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西日本豪雨災害発災五年-気候変動時代の規格外豪雨災害,難しい豪雨災害の見極めと防災インフラの重要性

2023-07-06 20:09:40 | 防災・災害派遣
■西日本豪雨災害発災五年
 岡山県は災害の無い県だと昔から言われていましたので一面に冠水した倉敷の空撮に驚かされるとともに、しかし舞鶴線の長期運休にも驚いたが最も驚くのはそれとて災害の一端に過ぎなかったこと。

 西日本豪雨から5年となりました。巨大な豪雨災害により痛感したのは土砂災害により表層を取り除かれたいくつもの山々を見上げてそして遠望して、自然破壊を行うのは人間だけではないのだ、という不思議な雑感でしたが、単なる豪雨災害、いや2000年の東海豪雨もすごかったと思うし、九州北部豪雨や奄美豪雨も大きな災害でしたが、それでも。

 西日本豪雨が始まったあの日は舞鶴基地へロシア海軍駆逐艦入港を撮影していまして、その帰路にものすごい豪雨だと驚かされつつ、その豪雨が本格的な災害となっている最中には沼津市で海上自衛隊の揚陸訓練を撮影していました。大変なことになっているという認識はありましたが、五年後の今日でも記憶される豪雨とは当時想像力が追い付きません。

 豪雨災害で最も警戒しなければならないのは、その始まりがわかりにくい、という点です。これは危機意識と危機管理にも影響していまして、具体的に言えば“暴風警報”や“津波警報”と違い、“大雨警報”を以て休業や学校休校などの措置は先ず取られません、それは事業者や学校など危機管理を求められる機関から大雨が軽視されているにほかなりません。

 大雨警報が軽視されている背景には頻発しているとともに、実際の被害に結びつくような豪雨災害が限られている、という事でしょう。暴風警報が出た場合には、家屋損害等が報告される可能性は非常に高く、津波警報では基本的にすべての公共交通機関は停止し沿岸部からは退避するのが常識となっています、しかし、単なる降雨では避難者は稀有だ。

 夕立、時雨、こうしたものに紛れ込む豪雨災害は、時として重大な結果を及ぼします、それは河川治水インフラの想定以上の豪雨が発生する頻度が高くなり、また宅地開発は治水インフラ整備時には無人地帯であった地域にも及んでいる、特に治水インフラが重点整備された時代と住宅地開発が進んだ時代に十年単位の欠缺が生まれたことが問題を複雑に。

 治水インフラ整備は、1950年代の巨大台風が頻発し、第二室戸台風や伊勢湾台風に狩野川台風やルース台風に枕崎台風、一回の台風で千人から数千人が死亡する巨大台風とともに、併せて始まった高度経済成長を背景に大車輪で進められています、ただ、気候変動の影響でしょうか、1960年代以降、巨大台風の小康状態が日本周辺で生じてゆきました。

 伊勢湾台風などは1995年阪神大震災まで、戦後最大の災害といわれていたものですが、1960年代にはいるとこうした規模の巨大台風は鳴りを潜めます、これを1950年代から継続された治水事業の成果と誤解してしまった背景があるのではないか、規格外の巨大台風を想定した治水インフラは大型台風に対しては十分な治水能力を発揮できます。

 インフラ整備、しかし惜しむべくはこの小康状態のうちに堤防整備とともに新興住宅街の治水管理強化などを並行して行う必要があった。特に新興住宅整備は、バブル期の地価高騰を背景に従来、浸水被害多発地域を念頭に、50年に一度の洪水に耐えるという水準で整備されています、ただ、治水インフラの実際の豪雨への検証に不十分がありました。

 豪雨による河川への降雨流入は水田など保水能力を有する地域特性を基に算出されており、残念ながら1950年代と2020年代では水田面積に雲泥の差があります、また舗装道路か非舗装道路か、雑木林か工場かで地域保水能力にも差が生じ、保水能力の低下は自動的に河川の流入量を増大、若しくは河川へ流れ込めない降雨量は内水氾濫に直結してゆく。

 ハザードマップなどで問題視されない背景には、インフラ整備後の治水能力が“強化されたのだろう”というおもい込みがあり、治水インフラ整備の一方で宅地開発は危険地域を居住地に変え、地域開発は地域保水能力の低下を招いた、しかし台風や豪雨が一時的に小康状態であった数十年間では、この低下が問題視されず、実際災害も起きていなかった。

