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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

西日本豪雨災害一年,"非常事態法制"全域避難指示と避難所不足の観点から国主導の必要性

2019-07-04 20:02:00 | 防災・災害派遣
■巨大化する規格外災害を前に
 岡山県は災害の無い都道府県としてある種の安全神話が在りましたが、昨年の西日本豪雨災害はまたもや新たに安全神話を崩壊させました。

 西日本豪雨災害より間もなく一年、そして九州豪雨が継続中です。豪雨の要因となる梅雨前線が過ぎ去ると日本列島は台風シーズンとなりまして、いやはや日本は災害列島、この印象は年々強く印象を受けます。そして豪雨が予報されるたびに大規模な避難勧告や避難指示が発令され、数年前の名古屋市100万避難勧告というような状況は常態化しました。

 しかし、安易に避難指示100万人、と乱発する事は簡単ですが、自治体に100万人を避難させる場所はあるのか、自治体作成ハザードマップを閲覧しますと避難所と収容人数が明示されていますが、足し算をいくら重ねても、不足している、という結論に至ります。また仕事がある限り、学校が休校にならぬ限り、安易に避難は出来ません。この点について。

 非常事態法制、日本の場合は軍事的な戒厳令を思い出す方が居るならば反対の声も多々あるでしょうが、大規模な災害が想定される場合は当該地域を都道府県単位で学校の休校命令、公共交通機関運休、事業所や工場の操業停止、主要商業施設の休業命令、主要道路の退避車輌と災害時指定車両を除く通行禁止措置、こうした法整備が必要ではないか、と。

 警戒区域指定、代替案にはこの災害対策基本法第63条措置もあり得ます。ただ、例えば市街地中心部等を警戒区域指定する事で、操業中止等を求める事は可能ですが、警戒区域指定は当該地域の全員退避を求める退避命令であり、居住者立ち退きを意味します。権限は自治体首長にありますが、退去強制が逆に台風災害時は被害を拡大し得、妥当性は低い。

 計画運休、非常事態法制の必要性は、一例として鉄道の台風接近時における複数の都道府県単位で始発や終電の数時間繰り上げという大規模計画運休、駅施設閉鎖などの云わば長距離通勤者には非常に厳しい措置が取られる中で通勤を行う事が却って帰宅困難者などを発生させるという実情があり、ここは大規模災害阻止の為に新しい取組が必要となります。

 巨大化する規格外災害を前に国が責任を取るほかないのではないか、現在の避難指示や避難勧告という制度では、社会的に避難しにくい立場の方々に失職や業務評定悪化と生命の防護を天秤に計らせ、結果的に選択肢のない状況下で、避難しなかったのは自己責任、これを迫る構図があり、逆に広大な避難指示を出す事だけで行政の責務が完結しているという不可思議な状況があります。

 大規模な災害発生となれば、避難指示の広範囲の発令と共に、翌日には実際に避難した人数などが報じられ、恰も避難しない人々への非難を思わせる報道等もありまして、避難するにも同調圧力というものとの兼ね合いの難しさを考えさせられます。それならば、非常事態法制として、大規模災害が想定の場合には退避を容易とする必要があるのではないか。

 国が責任を取って、国の指揮権発動により操業中止を私企業に求める、経済的な損害は確かに大きくなりますが、大規模な災害が見込まれ避難指示や避難勧告が発令される中で人的被害の可能性と経済的損害の可能性を天秤にかけるよりは都道府県地域単位で一斉に休業させる体制、その為に非常事態宣言、との視点です。つまり国が動くほかないでしょう。

 災害対策基本法60条に基づく避難勧告、それでは避難所の整備をどう考えるか。一例で市内全域50万に避難指示、隣接都市も全域に避難指示、一体どこに逃げれば良いのかという一方で避難指示が発令されていても当該地域では商業施設こそ短縮営業となり、一部事業所や工場が短縮操業となる事もありますが、基本的に避難指示は、強制ではありません。

 避難所の確保、不足しているという実情を説明しましたが、これは言い換えれば災害救助法に基づく避難指示が強制ではない為に、全員避難する事を想定していない結果、数的に不充分である結果は、無いでしょうか。勿論、これを機に警戒区域指定の強化を行うべきという視点はありませんし、避難指示に強制力を付与させる、という視点ではありません。

 原子力警戒区域指定、京都でも舞鶴市北東部等を散策していますと万一の際には神戸市と京都市へ退避するよう示されています、原子力災害対策特別措置法に基づく警戒区域指定に備えてのものですが、こうした規模の災害となりますと地区ごとに避難所が指定される実例を示していますが、自治会や町内会単位で人口に見合った指定避難所は必要では、と。

 数十万単位の避難指示が発令される場合には、指定避難所数十万、正直なところ一人一畳の避難場所を確保しようにも、数十万となりますと通常の公共施設では限度がある事は理解できます。しかし、避難指示に応じた住民が一斉に避難した場合も避難所はありません、それでは避難指示を出す責務を果たした自治体には片手落ちの結果ではないでしょうか。

 避難所の整備、これは新たに東日本大震災で認識されたものとして、避難所が満員となった場合の在宅被災者への支援が、救援物資配布が避難所被災者中心となっており、避難所へ避難できた被災者と満員故に避難所収容を断られた在宅被災者との支援格差が生じたという事例があります。すると、財政負担合大きくなりますが、避難所増強の必要性は高い。

 避難所増勢は、しかし公立学校や区役所支処に図書館施設などの公共施設を増強するには、自治体の財政負担が大きすぎます。ただ、避難指示を行い避難所が無い、この現状を放置する事は被災者負担が大き過ぎ、均衡点を模索せねばなりません。例えば大規模商業施設やターミナル駅と大規模マンション等、憲法上の財産権に特例を設ける事は出来ないか。

 指定公共施設、としまして非常時には避難所が満員となった前提で更に被災者が退避する場合に、一時避難施設としてではなく中長期的な避難所の提供を要請する枠組みが考えられましょう。ただ、財産権の侵害ともなり、自治体首長の権限と権原では限度があります。するとやはり、冒頭の論理に戻る訳ではありませんが、自治体の手に余る大きな問題故に非常事態法制が必要となります。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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