溝畑茂『数学解析』下(朝倉書店)を図書館から借りてきた。この本には直接的にはベクトル解析の章はない。
だが、「第7章 曲面積分」 にガウスの定理やストークスの定理が出ている。それについて溝畑先生がどう書かれているかに関心がある。
まだ全く読んではいない。ただ、ちょっと見たところベクトルを文字の上に矢印をつけた、ちょっと古い表示であり、これは出版社がベクトルを太字にしたらと、著者にアドバイスをすべきではなかっただろうか。
ガウスの定理やストークスの定理についていえば、あとがきのところの各章の解題で「これらの定理が微積分学の基本定理の自然な拡張だ」と明言されている。この書は初版が1973年なので、日本でのベクトル解析の書での「ガウスの定理やストークスの定理は微積分学の基本的定理の自然的拡張だ」という主張が出たはじめではないかと私は思っている(直下の文をきちんと読んでほしい。この主張はもっと前に遡れることがわかった)。
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念のために、あまり読んだことのない、岩堀長慶『ベクトル解析』(裳華房)p.200のストークスの定理のところを見たら、ちゃんとこれに「ストークスの定理は微積分学の基本定理の拡張だ」と書かれてあった。この書は1960年初版なので、日本語で書かれたテキストとしての歴史は、すくなくともここまで遡れることがわかった(注)。
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私自身は元高知大学の数学者で、「数学・物理通信」の共同編集者の新関さんから、このことを聞いていた。いま、いつかのベクトル解析のテクストを見てみると、この説明があるテクストは結構多くなっている。
北野正雄さんの『マクスウエル方程式』(サイエンス社)とか、志賀浩二さんの『ベクトル解析30講』(朝倉書店)とかである。太田浩二さんの『ナブラのための協奏曲』(共立出版)などもそういう説明を採用している。
横田一郎『わかりやすいベクトル解析』(現代数学社)にも上に書いたことは言明されているので、私のテスト基準に合格である。志賀浩二先生の『ベクトル解析30講』の説明が特によかったという印象をもっている。
以前に、「そういう説明のないベクトル解析のテクストはもうベクトルの入門のテクストとしては時代遅れだと思う」と書いたが、その言は撤回するつもりはない。
一緒に借りて来た『微分積分学講義』下(京都大学学術出版会)は図が多くて、説明は詳しいし、印刷が鮮明なのでいいが、この点はちょっとミスっている。これは翻訳なので、しかたがない。この本は高価なだけあって説明は詳しいし、特色のある本ではある。
一般的に言って朝倉書店の発行する数学書はあまり印刷がよくない。内容はいいテクストがあるのに、印刷がわるいと損をすると思う。
(注)印刷発行されたテクストにはなっていないが、「物理のかぎしっぽ」グループのJohさんが書かれた「ベクトル解析」の解説ではやはりちゃんとこの点が踏まえられている。
(2023.11.24付記)『江沢洋選集』VI(日本評論社)には必読文献として江沢洋さんが、この溝畑茂『数学解析』(朝倉書店)を挙げていることを知った。ただ、ベクトルの記号は太字にすべきだと個人的には思っている。