■高価な掃海艇と不安なFFM
30FFMの機雷掃海任務への保険という意味合いがあるのではないか、哨戒艦についての一つの視点です。
えのしま型掃海艇、ひらしま型のFRP版として2012年から就役が始まった最新鋭の掃海艇です、FRP製船体を採用した満載排水量660tの機雷戦艦艇です。しかし平成23年度計画の三番艇はつしま建造以降、自衛隊は掃海艇を建造していません、掃海隊群へ配備する大型で深深度機雷対処能力を持つ掃海艦ひらど型へ移行しています。このままでは掃海艇建造技術が失われかねない。
30FFMへの保険、哨戒艦建造におけるもう一つの視点はここにあるのではないか、と。完全に鋼製の30FFM、側聞する限りでは30FFMはFRP構造を採用しません、木製でもない。木製の3900t型護衛艦というのは想像しますと楽しいですが、有り得ない。しかし海上自衛隊掃海艇の訓練をみせてもらった際、驚いたのは磁気に関する驚くほどの気遣いが。
掃海艇は食堂の自販機も磁気を調整している為、缶飲料は呑み終えたら磁気特性が動かないように自販機横の空き缶入に戻す、極端な話ですが此処まで気遣っている。また掃海艇は機雷触雷に備え機雷掃海時は全乗員が露天甲板で作業する。護衛艦はここまで磁気に神経質ではありませんし、水上戦闘の際には破片に備え露天甲板の要因は最小限に留まる。
護衛艦と掃海艇は運用面で此処まで違うのですから、水上戦闘艦が掃海を行うオーガニック方式には掃海艇乗りの視点からは哨戒機が戦闘機の役割を担うといわれる程、疑問符をつける他ないでしょう。しかし、哨戒艦をFRP掃海艇派生型として準備するならば、30FFMの機雷戦モジュールを移管し、加えて曳航掃海器具を搭載する事で簡易掃海艇となり得ます。
モジュール、更に付け加えますと世界のモジュール艦が辿った失敗の踏襲、複数種類のモジュールを整備するならば水上戦闘艦に搭載していないモジュールが生じ、管理費用と維持労力の無駄が生じます。30FFMは機雷掃討装置や簡易機雷敷設装置を搭載するという事ですが、同時に二つは搭載しない、ならば空を哨戒艦に搭載する選択肢が浮上しましょう。
えのしま型掃海艇、建造費は200億円と、2世代前の掃海艇はつしま型が50億円でしたので高価になりました。これは機雷掃海よりも機雷一つ一つを確実に掃海する機雷掃討艇へ能力を向上させた結果なのですが、この建造費増大が掃海艇数の縮小へ収斂していまして、しかし言い換えれば機雷掃討装備を断念するならば建造費を抑えられるという事ですね。
建造費を抑える事は重要ですし何よりも用途に長期視野を欠くものを大量に装備できるほど現在の海上自衛隊は余裕がありません、3900t型護衛艦FFMを22隻も建造する中ですので、安価なものが必要ですし使えないものを揃えては意味がありません。えのしま型掃海艇派生型として建造するならば、少なくとも最悪の場合には、掃海艇に改造も出来得る。
機雷探知室、すがしま型掃海艇以降の海上自衛隊掃海艇は艦橋前部に機雷探知室を配置していますので、この部分を省く事で重量を大きく軽減できます。すると重心と復元性を維持した上で76mm艦砲程度であれば搭載出来るのではないでしょうか。ただそこまでいかずとも40mm機関砲程度であっても射程の面から哨戒艦としての任務は充分対応できます。
掃海艇設計を流用するならば、後部の機雷処分器具格納庫区画が多目的区画として応用できますので、無人機や水中無人機、機雷処分弾薬搭載も可能でしょう。特殊警備艇を搭載するならば高速の不審船対処も可能となりますし、グリフィンミサイルのような軽量ミサイルを搭載するならば、射程は18kmと短いですがミサイル艇としても対応出来ましょう。
グリフィンミサイル、アメリカ海軍はサイクロン級哨戒艇用に人力可搬可能である小型ミサイルを実用化しています、射程18kmで発射コンテナは煙突基部や艦橋後部等限られた位置へ配備可能です。非常に搭載が容易で、南シナ海警備などではミサイルを一切搭載しないLCS沿海域戦闘艦へ水上打撃力の付与を行うべく、緊急搭載された事例もあります。
インディペンデンス級LCSやフリーダム級LCSは57mm艦砲とSEA-RAM簡易防空システムのみを搭載するセンサーノードと装備プラットフォームという新世代の水上戦闘艦として建造されましたが、余りに軽武装であり南シナ海警備では重武装の中国海軍フリゲイトに翻弄される事となりました。この為に短射程ですがミサイルを緊急搭載したかたち。
