北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

平成二十八年度十一月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2016.11.12/11.13)

2016-11-11 21:00:19 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 ドナルドトランプ大統領が当選を果たしまして、クリントン候補の当選を予見していた多くの方々を驚かせましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今週末、自衛隊関連行事は一つですが、もう一つ、週明けに防衛装備庁シンポジウムがグランドヒル市ヶ谷にて行われます。防衛省技術研究本部を改組し誕生した防衛装備庁は我が国防衛装備品の技術研究総本山というべき知識と技術の要塞です。15日と16日、受付手続きを済ませればシンポジウムや展示品と技官の方へ質疑応答も出来る興味深い行事です。

 防衛装備庁技術シンポジウム2016、開場がホテルグランドヒル市ヶ谷で、車両展示などは1両か数両のみですが、シンポジウム、そして技術研究展示は、学会発表と大学祭の技術展示報告を見学する雰囲気です。事由に入る事が出来る行事ではあるのですが、技官の開発者から聞く技術動向や方向性は得難いものばかりで、防衛技術の先端が垣間見える。

 国分駐屯地祭、第8師団隷下の精鋭第12普通科連隊が駐屯しています。師団普通科連隊の一つではありますが、鹿児島県は錦江湾の北端に位置するこの駐屯地は南西諸島北部を防衛警備管区に受け持つ関係上、在沖海兵隊等アメリカ海兵隊への部隊研修を長期に渡り積極的に行うなど、水陸機動作戦能力整備へも強い決心と努力を払う精鋭、全てが興味深い。

 さて、基地や駐屯地の周りで、ちょっと一杯、という気分になった時に、周りに何もないという基地や駐屯地が意外とある事に驚かされます、自衛隊関連行事だけをちょっと撮影へ、と足を運ぶうちは何とも問題とするものではないのですけれども、しかし、その基地や駐屯地を生活の場としている隊員さんたちは大変だなあ、と考えさせられたりするものです。

 自衛隊基地は僻地手当が出る場所等は一応あるようなのですが、レーダーサイトなどは勤務する隊員が少ない事から福利関係の予算も限られるようで、施設には限界があると共に、基地周辺で生ビールの一杯やチューハイの一杯を頂くために移動する場合、飲酒運転は論外ですのでタクシーで移動する場合幾ら掛かるのだろう、と気が重くなってしまうところ。

 とあるミサイル部隊の駐屯地はモスバーガー移動販売のお知らせがあり、聞けばモスバーガーは特急で移動しなければ移動販売でしか、ということ。別のミサイル部隊駐屯地は近所の飲食店が地元向けの個人弁当店しかないのですが、別件で夜中に休憩するとかなりの人数の隊員さんが弁当に缶ビールで酒盛り、他にないのも大変だ、と過疎化を実感します。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・11月15日・16日:防衛装備庁技術シンポジウム2016…http://www.mod.go.jp/atla/
・11月13日:国分駐屯地創設61周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/wae/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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プーチン大統領唯一の空母をシリアに派遣する理由【後篇】 戦力だけでは測れぬ空母外交の圧力

2016-11-10 21:03:52 | 国際・政治
■航空母艦とシーパワーの実像
 海軍力、シーパワーは平時における政治的な役割を有する、ゴルシコフの海軍戦略や古典マハン海上権力行使論にも記されています。

 ロシアの空母はアメリカ海軍の航空母艦と比較するならば、艦載機の運用能力は艦載機の搭載数で半分以下、発着能力は同時発着能力が限られるためさらに低く、実際、比較した場合非常に限られたものです、が、そのロシアと同程度の航空母艦を保有する海軍も世界では非常に少なく、実際、フランスの原子力空母シャルルドゴールしか挙げられません。

 軽空母、と言いますと、固定翼航空機を運用、イタリアは軽空母ジュゼペガリバルディと戦力投射艦カブール、スペインは戦力投射艦ファンカルロス一世を運用していますが艦載機はハリアー攻撃機を若干数運用するのみ、ブラジルは戦闘機を運用可能な空母サンパウロをフランスより購入しましたが竣工から半世紀を経て現用航空機を実質運用不可能です。

 シリア沖へロシアの空母が展開する、艦隊が展開する能力を有しているという事は、欧州地域、ロシアの中東進出へ大きな懸念を有している諸国への大きな圧力となりますし、ロシア海軍の艦隊は規模が非常に大きなものであり、航空母艦を攻撃する事はそのまま全面戦争へ展開する可能性も決意を持たせるもの、そのポテンシャルは空軍機の比ではない。

 航空母艦、この地域へ大きな戦力をシリア内戦及びイラクISIL攻撃へ投入するNATO諸国は、総力を挙げればロシア部隊を排除する事は不可能ではありません、が自国本土が攻撃されている状況ならば兎も角として、対外地域への軍事圧力や勢力拡大などに対し妨害する、とは中々考えられず、ロシアの中東戦略への決意を大きく示す事も出来るものです。

 一方でアドミラルクズネツォフの中東展開は、アドミラルクズネツォフと同型の中国海軍空母遼寧にも同様の作戦対応能力がある事を示します、最も脅威であるP-700ミサイルを搭載していない部分と軽量のMiG-29戦闘機の運用能力は遼寧にはありませんが、示威行動としての航空母艦展開は、アジア地域へ大きな影響を与える事は必至というべきでしょう。

