■気候変動と自衛隊装備縮小
62年前の今日、巨大な台風が日本に上陸しました。紀伊半島から東海地方と中京都市圏を中心に全国規模の被害をもたらした伊勢湾台風です。
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本日は1959年伊勢湾台風慰霊の日です。1995年兵庫県南部地震による阪神大震災を経験するまで、伊勢湾台風は戦後最大の巨大災害となっていました。現実問題として、狩野川台風や第二室戸台風と枕崎台風にカスリーン台風、日本にとり戦後災害史とは長らく巨大台風によるものが大きかった訳です。実際、台風の持つエネルギーも巨大地震並である。
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災害派遣。巨大災害に対して現場は最大限の任務を要請されるならば、文字通り過労死さえあり得る状況でも最大の対応を実施する事は東日本大震災の災害派遣が示しています。しかし、能力というものは多少限界を超えても短期間ならば対応できるものですが、上限はあり、無理なものは無理となります。するとオペレーションリサーチが必要でしょう。
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オペレーションリサーチ。具体的に災害対処はどの程度の任務を想定するのか、出来るだけ多くという曖昧な認識ですと、予算は天文学的となりますが、例えば輸送機ばかり数百機揃える必要があるのか、輸送艦も数十隻揃えねばならないのか、となります。行き過ぎと成れば防衛力全体の均衡を破綻させますが、一方で少なすぎても任務に対応できません。
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巨大災害を前に、不足している装備はどういったものがあり得るのか、手持ちの装備でどの程度担えるのか、こうした視点とともに、行う対処の全体像を描く必要があります。災害派遣は自衛隊の本来任務ではないといわれるかもしれませんが、南海トラフ巨大地震を例に挙げれば想定死者数32万名、数日間でこれ程の死者は国家危機に他ならないでしょう。
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オペレーションリサーチ。忘れるべきではないのは、2011年東日本大震災の頃と比較し、自衛隊の装備はかなり縮小しているという事実です。後継機選定が中断されたまま偵察機と観測ヘリコプターは全廃され、東日本大震災の頃のような情報収集手段を自衛隊に求める事は出来ません、勿論、市販水準のドローン等は防災用に配備が進んでいますけれども。
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東日本大震災の頃と比較し、多用途ヘリコプターも後継機選定の遅れからかなり数が減っていますし、輸送艦は5隻から3隻に数の上では減っていますし、輸送機もC-1輸送機から大型のC-2輸送機に転換していますが、その分飛行隊定数が縮小されていますので輸送機の総数は減っています。予算が限られる以上、仕方ない事ですが、留意すべき点です。
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オペレーションリサーチ。必要であるといえるのは、上記の通り自衛隊の災害派遣能力が予算不足から装備縮小により厳しくなっており、前出来た事が今できるとは限らない点です。勿論、ヘリコプターが無ければ普通科隊員が担いででも輸送するのでしょうが、どうしても輸送能力は人力ではヘリコプターに及びません、現状知る事が、先ず重要でしょう。
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巨大台風。災害は基本的に想定外、想定した通りの災害というものは中々無いようにも思えます。ただ、この中でもここ十年間、我が国の防災は勿論風水害についても備えはあるのですが、数十万が危機に曝されるような巨大災害への認識は巨大地震の方に偏重しているのではないでしょうか。もちろん、巨大地震の脅威が大きい事も事実ではあるのですが。
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東日本大震災、2011年東北地方太平洋沖地震により引き起こした巨大津波は被災者全員と共に報道映像を通じ今なお日本全体で記憶に新しく、災害と云えば巨大地震、という主観が多かれ少なかれあるものですが、我が国では巨大火山災害、台風災害と豪雨災害を忘れてはなりません、そしてこの規模の災害では個人や地域の対策にも限界が、あるのですね。
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伊勢湾台風が和歌山県の潮岬に上陸したのが9月26日、そして三重県を蹂躙し伊勢湾から愛知県に再上陸し、名古屋市沿岸部に猛烈な高潮による被害を及ぼし、特に北上する台風と共に気圧に押し上げられた海水は文字通り伊勢湾北端の名古屋市沿岸部で行き場を失ったまま沿岸部に上陸、巨大な水塊となり濁流や津波の様に工業地帯や住宅街を襲います。
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名古屋市はじめ沿岸部の被害を拡大させたのは、名古屋空襲始め戦災復興に必要な巨大な建築需要を担った沿岸部の建築資材、具体的に言えば貯木場が高潮と共に破城槌のように木造住宅を高速で突き破り破壊した事例も多く、一方で内陸部では風圧により圧潰した歴史的建造物も多く、本質は台風災害なのですが、極めて複合的な災害と云えるものでした。