海上自衛隊が哨戒艦をどの程度の任務まで運用するのか、新型ミサイルを採用し積むかはここで決まります。現状では護衛艦不足から掃海艇まで動員して我が国周辺海域の警戒監視任務へ充てている程ですから少なくとも有力なソナーを搭載せず対空レーダーを有さない水準に哨戒艦の性能が抑えられた場合でも、対応出来る任務というものは在るでしょう。
えのしま型掃海艇の改良型として哨戒艦が在り得るのではないか、こう考えましたのは新防衛大綱が確定するまで海上自衛隊に哨戒艦という運用区分が無かった為です。いや、過去には海賊対処任務の本格化時期に専用の外洋哨戒艦OPVが必要ではないか、という視点が多国間海軍協力会議の場において提示された事はありました、しかし哨戒艦はどうか。
新防衛大綱に突然明示された哨戒艦は、哨戒艦を一種のセンサーノードとして用いるのか、軽装備の護衛艦として用いるのか、その運用概念が不明確でした。ある種突然出たように思える訳で、その背景の一つに何か新しい装備の補完、というものがあるのではないか、と推測したのです。すると考えられるのは、えのしま型掃海艇か30FFMの補完、という。
FFMの補完、といいますと怪訝に思われるかもしれませんが、長期的視野に基づく必要があるとの前述の通り。つまり、FFMは遠隔地から機雷掃海を行うものですが、実際にできなかった場合、補完する装備が必要となります。えのしま型は量産されませんので補完の必要がある、最前線に持って行かねばならない装備のみを哨戒艦に搭載する、ということ。
領海警備に艦砲だけの低速な哨戒艦では能力不充分ではないか、と思われるかもしれませんが現時点で掃海艇が領海警備任務の一端を担っています、警戒監視任務、護衛艦が担ってきましたが、護衛艦だけでは不足な程に、中国海軍やロシア海軍、その他の海軍が増えている為です。軽装備で低速の哨戒艦でも掃海艇程度には、代替手段としてはなり得ます。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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30FFMの機雷掃海任務への保険という意味合いがあるのではないか、哨戒艦についての一つの視点です。
えのしま型掃海艇、ひらしま型のFRP版として2012年から就役が始まった最新鋭の掃海艇です、FRP製船体を採用した満載排水量660tの機雷戦艦艇です。しかし平成23年度計画の三番艇はつしま建造以降、自衛隊は掃海艇を建造していません、掃海隊群へ配備する大型で深深度機雷対処能力を持つ掃海艦ひらど型へ移行しています。このままでは掃海艇建造技術が失われかねない。
30FFMへの保険、哨戒艦建造におけるもう一つの視点はここにあるのではないか、と。完全に鋼製の30FFM、側聞する限りでは30FFMはFRP構造を採用しません、木製でもない。木製の3900t型護衛艦というのは想像しますと楽しいですが、有り得ない。しかし海上自衛隊掃海艇の訓練をみせてもらった際、驚いたのは磁気に関する驚くほどの気遣いが。
掃海艇は食堂の自販機も磁気を調整している為、缶飲料は呑み終えたら磁気特性が動かないように自販機横の空き缶入に戻す、極端な話ですが此処まで気遣っている。また掃海艇は機雷触雷に備え機雷掃海時は全乗員が露天甲板で作業する。護衛艦はここまで磁気に神経質ではありませんし、水上戦闘の際には破片に備え露天甲板の要因は最小限に留まる。
護衛艦と掃海艇は運用面で此処まで違うのですから、水上戦闘艦が掃海を行うオーガニック方式には掃海艇乗りの視点からは哨戒機が戦闘機の役割を担うといわれる程、疑問符をつける他ないでしょう。しかし、哨戒艦をFRP掃海艇派生型として準備するならば、30FFMの機雷戦モジュールを移管し、加えて曳航掃海器具を搭載する事で簡易掃海艇となり得ます。
モジュール、更に付け加えますと世界のモジュール艦が辿った失敗の踏襲、複数種類のモジュールを整備するならば水上戦闘艦に搭載していないモジュールが生じ、管理費用と維持労力の無駄が生じます。30FFMは機雷掃討装置や簡易機雷敷設装置を搭載するという事ですが、同時に二つは搭載しない、ならば空を哨戒艦に搭載する選択肢が浮上しましょう。