 欧州諸国のアドミラルクズネツォフ対応能力以上に、アジア地域において遼寧の航空戦力に対抗できる海軍力は海上自衛隊とインド海軍、補助的にオーストラリア海軍や韓国海軍程度しかありません、現時点でシリア沖のロシア海軍動静は対岸の火事程度ではありますが、アドミラルクズネツォフと同型の中国海軍空母遼寧の存在を踏まえますと話は別です。

 航空母艦による海軍力の誇示ですが、相応の部隊を展開させこちら側から友好を強調する事で受け流す事は可能です。過去、日露戦争後にアメリカが同様のホワイトフリート世界一周航海を実施した際、連合艦隊は歓待し対応しました、遠からず東シナ海や南シナ海、四国沖の太平洋等において日常化する可能性があり、関心を以て視てゆくべきと云えます。

北大路機関:はるな くらま
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トランプ大統領誕生!第45代大統領はアメリカを再び偉大な国とする 【アメリカ大統領選2016】

2016-11-09 23:15:00 | 北大路機関特別企画
■ドナルドトランプ大統領誕生!
 アメリカ大統領選挙、トランプ大統領が当選しました。アメリカを再び偉大な国とする、この掛け声の下、選挙戦により分断された世論を統一し、全てのアメリカ国民のための大統領となる、高らかに宣言しました。不安要素は多いのですが、敢えて好意的に太平洋を越えた隣国の新しい指導者を迎えましょう。

 防衛政策の部分から、日本は独自防衛力を強化すると共にアジア太平洋地域でのアメリカが引くポテンシャルを補う事をこれまで視てきましたが、トランプ政権が重視するのは経済立て直しであり目指す経済政策当面の目玉は公共事業です。ハイウェイや橋梁の再整備等を当選後の勝利宣言にて示し、雇用拡大を強調しましたが国境3140kmに渡り建設するメキシコとのトランプの壁、この施策は現在三重のフェンスにより隔てられている長大な国境へ壁を建設する公約で、仮に実行すれば、巨大な公共事業となり得るかもしれません。

 トランプ大統領の保護主義政策への転換は、ある意味世界にとり福音となるかもしれません。アメリカはグローバリゼーションと自由貿易の実現へ建国以来主導してきましたが、トランプ政権は、NAFTA北米自由貿易協定見直し、TPP環太平洋包括協定の脱退、等保護主義的な政策を公約としています。行過ぎたグローバリゼーションは経済摩擦や地域衛材破綻、労働力国際移動に低賃金競争の要因で、減速は世界の方向性を変える事でしょう。イスラム教徒入国禁止という言葉が響きすぎましたが、反グローバリズムを示しています。

 国内政策は減税を掲げ、相続税撤廃や法人税15%への引き下げ、年収25000ドル以下単身世帯と夫婦50000ドル以下世帯所得税免除、を掲げました。一方、オバマケア医療保険制度の廃止による公的社会保障制度の廃止を掲げつつ、市場原理での医療保険制度という自助制度への回帰を公約としていまして、自己実現と自己責任の制度へ戻る公約でした。この通り、減税、という意味では伝統的共和党路線を継承しているといえるかもしれません。

 トランプ外交の未知数な部分は、防衛政策と外交政策が全く白紙だ、ということです。アジア太平洋地域とアメリカの関与はどのように変容するのか、トランプ外交は具体策を提示していない故の未知数な要素が多いのですが、アメリカはアジア太平洋地域を市場として重視するのか、アジア太平洋市場への関与の度合いを退くのか、通商政策の側面と、アジア太平洋地域の防衛政策へ関与するのか、同盟国を通じ関与するのか、放棄するのか。

 欧州地域への防衛上の関与をどのように展開させるのか、欧州正面ではロシアがカリーニングラードへ兵力蓄積を進めており、ウクライナ東部の出来事が放置すればバルト海沿岸へ波及する事は必至であり、NATO盟主としてのアメリカがどのように対応するのか、これは対ロシア政策の展開と重なり、間接的に日ロ関係へも大きく影響することでしょう。他方、日米防衛協力に加え、日豪防衛協力、日英防衛協力の進展はより重要性を持ちます。

 中東アフリカ地域へはどのように防衛外交政策を展開させるのか、この地域での関与度合いをイラクアフガニスタンからの撤退により低めたオバマ政権を批判しており、この地域へ戦力投射能力を整備するのか、常駐部隊を再展開させるのか、一方、サウジアラビアへの防衛協力へ否定的な視点を示していますので、矛盾しない政策は中々、見えてきません。

 日本へ在日米軍の駐留費全額負担が無ければ撤退、を掲げていまして、在日米軍の展開兵力は、空軍が三沢と嘉手納へ戦闘機部隊を置き横田へ輸送機部隊、海軍が横須賀へ第七艦隊と厚木へ空母航空団と嘉手納等へ哨戒機部隊、海兵隊が岩国と普天間へ航空部隊と沖縄へ海兵師団、後は横浜や相模原に広等の弾薬庫、米軍後方拠点の抑止力は非常に大きい。ただ、安保ただ乗り論はアメリカではレーガン政権時代より続く対日批判であり、防衛負担増大の要請は、今に始まったものではなく、日米で継続的に討議してゆく命題でしょう。

 自主防衛力、新しい88艦隊案や、巡航ミサイル潜水艦案、広域師団案、大型航空団と臨時分屯基地案、様々な試案を提示してきましたが、自主防衛力と日米同盟は矛盾しません。トランプ公約、在日米軍撤退を示唆しその上で米軍駐留経費の増大を要求する姿勢ですが、元々在外米軍基地は世界的にラムズフェルド長官時代の米軍再編を経て戦略拠点以外は縮小、海外戦略拠点はドイツとイギリスに日本に集約され、この残る数少ない戦略拠点から撤退を示唆するという事は、アジア軽視か単なる政治的揺さ振りである事が分かるところ。