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5098名、伊勢湾台風の死者行方不明者は台風災害としては異例の5000名を越えるものとなっています。この巨大台風は発生から消滅まで6日間、しかし中心気圧は895ヘクトパスカルと極めて規格外の台風であり、最大風速はアメリカ海軍の解析によれば85m/s、気象庁解析でも75m/sと恐るべきもので、日本全土への経済的被害も東日本大震災に並びます。
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災害対策基本法。現在では巨大災害への対応の基本法となっている法律も、強権的とさえいえるこの法整備は伊勢湾台風を受けての、いわば現行憲法下での非常事態法制の始まりと位置づけられるものであり、台風そのものの被害も規格外ですが、直接間接とで、日本の政治や文化へ及ぼした被害も規格外である事が端的にわかるのではないでしょうか。
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南海トラフ巨大地震。さて、今から理解し備えておかねばならないのは、現在日本の防災基盤は南海トラフ巨大地震を想定としたものに重点が置かれ、例えばスーパー堤防の建設や、防風林の整備が余りに置き去りとされているのではないでしょうか、特に防災が地震対策に偏重していると危惧するのは、地震により倒壊する懸念のある空き家対策の施策だ。
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巨大地震を想定するならば、住民のいない空き家は老朽化が進めば倒壊の懸念がある為に取り壊しが望ましく、また現住家屋については巨大地震に対応する耐震補強が必要となります。ただ、これは巨大台風防災を念頭に置けば、逆に被害を拡大させる相関関係がある事も理解しておくべきでしょう、勿論、地震対策が不要というわけではないのですが。
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防災、例えば地方都市では住宅密集地域での空き家取り壊しが進められていますが、これにより台風災害では住宅密集度の低下が旋風による被害を増大させる事が平成30年台風21号等により判明しています。耐震補強も住宅が頑丈と成れば圧潰被害を回避できますが、揺れを溜めない構造重量を低減させる耐震補強は暴風に対しての脆弱性に繋がるのです。
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スーパー台風。伊勢湾台風は過去のものなのかと問われれば、伊勢湾台風規模の台風に対して我が国の防災インフラはかなり強化されたといえるのかもしれません、例えば伊勢湾の高潮防波堤などがその一例で、堤防も強化されました。しかし、気候変動により台風そのものが巨大化、スーパー台風と呼ばれる水準の台風発生頻度が高まる懸念への備えは。
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東京湾や大阪湾は伊勢湾と同じ様に台風進路である南側に湾口があり、そして湾の奥に世界でも有数の巨大都市が広がります。これは偶然ではなく高すぎる太平洋の波浪に守られた良港で、水利の恩恵に恵まれた立地が、我が国では東京湾と大阪湾に伊勢湾である為で、これは日本列島が環太平洋弧状列島である以上、宿命的な都市部の立地といえましょう。
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気候変動により台風そのものが巨大化。更に自衛隊装備の縮小は前述しましたが、同時にスーパー堤防建設や都市部排水機能強化など、防災インフラ整備も遅滞と停滞があります。原因は同じ予算難と緊縮財政ですが、建設国債を発行してでも防災インフラを整備しなければ、日本で最も重要な工業生産基盤を危機に曝している状況はそのままとなっています。
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伊勢湾台風再来、これは伊勢湾台風規模の台風が再来する脅威という安直な発想ではなく、伊勢湾台風襲来当時の、防災インフラの想定外水準という巨大台風により激甚災害の定義を超える規模の被害が発生する懸念として考えてみますと、果たして防災インフラ整備の進行状況や災害対処オペレーションリサーチは充分なのか、という疑問が、拭えません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
62年前の今日、巨大な台風が日本に上陸しました。紀伊半島から東海地方と中京都市圏を中心に全国規模の被害をもたらした伊勢湾台風です。
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本日は1959年伊勢湾台風慰霊の日です。1995年兵庫県南部地震による阪神大震災を経験するまで、伊勢湾台風は戦後最大の巨大災害となっていました。現実問題として、狩野川台風や第二室戸台風と枕崎台風にカスリーン台風、日本にとり戦後災害史とは長らく巨大台風によるものが大きかった訳です。実際、台風の持つエネルギーも巨大地震並である。
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オペレーションリサーチ。具体的に災害対処はどの程度の任務を想定するのか、出来るだけ多くという曖昧な認識ですと、予算は天文学的となりますが、例えば輸送機ばかり数百機揃える必要があるのか、輸送艦も数十隻揃えねばならないのか、となります。行き過ぎと成れば防衛力全体の均衡を破綻させますが、一方で少なすぎても任務に対応できません。
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巨大災害を前に、不足している装備はどういったものがあり得るのか、手持ちの装備でどの程度担えるのか、こうした視点とともに、行う対処の全体像を描く必要があります。災害派遣は自衛隊の本来任務ではないといわれるかもしれませんが、南海トラフ巨大地震を例に挙げれば想定死者数32万名、数日間でこれ程の死者は国家危機に他ならないでしょう。
