■厳しいミサイル防衛の現実
2022年1月にミサイル防衛の実任務という注目すべき事例がありました、場所は中東、日本のミサイル防衛についても参考となる点はあり一つ情報を纏めてみました。
北朝鮮によるミサイル実験が繰り返され、弾道ミサイルを低高度で極超音速飛翔させる低軌道弾道試験や、超低空を飛翔する巡航ミサイルを、これまで北朝鮮が実験してきましたミサイル防衛システムを上昇限度外から掻い潜るロフテッド軌道と併用して運用した場合、日本のイージス艦とペトリオットミサイルによる防衛システムを突破する懸念があります。
イージス艦が日本海上に展開していない状況での突発的なミサイル攻撃が在った場合はどう対応するのか、陸上配備型ミサイル防衛システムイージスアショアの建設中止など、日本ではミサイル防衛の難しい判断が迫られる状況となっていますが、こうした中、1月17日に、アラブ首長国連邦のミサイル防衛戦という重要な戦訓が展開される事となりました。
イージスアショアの建設可否という日本の問題がありますが、アラブ首長国連邦は世界にさきがけアメリカよりTHAADを導入した一方、専守防衛で相手に犠牲者を出さず防衛するミサイル防衛には膨大な予算を、防衛力整備は勿論ミサイルそのものにも要するという現実と、しかし策源地攻撃という日本も検討した選択肢での人道問題も、表面化しました。
アラブ首長国連邦軍は1月24日、THAAD高高度ミサイル防衛システムはフーシ派の弾道ミサイル攻撃を迎撃し阻止したと発表しました。これはイエメンの武装勢力フーシ派がアラブ首長国連邦のエミラティ石油施設に向け発射した中距離弾道ミサイルを迎撃したもので、THAADは実任務における中距離弾道ミサイル迎撃を成功させた初事例となりました。
THAADはアメリカ陸軍が中距離弾道弾までの迎撃を念頭に開発したもので射程は250km、世界で広く利用されるペトリオットPAC-3の30kmよりも迎撃範囲は大幅に強化されています。今回迎撃したのは二発の中距離弾道ミサイルに対してで、このエミラティ石油施設び近傍にはアメリカ軍およびフランス軍が前方展開するアルダフラ空軍基地もあります。
THAADの迎撃成功は朗報ではありますが、この日ミサイル攻撃を受けたのはエミラティ石油施設だけではなく、同時にアブダビの空港施設へ無人機による自爆攻撃が実施、弾道ミサイルと無人攻撃機による同時攻撃について、無人機攻撃に対しては撃ち漏らしが在り、被害が生じたとのこと。防衛に徹する難しさを端的に示した事例ともいえるでしょう。
アラブ首長国連邦軍は1月17日、イエメンフーシ派によるアブダビの空港施設へ無人攻撃機による攻撃を受け、迎撃戦を展開しました。この迎撃にはペトリオットミサイルなど10発が使用されましたが、数基が防空システムを突破し空港施設周辺で爆発、民間人死傷者がでたとされています。亡くなったのはパキスタンとインドからの外国人労働者という。
迎撃はもう一つの課題を生んでいます、ペトリオットミサイルが迎撃に用いられましたが、アラブ首長国連邦軍によれば迎撃費用はミサイルだけで5000万ドルの費用となりました。産油国ではあっても国防費に上限はあり、無人機自爆攻撃は安価な機体を使い捨てとしている方式であり、いわば児戯のようなガラクタを相手に膨大なミサイルを用いた事となる。
無人機攻撃は、巡航ミサイル程の速度を有さず、また慣性航法装置も民生用のものを流用しており、非常に安価です。本格的な電子戦環境では運用できるものではありませんが、平時から電子妨害を広域で行えば民間携帯電話網やインターネット、民間航空機運航が不可能となります、命中精度も無差別攻撃ならば必要はなく、迎撃する側には頭痛の種です。
アラブ首長国連邦軍はフーシ派からの弾道ミサイル攻撃を受けF-16戦闘機による策源地攻撃を実施しました。弾道ミサイルはエミラティ石油施設へ2発が発射、このミサイルは命中前にTHAADミサイルにより迎撃されていますが、弾道を描いて飛翔する弾道ミサイルの発射施設はこの際に標定され、イエメンのジャウフ県に発射基地があると判明します。