 日本、韓国、ドイツ、サウジアラビア、への防衛負担増大を要求すると共に、一方かなりの米軍部隊が駐留する、イギリス、イタリア、防衛協力が大きいイスラエル、近年再展開するフィリピン、の防衛負担増大が示されず、在沖米軍が重視する台湾の軽視を示唆する発言も無く、単に自衛隊の強化を筆頭に同盟国負担増大を求める視点なのかもしれません。世界の様々な課題は山積していますが、アメリカが繁栄を求める限り関与は不可分であるため、未知数の部分は大きいものの、太平洋を越えた隣国として関係が重要であることも、又変わりありません。

北大路機関:はるな くらま
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アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【17】 わが国平和主義政策への影響

2016-11-08 23:02:16 | 国際・政治
■形式的平和か平和的生存権
 アメリカ大統領選挙、先ほど投票が開始されました。

 アメリカ大統領選挙、三時間前から投票が始まり、あと12時間ほどで大勢が判明することでしょう。今回の大統領選は、国務長官時代私用メール問題によりクリントン氏の優位が崩れた事で、トランプ氏の躍進に繋がっており、支持率は僅差となっていますので、本当に投票結果が読めません。場合によっては排他的で一国主義の政府が誕生する可能性も否定できず、昨今の大きなリスクとなっています。

 日本にとってのアメリカの今回の大統領選挙を経てのリスクは、不確定要素が大きくなる、ということでしょう。最大のリスクはトランプ氏が提示しました在日米軍撤退示唆を軸とした、我が国防衛負担のアメリカがアジア地域から関与度合いを薄める示唆へ平和憲法から重武装中立や武装平和維持体制への転換を含めた要求が大きくなる部分に他なりません。

 トランプ氏が大統領へ就任すれば、日本への防衛負担の要求は、例えばレーガン政権時代以上の規模で、アメリカ軍駐留経費負担金を他国と比べ二桁多い我が国に支出を更に強化させる要求があり、防衛費には上限が実質的に含められている事から、米軍駐留費を負担することで防衛費を在日米軍駐留経費分担金が大きく圧迫するということになるでしょう。

 クリントン氏が大統領に当選した場合でも、同盟国との協同を強化する方針は示されていますので、在日米軍の撤退までの大きな要求や負担増大の要求は無いものの、世界政治における安全保障という分野から自衛隊、日本の防衛政策の関与する度合いの増大は要求される見通しですので、結局のところ我が国防衛力を外向きへ転換する圧力へ、繋がります。

 独立国である以上、自国を時億の防衛力だけで自己完結する防衛力整備が、独自防衛力整備という観点から望まし事は確かですし、限定侵攻であれば冷戦時代にソ連軍の侵攻へ対処する能力を整備していましたし、大陸からの軍事力が南西諸島に侵略した場合でも、専守防衛、国土を戦場とした粘り強い防衛戦闘を展開する事で充分対抗する事は可能です。

 しかし、日本の防衛は我が国は海洋国家であり食糧自由律に限界があると共に世界との交易により経済力を維持し、巨大な工業力を化石燃料の輸入により機能させているという実情から、シーレーンを維持し、周辺地域での海洋航行自由原則を担保し、世界規模での資源産出地域の安定による恩恵から国家を運営している実情を視れば、観方は変わってくる。

 限定戦争に留まらない本土への大規模攻撃を抑止するには巡航ミサイルを潜水艦に搭載し待機させる策源地攻撃能力整備による報復的抑止力が必要となりますし、資源地域の安定を図るには日本本土を遠く離れた中東アフリカ地域などへ地域安定へ防衛力を投射し、当該地域への関心度を強く示す必要も考えられ現行憲法の臨界点を考えなければなりません。

 これは不確定要素の問題ですが、国際公序を牽引するアメリカが、例えば一国主義、アメリカ第一主義という美名のもとで牽引者から対外政策への関与の度合いを低めるならば、規範の制定への影響力が失われ、日本は独自に地域秩序や資源外交を軍事的裏打ちの下で推進させねばならず、自国領域の外に関しても重要影響事態として対応する必要が出る。

 アメリカの外交政策はこれまで一貫性がありましたが、今後はこの崩壊という危惧が、一国主義の提示により生じました。アメリカの政策が不明確になるという事は日本の防衛政策に影響を及ぼしますが、自主防衛とは言うに易し、行うのは難し、だけではなく、何処まで日本が現在の平和を謳歌できるのか、形式的平和主義に拘るのか平和的生存権維持に重点を置くのかという政策を突き付けられます。不確定要素の大きな時代へ転換するかもしれない、これこそは最大のリスクといえるかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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防衛省平成二九年度予算概算要求の検証【9】 陸上総隊・水陸機動団・南西警備部隊関連予算

2016-11-07 22:21:55 | 北大路機関特別企画
■統合機動防衛力整備へ
 防衛省平成二九年度予算概算要求の検証、第9回は統合機動防衛力整備への部隊改編をみてみましょう。