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オペレーションリサーチ。忘れるべきではないのは、2011年東日本大震災の頃と比較し、自衛隊の装備はかなり縮小しているという事実です。後継機選定が中断されたまま偵察機と観測ヘリコプターは全廃され、東日本大震災の頃のような情報収集手段を自衛隊に求める事は出来ません、勿論、市販水準のドローン等は防災用に配備が進んでいますけれども。
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東日本大震災の頃と比較し、多用途ヘリコプターも後継機選定の遅れからかなり数が減っていますし、輸送艦は5隻から3隻に数の上では減っていますし、輸送機もC-1輸送機から大型のC-2輸送機に転換していますが、その分飛行隊定数が縮小されていますので輸送機の総数は減っています。予算が限られる以上、仕方ない事ですが、留意すべき点です。
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オペレーションリサーチ。必要であるといえるのは、上記の通り自衛隊の災害派遣能力が予算不足から装備縮小により厳しくなっており、前出来た事が今できるとは限らない点です。勿論、ヘリコプターが無ければ普通科隊員が担いででも輸送するのでしょうが、どうしても輸送能力は人力ではヘリコプターに及びません、現状知る事が、先ず重要でしょう。
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巨大台風。災害は基本的に想定外、想定した通りの災害というものは中々無いようにも思えます。ただ、この中でもここ十年間、我が国の防災は勿論風水害についても備えはあるのですが、数十万が危機に曝されるような巨大災害への認識は巨大地震の方に偏重しているのではないでしょうか。もちろん、巨大地震の脅威が大きい事も事実ではあるのですが。
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東日本大震災、2011年東北地方太平洋沖地震により引き起こした巨大津波は被災者全員と共に報道映像を通じ今なお日本全体で記憶に新しく、災害と云えば巨大地震、という主観が多かれ少なかれあるものですが、我が国では巨大火山災害、台風災害と豪雨災害を忘れてはなりません、そしてこの規模の災害では個人や地域の対策にも限界が、あるのですね。
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伊勢湾台風が和歌山県の潮岬に上陸したのが9月26日、そして三重県を蹂躙し伊勢湾から愛知県に再上陸し、名古屋市沿岸部に猛烈な高潮による被害を及ぼし、特に北上する台風と共に気圧に押し上げられた海水は文字通り伊勢湾北端の名古屋市沿岸部で行き場を失ったまま沿岸部に上陸、巨大な水塊となり濁流や津波の様に工業地帯や住宅街を襲います。
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南海トラフ巨大地震。さて、今から理解し備えておかねばならないのは、現在日本の防災基盤は南海トラフ巨大地震を想定としたものに重点が置かれ、例えばスーパー堤防の建設や、防風林の整備が余りに置き去りとされているのではないでしょうか、特に防災が地震対策に偏重していると危惧するのは、地震により倒壊する懸念のある空き家対策の施策だ。
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防災、例えば地方都市では住宅密集地域での空き家取り壊しが進められていますが、これにより台風災害では住宅密集度の低下が旋風による被害を増大させる事が平成30年台風21号等により判明しています。耐震補強も住宅が頑丈と成れば圧潰被害を回避できますが、揺れを溜めない構造重量を低減させる耐震補強は暴風に対しての脆弱性に繋がるのです。
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スーパー台風。伊勢湾台風は過去のものなのかと問われれば、伊勢湾台風規模の台風に対して我が国の防災インフラはかなり強化されたといえるのかもしれません、例えば伊勢湾の高潮防波堤などがその一例で、堤防も強化されました。しかし、気候変動により台風そのものが巨大化、スーパー台風と呼ばれる水準の台風発生頻度が高まる懸念への備えは。
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東京湾や大阪湾は伊勢湾と同じ様に台風進路である南側に湾口があり、そして湾の奥に世界でも有数の巨大都市が広がります。これは偶然ではなく高すぎる太平洋の波浪に守られた良港で、水利の恩恵に恵まれた立地が、我が国では東京湾と大阪湾に伊勢湾である為で、これは日本列島が環太平洋弧状列島である以上、宿命的な都市部の立地といえましょう。
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伊勢湾台風再来、これは伊勢湾台風規模の台風が再来する脅威という安直な発想ではなく、伊勢湾台風襲来当時の、防災インフラの想定外水準という巨大台風により激甚災害の定義を超える規模の被害が発生する懸念として考えてみますと、果たして防災インフラ整備の進行状況や災害対処オペレーションリサーチは充分なのか、という疑問が、拭えません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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