策源地攻撃には空軍が装備するF-16block60戦闘機が投入、作戦は弾道ミサイル攻撃が実施された1月17日から一週間後の21日、現地時間未明の0410時に実施され、アラブ首長国連邦国防省公式発表では、弾道ミサイル発射装置2基を破壊したとしています。THAADによるミサイル防衛の成果はりましたが、策源地攻撃の重要性も示しています。
アラブ首長国連邦への弾道ミサイル攻撃は、同時にサウジアラビアのダーランアルジャヌブの石油施設に対しても攻撃が行われており、サウジアラビアも策源地攻撃を実施しています。更にアラブ首長国連邦のアルダフラ空軍基地に接近した弾道ミサイルはアメリカ軍がペトリオットにより迎撃しており、これは1991年湾岸戦争以来の実任務とのことです。
アラブ首長国連邦軍とサウジアラビア軍など有志連合は両国に対するミサイル攻撃への策源地攻撃とともに一部が報復攻撃を実施していますが、この攻撃による死者が国連により問題視されています。策源地攻撃はイエメン内戦の反政府勢力フーシ派支配地域において実施したとされていますが、同時に北部サアダ県ではミサイル施設以外は空爆された。
サアダ県への航空攻撃はフーシ派の声明によればフーシ派の拘束した民間人収容施設へも被害が及んだとしており、91名が死亡したと発表しています。この空爆について、国連も声明を発表、過去三年間で最も大規模な空爆であり多くの犠牲者が出たと非難しています。ただ、国連はフーシ派による攻撃でも死者が出ている事実を指摘、停戦を呼びかけました。
イエメンからのミサイル攻撃に対しては、THAADなど最高度の防衛システムにより相手国を攻撃せず防衛できる可能性を示した一方、簡易な無人機自爆攻撃と併用した場合、その迎撃への費用は短時間で数千万ドルと天文学的なものとなる財政上の問題を示す一方、策源地攻撃であっても人道危機に繋がるという難しい問題を突き付ける構図となりました。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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2022年1月にミサイル防衛の実任務という注目すべき事例がありました、場所は中東、日本のミサイル防衛についても参考となる点はあり一つ情報を纏めてみました。
北朝鮮によるミサイル実験が繰り返され、弾道ミサイルを低高度で極超音速飛翔させる低軌道弾道試験や、超低空を飛翔する巡航ミサイルを、これまで北朝鮮が実験してきましたミサイル防衛システムを上昇限度外から掻い潜るロフテッド軌道と併用して運用した場合、日本のイージス艦とペトリオットミサイルによる防衛システムを突破する懸念があります。
イージス艦が日本海上に展開していない状況での突発的なミサイル攻撃が在った場合はどう対応するのか、陸上配備型ミサイル防衛システムイージスアショアの建設中止など、日本ではミサイル防衛の難しい判断が迫られる状況となっていますが、こうした中、1月17日に、アラブ首長国連邦のミサイル防衛戦という重要な戦訓が展開される事となりました。
イージスアショアの建設可否という日本の問題がありますが、アラブ首長国連邦は世界にさきがけアメリカよりTHAADを導入した一方、専守防衛で相手に犠牲者を出さず防衛するミサイル防衛には膨大な予算を、防衛力整備は勿論ミサイルそのものにも要するという現実と、しかし策源地攻撃という日本も検討した選択肢での人道問題も、表面化しました。
アラブ首長国連邦軍は1月24日、THAAD高高度ミサイル防衛システムはフーシ派の弾道ミサイル攻撃を迎撃し阻止したと発表しました。これはイエメンの武装勢力フーシ派がアラブ首長国連邦のエミラティ石油施設に向け発射した中距離弾道ミサイルを迎撃したもので、THAADは実任務における中距離弾道ミサイル迎撃を成功させた初事例となりました。
THAADはアメリカ陸軍が中距離弾道弾までの迎撃を念頭に開発したもので射程は250km、世界で広く利用されるペトリオットPAC-3の30kmよりも迎撃範囲は大幅に強化されています。今回迎撃したのは二発の中距離弾道ミサイルに対してで、このエミラティ石油施設び近傍にはアメリカ軍およびフランス軍が前方展開するアルダフラ空軍基地もあります。