 陸上総隊、水陸機動団、南西警備部隊、来年度防衛予算概算要求における陸上自衛隊の大きな改編を象徴する部隊名といえます。陸上自衛隊は全国へ均等な部隊を配置する基盤的防衛力整備から機動打撃部隊と緊急展開部隊に地域配備部隊を組み合わせた統合機動防衛力整備へ転換を進めていますが、陸上総隊、水陸機動団、南西警備部隊は象徴的なものといえる。

 陸上総隊の新編に係る整備としまして“ 陸上自衛隊における全国的運用態勢強化に資する統一司令部を新編するため、これに係る関連事業を計上”するとしまして、埼玉県の朝霞駐屯地へ 陸上総隊司令部庁舎地下部の建設費用80億円を要求しています。地下部分を構築する事で、航空攻撃やミサイル攻撃から抗耐性の高い指揮能力構築が行われる見込み。

 陸上自衛隊の陸上総隊は、現在、北部方面隊、東北方面隊、東部方面隊、中部方面隊、西部方面隊、全国の陸上自衛隊は主にこの五つの方面隊、旧軍でいうところの軍司令部隷下に部隊を運用しています。陸上総隊は、この方面隊の上級組織であり、方面隊を中央から陸海空と協同し指揮する、いわば陸上自衛隊の総司令部を置く一大事業となっています。

 方面隊は当初、陸上総隊により置き換えられ、全国の師団及び旅団などを陸上総隊が直接指揮する方式が模索されていましたが2011年の東日本大震災を契機として地方司令部の重要性が再認識され、方面隊と陸上総隊という階梯が維持されることとなりました。一方、方面隊間の支援体制や統合運用を陸上総隊が調整し、部隊や後方支援を円滑調整が狙い。

 中央即応集団として現在、防衛大臣直轄部隊が維持されていますが、この敷居脳の一部や要員が流用される事となっており、陸上総隊創設と共に中央即応集団は廃止され、陸上総隊直轄部隊に、第1空挺団、第1ヘリコプター団、水陸機動団等が置かれる事となっています。何れも高い展開能力を保有する部隊で、こちらは方面隊の枠に囚われない運用です。

 水陸機動団、“ 水陸機動団の新編に係る整備”としまして、 水陸両用車AAV-7の取得費用として11両に84億円が要求されています。海上から島嶼等に部隊を上陸させるため、海上機動性及び防護性に優れた水陸両用車を整備する、とのことです。水陸機動団は佐世保市の相浦に創設される3個連隊を基幹とした水陸両用部隊で、規模では空挺団を超える部隊の新編です。

 水陸機動団関連の整備事業は更に施設の整備を相浦駐屯地などで実施するとのことで、3.8億円が要求されました。部隊編制については西部方面普通科連隊を増強する形で3個連隊体制を整備している過渡期にあります。部隊整備と装備調達に施設整備を並行して実施していますが、一方、3個連隊の編成は人員不足下簡単ではありませんが、進められています。

 南西警備部隊、来年度予算概算要求陸上自衛隊もう一つの重要事業です。南西警備部隊に係る整備として746億円が要求されました。これは“島嶼防衛における初動対処態勢を整備するため、警備隊等の配置に関連する奄美大島及び宮古島の庁舎等の整備”とされていますが、南西諸島でも防衛空白地帯となっている鹿児島県島嶼部や沖縄県西部へ行われる。

 島嶼部防衛において、南西警備部隊の位置づけは対馬警備隊の位置づけ、島嶼部へ部隊を配置する事により、我が国土への侵攻を企図する勢力に対し確実な意思を誇示する目的で実施されます。庁舎の整備費用や装備品の調達と、746億円という的又費用が要求されています。南西警備部隊には地対艦ミサイルや中距離地対空ミサイル等も必要とされています。

北大路機関:はるな くらま
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アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【16】 多極化とポストグローバリゼーション

2016-11-06 22:12:27 | 国際・政治
■国際公序転換期の兆し
 アメリカ大統領選の支持層から意見を集約すれば、多極化とポストグローバリゼーションというものが見いだせるのかもしれません。

 アメリカ大統領選挙はいよいよ明後日が投票日となりました、現在のところ接戦州の選挙人を制した候補者が当選するものとみられ、云い変えればどちらが優勢であるのか、共和党トランプ候補と民主党クリントン候補は、先月末のクリントン候補への優位が機密メール問題FBI再捜査により崩れて以降、僅差そのもので、全く読めない状況となっています。

 トランプ候補の保護主義やアメリカ孤立主義に、定義の上では当て嵌まる施策は、本特集を開始して以来、パクスアメリカーナという第二次世界大戦後の自由と公正を基本とする国際公序を世界へ定着するためのアメリカの努力が、保護貿易主義への転換に伴う世界基軸通貨の発行国からの脱却、孤立主義による軍事的優位の放棄に繋がる危惧を示しました。変動の影響が、我が国の視点からは防衛上大きな影響がある為、安定志向を期待したいのですがここは世論とは必ずしも重ならない。

 しかし、最たる問題は、その公約本体ではなく、その公約、保護主義と国際公序の牽引というアメリカの国家戦略そのものが、アメリカ世論として受け入れられなくなっているが故の、保護主義と国際公序からの離脱を志向するトランプ候補への支持へ繋がっているもので、この支持層が求める為政者は、遠かれ早かれ民主的に選ばれる事となるのでしょう。

 グローバリゼーションの世紀として、自由貿易を掲げ世界貿易機関WTOを構築し、ドルを基軸通貨とするIMF国際通貨基金を主導してきたのはアメリカですが、実際のところこの維持には多くの負担を要します。完全な自由貿易と国際通貨の維持、これはアメリカ以外にはEU欧州連合にも中国にもロシアにも、当然日本も構造上できるものではありません。アメリカ以外出来ない、というものは決して中国や欧州連合の能力を侮っているものではありません。

