■太平洋にNATO相当の機構無し
SACEURといえば冷戦時代は米軍将官の最高峰という地位であったのですけれども、昨今は宋でもないのでしょうか。
欧州連合軍総司令官SACEUR、アメリカ陸軍の将官ポストとしては最高位のものである、これが当方の理解であるのですがNATO地域からの在欧米軍撤収の動きをみますと、欧州連合軍総司令官というポストは現在、アメリカ軍においてはそれほど魅力がないものとなっているのでしょうか。しかし冷戦時代においては文字通り、陸軍参謀総長に次ぐポストでした。
NATO全軍を指揮する欧州連合軍総司令官、この地位は欧州各国がNATO創設に際して巨大なソ連の脅威を前にアメリカの強力な軍事力へ依存するべく、欧州連合軍総司令官はアメリカ将官が担う、としたものでした。NATO創設後は副司令官がNATO本部が当時パリにあったことからフランスが強く参画していましたが、のちにドイツ将官指定席となる。
ドイツ、当時の西ドイツは欧州連合軍が戦火にさらされる際に主戦場となります、したがってこの国土戦を担当するからこそ西ドイツ将官の指定席に副司令官を充てた構図ですが、ドイツの保有する5000両近い戦車も、イギリスライン軍団も、オランダ機甲師団も、NATOの部隊はアメリカ将官が指揮するために同時に西ヨーロッパ全体の運命も担っていました。
冷戦終結とともにドイツの戦車は東西合計7000両から230両まで劇的に削減され、イギリスライン軍団は廃止、オランダも戦車を全廃しいまは30両を再生している、という段階ではあるのですけれども、アメリカにとりNATOは文字通り第二次大戦で培われた血の盟約であるとともに欧州連合軍司令官は最高の名誉である、といえたはずなのですけれども。
ドイツからの駐留米軍9500名の撤収、これをアメリカのトランプ大統領がドイツのメルケル首相との相談もなしに一方的に決定し通知に等しいかたちで突きつけたことは記憶に新しいものです。なるほどトランプ節か、と思いきや、アメリカ国務省はこの9500名をアジア太平洋地域へ転進させるとのことで、一種の西方シフト、とも理解できるものです。
ドイツのメルケル首相は削りすぎた連邦軍の再構築を2016年に提示して以降、しかしなかなか進まない再編とともにトランプ大統領のドイツ駐留米軍の一方的削減措置をうけ、欧州独自の防衛協力機構、一時はNATOからEUにシフトするといわれた時代があったが参謀本部機能が曖昧で空中分解した、しかしドイツはその再構築への決意を表明しています。
アジア太平洋地域への転進はアメリカ本土からみての西方シフトであり、これは海洋進出を強める中国、アメリカの広めた自由で開かれた海洋秩序への挑戦を正面から受ける構図といえるのかもしれません。実際、我が国の防衛政策も転換期を迎えるとはいわれつつ、基本は専守防衛、これは敵基地攻撃能力議論が高まったとしても根底では不変でしょう。
脱欧入亜。アメリカの西方シフトは我が国としては心強いものではあるのですが、逆に考えさせられるのは欧州の脱亜入欧ならぬ脱欧入亜という流れは、アメリカにとり長期的に欧州軽視は悪い影響を及ぼさないのか、ということです。言い換えれば欧州連合軍総司令官という米軍将官ポストは、現在の米軍にとって、いまそれほど魅力はないのでしょうか。
NATOをみますと、今なお強力です。軍事機構に復帰したフランスは多機能編成で動員人員各三万を超える二個機甲師団、ドイツ連邦軍も重装備の機甲師団を維持しています、イタリアも多機能編成の大型師団を有していますし、イギリスは重厚な機甲師団と軽快な歩兵師団を有しています。しかし、ドイツでは欧州独自の独自防衛力構築指針が示された。
アメリカは今後も欧州連合軍総司令官のポストを維持するのでしょうか、もちろん、トランプ大統領の発言一つでNATO解体、ということはあり得ませんが、欧州におけるアメリカのポテンシャルは必然的に低下します。一方で、アメリカの同盟国で欧州以外の諸国は、総合的にみてどうなのでしょうか、NATOは規格の統合化という数字以上の強みがある。
NATOと比較しますとアメリカは冷戦時代にANZACなど幾つかの地域防衛共同体枠組みを模索しましたが、実質的には二国間同盟の形式となっています、二国間同盟も重要ではあるのですが、NATOは装備規格を統一化することで兵站基盤まで共通化し、強靱な持続能力を有しています。しかし、ここに比肩するアメリカとの同盟枠組みは現在ありません。
日本の視点からはアメリカのアジア太平洋地域でのポテンシャル強化の方針は、この地域の安定を考える限り非常に歓迎すべき視点なのかもしれませんが、その結果、アメリカが欧州連合軍総司令官のポストを将来的に放り出すようなこととなれば、アジア太平洋地域に欧州連合軍のような強靭な枠組みは簡単に用意できない事を認識すべきと思うのです。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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SACEURといえば冷戦時代は米軍将官の最高峰という地位であったのですけれども、昨今は宋でもないのでしょうか。