THAADの迎撃成功は朗報ではありますが、この日ミサイル攻撃を受けたのはエミラティ石油施設だけではなく、同時にアブダビの空港施設へ無人機による自爆攻撃が実施、弾道ミサイルと無人攻撃機による同時攻撃について、無人機攻撃に対しては撃ち漏らしが在り、被害が生じたとのこと。防衛に徹する難しさを端的に示した事例ともいえるでしょう。
アラブ首長国連邦軍は1月17日、イエメンフーシ派によるアブダビの空港施設へ無人攻撃機による攻撃を受け、迎撃戦を展開しました。この迎撃にはペトリオットミサイルなど10発が使用されましたが、数基が防空システムを突破し空港施設周辺で爆発、民間人死傷者がでたとされています。亡くなったのはパキスタンとインドからの外国人労働者という。
迎撃はもう一つの課題を生んでいます、ペトリオットミサイルが迎撃に用いられましたが、アラブ首長国連邦軍によれば迎撃費用はミサイルだけで5000万ドルの費用となりました。産油国ではあっても国防費に上限はあり、無人機自爆攻撃は安価な機体を使い捨てとしている方式であり、いわば児戯のようなガラクタを相手に膨大なミサイルを用いた事となる。
無人機攻撃は、巡航ミサイル程の速度を有さず、また慣性航法装置も民生用のものを流用しており、非常に安価です。本格的な電子戦環境では運用できるものではありませんが、平時から電子妨害を広域で行えば民間携帯電話網やインターネット、民間航空機運航が不可能となります、命中精度も無差別攻撃ならば必要はなく、迎撃する側には頭痛の種です。
アラブ首長国連邦軍はフーシ派からの弾道ミサイル攻撃を受けF-16戦闘機による策源地攻撃を実施しました。弾道ミサイルはエミラティ石油施設へ2発が発射、このミサイルは命中前にTHAADミサイルにより迎撃されていますが、弾道を描いて飛翔する弾道ミサイルの発射施設はこの際に標定され、イエメンのジャウフ県に発射基地があると判明します。
策源地攻撃には空軍が装備するF-16block60戦闘機が投入、作戦は弾道ミサイル攻撃が実施された1月17日から一週間後の21日、現地時間未明の0410時に実施され、アラブ首長国連邦国防省公式発表では、弾道ミサイル発射装置2基を破壊したとしています。THAADによるミサイル防衛の成果はりましたが、策源地攻撃の重要性も示しています。
アラブ首長国連邦への弾道ミサイル攻撃は、同時にサウジアラビアのダーランアルジャヌブの石油施設に対しても攻撃が行われており、サウジアラビアも策源地攻撃を実施しています。更にアラブ首長国連邦のアルダフラ空軍基地に接近した弾道ミサイルはアメリカ軍がペトリオットにより迎撃しており、これは1991年湾岸戦争以来の実任務とのことです。
アラブ首長国連邦軍とサウジアラビア軍など有志連合は両国に対するミサイル攻撃への策源地攻撃とともに一部が報復攻撃を実施していますが、この攻撃による死者が国連により問題視されています。策源地攻撃はイエメン内戦の反政府勢力フーシ派支配地域において実施したとされていますが、同時に北部サアダ県ではミサイル施設以外は空爆された。
サアダ県への航空攻撃はフーシ派の声明によればフーシ派の拘束した民間人収容施設へも被害が及んだとしており、91名が死亡したと発表しています。この空爆について、国連も声明を発表、過去三年間で最も大規模な空爆であり多くの犠牲者が出たと非難しています。ただ、国連はフーシ派による攻撃でも死者が出ている事実を指摘、停戦を呼びかけました。
イエメンからのミサイル攻撃に対しては、THAADなど最高度の防衛システムにより相手国を攻撃せず防衛できる可能性を示した一方、簡易な無人機自爆攻撃と併用した場合、その迎撃への費用は短時間で数千万ドルと天文学的なものとなる財政上の問題を示す一方、策源地攻撃であっても人道危機に繋がるという難しい問題を突き付ける構図となりました。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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