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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ミサイル防衛再点検:北朝鮮巡航ミサイルと弾道ミサイル実験実施の脅威,早期警戒機の重要性

2021-09-16 20:18:44 | 防衛・安全保障
■イージスアショア中止後
 ミサイル防衛はイージスアショア建設が中止され放置されていたように思える最中、北朝鮮がミサイル実験を連続して実施しました。

 北朝鮮が巡航ミサイル実験に続いて弾道ミサイル実験を実施、弾道ミサイルは高い高度を飛行し落下速度を増大させるロフテッド軌道をえがき、当初は我が国EEZX排他的経済水域外に落下したと考えられていましたが、その後、防衛省が弾道情報を精査した結果、我が国EEZ内に着弾していた事が判明、この事態を前に改めてミサイル防衛が問われます。

 ミサイル防衛、元々我が国では自衛隊基地へのミサイル攻撃はある程度想定され準備が為されてきました、冷戦時代にソ連に近い千歳基地や三沢基地では航空機格納庫をシェルターとしてきましたし護衛艦基地である大湊基地では基地防空隊を配置し、ミサイル攻撃には備えています、しかし、現在問題となっているのは人口密集地へ攻撃が加えられるもの。

 ミサイルによる攻撃、防衛出動命令が発令されている状況であれば、ペトリオットミサイル、そして03式中距離地対空誘導弾システムにより対処出来るのです、自衛隊は第二次世界大戦の反省から野戦防空部隊について、かなり強力な水準を維持しており、ミサイルの配備密度も高い、また弾道ミサイルについては破壊措置命令を予め発令する事も可能せす。

 しかし、弾道ミサイルと巡航ミサイルは飛翔方式が大きく異なり、また迎撃手順についても大きく異なります。これらを加味して、本土防空というものを真剣に考える必要があるのかもしれません。予算面についてもですが、平時におけるミサイルによる奇襲攻撃を自衛隊法上どのように位置づけるのか、自衛隊創設以来の課題へも向き合わねばなりません。

 巡航ミサイル防衛、もともとは弾道ミサイル防衛に対してこの防衛の必要性が認識され始めた2010年代に、この任務は陸上自衛隊の任務として考えられていました。11式短距離地対空誘導弾や03式中距離地対空誘導弾システムが防空と共に巡航ミサイル防空を考慮したシステムとして構築された背景は、この任務は陸上自衛隊のものという要求の反映です。

 迎撃するには。巡航ミサイルの特性は超低空を巡航飛行する点で、亜音速のものが大半、従って探知さえしてしまえば撃墜は陸上自衛隊の地対空ミサイルでもそれほど難しくはありません、陸上自衛隊の低空レーダ装置でも探知可能、問題は電波は直進するという点でレーダーの見通し線内でなければ探知できない点で、早期警戒機による警戒が望ましい。

 弾道ミサイル防衛。高高度を飛翔しますので、防空監視レーダーでも見通し線上で捕捉は容易です、ただ、弾道ミサイルはその名の通り弾道を描いて宇宙空間を経由し飛翔しますので、宇宙から落下良するミサイルの速力は極めて大きく、音速の七倍や十一倍という速度まで達します、迎撃するには命中させるのは簡単ですが落下する結果は変わりません。

 弾道ミサイル防衛の難しさは、高高度で弾頭を破砕しなければ、弾頭が生きた状態で落下しては結果は変わりません、その為には探知と同時にいち早くこちらも宇宙まで迎撃にミサイルを上昇させ、破壊する。この為にイージス艦から射程1300kmのスタンダードSM-3が運用され、宇宙空間で待ち伏せるキネティック弾頭という迎撃方法が開発されています。

 日本国家にとり切迫しているのは弾道ミサイル防衛です。弾道ミサイルは巡航ミサイルと比較し、概して弾頭搭載能力が大きく、核弾頭の運搬手段として用いられます。もちろん巡行ミサイルにも戦術核を搭載する事例はりますが、小型化技術はなお難しく、核攻撃から日本本土を防衛するという切迫した任務には弾道ミサイル防衛がなによりも重要です。

 イージスアショア。弾道ミサイルを迎撃するには、日本には現在のところこれしかありません。当初計画では2023年度には運用を開始する計画でしたが、迎撃に用いるミサイルのブースター部分が落下する危険性から、その建設が撤回され、既に要求された陸上配備用SPY-7レーダーをどのように海上配備用に転用すかが議論されている段階、時間は掛かる。

 イージスアショアの問題としてはもう一つ、陸上自衛隊が運用する計画となっていますが、陸上自衛隊にはイージスシステムの運用要員は一人もいません、簡単に要請できるものではなく海上自衛隊は1980年代から導入準備を進め、日米交渉によりイージスシステムの供与だけではなくOJT方式でのアメリカ留学を進め、極めて長い時間をかけ要員を養成した。

 高射特科、陸上自衛隊の場合は第二次大戦中に航空攻撃により散々な目にあわされた反省から独自の防空システムを創設以来養成しており、その高い野戦防空能力はアメリカ空軍の防空制圧部隊が評価試験の際して共同訓練を要請する程で、ここにイージスシステムという全く別のシステムを無理に挿入しようとしているようなもの、無理もありません。

 甲子園に毎年強豪校として紹介される野球部に急遽今年は天皇杯に出るのでサッカーをやってくれ、勿論甲子園と並行して練習するのだ、こう無理難題を突き付ける状況といえるのかもしれません。それならば03式中距離地対空誘導弾システムを能力向上して弾道ミサイルを高高度で迎撃できるシステムを国産していた方が早かったとさえいえるでしょう。

 イージス艦増強。理想としてはイージス艦であればスタンダードSM-3で弾道ミサイルを迎撃するのですが、同時にスタンダードSM-2やSM-6であれば巡航ミサイルも迎撃可能です、元々は艦隊に殺到する対艦ミサイルによる多数飽和攻撃を迎撃する為のシステムですので、数隻のイージス艦で数百発の巡航ミサイルを迎撃する事はそれほど難しいものではない。

 しかし、現状ではイージス艦は8隻のみ、しかも警戒監視任務は海上自衛隊の任務ですが、イージス艦の任務は艦隊防空であり、平時に艦隊防空に参画していないイージス艦をミサイル防衛の警戒任務として遊弋させている状況、それもミサイル破壊措置命令が発令されている場合に限ってである為、今回のような状況に際し対処は当然無理があるのですね。

 将来を考えるならば、4隻ほどイージス艦を増強、イージス艦を運用する専従護衛隊を編成し、舞鶴基地に配置するか、若しくは護衛艦隊隷下の護衛隊に現在各2隻が配備されているイージス艦を、3隻に増強し、いずも型、ひゅうが型等ヘリコプター搭載護衛艦を運用していない護衛隊のイージス艦を強化する、という選択肢等が考えられるのかもしれません。

 巡航ミサイル防衛について。難しい課題ですが、早期警戒機による空中警戒を維持するほか選択肢がありません。南西諸島上空においては、過去、中国無人機の領空侵犯事案の発生を受け、E-2C早期警戒機による常時警戒体制が組まれています、冷戦時代にはMiG-25函館亡命事件を受け低空侵攻を警戒し北海道上空の空中警戒を実施していました延長です。

 早期警戒機、課題はこの航空機です。航空自衛隊はE-2C早期警戒機の増強と将来の後継機として拡大改良型のE-2D早期警戒機を採用しましたが、この機体は艦載機として設計され小型で前線運用が可能ですが、滞空時間が短い、早期警戒機とは別に早期警戒管制機増勢としてE-7早期警戒管制機の導入というものも、今後検討すべきなのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (2)
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