北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛増税の前にすべき施策【3】政治は自衛隊にどのような任務を課すのか?ブラックボックス化からの脱却

2023-07-20 20:02:23 | 国際・政治
■五兆円-何が幾つ不足か
 防衛費をGDP1%からGDP2%にする、この一言は軽そうに見えますが毎年防衛費を五兆円以上積み増すということにほかなりません。

 情報開示について、せめてほかの先進国並みに、そうNATO加盟国程度には防衛装備品の定数、つまり調達しなければならない数量を示してはどうか。具体的には、自衛隊全体でミサイルは何発必要なのか、装甲車は必要な数量を満たすにはどれだけ調達するのか、その調達は適正であるのか、既存の装備品を無駄に廃棄していないのか、などなど。

 護衛艦部隊であれば定数がわかりやすいのです、それは護衛艦隊の編成が明らかにされていますし、定数割れしているかどうかは既知の一般公開などで一目瞭然です。もっともミサイル備蓄について充分であるのか、VLSの中身などはわかりませんが、少なくとも政府は“トマホークミサイル400発導入”など、透明性を確保する取り組みをしている。

 戦車と火砲については300両と300門、こうした数値が防衛大綱として数年前には示されていました、すると、耐用年数を25年間とした場合は年間12両と12門が必要であるはずですので、年間調達数が一けた台というのは明らかに不足している、こう理解することは出来たのです。しかし、300両で部隊定数を満たすのかは情報が開示されない。

 師団旅団の概要、こうした部隊編成情報は非開示ですので、300両の戦車で本当に有事の際に対応できるのか、そもそも有事の際に専守防衛である日本はどこまで犠牲を考えなければならないのか、政権が崩壊しなければ勝利なのかという防衛戦略の概要も示されていません。そして想定する戦闘における自衛隊の損耗も大まかな数字さえ非開示だ。

 現在の保有数だけは航空機や火砲について、毎年の財務省国家保有資産目録や退役数と調達数というかたちで防衛予算にて示されますので把握できるのですが、足りているのか足りていないのかは、何しろ肝心の部隊編成が示されませんので、まあ何とかなるのだろう、と好意的にとらえるか、日本の防衛は全く駄目、と悲観的にとらえるか、となる。

 防衛白書に記されているではないか、こうした反論もあるかもしれません。確かに防衛白書では、国土の防衛などをイラストで解説しています。しかし、防衛白書に記されたような他地域からの増援などは現実的に可能なのか、何よりもあのイラスト一枚では中世の宗教画のように、流石に曖昧過ぎないか、そもそもイラストでは戦車は8両だけだ。

 手の内を晒すことになる。部隊編成の秘匿についてはこう指摘する声があります、傾向と対策が分れば相手に対処法を考えさせるという。しかし、NATOもロシア軍も基本的に部隊編成は開示しています、手の内というのは充足率や稼働率の問題であり、編成そのものは予算にかかわる問題ですので民主主義国家で隠すには無理があるのではないか。

 日本の場合は、政治が市民との対話に際して永らく防衛に関する話題を禁忌としてきた風潮があり、また防衛についても特別職国家公務員の職域所掌という認識であり、国民が防衛議論に参加するのは防衛力を持つのか持たないのかという、日本の平和憲法を維持するのか放棄するのかという議論で止まり、細部に進まなかった現実はあるのですが。

 しかし、使えそうに見える装備品の廃棄、90式戦車やMLRSに88式地対艦誘導弾にUH-60JとOH-6DやFH-70榴弾砲にVADS機関砲、使い道があるかもしれない73式装甲車や75式装甲ドーザと78式戦車回収車、倉庫に残しておけば車体だけや砲塔だけを利用できそうな75式自走榴弾砲や74式戦車、こうしたものを耐用年数で区切り次々廃棄しつつ予算が足りぬというのは国民として納得できるのか。

 防衛費が足りない、すると何が足りないのかという議論とともに、政治は自衛隊にどのような国土防衛戦を想定しているのか、もちろん反撃能力やシーレーン防衛は憲法との微妙な問題もあるのでしょうが、それとて全く開示できないというのではなく、平和的生存権などとの整合性を付けたうえで、政治はなぜ足りないのかを明示すべきと考えます。

