P-1哨戒機はアメリカのP-8A多目的哨戒機との共同訓練実績もあり運用は海上自衛隊、海峡警戒はアメリカ海軍が参加しており、訓練実績もあります。
航空監視は非常に大きな抑止力があります、また、直接の武力攻撃に即座に展開しないという点で、我が国憲法との整合性もある程度確保出来ます。もっとも、広域防空ミサイルで複数の無人機が撃墜されている空域ですので、最も理想であるのは自衛隊が導入するRQ-4無人偵察機の運用開始を待った方が、万一の人的危険は、回避できるのですが、ね。
ともあれ、僥倖であるのは現時点で第七のタンカー襲撃は発生していない点です。しかし言い換えればアメリカ海軍が無人機を筆頭に警戒監視を強化すると共に、航空母艦やB-52戦略爆撃機を派遣し強力な圧力を加えている為に、脅威が抑止されている結果だ、とも言えましょう。次のタンカー攻撃が行われた場合には、我が国へ相応の負担要請もあり得る。
イランとアメリカの対立、特に懸念するのはタンカー襲撃は一段落していますが、対立の背景となったイラン核合意、この核合意枠組はまだ継続しているのですが、イラン政府は昨日、合意により認められた核物質濃縮ウランの総量を越え、更に核濃縮を進めていると表明しました。タンカー攻撃は停止していたとしても、その緊張背景は続いているのです。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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安全保障法制の議論に際し、具体的な活動地域にホルムズ海峡機雷封鎖が国会討議されましたが、アメリカイラン対立激化によりこの地域の緊張は現実問題となってきました。
ホルムズ海峡付近でのアメリカ無人偵察機RQ-4撃墜事件は驚かされました、RQ-4は自衛隊も導入予定ですが巡航高度が非常に高く、広域防空地対空ミサイルでなければ撃墜できません。この事件の後、アメリカのトランプ大統領はアメリカ軍だけに海洋防衛の負担が掛かっていると批判しましたが、日本にはRF-4くらいしか対応出来る機体はありません。
ホルムズ海峡での相次ぐタンカー攻撃とRQ-4無人偵察機撃墜、結果の緊張、そもそもタンカー攻撃は1980年に勃発したイランイラク戦争において国際的に孤立したイラン軍が組織的に実施した歴史があり、40年近く世界の耳目を集める問題です。幸い、コクカカレイジャス号襲撃事件以降、再発していませんが海峡安全が課題である事に代わりはありません。
緊張が続いた場合、日本も何らかの措置を求められる可能性が。自衛隊はホルムズ海峡でのタンカー護衛に可能な選択肢を有しているのか。今回はこの視点からホルムズ海峡を考えてみましょう。岩屋防衛大臣は現時点では自衛隊派遣を考えていない旨を示しましたが、タンカー攻撃が続くのであれば再考の必要性も。この視点から情報整理してゆきましょう。
警戒監視任務、自衛隊が可能であると考えられる任務は、リンペット機雷等による攻撃を試みる小型舟艇に関する警戒監視任務です。本来であれば、この種の任務に最適である装備はP-1哨戒機です。前述の通り、地対空ミサイル脅威があるため、迂闊にホルムズ海峡上空へ接近する事は出来ません。ただ、航空機による警戒監視は強力な抑止力となります。
航空機による監視が大きな抑止力となる根拠は、現実問題としてコクカカレイジャス号襲撃事件以来、アメリカ軍を始め有志連合による警戒監視が強化された事で、第七のタンカー襲撃事件は発生していない点に尽きます。イラン革命防衛隊の関与を疑わせる画像が米海軍により撮影されましたが、確実な証拠を撮られる事を襲撃犯が恐れている為でしょう。
RQ-4無人偵察機撃墜、イラン革命防衛隊は新型地対空ミサイル、ペトリオットとよく似た発射装置とロシア製9K37M1-2、NATO名ではSA-17グリズリー、これとよく似たミサイルが内蔵されるものを報道発表しています。要するにミサイル発射を察知し、機動力で回避行動を執れねば撃墜される可能性がある、ということ。P-1やP-3C哨戒機では難しい。