欧州連合軍総司令官SACEUR、アメリカ陸軍の将官ポストとしては最高位のものである、これが当方の理解であるのですがNATO地域からの在欧米軍撤収の動きをみますと、欧州連合軍総司令官というポストは現在、アメリカ軍においてはそれほど魅力がないものとなっているのでしょうか。しかし冷戦時代においては文字通り、陸軍参謀総長に次ぐポストでした。
NATO全軍を指揮する欧州連合軍総司令官、この地位は欧州各国がNATO創設に際して巨大なソ連の脅威を前にアメリカの強力な軍事力へ依存するべく、欧州連合軍総司令官はアメリカ将官が担う、としたものでした。NATO創設後は副司令官がNATO本部が当時パリにあったことからフランスが強く参画していましたが、のちにドイツ将官指定席となる。
ドイツ、当時の西ドイツは欧州連合軍が戦火にさらされる際に主戦場となります、したがってこの国土戦を担当するからこそ西ドイツ将官の指定席に副司令官を充てた構図ですが、ドイツの保有する5000両近い戦車も、イギリスライン軍団も、オランダ機甲師団も、NATOの部隊はアメリカ将官が指揮するために同時に西ヨーロッパ全体の運命も担っていました。
冷戦終結とともにドイツの戦車は東西合計7000両から230両まで劇的に削減され、イギリスライン軍団は廃止、オランダも戦車を全廃しいまは30両を再生している、という段階ではあるのですけれども、アメリカにとりNATOは文字通り第二次大戦で培われた血の盟約であるとともに欧州連合軍司令官は最高の名誉である、といえたはずなのですけれども。
ドイツからの駐留米軍9500名の撤収、これをアメリカのトランプ大統領がドイツのメルケル首相との相談もなしに一方的に決定し通知に等しいかたちで突きつけたことは記憶に新しいものです。なるほどトランプ節か、と思いきや、アメリカ国務省はこの9500名をアジア太平洋地域へ転進させるとのことで、一種の西方シフト、とも理解できるものです。
ドイツのメルケル首相は削りすぎた連邦軍の再構築を2016年に提示して以降、しかしなかなか進まない再編とともにトランプ大統領のドイツ駐留米軍の一方的削減措置をうけ、欧州独自の防衛協力機構、一時はNATOからEUにシフトするといわれた時代があったが参謀本部機能が曖昧で空中分解した、しかしドイツはその再構築への決意を表明しています。
アジア太平洋地域への転進はアメリカ本土からみての西方シフトであり、これは海洋進出を強める中国、アメリカの広めた自由で開かれた海洋秩序への挑戦を正面から受ける構図といえるのかもしれません。実際、我が国の防衛政策も転換期を迎えるとはいわれつつ、基本は専守防衛、これは敵基地攻撃能力議論が高まったとしても根底では不変でしょう。
脱欧入亜。アメリカの西方シフトは我が国としては心強いものではあるのですが、逆に考えさせられるのは欧州の脱亜入欧ならぬ脱欧入亜という流れは、アメリカにとり長期的に欧州軽視は悪い影響を及ぼさないのか、ということです。言い換えれば欧州連合軍総司令官という米軍将官ポストは、現在の米軍にとって、いまそれほど魅力はないのでしょうか。
NATOをみますと、今なお強力です。軍事機構に復帰したフランスは多機能編成で動員人員各三万を超える二個機甲師団、ドイツ連邦軍も重装備の機甲師団を維持しています、イタリアも多機能編成の大型師団を有していますし、イギリスは重厚な機甲師団と軽快な歩兵師団を有しています。しかし、ドイツでは欧州独自の独自防衛力構築指針が示された。
アメリカは今後も欧州連合軍総司令官のポストを維持するのでしょうか、もちろん、トランプ大統領の発言一つでNATO解体、ということはあり得ませんが、欧州におけるアメリカのポテンシャルは必然的に低下します。一方で、アメリカの同盟国で欧州以外の諸国は、総合的にみてどうなのでしょうか、NATOは規格の統合化という数字以上の強みがある。
NATOと比較しますとアメリカは冷戦時代にANZACなど幾つかの地域防衛共同体枠組みを模索しましたが、実質的には二国間同盟の形式となっています、二国間同盟も重要ではあるのですが、NATOは装備規格を統一化することで兵站基盤まで共通化し、強靱な持続能力を有しています。しかし、ここに比肩するアメリカとの同盟枠組みは現在ありません。
日本の視点からはアメリカのアジア太平洋地域でのポテンシャル強化の方針は、この地域の安定を考える限り非常に歓迎すべき視点なのかもしれませんが、その結果、アメリカが欧州連合軍総司令官のポストを将来的に放り出すようなこととなれば、アジア太平洋地域に欧州連合軍のような強靭な枠組みは簡単に用意できない事を認識すべきと思うのです。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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