 ブラックボックス化した防衛政策、防衛費の問題とともに、巨額の予算で何をするのかという事をもう少し丁寧にすべきで、金額がGDP2%だ、という金額ありきだけでは議論にはなりません、札束を積んで土嚢の代わりとするのではなく、その金額でどのような防衛力を構築するかを国民と政治が共有して初めて税金が空費か活用か、が決まるのだ。

 防衛力は21年間にわたるミサイル防衛と、予算据え置きのままの増え続ける新任務により既に中身は破綻していることは確かです。故に建て直さなければなりません、しかし、2022年度税収は過去最高金額に上ったという報道の一方で、防衛増税だ更なる国民の負担を、と、こう政治が求めるならば、曖昧ではなく理解できる説明が必要となるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ情勢-占領地ウクライナ国民ロシア移送の蛮行とモスクワ市内旧ソ連外国人季節労働者の軍強制志願

2023-07-20 07:00:53 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 北海道が一歩間違えればこうなっていたと考えると寒気がします。戦争反対し降伏すれば平和になると日本で考える方もいますが占領者が強制的に郷土を棄てさせ軍に志願させ戦わせる事もあるのだ。

 ウクライナでのロシア占領地でのウクライナ国民ロシア領内移送が拡大しているとのこと。これは7月12日付ISWアメリカ戦争研究所の分析によるもので、ロシア軍占領地では多数の病院がロシア軍に占拠され、占領地の受民は医療を受けられない状況が常態化しています。この為占領地では高度医療が必要な場合はロシアへ搬送している状況だ。

 ウクライナ国民でもロシア占領下ではロシアへの移動にはロシア当局が発効したパスポートとロシア市民としての住民登録が必要であり、高度医療を行うという名目とともにウクライナ国民のロシア化が進められている状況です。民間防衛を担うウクライナ抵抗センターはウクライナ国民の強制ロシア化であるとしてこの状況を強く非難しています。
■ロシア軍志願兵数ノルマ
 モスクワ市民はやはり特権階級でありモスクワ市民以外の人命はロシアでは軽んじられるという現状を見ますと、やはり日本は防衛に力を入れなければ現状の日本の制度の方がまだましなのです。

 モスクワ市当局はモスクワ市内の建設企業へ建設業労働者へのロシア軍志願兵数ノルマを課している、イギリス国防省11日付戦況報告にて明らかにしました。そのうえで志願兵ノルマを達成できなかった企業に対してはモスクワ市内公共工事入札への参加禁止や公共工事契約の撤回を示唆し、強制的に志願兵を出させている状況となっています。

 モスクワの建設労働者はロシア国内でも比較的裕福なモスクワ市民は少なく、ロシア国内の貧困地域やCIS構成国で旧ソ連の中央アジア諸国からの外国人労働者となっており、この施策は、モスクワ市民のロシアウクライナ戦争への協力が低いと指摘される現状を、モスクワ市内の志願兵というかたちで相殺しようとする市当局の思惑なのでしょう。
■戦車修理工場誘致
 ポーランドは独自の戦車産業を確立させ防衛力を強化させようとしているのは危機感からなのでしょう。

 ポーランドが要望するレオパルド2A5及びA6の修理工場建設が交渉中断となりました。ポーランド国内に新工場を建設し包括して整備を行うことをポーランドは要望していましたが、ドイツ側の主張としてポーランドによる整備費用はドイツで行う場合の十倍近い金額を要するため、部隊維持費などの面から戦車稼働率が低下するとしています。

 ドイツ側がポーランドの提示価格の大きさに驚き、ドイツで行う程度まで費用を引き下げられない事から交渉を打ち切った構図ですが、ドイツのラインメタル社はドイツのほか、リトアニアに修理工場を建設しており、今後はドイツに加えリトアニアでの修理や定期整備を行うという。ポーランド側は反発しており、今後の摩擦が懸念されます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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