映画を観終わった時、期待した以上の感動作に出会えた思いだった。ロシアのウクライナ侵攻が世界中の人たちの心を痛めている今、同じくロシアがチェチェンに攻め入った時の事実に基づくストーリーは、今起きているウクライナの現実がどうしても私の中ではオーバーラップされるのだった…。
11月5日(土)午後、札幌市教育文化会館の4階講堂において、札幌映画サークルが主催する表記映画会が開催され参加した。
私はチェチェンがロシアに侵攻したことを題材にする映画と知って「これは観なければ!」と思った。というのも、あの当時懸命に抵抗するチェチェン市民をまるで虫けらのごとく蹂躙するロシア軍のことが報道で知らされていたが、詳しくは伝えられていなかった。しかし、チェチェン人がロシア国内の劇場で自爆テロを敢行するくらいだから、チェチェン人の悲壮感が伝わってくる思いだった。だからこそ、映画でその内情を知りたいと思っていた。
映画はロシア兵がチェチェン人の家族を「スパイである」と疑い、何の証拠もないのに問答無用で子どもたちの前で夫妻を銃殺する場面から始まる。両親を目の前で銃殺された9歳だったハジはショックのあまり声を失ってしまう。浮浪児となったハジが街をさ迷う中、EU(欧州連合)から紛争解決のために派遣されたEU職員のキャロルに拾われた。
※ 声を失くしたハジはEU職員のキャロル(ベレニス・ベジョ)に拾われ、徐々に自分を取り戻していく…。
一方、チェチェンの街中で麻薬らしきものを吸っていた若者は、ロシア兵に捕まり問答無用にロシア兵に組み入れられ彼の母国チェチェンを攻める殺人兵器に仕立て上げられていく。
※ ごく普通の青年だったのにロシア兵に組み入れられ殺人を何とも思わない殺人兵器に仕立て上げられていく。
監督のミシェル・ザナヴィシウスは映画「アーティスト」でアカデミー賞5冠に輝いた名監督であるが、彼はユダヤ系リトアニアの出身だという。ロシアに虐げられたリトアニア人として、彼にとっては“どうしても”描きたかった作品だったという。人としての尊厳を踏みにじられ、人間にとって大切なものをいとも簡単に奪ってしまうロシアの軍隊…。
それは今伝えられるウクライナに対するロシアの軍隊の振る舞いにどうしてもオーバーラップしてしまう。
映画は生き別れになっていたハジとお姉さんが再会する場面で終わる。しかし、傷ついたハジ、そしてチェチェンの人たちの傷は終生消えない大きな傷跡を残してしまった…、ということをミシェル・ザナヴィシウス監督は描きたかったのだろう。傷はまた、チェチェン人を抹殺する指令を受け、それを実行せざるを得なかったロシア兵一人一人の中にも大きな傷跡を残したはずである。
一日も早いウクライナ戦争の終結を願うばかりである。