RF-4戦術偵察機であれば、SA-17の機動力に対して運動性能で凌駕できるかは未知数ですが、P-3CやP-1よりは生存性が高いでしょう。ただ、データリンク能力は無く偵察画像を撮影した後に現像する必要があり、アメリカ海軍が東日本大震災救援などに際し用いたF/A-18Eの偵察ポッドによる情報伝送性能と比べれば、どうしても能力面で見劣りする。
ここで重要となるのはオマーン、海峡の対岸です。つまり、離隔距離を取れば良い。即ちホルムズ海峡隣国のオマーン政府と協力し、オマーン領空から監視を行えばよい。P-1哨戒機にはHPS-106レーダーが機体側面に装備されており、超長距離の監視能力を持つXバンドレーダーです。HPS-106は探知距離が長いとも言われ、充分な離隔距離を取り得る。
HPS-106、試験艦あすか艦上にて3900t型護衛艦用へ転用するべく評価試験が行われており、この長距離監視能力は、一説には海上自衛隊演習等でP-3C哨戒機がイージス艦の広域防空能力へ対抗できなくなった事から開発されたといい、広範囲索敵に加え点目標へズーム機能を有するとも言われる。これならば広域防空ミサイル脅威下も活動し得るでしょう。
E-767早期警戒管制機、航空自衛隊の虎の子である本機もシーレーン防衛を念頭に導入され海洋監視能力は有しています。また、コクカカレイジャス号が襲撃前に乗員が視認したという飛翔体は、一説には襲撃犯が攻撃前に小型無人機、市販程度の小型無人機を用いて情報収集を行っているとの見方が在り、早期警戒管制機であれば捕捉も可能やもしれません。
ただ、E-767の難点は4機しか装備されていない点です。出し惜しみ、という短絡的な視点ではなく、南西諸島警戒監視任務において必要な装備であり、那覇基地へ展開するE-2C早期警戒機の想定外の規模での航空部隊が展開した場合、これは実際に過去に複数の断続的な国籍不明機飛来に対し実例があるのですが、E-767は、待機させておかねばならない。
P-1哨戒機も南西諸島警戒監視任務や北朝鮮国連制裁違反瀬どり監視任務等、実任務は多いのですが、P-3C哨戒機と併せ、哨戒機に全く余裕が無いかと問われれば、E-767よりはまだ余裕はあります。また、P-1哨戒機はアメリカのP-8A多目的哨戒機との共同訓練実績もあり運用は海上自衛隊、海峡警戒はアメリカ海軍が参加しており、訓練実績もあります。
航空監視は非常に大きな抑止力があります、また、直接の武力攻撃に即座に展開しないという点で、我が国憲法との整合性もある程度確保出来ます。もっとも、広域防空ミサイルで複数の無人機が撃墜されている空域ですので、最も理想であるのは自衛隊が導入するRQ-4無人偵察機の運用開始を待った方が、万一の人的危険は、回避できるのですが、ね。
ともあれ、僥倖であるのは現時点で第七のタンカー襲撃は発生していない点です。しかし言い換えればアメリカ海軍が無人機を筆頭に警戒監視を強化すると共に、航空母艦やB-52戦略爆撃機を派遣し強力な圧力を加えている為に、脅威が抑止されている結果だ、とも言えましょう。次のタンカー攻撃が行われた場合には、我が国へ相応の負担要請もあり得る。
イランとアメリカの対立、特に懸念するのはタンカー襲撃は一段落していますが、対立の背景となったイラン核合意、この核合意枠組はまだ継続しているのですが、イラン政府は昨日、合意により認められた核物質濃縮ウランの総量を越え、更に核濃縮を進めていると表明しました。タンカー攻撃は停止していたとしても、その緊張背景は続いているのです。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
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