(エンリコ・フェルミ 1のつづき)
フェルミの講義録である『原子核物理学』(吉岡書店)はさすがに内容が少し古くなってきたが、原著はシカゴ大学出版局から、訳書は吉岡書店からいまも出版されている。日本版の訳者の故小林稔先生(京都大学名誉教授)はまえがきでつぎのように述べている。
『イタリアの生んだ鬼才エンリコ・フェルミ教授はいうまでもなく原子核物理学の第一人者であり、人類が第二の火すなわち原子力を発見したのも主として彼の研究に負うものであって、彼は歴史上永久に名をとどめる数少ない物理学者の一人であることは疑いのないところである。
フェルミ教授は実験および理論の両方面に卓越した才能をもち、その業績も有名なフェルミ統計、ベータ崩壊の理論、量子電磁気学など理論的なものから、中性子衝撃による人工放射能、遅い中性子の選択吸収、さらに原子力解放の緒となった核分裂の現象、その連鎖反応など行くとして可ならざるものはなく、しかもいずれも物理学の根本問題を衝き、その自然認識の深さの非凡さは驚嘆のほかない。
イタリアにおいては僅かの放射性物質とパラフィンのみの実験室でよく世界の原子核研究に伍し、中性子の性質の探求にあざやかな業績をあげており、アメリカに移ってからはまさに鬼に金棒、現在もシカゴ大学の大サイクロトロンを主宰し、有能な同僚と弟子たちと共に原子核研究の推進に非凡の精力を注いでいる』
これはフェルミが亡くなる直前に書かれた彼のプロフィールである。ここにはフェルミの研究業績についてほとんど余すところはない。
(フェルミ3に続く)