「田中陽希」と言えば、2014年にNHK・BSを通して「グレートトラバース 日本百名山一筆書き」を達成したことで一気にその名を知られたプロアドベンチャーレーサーです。その彼が先日(12月21日)札幌においてトラバースの勧めを説いた講演を聴く機会を得ました。

12月21日(土)午後、北大の学術交流会館において北海道大学観光学高等研究センターが主催する「山岳観光とアドベンチャーツーリズム」と題するフォーラムに参加しました。
そのフォーラムの特別講演として田中陽希氏が「百名山ブームが続く、トラバースブームの考察」と題してお話されました。

その趣旨は、百名山、二百名山を目ざすという登山が中高年の方々を中心にブームとなっていますが、体力的に大変な方は、山を目ざすのではなく山岳地域を横移動するトラバースも良いですよ、とご自身の体験も交えながらその良さを説くものでした。いわば “垂直移動” から “水平移動” への勧めといった趣旨と受け止めました。
田中氏はご存じのように、百名山ばかりか、その後も二百名山、三百名山を、ただ登山をするだけではなく、登山する山と山の間の全てを “徒歩で移動する” 旅で全てを完遂させたことでもその超人ぶりが話題となった方です。
田中氏は言います。現代において移動するということは、いかに速く目的地に達することができるかが問われているが、“歩く” という行為は、それとはまったく反対の行為であると言います。現代において “歩く文化(習慣)” は薄れていっていると指摘します。確かに “歩く文化(旅)” は非日常の行為ではあるが、スピードが要求される現代だからこそ、ゆっくりズムもまた大切にしたいと主張します。そしてゆっくりズムの “歩く旅” は、そこに人との触れ合いが生まれることが多いと、田中氏は体験の中でのエピソードを交えて紹介してくれました。

※ 田中さんがグレートトラバースで履きつぶしたシューズだそうです。
そして “歩く道” も様々であるとして「登山道」、「木道」、「古道(熊野古道)」、「修験の道」、「農道」等々、多様な道を紹介されました。
最後に田中氏は「五感を通した体験は長く記憶を残す」と話され講演を締め括りました。
私は田中氏のお話を聴きながら深く同意していました。田中氏とは比較にならぬ全くの低レベルの体験ですが、現役をリタイアしてから中山道の「木曽路」や「熊野古道」を歩いたり、夏・冬の「石狩川」沿いを遡ったりした経験から “歩く旅” の醍醐味をそれなりに体験できたことを想い出しています。
今夏の「さっぽろラウンドウォーク」もその延長線にあった体験でした。

※ フォーラムは満員に近い盛況で、田中氏のお話に聴き入りました。
登山がもう私の体力では叶わなくなった今、体力の許すかぎり “歩く” ことを楽しみたいという思いを強くしてくれた田中氏のお話でした。
なお、フォーラムは講演以外のプログラムもあったのですが、所用があり失礼しました。