 何故ならば、基軸通貨国は自国通貨が世界中で流通させるべく大量に世界へ供給しなければならない事を意味し、これは自国の貿易収支が絶対に黒字にならない事を意味しますし、自由貿易を進める事は自国産業が自由競争において保護する事が出来なくなることに他ならず、この場合において全ての産業分野で絶対優位を確保する事は実質的に不可能です。

 この部分、自由競争を国内において実施するアメリカでは、社会保障制度や教育制度において格差は有り、超大国として世界基軸通貨を担保し自由競争を進めるよりも、その弊害から格差の上位以外に位置する人々は懸念を持つ事は当然であり、特に中間層よりも下の経済層では、超大国や世界通貨の維持よりも生活の維持こそが主眼となるのは当然でしょう。

 中間層が伝統的に保守化しやすい、過度な改革による社会変動の影響が波及するよりも現状維持を望む声が増大するという中間層、冷戦時代にはこの中間層が維持されたことにより、共和党も民主党も革新的な政策よりは自由主義に依拠した反共政策を軸として、個々の政策論争を討議する範疇で政権が代っていましたが、この構造が転換してしまいました。現状が維持されるならば、我が国防衛政策からは安定志向、平和主義を継続する事が出来るのですが、我が国が位置する国際公序が転換するならば、併せて転換させる必要が生じてくる。

 この中でアメリカ中間層の転換はアメリカ地域研究における一つの大きな視点となっていましたが、冷戦後の自由競争の普遍化による競争へ中間層が必ずしも地位を維持できなかったという視点、生産性と物価の競争において過度な生産性と低コストを求める市場の声が市場の一員である中間層から結果的に追い落とす事となった等、保護主義志向へ向く分析も可能でしょう。

 移民排斥、同盟軽視、この施策への支持は低賃金労働力競争や国防費の負担へ耐えられなくなった証明でもあり、世界通貨維持への関心低下は貿易収支赤字へ世論が理解を示す事への不支持です。妥当性のある支持行動で、故に我が国をはじめ世界は、単極化とグローバル化の時代から多極化と地域主義化への再転換を見込まねばならないのかもしれません。国際公序再構築と銘打た本論の視座はここ。

 ただ、これによりアメリカが引く分、これを置き換える新しい地域秩序が必然的に成立します、これはアメリカの対外政策や通商政策への影響力が低下する事を、この要因となった施策を進める為政者とその支持者が、影響により被る一時的な不合理と混乱の実害を受け入れる事が出来るのか、一旦引いたことで生じる不安定を受け入れる事は出来るのか。

 この部分について、多極化とは、アメリカの進めた自由と公正という国際公序が受けいれられないもの、これ故に多極化なのですが、影響力の維持への努力を低下させたものの影響力を維持しようとすれば当然無理が生じます、また、孤立路線への急激な変容は、地域秩序再構築の牽引者地位を総取りしようとする新興勢力間の紛争要因ともなりかねません。

 誤解してはならないのは、行き過ぎた自由競争とグローバル化は、必ず弊害が生じるため、実のところ、トランプ氏が掲げる政策とその支持者への理解は充分できるものなのですが、この転換に伴う弊害を受け入れる準備はあるのか、また、この変動は日本周辺地域での地域秩序や経済政策に資源政策へも影響が及ぶ為、特に本論で主眼としたいものは、一国平和主義という防衛政策へも影響が及ぶことを留意するべきでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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将来艦隊戦闘と巡航ミサイル【11】 日本の防衛、顕在化した巡航ミサイル脅威を前にした選択肢

2016-11-05 21:05:39 | 先端軍事テクノロジー
■巡航ミサイル脅威顕在化を前に
 巡航ミサイル脅威に何が出来るか、将来艦隊戦闘と巡航ミサイル特集、最終回です。

 対処法は迎撃で、超低空を侵攻する巡航ミサイルに対しては既存の警戒監視手段と迎撃用の各種ミサイルが大きな能力を発揮します、が、飽和攻撃として一度に大量の巡航ミサイルによる攻撃を受けた場合、飽和状態になり侵攻を許してしまう可能性が否定できません。十年前、2006年の時点であれば、日本が巡航ミサイルの脅威をそれほど大きく受けてはおらず、脅威となっていましたのは大陸からは弾道ミサイルでした。

 十年前の弾道ミサイル脅威と云えば、対日戦用の東風15型ミサイルが150発程度、朝鮮半島からのノドンミサイルが100発程度の脅威でしかありませんでしたが、この十年間で長剣07型巡航ミサイル1500発という非常に大きな脅威が日本本土へ覆いかぶさるようになりました。しかもこの1500発という長剣07型は現在も量産中であり、H-6戦略爆撃機、商型攻撃型原潜、元型通常動力潜水艦、052型ミサイル駆逐艦、地上発射装置から同時に投射される極めて日本本土への脅威度が高いものとなっています。

 この脅威に対して、防衛予算が無尽蔵に確保出来るならば、例えばイージス艦をアメリカ海軍の三分の一程度、30隻を建造し日本周辺に常時20隻程度を遊弋させるならば、その射程が非常に大きなスタンダードSM-6迎撃ミサイルにより、飽和攻撃を撃破出来るかもしれません、しかし、この種の事態では攻撃側よりも防御側の方が負担について増大し、且つ防御に徹する限り、相手にはミサイルを射耗する事以外のリスクがありません。