 気候変動による豪雨災害の増大に対して、日本は公共事業縮小という、重要な生産地域を水害に対して脆弱なままとして放置するような施策を執っていることは危険ではないか。公共事業は予算が掛かり、インフラの維持にも費用は掛かり、少子高齢化の時代に云々という反論はあるかもしれませんが、生産性の高い地域を守ることは将来を守ることです。

 防災インフラ整備による正規雇用の増大とともに、防災インフラにより守られる工場生産地域や都市部の生産性によりその防災インフラ維持費用と整備費用を捻出するという、一種の経済循環を、洪水は致し方ない、という姿勢で切り捨てるならば、災害復旧費用を捻出できないまま荒廃に任せるという悪循環に陥りかねない危険性を感じるのです。

 気候変動の時代、特に日本の都市部は扇状地に発達した、これは火山性地形において都市部を構成できる平野部は地震などで発生した活断層に沿って形成される河川の扇状地しかなく、例外といえば火砕流堆積平野くらい、という事情がありますので、今後、日本の降水量が減らないと予測するならば、治水は日本を国家として維持するうえで必要だ。

 防災というものを、近年は迅速な避難に重点を置きすぎているのではないか。しかし水没した家屋を建て直し、生活を再建するには費用が必要であり、少なくともぎりぎりまで家財を守ろうとする姿勢が、避難を遅らせる要素ともなるし、避難したとしてその生活再建に大きな課題を残してしまうのです、この債権の負担というものを無視すべきではない。

 土建や国家とか過度な公共事業依存と確かに一時期は批判されていましたが、それも橋本行政改革時代以降大きく変容しています。そして、日本の政治体制は行政の無駄を省くと伸び名とともに、何か削ってはならない部分まで削ってしまった、削りすぎてしまったのではないか、防災インフラ整備についてはその一つだと考え、見直すべきと思うのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ情勢-ロシア首都モスクワがふたたび無人機攻撃!ザポリージャ原発IAEA国際原子力機関最新情報

2023-07-06 07:00:32 | 防災・災害派遣
■臨時情報-ウクライナ情勢
 ロシアは何故首都防空へ早期警戒機を飛行させないのでしょうか、稼働率の問題で常時飛行させられないのか低性能で小型無人機を捕捉できないのか。

 ロシア国営タス通信の報道によればロシアの首都モスクワが無人機攻撃を受けたとの事、タス通信はロシア国防省の発表として日本時間4日1430時頃、5機の無人機が飛来しロシア軍が撃墜したと報道しています。この無人機攻撃はモスクワ近郊のクビンカとヴヌーコヴォ空港付近に加えられたと別の情報もあり、空港は一時滑走路を閉鎖したとのこと。

 モスクワのソビャーニン市長はこの無人機攻撃による死者はいないとしていますが、モスクワには5月30日にも無人機攻撃が加えられ、高級マンションなどに被害が出ています。今回はロシア軍により撃墜され被害はなかったとしていますが、同時にロシア軍がウクライナ第一線だけではなくモスクワへ無人機対策を行っていることをしめしています。

 ロシア国防省は無人機攻撃をウクライナからの攻撃としていますが、根拠などは不明です。なお、今回はモスクワ中心部にこそ到達しなかったものの、モスクワ近郊まで到達しており、ロシアが5月30日の無人機攻撃以降もA-50早期警戒機やA-100早期警戒管制機などを投入した防空体制を敷いていないことの裏返しであり、首都防空の課題といえます。
■ザポリージャ原発
 幸いにしてザポリージャ原発は平穏を保っています。

 ザポリージャ原発についてIAEA国際原子力機関が7月5日の事務局長声明を発表しました。6月30日0121時、ロシア側は元々四本が架設されていた最後の維持用電力送電線を遮断しました。ただ、これが直ちに電源喪失につながるわけではなく、6月29日にザポリージャ火力発電所からの送電線が接続されており、一本の命綱となっている。

 ロシア側が切断した送電線は750kV出力の送電線であり、ザポリージャ火力発電所からの送電線は330kV出力とのことで、その送電出力は半減した事となります。この火力発電所からの送電線は4か月前にロシア側により切断されたものが漸く再接続されたもので、7月1日には送電が再開されています。その後の送電線への破壊活動は確認されない。

 原子炉6基の内冷温停止中のものは5基で1基が高温状態から冷却中、このため冷却水のくみ上げなどにポンプ動力が必要となっています。ただ、これらの電力系統が破壊された場合でも一定時間は非常用炉心冷却装置が設置されており冷却水供給は継続され、これが破壊されない限りは炉心融解などの大規模事故に繋がるわけではありません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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