えのしま型掃海艇、建造費は200億円と、2世代前の掃海艇はつしま型が50億円でしたので高価になりました。これは機雷掃海よりも機雷一つ一つを確実に掃海する機雷掃討艇へ能力を向上させた結果なのですが、この建造費増大が掃海艇数の縮小へ収斂していまして、しかし言い換えれば機雷掃討装備を断念するならば建造費を抑えられるという事ですね。
建造費を抑える事は重要ですし何よりも用途に長期視野を欠くものを大量に装備できるほど現在の海上自衛隊は余裕がありません、3900t型護衛艦FFMを22隻も建造する中ですので、安価なものが必要ですし使えないものを揃えては意味がありません。えのしま型掃海艇派生型として建造するならば、少なくとも最悪の場合には、掃海艇に改造も出来得る。
機雷探知室、すがしま型掃海艇以降の海上自衛隊掃海艇は艦橋前部に機雷探知室を配置していますので、この部分を省く事で重量を大きく軽減できます。すると重心と復元性を維持した上で76mm艦砲程度であれば搭載出来るのではないでしょうか。ただそこまでいかずとも40mm機関砲程度であっても射程の面から哨戒艦としての任務は充分対応できます。
掃海艇設計を流用するならば、後部の機雷処分器具格納庫区画が多目的区画として応用できますので、無人機や水中無人機、機雷処分弾薬搭載も可能でしょう。特殊警備艇を搭載するならば高速の不審船対処も可能となりますし、グリフィンミサイルのような軽量ミサイルを搭載するならば、射程は18kmと短いですがミサイル艇としても対応出来ましょう。
グリフィンミサイル、アメリカ海軍はサイクロン級哨戒艇用に人力可搬可能である小型ミサイルを実用化しています、射程18kmで発射コンテナは煙突基部や艦橋後部等限られた位置へ配備可能です。非常に搭載が容易で、南シナ海警備などではミサイルを一切搭載しないLCS沿海域戦闘艦へ水上打撃力の付与を行うべく、緊急搭載された事例もあります。
インディペンデンス級LCSやフリーダム級LCSは57mm艦砲とSEA-RAM簡易防空システムのみを搭載するセンサーノードと装備プラットフォームという新世代の水上戦闘艦として建造されましたが、余りに軽武装であり南シナ海警備では重武装の中国海軍フリゲイトに翻弄される事となりました。この為に短射程ですがミサイルを緊急搭載したかたち。
海上自衛隊が哨戒艦をどの程度の任務まで運用するのか、新型ミサイルを採用し積むかはここで決まります。現状では護衛艦不足から掃海艇まで動員して我が国周辺海域の警戒監視任務へ充てている程ですから少なくとも有力なソナーを搭載せず対空レーダーを有さない水準に哨戒艦の性能が抑えられた場合でも、対応出来る任務というものは在るでしょう。
えのしま型掃海艇の改良型として哨戒艦が在り得るのではないか、こう考えましたのは新防衛大綱が確定するまで海上自衛隊に哨戒艦という運用区分が無かった為です。いや、過去には海賊対処任務の本格化時期に専用の外洋哨戒艦OPVが必要ではないか、という視点が多国間海軍協力会議の場において提示された事はありました、しかし哨戒艦はどうか。
新防衛大綱に突然明示された哨戒艦は、哨戒艦を一種のセンサーノードとして用いるのか、軽装備の護衛艦として用いるのか、その運用概念が不明確でした。ある種突然出たように思える訳で、その背景の一つに何か新しい装備の補完、というものがあるのではないか、と推測したのです。すると考えられるのは、えのしま型掃海艇か30FFMの補完、という。
FFMの補完、といいますと怪訝に思われるかもしれませんが、長期的視野に基づく必要があるとの前述の通り。つまり、FFMは遠隔地から機雷掃海を行うものですが、実際にできなかった場合、補完する装備が必要となります。えのしま型は量産されませんので補完の必要がある、最前線に持って行かねばならない装備のみを哨戒艦に搭載する、ということ。
領海警備に艦砲だけの低速な哨戒艦では能力不充分ではないか、と思われるかもしれませんが現時点で掃海艇が領海警備任務の一端を担っています、警戒監視任務、護衛艦が担ってきましたが、護衛艦だけでは不足な程に、中国海軍やロシア海軍、その他の海軍が増えている為です。軽装備で低速の哨戒艦でも掃海艇程度には、代替手段としてはなり得ます。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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