「武谷三男と三段階論」という題で徳島科学史研究会と科学史学会四国支部の合同年会で講演をすることになった。
もっともまだ何を話すか決めてはいないが、おおよその話す内容は
(1)自己紹介
(2)武谷三男の紹介
(3)三段階論の紹介
の三つを予定している。
全体で1時間だが、質疑応答に10分を使うと50分を講演に使うことになる。武谷三男の業績というと何だろうか。
彼はまず第一に三段階論の提唱者である。自然の認識は現象論的段階、実体論的段階、本質論的段階という三つの段階を経て、認識されるということを提唱した。
また、技術論では「技術とは客観的自然法則の意識的適用である」と定義して新しい技術論を開いた。これらは哲学とか科学史とか技術論の分野の業績である。
物理学ではどんな業績をもっているだろうか。
まず第一に核力研究の指導者としてのTNSといわれる核力を核子-核子の距離によって3つの領域に分けて領域ごとに異なった方法で研究するという方針を立てて、核力グループという研究者集団を組織した。それによってグループとして日本の核力研究をリードした。
領域 I は1 pion交換領域でここでのポテンシャルを確立した。
領域 II はもう少し内側の領域で実質的には共鳴状態としてのrhoとかomega中間子が核力に効いてくる領域である。
領域 III は現象論的に研究されるべき領域とした。hard core その他のテーマがあった。
核力の問題が現在最終的に解決したといえるのかどうかは私にはわからないが、現在ではQCDといわれる学問体系が出来上がっている。
しかし、これは核子をクォークからできているとして、クォークの間の力をグルーオンというゲージ粒子が交換されるということから説明しようとしている。
もっともQCDではクォークとクォークとの距離が近づけば近づくほど力が働かなくなり、遠ざかろうとすれば、大きな力が働くという性質のきわめていままでと変わった性質の力が働くと考えている(漸近的自由とクォークの閉じ込め)。
このようなQCDが出来上がる前の段階を見てみると、
(1) deep inelastic散乱ではBjorkenのスケーリング則があり(現象論的段階)
(2) その後にFeynmanのparton modelが出てきて、quarkがpartonとして考えられた(実体論的段階)
(3) それを受けてGross, Wilceck,Polizterの漸近的自由をみたす量子場の発見があった(本質論的段階)
物理の話の筋としてはこのようになっているのだが、核力研究としての武谷の研究方法は成功を収めたと言えるのだろうか。これは私にはまだ分からない点である。
核力はクォークとクォークとの間の力から導かれる2次的な力ということになった。
核子がクォークの3体系となっているので、それらの足し上げとしての力となったために1次的なgluonによるクォークとクォーク間の力によって核子と核子間の力をeffectiveに導くということができるはずである。
それをすることが意味のあることかどうかということが問題であろうか。