 云わば、十年間で1500発の巡航ミサイルが増大した訳ですから、個の度合いで脅威が更に十年後に十年後と増大した場合、我が国は毎年3隻のイージス艦を建造知る必要に迫られる訳で、これでは国が持ちません。そこで、耐用年数を厳格すぎる定義の上で実質的に早期に除籍される潜水艦、搭載能力に余裕を持つ一部護衛艦、世界最大規模の装備数と世界最大の保有密度を誇る哨戒航空部隊、これらに巡航ミサイルの運搬手段を付与する事により、巡航ミサイルの運用を提示した、ということ。

 いままで活用していなかった防衛資材を最大限活用することにより、潜水艦に160発から240発、護衛艦に128発の巡航ミサイル同時運用能力を付与出来るわけです。RGM-109E/RGM-109HとRGM-109E/RGM-109Hに可能ならばAGM-129 ACMのアメリカへの有償供与要請、重整備など国内運用基盤の支援要請、これまでにない装備体系ですが、真剣に供与に関する交渉を行う価値はあるでしょう。

 更に日米安全保障条約の枠組はありますが、有事の際、日本本土への攻撃に対し、策源地攻撃を喩え同盟国だれ、全て委任し日本側が一切関与しない、という姿勢は不可能で、この点からも脅威に対応するには相応の対処能力が構築されなければなりません。もちろん、1500発の巡航ミサイル脅威に対し、一億国民シェルター計画等反撃に頼らない手段での軍事恫喝に屈しない国家体制構築は可能です、予算支出へ国民が賛同すれば防空手段を増勢するという選択肢がある。

 イージス艦の大量建造の経済負担へも国民の支持がこちらの方が大きければ選択肢に含むべきでしょう、これらを踏まえたうえで、巡航ミサイルという新しい装備体系を提案しました。脅威を視ないように無視する事は不可能ではありません、が、敢えて見ない事で脅威が顕在化した際、想定外、としてその過酷な代償を国民へ叩きつける政治は、あまりに無責任です。

北大路機関:はるな くらま
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平成二十八年度十一月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2016.11.05/11.06)

2016-11-04 22:31:12 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 急に寒くなり、大急ぎで帰宅後に毛布を引っ張り出す今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今週末の自衛隊関連行事について、いよいよ11月となりまして本年も残りわずか、来週にはアメリカ大統領選挙が始まるというなかで、日本の外交や防衛政策にも大きな影響といいますか波及が観てっとれる今週末、観てみれば我が国自衛隊行事では旅団行事あり、学校行事あり特科行事あり、そしてブルーインパルス飛行展示ありの文字通り盛りだくさん。

 第13旅団創設17周年海田市駐屯地創設66周年祭、陸軍海田市飛行場跡地にあり陸上自衛隊最初の旅団として第13師団から旅団へ部隊改編を受けた第13旅団の創設記念行事です。山陽地区と山陰地区の防衛警備及び災害派遣を担当する旅団ですが、旅団改編後に山陰地方沿岸部への北朝鮮工作船浸透脅威が顕在化、日本海側の防衛へ重責を担う精鋭旅団です。

 施設学校創設65周年勝田駐屯地祭、陸上自衛隊の施設科職種における幹部教育及び戦術研究と新装備開発及び専門教育を担当する施設学校創設記念行事です。茨城県ひたちなか市に所在し、様々な施設装備を視る事が出来ます、築城から障害除去に障害構築と道路整備、最前線から後方連絡線維持まで、戦闘を支える重要な部隊行事、注目といえるでしょう。

 松山駐屯地創設61周年記念行事、四国最大の都市である松山市に位置し、四国を防衛警備管区とする第14旅団の火力戦闘部隊、第14特科隊の駐屯地です。第2混成団特科隊から始まる伝統ある部隊で、FH-70榴弾砲を装備していますが、第14旅団の即応機動旅団への改編を前に廃止改編を視野に含めた駐屯地記念行事で、伊予鉄道梅本駅が最寄駅とのこと。

 航空自衛隊幹部候補生学校開庁60周年奈良基地祭、平城京跡を会場として航空自衛隊幹部候補生学校創設記念行事が行われます、ブルーインパルスの飛行展示も行われるとのことで、60年の節目に相応しい行事となるようです。行事は平城京跡天平会場が式典会場となりますが、奈良基地の一般公開は行われませんので、足を運ばれる方はご注意ください。

 さて。自衛隊関連行事、日本中いろいろと回ってみますと驚かされるのはテレビ事情です、特にNHKは受信できるのですが、民放の放映が致命的に少なく、また京都では普通に放映されている番組が全く、という地域がかなりあります。この中で、深夜アニメーションなどは、そもそも放映していない地域があり、同じ日本なのに、と文化的疎外感を感じる事もある。

 沖縄は何度か足を運ぶのですが、驚かされるのは上記民放の少なさと共に、沖縄独自のドラマ番組などに力を入れている点で、これで独特の価値観や文化観が醸成されてゆくのだなあ、と考えさせられることもあるのですが、意外や意外、民放で深夜アニメが全くないように感じられ驚いたのは政令指定都市の広島市、大都市なのに深夜が、と驚きました。

