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日本造船業は防衛の根幹,LST&LSDを増強せよ【4】機動揚陸プラットフォームと民間船舶

2021-02-02 20:17:31 | 防衛・安全保障
■フェリー,灰色塗れば輸送船
 民間船舶でも輸送力という視点からは有用です、なにより民間船舶の輸送力こそが海軍力の目指すシーパワーが守るべきものなのですから。

 水陸機動作戦を実施するに当たり民間船舶の規格にあっても幾つかの有用な船舶が存在します。民間フェリーなどはその最たるものですが、併せて自動車運搬船やパージ運搬船といったものにも、水陸機動作戦に適合する設計が考えられるでしょう。もちろん民間フェリーなどは運用要員というよりも維持費の問題があり、民需に依存するべきでしょうが。

 民間フェリー、灰色に塗れば高速輸送船となり、これは傭船のかたちで既に実施しています、これをやりすぎますと、実のところ逆に民間フェリーによる自衛隊輸送という、一種の有事における転用可能な路線維持への平時の需要維持という側面を圧迫してしまいそうではあるのですが、一方で中型フェリーについては自前で確保する選択肢もあり得ます。

 自動車運搬船。あまり大型のものは、依存しますと例えば一個師団分の重装備を運搬しつつ、これが攻撃を受け喪失するようなことがあれば、第二次大戦中の陸軍戦車第二師団がフィリピンへの輸送中に少なくない重装備を喪失したような状況ともなり、例えば予備の装備品をアメリカの事前集積船に載せる運用を除き、リスクといえるかもしれません。

 しかし、複数中隊規模の輸送や、数がどれだけあっても足りない輸送車両の同時輸送には有用な選択肢といえるかもしれません。そしてもう一つ、これは伊豆大島土砂災害において再認識された問題点ですが、港湾施設を使えない状況において、これらの船舶を接岸させるための、従来は軍隊が重視していたような運用にも、資する装備は、あるのですね。

 パージ輸送船。アメリカ海軍も運用していますが、航行可能なドックというべき船舶に20程度のパージを搭載し輸送する専用船舶があります、あまり速度は出せませんし、個艦防空能力などありませんので、戦闘地域への進出は難しく、競合地域でも僚艦防空能力を持つ水上戦闘艦の護衛が必須ですが、こと設計では便利な船舶が既に民間に存在しています。

 例えばパージ輸送船。これはパージにそのままトラックなどを積載し、プッシャーパージとともに上陸用舟艇の代替とすることもできますし、パージを並べることでそのままマルベリーシステム、第二次世界大戦中のノルマンディ上陸に際しイギリスとアメリカが実施したような応急港湾設備のように輸送船から岸壁まで浮き桟橋として活用できましょう。

 アメリカ海軍ではパージ輸送船をそのままLCAC輸送船として運用しており、これに新たに機動揚陸プラットフォームというLCACと民間の自動車運搬船を海上で装備品の載せ換えを行うシーベイシングといい新しい運用が構築中です。これは従来、大規模な両用作戦を実施する際に揚陸点近くに策源地を抑える必要があったのですが、これに代わるもの。

 機動揚陸プラットフォーム。アメリカが開発中ですが日本の造船技術を応用すればそれほど難しいものではなく、逆に得意分野とさえいえるかもしれません、LCACを積載する区画と車両運搬船を海上で瀬取のように連結する区画があれば可能、さすがに車両運搬船の車両用スロープからLCACに直に載せ替えることができないために、という発想のもの。

 もちろん、留意事項としては自衛隊がどの規模までの輸送を行うか、という視点で必要な船舶量というものは変わってくるのです、具体的には単に連隊戦闘団を一個送れば事足りる島嶼部防衛だけを考えるのか、複数の師団規模で第二戦線を構成するか、で変わってきますが、後者についてはそこまで師団を送る船舶以外の兵站能力が自衛隊にはありません。

 アメリカ海軍の規模の輸送船は、こうした理由から過大といえますし、理想としては北部方面隊の総合近代化師団一個分くらいの装備品を事前集積船に載せ、呉基地や佐世保基地沖に遊弋させておけば、有事の際には南西諸島であろうとその先であろうと即座に人員と個人装備だけ、新幹線や民間のボーイング777で空輸すれば事足りるのですが難しい。

 ただ、現状の海上自衛隊輸送艦と二隻程度の政府傭船だけで充分、とは絶対いえないわけでして。中間を担わなければなりません。もっとも、予算にも限界がありますし、予算がないからといってパージ輸送船は買えないために代替に安価なプッシャパージばかりトラックを積載し、何隻も何十隻もガダルカナルの蟻輸送のように行うのも非効率ですが。

 ここで留意しておかなければならないのは、民間の輸送力に余力をもった時代とはことなり、例えば効率化に赤字削減の改革を強いられたコンパクトな能力が、医療分野で新型コロナウィルスCOVID-19の感染爆発に対応できなかったような、有事の際に民間の余力に頼るとした1990年代までの発想、もはや出来ない、という防衛当局の認識が必要でしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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2 コメント

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離島支援と合わせて? (ドナルド)
2021-02-04 22:41:16
こんばんは

離島は過疎化も進み、そのフェリーや旅客船は公的な支援なしには回らなくなっています。利用者が少ないので、船も小さくしたいところですが、航洋性も下がるので小さくできない。すると隻数を減らすしかない。すると便数が減るだけでなく、例えば1ー2隻で回していると、ドック入りしているときに代船が無いのでドックダイヤはますます便数が減る。

防衛の視点から、国内の離島用フェリーを補助することで、有事の輸送力を確保できないでしょうか。

平成26年の値ですが、国内の短・中距離フェリーは159航路267隻だそうです(内航RORO船や長距離フェリーは含まない)。つまり例えば陸自兵站強化の名目で、70m級の「フェリーニューあわしま」のような船を20隻ほど建造したとしても、「代船」として、あるいは繁忙期の追加船としてならば、需要はあるのでは無いでしょうか?

もちろん出費のうち半額ほど離島振興予算からだし、陸自が残り半分を出すような。この規模のフェリーならば、中隊規模での輸送を担い、多数を保有することで、全体として抗堪性を確保する、とかでしょうかね。。。

軍事力はバランスであり、敵の弱いところを叩くのは戦術の基本中の基本です。兵站が弱ければ敵は兵站だけを徹底して叩きにきます。そして兵站が破綻すれば、どれほど前線に兵力があっても降伏か撤退しか道はない。現状、非常に兵站や輸送が不足な状況では、前線の普通科連隊一個を廃止して兵站強化をすることは、全体の戦力を大きく高めると思います。

#機甲旅団に軽歩兵旅団で対抗するのは愚策ですが、機甲旅団で対抗するのも全く良策ではなく、橋梁を落とし、燃料拠点や弾薬拠点を徹底して叩くことで無力化するのは、王道の戦術ですよね。。。

ref: ttps://www.mlit.go.jp/common/001039873.pdf
ttps://www.mlit.go.jp/common/001220609.pdf
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Unknown (成層圏)
2021-02-04 22:43:09
LSTがいいのかは別として、国内造船力維持のために仕事ご無いタイミングで国費で多目的多用途に使える運搬船を造るのは良いことだと思います。
国防や災害への備えは平時では無駄ですが、この余裕が無ければいざと言うときに困ります。
ジャストインタイムは災害時にすぐに止まるダメな仕組みだと、個人的には思っています。
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