 BS-211,救世主と云いますかこうした状況でも全国同じ番組を見られるBSデジタル放送は有難いものでした、零時前後には確実にアニメーションが放映されていますし、NHK-BS放送等では世界の報道をワールドニュースでは確実に日本全国で観る事が出来、情報過疎がありません、こんな中で大切なのはBSデジタル放送受信環境のあるホテル選びですね。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・11月06日:施設学校創設65周年勝田駐屯地祭…http://www.mod.go.jp/gsdf/station/ea/katsuta.html
・11月06日:航空自衛隊幹部候補生学校開庁60周年奈良基地祭…http://www.mod.go.jp/asdf/nara/kankoukou.html
・11月06日:第13旅団創設17周年海田市駐屯地創設66周年祭…
・11月06日:松山駐屯地創設61周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/mae/matsuyamasta/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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南スーダンUNMISS司令官更迭、司令官派遣のケニア軍撤退決定と自衛隊任務拡大に情勢悪化

2016-11-03 21:44:04 | 国際・政治
■南スーダンPKOと情勢悪化
 南スーダンの情勢悪化、報道に接するたびに、現在の派遣体制を見直す必要は無いのか考えさせられます。

 南スーダンPKOにおいて大きな衝撃が走りました、ケニアがPKO派遣部隊1000名を撤退させる方針を示しました、これはケニア軍が派遣するオンディエキUNMISS司令官が国連により更迭された事への抗議で、加えてケニア政府はUNMISS派遣と共にアフリカ連合AUでの影響力が大きく、南スーダン政府との仲介を担ってきましたが、終了するとのこと。

 自衛隊の南スーダンPKO,今月から派遣される第9師団派遣部隊から、従来の施設補修やインフラ整備に国連施設整備に加えまして、任務へ駆けつけ警護が加わります。これは、自衛隊以外の国連施設や国連職員及び文民が危険に曝された際、自衛隊は部隊が当事者とならない限り、人道被害が生じようともUNMISS部隊が攻撃されても傍観するしかなかった。

 駆けつけ警護は、この状況から必要であればUNMISSの指揮下において警護任務を自身が当事者とならない場合でも対応できるものとしたものです。自衛隊は軽装甲機動車を派遣していますので、銃撃程度ならば排除し救出が可能です。ただ、南スーダンではT-72戦車とMi-24戦闘ヘリコプターが撃ちあう状況、重装備が無ければ実質的に、対応できません。

 ケニア軍UNMISS司令官の更迭、これは国連事務局が本年7月に生起した南スーダン首都ジュバ市内での戦闘に際し、UNMISS司令部近傍において南スーダン軍と副大統領派軍との間で戦闘が発生した際、国連関係機関が襲撃されUNMISSに対し警護を要請した際にUNMISSは対応能力がない、として要請を却下、市民等の虐殺を阻止できなかった為です。

 国連事務局は、UNMISSの対応が不十分であった為に少なくとも73名が殺害されたとして、UNMISS司令官が必要な任務を実施しなかったとしてUNMISS司令官を務めるケニア軍中将を更迭しました。しかし、ケニア政府は中将の更迭は、そもそも国連がUNMISSへ必要な人員と部隊を展開させなかった責任を転嫁したものだ、として強く反発しました。

 不当にも一個人にその責任を押しつけた、ケニア軍の南スーダン展開はもはや維持できない、PKOからの撤退を決定しました。ケニア軍は5個旅団を基幹とし、G-3小銃、ヴィッカースMk3主力戦車80両、ウニモグUR416やフランス製AML装甲車200両を装備、ここから歩兵部隊1000名を派遣、アウェイルとカジョク及びワウの警備任務へ当っています。

 自衛隊は南スーダンへPKO部隊を派遣していますが、UNMISSについて、政府は自衛隊活動期間の延長を閣議決定しましたが、これに先んじて国連安全保障理事会決議2155号、UNMISSの任期延長を画定した際、日本政府は安全保障理事会理事国としてUNMISSの権限拡大と任務延長をロシアと中国の反対を押し切って可決させたという立場にあります。

 T-72とMi-24が撃ちあう状況では、軽装甲機動車だけでは対応できません。第9師団は駆けつけ警護訓練を報道公開しましたが、軽装甲機動車と共に普通科部隊が前進し戦闘地域から要救助者を救出し、幌で覆った高機動車へ収容するというものでして、実際は高機動車の装甲付与PKO型が使用されるのでしょうが、防御力は重機関銃弾へも耐えられない。現時点では駆けつけ警護を自衛隊指揮官が判断するのか、政府判断かUNMISS命令に従うのかも不明確です。

 安易に重装備を送るよりはむしろ撤退を、という視点もあるのでしょうが、上述の通り、日本はPKOの任務延長を主導した責任があります、例えば外交的譲歩を含めUNMISS任務拡大と延長に反対した中国政府へ機甲部隊派遣によるUNMISS増強を要請し、その一方で自衛隊の撤退を模索する、米軍のUNMISSへ参加を要請する、など簡単ではありません。

 日本が撤退する事は簡単です、1992年から積み重ねたPKOの信頼を全て捨て、国際協調よりも自衛官の生命が重要であり、重装備を派遣して自衛官の安全を図るよりは南スーダンの人道危機を無視し、国際社会からの信頼も一旦捨て、日本は国連加盟国の義務である国連分担金拠出に徹し、PKOからは身を引くという選択肢は、とれなくもないでしょう。

 しかし、日本政府が1956年の国連加盟以来掲げてきた国連重視の姿勢を取り下げる事は、簡単ではあっても後の取り返しは付きません。制度上離脱は容易でも、多種多様な連環を踏まえれば、それによって生じる影響を正確に予測する事は難しく、後先を考えますと、中国政府への譲歩やアメリカ政府とアフリカ連合との関係など、複雑になってしまいます。

 現在のPKOは安保理決議に基づく国連憲章七章措置、強制力を伴うものです。状況を見ますとAUからの増援を政府が国連と共に道筋を示すまで、UNMISS支援としてUNMISS指揮下に入らない形でも、近隣諸国へ必要な装備品を訓練派遣することは必要でしょう。自衛隊の海外派遣という視点からは、既に対艦ミサイルと艦砲を搭載した護衛艦を、強力な哨戒機と共に海賊対処任務として派遣しているわけですから、南スーダンへの派遣も考慮してしかるべきだとは思うのですが、どのような施策が妥当なのか、未知数です。

北大路機関:はるな くらま
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アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【15】 無関心が醸成する新しい冷戦

2016-11-02 22:29:00 | 国際・政治
■アメリカ大統領選一週間
 国際公序を構築する超大国の指導者を選ぶ世論が世界政治へ無関心で固まった時、超大国の多極化と新しい冷戦構造が醸成される、現在はその過渡期、分岐点に差し掛かっているのかもしれません。

 アメリカ大統領選まであと一週間をきりました、共和党のトランプ候補と民主党のクリントン候補の二大候補は政策討論を誹謗中傷合戦に置き換え、一時、数々の失言と矛盾する公約等からトランプ候補の支持が停滞していましたが、クリントン候補の国務長官時代での私用サーバーでのメール使用へのFBI再捜査決定を受け、支持率が逆転した状況です。

 世界最大の大国での政策論争の停滞と、アメリカ第一主義として世界からの関与を退く、事実上の孤立主義を掲げるトランプ候補のへのアメリカ国民の支持は、近年、勢力を再興し膨張政策と採らざるを得ない施策を中東や欧州で進めるロシア、南シナ海や東シナ海において軍事力を背景とする領域拡大を進める中国へ、誤ったメッセージを送る状況です。

 欧州正面での緊張は、ウクライナ東部紛争へのロシア介入やクリミア半島の割譲等から顕在化しており、この対立構造はシリア内戦へのロシア軍介入の際にも同様の欧米とロシアの対立関係、東西冷戦時代の対立構造と同じ構図が現出しており、この状況下においてアメリカが引く事をわずかな可能性でも示唆する事は非常に大きな波紋を及ぼしかねません。そしてその影響は、日本も例外ではない。

 NATO北大西洋条約機構のストルテンベルク事務総長は、ロシアとNATOは新しい冷戦を望んではいない、と表明しました。ただ、ロシアの軍事的圧力へなし崩し的に浸透という状況の阻止への施策は進められています。これは具体的には現在新興NATO加盟国である東欧地域への新しく創設されたNATO緊急展開部隊駐留への説明として行ったものです。

 NATO緊急展開部隊は4000名、ポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、以上四か国へ1000名規模の大隊級部隊を展開させます、これはウクライナ介入を受けロシアとの国境地域での緊張が、例えば同様の事態が発生しないよう、抑止するため実施されるもので、ウクライナ危機を受け2014年に実施が決定され、参加国と受入地いいやローテーションなど、部隊編制が進められてきました。

 NATOの東欧展開ですが、緊急展開部隊配置に加え航空部隊の前方展開も開始されました、イギリス空軍が四か月間に渡りルーマニアへタイフーン戦闘機部隊を展開させるとの事、これは東欧へのNATO緊急展開部隊の展開に連動するもので、中東欧NATO新興加盟国では現代的空軍力を経済的に整備できない国があり、防空任務をNATOが請け負うかたち。

 イギリスは加えてエストニアへ800名規模の部隊を派遣するとの事ですが、イギリス国防省によればこの派遣規模は冷戦後最大規模との事で、翻れば冷戦時代に機甲部隊を中心とした一個軍団をドイツライン軍団として派遣した時代からは、大きく変わった印象ですはりますが、欧州正面でのロシアの軍事的圧力が顕在化した一つの事例といえるでしょう。

 ロシアのプーチン大統領は、ロシアによる東欧侵攻の可能性など全くないと否定しました、プーチン大統領はロシアのウクライナ東部紛争へのロシア軍関与やクリミア併合へのロシア軍関与も否定しています。ただ、ウクライナ東部紛争への緒戦での所属不明特殊部隊の流入やウクライナ軍が装備しないロシア製装備の展開など、この主張は同意できません。

 欧州での軍事的圧力ですが、根拠がない物とは決して言えません、カリーニングラードへの兵力増強という数値化される根拠があり、特にこの状況展開を受け、隣国であるリトアニア政府はロシア軍からの高まる軍事圧力に対し、ロシア軍の侵攻が現実となった場合の民間防衛とゲリラ戦闘に関する手引書を国民300万へ3万部を緊急に配布したとのこと。

 リトアニア近傍にはロシア飛び地のカリーニングラード州があり、ロシア軍はウクライナ介入と同時期から兵力の蓄積を開始、戦術弾道弾の配備も開始されました。リトアニアは兵力近代化を進めていますが、国力の限界から空軍が事実上ありません。陸軍もロシア軍機甲部隊へ対抗できる手段を持たず、NATO及びアメリカ軍の支援が頼りとなっています。現状で、アメリカ国民がこの状況に関心を示さず、後退する姿勢を示す事は、新しい冷戦の醸成という可能性を示唆するものでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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